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夜行鬼  作者: 参望
9話/鉄籠の鬼
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鉄籠の鬼(3)

 空が曇り、雨が降りだす。

 風があって雲の動きが激しく、土砂降りと小雨の間を往復する。


 夜光は隊員の死体と気絶した八重を見、胸が締め付けられる想いで構えた。

 肘から斧のような突起を生やす。

 

 宙に浮いたまま、両手を開いてゆったりと構えたままの陽光。


 初めに動いたのは夜光。いきなり陽光と距離を詰める。


 (あの光線や蚕を飛ばして来るなら、髪をぶった切る気で懐に入るしかない!)


 夜光は切り裂きと突きの猛攻を浴びせるが、全て髪の毛で跳ね返される。

髪は動く時だけしなやかになり、夜光の刃に当たる時だけ硬くなった。


 夜光の右からの曲線突き、と見せかけ、左から横腹に蹴りを入れるーー。はずだった。


 陽光は始めから足に焦点を定め、髪を尖らしていた。

 寸前で陽光の首元へ肘を打って怯ませたので、傷が浅いまま逃れる夜光。

 

 やむを得ず距離を取る夜光。

 手の平から出した鬼火から蚕を生み出す陽光。緑色に光る瞳。


 「無駄だ、夜光……!

 お前の動きなんて手に取るように分かる。」


 「陽光、止めてくれ……!」

 夜光は遣る瀬なさそうに歯を食いしばり、角を熱した金属のように赤く輝かせた。

 熱と雨粒が混じり合い、激しい蒸発音と共に濃い水蒸気を発生させる。

 片方の角が伸び、大太刀のようになる。緋寒を葬った技だった。


 (ずっと同じままで待ってくれるものなんてないんだな……。

 例え生きてくれてたとしても、会わない内に何かが変わって、俺の手の届かない場所に行ってしまう……。

昔の陽光はもう何処にもいない。)


 首を垂れて陽光に刃を向け、低い姿勢から走り出す夜光。流れる水蒸気の帯。


 陽光から放たれる数十匹の蚕の群れ。

 猛牛のように突進し、角でそれらを一瞬にして焼き消す。


 (……それでいい、夜光。

 仕方の無い事と言って、お前が怒りをぶつけてくれるなら、私も情を感じなくなり、迷いなくお前を倒せる……。)


 陽光の髪がまた広がって観音像の後光のようになる。猫目のような光沢を放ち、そこに雨雲の隙間から差し込んだ太陽光が当たる。

 そして炎の舞ーー。あの光線を撃つ構えだ。


 悲しみを振り払うようにがむしゃらに腕を振り、大地を蹴って激しく泥水を飛ばし、夜光は走る。

それでも頭の中の迷走は止まらない。


 (八重達を傷付けたのは許せない。朱天鬼である事も。

でも……、陽光を傷付けて何になる……?

 陽光は久しぶりに会って直ぐ、俺を攻撃しなかった。俺の名を呼び、まず話して俺の事を分かろうとしていた……。

 それに大切な奴を殺されたって言ってたから、悲しくて怒っているんだ……。


 陽光はまだ陽光なんだ……。だから……戦っちゃ駄目だ!)

 

 陽光は舞を止めて髪を輝かせる。

 太陽熱を増幅させ、反射して放とうとする一歩手前だ。


 (夜光の頭が雑念だらけで心が読めない……!

 ……いや、読まない方がいい。

 せめて……痛みを知らないまま、一瞬で……!!)


 陽光は間合いに入った夜光を無表情で見据えながら、自分が涙を流している事に気が付かなかった。

 最後の引き金に、手を胸の前で合掌ーー。


 


 その時、夜光の角の赤みが引いた。

 足を泥で汚し、緊急停止する。


(俺は戦いしか知らないから、こんな時に陽光を止める言葉を知らない。

 だから……ーー!)




 陽光は緑色の瞳を見開く。

 (まだ読めない!今お前は何をしようとしている……ーー?!)


 止められず、発射されるオレンジの光線。

 熱と光に包まれる夜光。光の柱の中から彼の黒い影が浮かび上がる。


 影の中に黄金の瞳。夜光は身体を焼かれながら向かって来る。

 

 光を突き破って陽光に伸びる黒い両腕。

 

 「っ!!」

 仕掛けられたと一瞬焦った陽光だが、痛みは来なかった。


 光線が止み、露わになる姿。

 夜光は陽光の背中に両手を回していた。


 いつ反撃を喰らってもおかしく無い密接した状態。

 陽光の背骨や肋骨を砕いて、肺を潰す為ではない。

 陽光の肩に潤んだ目を押し付け隠し、痛みや込み上げる想いで出そうな声を我慢し、身体を震わせる。

 咄嗟に炎の鎧で中和してたとはいえ、身体中の皮膚が溶け、所々下の肉が見えていた。


 友の腕の中で陽光が感じ取れた感情。

 それは陽光が今まで大切にしてきたもので、周りが鬼らしくないと否定したものであり、唯一赭だけが『貴方らしさと』認めてくれた感情だった。

 

 陽光を心配して寄り添ってくれた、幼い夜光の顔を思い出す。


 (……止めろ!弱い私に戻すな……夜光っ!!!

 このままで、私は赭に何と言って詫びれば良い……?!)


 陽光は堪らず夜光を突き放す。

 限界だったのか、泥水の上に倒れる夜光。


 陽光は変化を解き、背中を向ける。

 

 「夜光……これが最後だ。

 角狩を辞めて何処かへ消えろ……。そうすれば、私達は争わず、まだ憎しみで思い出を汚さずに生きられる。


 でも、次に角狩として会うことがあればその時はもう容赦しない。

 絶対、絶対にだ……!!」

 肩を怒らせ、強く言うが、声の震えは消せない。

 そのまま森の奥へ走り去った。




 一人残され、八重の方へ行こうと這う夜光。

 「や、え……。」

 光線の熱で肺をやられたのか上手く声が出ない。


 「や、え……?

 何処……だ、八重ぇっ……!!」

 気絶して倒れていた筈の地点に彼女はいなかった。




 ***




 夜光がいる場所から北の獣道。

 八重は人相の悪い男に横抱きにされていた。


 「ふうぅぅ……。これで昨今の失敗は取り返したぞぉ。

 お前には貸しがたっぷりあるからなぁ、覚悟しとけぇよ〜?」

 気絶した八重の柔らかい頬を鷲掴みし、しゃがれた声で下品な高笑いをする。


 面頬に黒尽くめの鬼ーー、彼は紅鳶だった。

 



 ***




 陽光が去った後ーー。


 自分の視界を元実に貸して陽光の戦いを見せていた東雲。

 解放され、犬のように首を振って濡れた髪の雫を払った。


 (ご苦労だった……東雲。)

 (黒鬼にトドメを刺しましょうか?)

 (族長の私が人鬼に手負いの若鬼を殺させたとなれば、益々他の部族に『腑抜け』と攻める口実を与える事になりかねん。

 惜しいが、捨ておけ。)


 東雲はいきなり木を蹴って跳び、数メートル後方の何かに狙いを定めて踵落としを放つ。


 粉砕される木。

 その後ろから大柄な若い男が飛び出す。側では大きな山犬が唸っている。


 獣の毛皮を纏い、犬の尻尾のような束ね髪と鶏冠のような前頭部と言う不思議な髪型に、吊り目。

 朱天鬼・犬穴の里の戦士、万耀だった。


 万耀は東雲の攻撃に動じず、その場に伏した。

 「怪しい者じゃねえ。俺は陽光様の従者になろうと思って来た。」


 「ああ、そう言えば触れを出していたな。」

 「前に見た時は女みたいであんまり強そうじゃないって思ったんすけど……、今回の戦いを見て俺の間違いだと思いやした。

 生前にオヤジも勧めていた事もありやすので、やらせてくれやしませんか?」




 ※<ここから先はカットしようか迷い、結局残した所です。

特に重要じゃないのでキャラに興味なければスルーでどうぞ。>※


 「私に決定権は無い。まず城へ出向いて赤鐘と話せ。」

 

 東雲はいきなり万耀の目と鼻の先に立った。

 上から下まで彼のガタイのいい身体を無表情でじっとりと見る。

 

 「それより、『もふもふ』したい。……いいか?」

 「は、はい?」

 「お前の毛でもふもふしたい……。」

 「俺の『毛』??!!

 ……って、この俺が着てる毛皮すか?」

 「そうだ。」

 「……ど、どうぞ。」

 「その白くふわふわの山犬も。」

 「くじな姉ちゃんも、ですか?ど、どうぞ。

 俺の姉ちゃんデリケートなんで、尻尾と耳は触らんで下さい?噛みますんで。」

 「……ふん、……むふぅ。」

 東雲は万耀と彼が連れてる雌の山犬に抱き着く。

 「くじな姉ちゃんは山犬だけど、ちっちゃい時から一緒に遊んで育ったんす。だから、俺の姉ちゃんみたいなものでして……。」

 話に興味なさそうに鼻や頬を擦り付けて匂いを嗅ぐ東雲。

 男装してるとはいえ、顔立ちが整い、出る所が出た体付きの東雲に密着され、気まずそうに赤くなる万耀。

 

 (従者になったら、こんな姉さんともお付き合いしないといけないのか……。

 上手くやってけるかなあ……。)




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