天下・百鬼角狩合戦(3/8)
決闘の間は付近の両軍とも戦闘を禁ずるという事になった。
槍と刀の主力武器以外の魔除け札や小道具は予め没収された。
北側に獄鬼、南側に綱隊の者達が横並びになって向き合う。
その間で射貫と万耀が睨み合っている。万耀の背は射貫より頭一つ分大きく、そこそこ体格の良い射貫が細身に見える程四肢も太い。人間形態でこうならば、鬼形態ではかなりの巨体になる事が予想される。
開始の合図の後、先に出たのは万耀だった。
狼のように歯を剥き出しにして顔を近寄せる。
「首噛みちぎるぞ!チビクソ人間がああぁっ!」
「頭から食っちまえオラァっ!!!」
「はらわた引きずり出せっーー!!!」
同じく怒鳴って野次を飛ばす獄鬼達。
それに対し、負けじと声を出す綱の隊員達。
「隊長舐めてんじゃねえぞ!クソ鬼ども、コラアァっ!!」
「ケツから槍で串刺しにすんぞコラアァっ!」
暫く両軍とも「やんのかコラァ!?」の応酬が続く。
その様子を見た綱の新人隊員がボソッと言う。
「あ、あの!鬼に舐められない為なのは分かりますが、何か、その……語彙力無さすぎて凄く頭が悪そうに見えます!
もっと知的な会話は出来ないんですかっ?!」
「「うっ!!」」
一瞬黙り込む綱の隊員達。
「じゃ、じゃあ、引き算の問題出すからよお!答えろ鬼コラアァ!」
「お、俺なんかよお!小野小町縛りで和歌を詠むからよお!下の句答えろやコラアァ!」
対する鬼達。
「く、くそー!そんなの忘れちゃったよコラァ!」
「うるせぇぞ人間コラア!!その自慢のオツムをカチ割るぞコラアァ!」
低次元の会話が続く中、万耀の血走った目とギラつく牙が目の前にあっても動じない射貫。
防御の構えすらしない。
「……イキっても全然怖くねえんだよぉ。お坊ちゃんよぉ?」
含み笑いしながら、ボソリと呟く。
「ああっ?!もういっぺん言ってみろコラァ!!」
万耀が両手で肩に掴み掛かろうとした瞬間、骨に響く鈍い音がした。
射貫の頭突きだ。
下顎に当たり、一瞬白目になる万耀。人間なら脳震盪を起こす所だが、天鬼にとっては中途半端な怒りの種にしかならない。
獄鬼達がワーっとどよめく。
「ぁあああああっ!!!」
万耀は興奮状態に陥り、射貫に突きを放つ。
咄嗟に刀を抜き槍と交差させて受ける射貫。
受け切れない数の突きの猛襲、それに混じって噛み付き。
辛うじて首などの肉を持っていかれないように機敏に反応する射貫。
早くも着物や鎧が裂け、血だらけになる。
(天鬼でこの体格だもんな。流石に重たいぜ……。
でも馬鹿力で叩いてくるタイプかと思えば、爪による切り裂きも入れてやがる……。単純なのか繊細なのか掴めねえ奴だ。)
万耀が軸足を後ろに跳んだ。と、思った瞬間、空気の切れるような音と共に掌底が迫る。
「!」
咄嗟に三叉槍を投げつける射貫。
掌底とは逆の腕で弾く万耀。今の彼には射貫しか見えない。
万耀が手首を捻る。
掌底が裏拳に変化したと思った瞬間、朱刀で防御中の射貫の背中がパックリと裂けた。
「おおおおおおああああぉっ!!」
背中から血が噴き出す。射貫は痛みを和らげる為に吠えた。
(鎌鼬が手首の動きで背中に回り込んだのか?
俺が槍を投げて奴の体勢を崩さなかったらもっと力が入って、骨まで達する深い傷になっていた……!)
「た、隊長!」
「ちょこっと切っただけだ!」
隊員達に片手で合図する射貫。
朱刀を斜め両手持ちで構える射貫に、万耀が歩み寄る。
射貫は距離を取りながらゆっくり回り込むように移動する。
「テメエは俺より馬鹿だ!
俺にオヤジの事で怒らせた挙句、天鬼に一人で挑むなんてよお……!」
射貫の力量が分かって得意げになっている万耀。
しかし、射貫は笑い返す。
「おいおい、何でそんなにお前の父ちゃんの事で怒るんだ?
お前が父ちゃんを頼りにしないと何にも出来ないからか?」
「っ!!」
万耀のこめかみに血管が浮かび上がって痙攣する。
「図星みたいだな。
いいかい、お坊ちゃん。自分の考えで立ってねえ奴ってのはどんなに力があっても弱い。フラフラして一つの事に集中出来ねえから肝心の勝機も逃しちまう。
だから、その点で言えばお前は俺に勝てない。」
「んだとぉ!!俺に説教は勝ってから言え死にかけがオラアアアっ!!」
毛皮や髪を風に乱し、四つん這いから跳躍。
再び掌底の構えを取る。
今度は落下の力も加わり、威力も増している。
射貫は万耀を見据えたまま刀を下ろす。
「だから、勝てねえっつてんだよ……!」
射貫は地面に蹴る仕草をした。
今度は腰や姿勢がしっかり安定した状態で腕を突き出す万耀。
先程のように裏拳に切り替えようとした時、万耀の視界にある物が飛び込む。
(しまった!奴がジリジリ移動してた先には……!)
射貫の三叉槍。それが万耀の顔めがけて空を切る。
射貫は何気無く話をして気を逸らし、槍が転がってる方に移動して攻撃の瞬間に足で蹴ってそれを拾ったのだった。
(口の中に!喉に!刺される……!)
だが、そうはならなかった。
射貫は何かに腕を掴まれ、槍を突き刺せないでいた。
「た、隊長!また山犬と、天鬼が!」
「助かった!『壱耀』様だああ!」
射貫と万耀の間に入ったのは、髭面でずんぐりとした体型の天鬼だった。
「本当にこのダメ息子め!俺に守られてるって事はお前はまだまだ弱っちくて、おしめが外れねえ鼻垂れ小僧って事だぞ……!」
「オヤジ……!」
怒られてしゅんとしながらも、安心したように喜ぶ万耀。
壱耀は万耀と射貫を引き剥がす。
「おい!そこの人間!俺は朱天鬼、犬穴の里の長・壱耀。
息子の代わりに、俺と勝負しろ!!」
射貫は怪訝そうに頭を搔く。
「な、何だあ?子供の喧嘩に親出てきちまうのかよ!」
「素直に息子の負けを認め、生き恥も受け入れよう。息子が受けてしまった約束も親の俺が責任を持って引き継ぐ。
それでも駄目か?」
「いや?
俺は勝ってお前らの大将の所に行けるなら何でもいいぜ?」
綱隊より射貫の負傷と連戦は不公平だと言う不満が上がり、射貫は暫し手当てする時間を許された。
手当ての後、再び立ち上がる射貫。
「悪いな、五平。」
この射貫の手当てをした五平とは、射貫と付き合いの長い部下であった。
「頼みますよ〜、隊長。この後もあるんすからもうちょい考えて戦ってくださいね?」
「へいへい。」
射貫と向き合う前に万耀が壱耀に呼びかける。
「オヤジ、俺……。また周りが見えなくなって……!
ごめん!!」
「それはもう言うな……。」
「やっぱ俺が死ぬ気で戦って責任取るよ!」
「そうやって今度は責任の事で周りが見えなくなるのか?
お前は二つ以上の事を同時に考えて行動するのが苦手で、戦うなら戦う事だけに集中するのが精一杯だっていつも言ってるだろ?」
「……うっ!」
壱耀は万耀の頭を軽く小突き、わしゃわしゃと撫でてやる。
「お前が物覚えが悪いことは、親の俺がよーく分かってる!
でも馬鹿でも馬鹿なりきに分かる感覚ってもんがあるはずだ!反省してそこで良く見ておけ!万耀!」




