天下・百鬼角狩合戦(5/8)
鬼の軍団を避けるように都の郊外を走る一匹の馬。
騎乗者は頭から薄地の打掛を被っており顔は見えない。しかし、打掛から滑らかな肌の足と黒い巻き毛を覗かせている。
木の多い林に入っていく。
「……おい、女が入って来たぜ。」
「美味しそうな足。そろそろオヤツの時間だよなあ……。」
林の中で待機していた獄鬼10数匹がニヤリと笑う。
獄鬼達は茂みから飛び出す。
女はあっという間に囲まれてしまう。
「ぐへへへぇ、大丈夫!俺たちはいい鬼だよー!怖くないよー!」
獄鬼達は涎を垂らし下品な笑い声を上げながら追い詰める。
「隠してないで顔みしてよお姉ちゃぁん〜♡」
鬼の一匹が待てずに、女の打掛の裾を引っ掴んで脱がす。
「「「ぉおおおおーーー??!!」」」
女の姿を見て口をあんぐりと開ける獄鬼達。
「あらあら、可愛い子達がこんなに隠れて……。」
何と女は裸だった。手甲と履物以外は何も身に付けていない。
長い巻き髪をなびかせ、腕で胸を隠し、妖艶な笑みを浮かべていた。
「……待てよこの女、確か!」
この女は貞光の隊長・宮比であった。
一匹が青ざめた時、宮比は手に持っていた羽子板のような物を琴爪で引っ掻いた。
キィーッ!
金属同士で思い切り引っ掻いたような耳障りな音。
その音を聞いた瞬間、鬼達は動きを止め悶え苦しみ始めた。
「アッ、グウウウウッ!アッ、アァッ……!!」
この羽子板は『極楽琴』と言い、特殊な鉄板で出来ており、引っ掻く事でこのような耳障りな高音が出せる。
またこの音は、鬼の聴力器官を過剰に刺激する。
人間が聞いても不快な音だが、あらゆる感覚器官の優れた鬼には脳内を引っ掻き回すような音であった。
立て続けに音を鳴らされ、耳を塞ぎ、時には自分で頭をぶつけ、時には嘔吐、時には暴れて同士討ちする鬼達。
「ウマソウ、ナ、ニ、肉……!」
ある鬼は精神に異常をきたし、彼女を餌の人間として捕まえようとヨタヨタ近付く。何も纏っていない彼女は今の彼には大層なご馳走に見えるのだろう。この格好はそう見せる事が目的である。
宮比は抱き付いて来た鬼の頭を優しく包み摩ってやる。
「……可哀想に、今楽にしてあげる。」
宮比は色めかしく耳元で囁き、羽子板の柄の下部から何か引き抜く。
小刀。柄に仕込んだ隠し刃である。
素早く逆手持ちにし、獄鬼の耳の穴に突き刺さす。
「ッグ!!!」
目がぐるっと回り、痙攣して動かなくなった。
宮比は獄鬼の血に触れ、その手で自分の体を弄り孔雀明王の梵字を描く。孔雀明王は人々の災厄や苦痛を取り除く功徳があるとされている。
甘く吐息を漏らす宮比に対し、震え上がる獄鬼達。
宮比は次々と鬼達に小刀を突き刺し、止めを刺していった。
辛うじて立ち上がって来る者には軽やかな足さばきでその歯牙をかわし、相手の体に取り付く。
数分後、林の中は血の匂いで充満し、死体だけが転がっていた。
宮比は打掛を羽織って馬に乗る。
「さて下男との遊びは済んだし、『本命』の元に向かうか。」
***
正午。
都、城壁内ーー。
都内の全ての寺社で加持祈祷が行われていた。
様々な宗派や様々な考えがある所、この日は全ての僧侶や神主が志を一つにし、それぞれのやり方で結界に力を送っている。
その結界とは現在都を丸ごと包み込んでいる見えない巨大な壁の事だ。
対天鬼用の魔除け札・鳳凰札よりも遥かに強力で広範囲であり、ネズミ型の妖一匹さえ通さない。戦の開始からここまでの間に足の早い餓鬼などに取り付かれたりはしたが、結界に触れた瞬間、雷に打たれたように即死した。
そしてこの結界内には周辺の村から避難させた多くの民がいる。全てはこの合戦に巻き込まない為だった。
都・羅城門の内側。大通り。
都に住む人間は家屋に引き籠り、逆に近隣の村から避難させられた民は大通りの始まりから奥まで行き渡りひしめき合っていた。それらを衛兵が監視する。
戦では裏方に回る事が多い卜部隊は、その民達の世話で忙しなく走り回っていた。
その中には斗貴次郎もいる。卜部隊の統率者と言う立場ではあるが、のんびり報告を待って指揮をする暇はなく、他の隊員と同じように雑用をしながら相談・報告を交えて指示出しを行っている。
斗貴次郎はたすき掛けした着物の襟元を少し緩め、額の汗を拭う。
そこへ狩衣姿の女が現れ、斗貴次郎に水入りの竹筒を渡す。
「斗貴次郎様、少し休息をなさっては?」
彼女は斗貴次郎の部下であり、木次郎が信頼している教え子でもある。斗貴次郎の側にいて彼女に助言したり、研究の助手をしたり、代理で指示出しを行う事もある。
「いや、いい。それより『もず』、避難民達の様子は?」
「今朝と変わらず『喉が渇いた』『寒い』『人混みで具合が悪い』など窮屈さに不満の声が上がっています。」
「……着の身着のままで連れて来られた者もいるのだから無理もない。
くれぐれも恐怖心を煽らず優しく接してあげるように。
こんなに人が密集してるんだから暴動なんて起こったら大変だからな。それに郊外の人間を受け入れる事は流行り病を広めてしまう危険も含んでいる。私語は控えて互いに向き合わないように指示はしてあるが、具合の悪そうな人を見かけたら直ぐに移動させるんだ。」
「勿論でございます。衛兵や隊員達にも指示済みです。」
斗貴次郎は近くの石段に座る。通りで座り込む民達をぼんやりと眺める。苛立った声や、赤子の泣き声などが絶え間なく聞こえる。
(刀を持って戦う事だけが人々を救う事では無い。人々を安全な所に移動させたり、精神的な不安を取り除いたり、その為の物資を用意したりも大事な事だ……。
でも実際その場に立ってやり取りをして見ると一筋縄ではいかないな……。皆んな色んな考えや欲求があるからそれを端から全部なんて……正直、鬼より大変だ。
人を助けるって大変な事なんだな……。)
溜め息の後、気持ちを切り替えようと伸びをして深呼吸する。
ふと空を見上げると青空に黒い点が動くのが見えた。目を凝らすが、太陽の光に重なってしまい見失う。
「鳥か……?にしてはえらく高い所を飛ぶ。それとも僕の目が疲れてるのかな。」
「おい、じじい!こう言う場所では病がうつりやすいって聞いたぞ!咳をするなら外に出て行け!」
苛立った民の声。
子連れの痩せた男が咳き込んでいる。我慢しようとしてるが苦しそうに膝を突く。
「大変だ!」
斗貴次郎は小競り合いになっては大変と思い、仲裁に向かった。
斗貴次郎が見ていた方向。その遥か先で何かが独り言を言う。
「さて、元実の依頼だし?始めるとするか。無愛想で嫌いだが、金払いはいいからな。
仕掛けは積んだし、後は起動させるだけ。どう連鎖するかな?」
斗貴次郎は民達を宥め、咳が止まらない男とその孫を近くの寺院に連れて行く。急病人用に借りている場所である。
斗貴次郎は木の碗を男に差し出す。
「どうぞ、オオバコとヨモギを煎じた簡単な咳止めです。
沢山の人が一箇所に集まると気が淀みますから、予め作っておいたんです。」
男は薬湯を飲んでホッとした顔をし、恭しく地面に伏す。
「とても楽になりました……。庇って下さっただけでなく、お薬まで頂いて……。何とお礼を申したら良いか……。」
「そんな!手に入りやすい薬草ですから気にしないで。
それより広いここなら咳をしても大丈夫ですから、安静にしていて下さいね。」
「お兄ちゃん、あんがとねー。」
男の孫である幼い少女もニコニコと笑って礼を言う。
「ど、どうも。僕、『お兄ちゃん』じゃないんだけどな。まあ、どっちでもいいけど……。」
「だって『僕』って言ってるじゃん。それにお名前も男の子のでしょ?」
「うーんそうなんだけど……。この名前は僕のお爺様が色々考えて付けてくれた名前なんだ。」
斗貴次郎は幼い時に木次郎にから聞いた言葉を思い出す。
『斗貴次郎、お前はまだこんな小さいのに魔除け札の図柄の配列や種類を全部理解しちまって凄いなあ。
お前の名前を考える時、妙見菩薩様の前でいい案が無いかお願いしたらな、その夜夢に武装したアマテラス様と北斗七星が出てきたんだ。
それでお前は男にも負けず大きく羽ばたいて行ける子なんだと思って、男の子の名前にしたんだ。
今思えばあれはお告げだったのかもな。お前は俺の予想を遥かに上回って何処までも登って行く……。
斗貴次郎、爺ちゃんの所に来てくれてありがとうよ……。』
斗貴次郎は木次郎の綻んだ表情を思い出し、袴をギュッと握りしめる。
(僕は……みんなと協力して僕の出来る全力を尽くします。
だから無事に帰って来て下さいね、お爺様……。)
想いに耽っていると、もずが慌てた様子で走って来る。
「斗貴次郎様!向こうで暴動が!」
「ええい!鬼のいる外に叩き出すぞこの下人どもが!」
大通りは大勢の悲鳴と罵声が飛び交っていた。
ある者は取っ組み合い、ある者は口論、ある者は逃げ惑い、ある者は人の波に押し倒されて踏まれている。
「民の中から『鬼が化けて人間に紛れるのを見た』と言い出した者がいて、それをきっかけに周囲の人間が互いを鬼は誰かと疑い始め、こんな事に……。
そしてそれを取り押さえる為に衛兵がやむを得ずとはいえ、手を上げてしまいまして……。」
衛兵に縛られて大人しくさせられた者や、怪我人の担架が人混みを掻き分けて運ばれて行く。
その中の酷くアザだらけになった女とぐったりした子供が斗貴次郎の目に入った。
「待って!あんなになるまで誰も止めなかったんですか!?それとも衛兵がやり過ぎて……!」
「いいえ。遠目から見てた者によりますと、子供が逃げ惑う群衆に転ばされ、それを庇おうとした母親が大勢に踏まれて骨折したようです。
この人集りで見えず、気付いた時には……。子供の方はもう少し遅かったら窒息でした。」
「……なんて事だ。」
(これじゃ鬼に喰われなくても人間同士で争い事を大きくして勝手に自滅するじゃ無いか!
同種族が鬼と同じ脅威だなんて……。こんな話……!)
「おい!北の寺が火事だ!!」
櫓の見張りが叫び、騒動に拍車が掛かる。
「外の岳鬼の火か?!」
「角狩が負けた!都はもう終わりだ。」
割って入る斗貴次郎。
「落ち着いて!岳鬼の接近を知らせる狼煙がありません!それに外からは兵が戦ってる声が聞こえる!
兎に角、火消しが先です!
侵入した鬼の方も我々なら速やかに退治出来ますから、皆さんは慌てず絶対ここを動かないで!」
早い発見だったお陰で寺の火事は直ぐに消えた。
「妖用の火消し布で消えたって事はこれは鬼火で、紛れ込んだという鬼の仕業か?」
斗貴次郎は、寺の前の見張りから火事の詳細を聞いていた。
「分かりません……。火事で祈祷を妨害して、結界へ力を送れなくするのが最終目的なのは読めますが……。
寺では祈祷を行ってる僧侶を守る為に、外と中に見張りを立たせています。
それをすり抜けて、しかも出火場所である建物中央の中庭にわざわざ火を放っているのは妙です……。火を放つだけならそんな内側に侵入する必要はない……。
そもそも、結界は強力でどんな小さな鬼も妖怪も入って来れる訳が無い。
人を入れる時も民に化けた鬼が紛れてないか検査もしている……。
仮に入ってきたとしても民は全員衛兵に監視されていたし、用を足しに行く時さえも衛兵が付いて歩いていた。
なのに漏れが?」
「確か獄鬼は薬を飲む前は普通の人間で、結界を通り抜けられるのだろう?それじゃ無いのか?」
「いえ、獄鬼は既に魔除け札を改良して対策を打ってあります。
獄鬼を何度か解剖してわかったのですが、彼らには内臓に微かに妖気を放つ微量の『赤い結晶体』が見られた……。ので、その妖気を感知できるように精度を調節したんです。今回の作戦でそれも使用しています。」
「斗貴次郎様。鬼を見たと言った者を連れて参りました。」
もずが、少女の手を引く。斗貴次郎と同じくらいの年齢だ。
少女は頭から赤い上着を被っている。
少女が目を逸らしているので、斗貴次郎は優しく話し掛ける。
「どうも。直ぐ終わりますので。
貴女が見た鬼の特徴ってどんな感じだったか教えてくれませんか?
角の本数とか、人間っぽい見た目だったとか、何か覚えてません。」
「……覚えてません。」
少女は落ち着かなそうに時々上の方をチラチラと見ている。
「じゃあ見た場所は?」
「ら、羅城門の近く……。」
「そこは衛兵が多かったはずですが、人の居ない裏路地の方に行っていたんですか?」
「そ、そうよ……。迷ったの!」
斗貴次郎はその言葉に顔を険しくする。
「……裏路地は、そもそも閉鎖されて入れない筈です。入り口にだって衛兵が立っているし、鬼を見て報告してる筈です!」
「っ……!」
少女は誘導されたと気付き、顔を逸らす。
その仕草に、衛兵は少女に槍を突き付けた。
「おい!まさか貴様!」
「……!」
少女は汗だくになって、過呼吸状態になっていた。口パクで何か言おうとしているが話せないと言った感じだ。一生懸命首だけ振る。
「答えないという事はやはりお前が!」
衛兵は身を拘束しようと肩を掴む。
が、少女は急に血を吐いて倒れた。もずが慌てて調べる。
「死んでいます……!」
「ふんっ、正体がバレると自分から舌を噛んで命を絶ったか。」
「いえ、この子から鬼の反応はありません!」
もずの言葉に斗貴次郎はハッとする。
「もず、もっと詳しく調べるんだ!」
「これは!
斗貴次郎様、噛み切った舌に検査紙が僅かに反応しました。」
「まさか……!上級の鬼が根っからの人間を脅して悪事をさせた事例がある。本当の事を言ったり、共犯がバレそうになったら命を奪えるように特殊な術を仕込んでいたのかも……!検査紙はその術の痕に含まれた微弱な妖気に反応したんだ。」
「つまりこの子は囮の人間で、元凶の鬼が別の何処かにいると?」
「ええ。全部繋がりました……。
その子が起こさせた暴動が寺を燃やす為の隠れ蓑で、結界内に鬼は入って来てないとすると、相手は結界の外から仕掛けて来てる!それもかなり遠距離から……!
その子が上の方を頻繁に見ていて、何かの目印とも言える目立つ色の布を被っていたのを見ると……。」
「まさか、上空か……!?」
斗貴次郎は急いで近くの櫓に移動し、見張り兵を捕まえる。
「すまん、櫓から上空の異変は?!」
「ええ?それらしきものは見当たりません。普通の鳥や烏鬼一匹さえ見かけておりません。ただ、太陽の中に一瞬黒い点を見たような……。」
斗貴次郎は休憩中に見た空の点を思い出す。
「それだ!僕もそれらしき物を見ました!
これでハッキリしたぞ!あの高さを飛んで、悟られないように遠距離攻撃を仕掛けられる鬼がいるとすればそれは『空鬼』だ!
寺の火事も空鬼が騒ぎの間にこっそりと空から火種を落としたんだ!火は生物じゃないから結界をすり抜ける!
赤鬼の奴ら空鬼も従えてたのか!」
「しかし、敵が分かったはいいがお天道様と同じ所となれば手持ちの武器では手が出せんぞ?どうする?」
斗貴次郎は空を睨み付ける。
「考えがあります……。」
雲がかる上空。
地上の山々を見下ろす一匹の鬼。
鬼の基本的な特徴である、角と牙、硬化した皮膚に、猛禽類のような嘴と目、羽毛、大きな鳥の翼を持った鬼。
太陽を背にして小さく滑空する彼は空鬼だ。
空鬼の目は鷹の目よりも良く、雲より高いこの場所から都の様子、更にその中で動き回る人間までよく見える。かなり遠くを詳細に見るには妖力を使って視覚の精度を上げている。それは神経を酷使するので時々休憩を要する。
彼は目を凝らし、舌を噛んで死んだ少女が頭の赤い上着を脱がされ、運ばれて行くのを見ていた。
その視界は中心以外はぼやけており、また、真上から見ているので色の目印が無ければ個人の顔の判別は難しい。
「っち、あの小娘ヘマをしたようだな。
だが、正直囮など無くても問題なかったかな。
鬼が出たと嘘を流しただけであの騒ぎだからな。角狩達も奴らに強く出れないようだし。
堂々と火事を起こしても逃げ惑って大騒ぎして、俺の仕事をやり易くしてくれるんじゃないかな?」
空鬼は空中で腕と足を組んで余裕そうにする。
「じゃあ予定変更だ。精々騒いで逃げ回って、火消しの邪魔をしてくれ給えよ。」
空鬼は視覚を縮小して、都全体の様子を見る。
碁盤のマスのようになった通りには、端から端まで人々が満遍なくいた。
「配列を変えたのか?」
視覚を一つ拡大する。
その瞬間、空鬼は足を組んだまま均衡を崩しグルンと逆さまになる。
「な、何だこりゃ!?」
空鬼の目に映る人間達は全員空鬼の方、つまり空を見上げていた。
そして全員が「お前を見てるぞ」と言わんばかりに空鬼に向かって指を差していた。都の端から端まで立っている老若男女全員がだ。
「こっちにも仕事上の信用ってもんがあるからな……!
こんなふざけたもん見たのを理由に投げ出せねえ……!」
空鬼は翼から羽を一本抜き、数ある寺院の中から一つに狙いを定める。
槍を投げるような体勢になり、鋭く地上へ投げつける。
雷のように一直線に落ちていく羽根。それはやがて燃えて火の玉になる。
地上。都内。
斗貴次郎が櫓から呼びかける。
「いいですか?子供やお母さん、お年寄りは道の端や建物の軒下に入って動かないで!
動ける人はぶつからない様に周りと距離を取って道の真ん中に立って!そして動いていいのは火消し布を持った人だけです。
そして合図は音が頼りです!情報が伝わり易くなる為に、声出しの係以外は極力叫んだりしないで下さい。
今、僕らの敵は人間同士じゃない!結界を無力化しようと空から寺社を狙う鬼です!
無事に生き残ってそれぞれの家に帰るために、どうか一緒に戦って下さい!」
民達は反対しなかった。真の敵がはっきりし、不安が晴れたからだ。
斗貴次郎の言葉をそのまま伝えて走る伝令達。
「おい!あれじゃないか!?」
空を見上げていた民の一人が空を指さす。
民の声を頼りに、着地地点に近い場所にいる衛兵が癇癪玉付きの矢を空に射る。
音と赤い粉が飛び出す。その場所に一番近い近い寺の屋根からそこの見張りが確認する。
「落下地点はここ竜水寺だ!!」
間も無く火の玉が寺の敷地に落下するが、下にいた衛兵と卜部の隊員が布で直ぐに火を消す。
「鎮火しました!合図を!」
終わって癇癪玉が鳴り、宙に青い粉が漂った。
斗貴次郎は櫓からそれを確認した。
「1回目は成功です!この調子でいきますよ!」
その報告に民は喜びの声を上げた。
上空。
民の喜ぶ顔を見て舌打ちする空鬼。
「消しやがったか……!
なら、雨のようにくれてやる!」
空鬼は羽根を数十本同時に抜き取った。
再び地上。
空から流れ星の様に火の玉が降り注ぐ。
「おい!なんか一気に20発以上来るぞ!?」
「慌てないで!重くて怪我するものじゃないから動かずに見定めて!もし別の建物に当たったら、火消し係の人が速やかに消火を!
辺りは癇癪玉の音が鳴り響き、空は粉で曇っていった。
卜部隊や衛兵達は指示の為に走り回る。
そして、人々は空を見上げて火の玉の場所を指差し続けた。
寺社とは関係ない家屋にも落下したが、火消し係の民が消火した為、小火で済んだ。
午後二時。都上空ー。
空鬼は目頭を押さえていた。上空からの狙撃と視界の拡大はかなり妖力を使い、目や脳に負担をかける。立て続けに何十発も羽根を放ったので頭痛がするのか、具合が悪そうだった。
「何の冗談だ畜生っ……!最初の人間達の小競り合いは演技だったのか?急に団結しやがって……、策に嵌められていたのは俺の方か?!」
飛ぶ高度も下がり、急降下と上昇を繰り返して不安定になっている。
「くっ!飛んでいられねえんじゃ結局ここで詰み……。報酬よりも元実からトンズラこく方法考えた方が良さそうだ……!」
地上。
櫓の見張りが叫ぶ。
「空鬼と思われる黒い点が移動!高度を下げながら大江方面へ逃げていきます!」
「よし!」
斗貴次郎は衛兵に作戦終了の合図を打たせる。
空に流れる赤青黄色の三色の煙。
人々はそれを見て、空を見上げる事を止め、歓声を上げて家族と抱き合った。
被害報告を受け取った後、斗貴次郎は民に呼び掛けた。
「皆さん、作戦は成功しました!火事の被害もほぼありませんでした!
ご協力感謝したします!!」
それを聞き、人々は外の戦場に聞こえんばかりの喜びの声を上げた。
斗貴次郎は衛兵達にも頭を下げて礼を言う。
「急な策にも関わらず、迅速に動いて頂きありがとうございました。」
「いや、こっちも鬼の位置を突き止められなかったら、今頃大火事で焼け死んでいたかもしれない。ここには私の家族も住んでいます故……。
感謝します……卜部殿。」
斗貴次郎は一息付き、櫓から戦場を見る。戦いはまだ続いていた。
(兼十さん、宮比、援軍の皆さん、そして射貫……。
こちらはどうにかしました。そちらは頼みます。
……信じてますよ。)




