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夜行鬼  作者: 参望
9話/鉄籠の鬼
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鉄籠の鬼(5)

 陽光が元実の部屋から出ると、外で控えていた赤鐘が案内をする。


 指し示された先には珠が待っていた。手にはカムナを持っている。

 また、隣では自由行動をしないように家老の大志摩が手を繋いでいる。

 「申し訳ありません、陽光様。珠姫様がどうしても話したいと……。」


 珠は心配そうに陽光の腕に縋る。

 「陽光!」

 「珠姫様……。よくぞご無事で。」

 「兄上と戦ったって本当なの?!」


 カムナも演技で黙っているが、夜光の事を小耳に挟み、ソワソワ落ち着かなそうだった。

 (こいつが夜光をやったのか?!……の割には女みてえというか、夜光みてえにお花畑な顔してやがんなぁ。)


 「どうして?!

 前に『従兄弟同志なのだから今からでも手を取り合いたい』って話してくれたのに!」

 「状況が……変わったんです。

 夜光は角狩の仲間になっていた……。

 今回は見送りましたが、今度会ったら……戦うしか。」

 陽光は色々あって頭が限界なのか、怠く重そうに額を押さえる。

 

 「……駄目!角狩衆も全員が悪者じゃないんだよ!皆んな色んな事情を抱えていて……ーー。」

 「やめてくれ……!!」


 陽光は思わず強い口調になってしまう。

 大人しい陽光が大きい声を出したので、黙ってしまう珠。

 

 陽光は珠の隣をすり抜けようとする。

 「ごめんなさい、考える時間を下さい……。

 それと、酷ではありますが姫様も少し考えられた方がいい。ご自分の幼い思い付きがきっかけで、赤鬼の統率に亀裂が入り、一族が振り回され、何人かが犠牲になっている事を……。

 貴方の世話役だった鹿和津や、私の父上、それに赭……。」

 「……そんな。赭にも何かあったの?」

 また現実を突き付けられ不安そうに頭を抱える珠と、自分の腕をぎゅっと掴んで去る陽光。

 

 大志摩は優しく珠の手を引く。

 「……そろそろ、薄紅の里からお迎えが来る刻になります。お部屋へ参りましょう。」


 その時、珠の目の前に赤鐘がずいと出る。

 「最後にちょっとお時間、いいですか?大志摩様。」

 「あ、ああ。如何なされた?」


  しゃがんでニッコリ笑った顔を珠に近付ける。

 「珠姫様は何でそんなに人間に肩入れするんですかねえ?

 アレは鬼を住みにくくしてる害獣達であり、唯の『ご飯』ですよ?」

 「違う!話してみたら違ったの!

 友達になれそうな人間だっていたの!」

 「ふうー。

 散々お召し上がりになっといて『ご飯とお友達』になんて、今更変な事をおっしゃいますこと。」

 「?!

わらわは人間なんて食べて無い!自分から襲ったりもしなかったもん!仲良くしようと頑張ったもん!」


 「では、今日のお昼の献立は何でしたでしょーか?」

 「な、何なの!?

そんなの、お野菜や山菜の煮物が殆どで……。」


 (待って……一個だけ小さな『肉団子』があった。今までも必ず一食はそれがあった……。)


 「ね?いつも残さず食べてましたよねーー!?

 『食肉用の人間から作った肉団子』を。」


 「……っ!!!」

 珠の顔が凍り付く。

恐る恐る腹を触り、どうしようも無くなってその場で吐いた。


 「さあ姫様。ちょっとお勉強しましょうか?」

 赤鐘は急に真面目な口調になった。


 「何で歪み合っている敵を食糧にしないといけないか、気になりますよね?

 それは私達の生息域と活動範囲が狭くて、奥山だけでは十分な食糧が確保出来ないからです。

 一番酷かった昔は人間達が貼った魔除け札のせいで、獲物や食糧の奪い合いになって鬼同士で激しい潰し合いもありました。

 奥山に迷い込んだ人間を食べて飢えを凌ぐのも限界があり、そこで仕方なく人間の養殖を始めたという話です。

 今は大分ましで、人間から獄鬼を作って魔除け札を剥がして回ったり、侵略を進めて土地が増えて、人間以外の食糧にもありつけるようになりましたがね。


 はーい、ここまででご質問はありますかーー?」

 挙手の真似をして見せる赤鐘。


 「……赤鐘は、人鬼だから鬼になる前は人間だったんでしょ?

 何で平気なの?!」


 「だって私は今は鬼ですから。

 前の職場や人間関係に拘る性格でもないので全然へっちゃらです。

 郷には郷に従って、つくねでも、鉄板焼き(ハンバーグ)でも美味しく頂きますよん。臭みを取ってあればですけど。」

 にこやかな表情を少しも崩さず、肉団子をこねて叩く仕草をして見せる。


 「でも、それでも……!」

 珠はえずくのを我慢しながら、その場に座り込んでしまう。


 そこへ慌ただしく跳んで来る見張りの人鬼。

 「赤鐘様!

 紅鳶から『例の角狩の女』を捕らえたと報告が……。」




***




 一方、陽光の攻撃を受けて負傷した夜光。

 変化を解いて木に掴まり立ちをしながら、八重を探していた。


 「鬼の匂い……!

 朱天鬼に拐われたんだ……!」


 焼け焦げた木の枝が風で小さくしなる。

 気配を感じ振り返る。

 

 「獣の息遣い……!

 でもこれは……。」


 夜光の目の前に降り立つ、四つ足で白銀色の大きな獣ーー。

 いろはだった。

 絹のように繊細で艶のある自慢の毛皮は泥や埃で汚れ、木の葉や枝が付いていた。

 飲まず食わずで八重達を探していたのか、苦しそうな息をし、やつれた顔をしていた。


 「いろは!大丈夫か……!?」


 「……俺の事はどうでもいい!

 てめえ、八重と一緒じゃねえのか?!」


 事情を話す夜光。


 「鬼の匂いが複数と思えば、くそっ!!よりにもよって北に向かった方か……!」

 歯を剥き出しにして怒りを見せる。

 再び走り出そうとする。


 「待ってくれ!俺も行く……!

 俺のせいだ……!」


 「誰がてめえなんかっっ!!

 八重を変えちまった癖に……!」

 

 「北の大江に行けば強い鬼が待っているって聞いた……!

 俺を囮でも餌でも何にでも使っていい……。戦ってお前達の役に立つから!」

 夜光は地面に手を突き、頭を下げた。


 いろは唸っては悩んだ挙句、吠えて合図する。

 「時間がねえ!

 さっさと乗れ!!」




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