天下・百鬼角狩合戦(2/8)
頼光四天王が今回の作戦会議をしていた頃まで少し時を遡るーー。
頭を突き合わし、床の上の見取り図を覗き込む百之助、木次郎、射貫、斗貴次郎、宮比達。
「色々協力して貰って兵を集められたと言っても、相手は推定5万です。勝てるのでしょうか?」
斗貴次郎が不安そうに呟く。
百之助は目頭を押さえながら、溜息を吐く。
「うん、単刀直入言うね。
勝てない。」
開いた口が塞がらなくなる一同。
射貫が首に腕を回して関節技で締め上げる。止めに入る斗貴次郎と木次郎。
「おいモモ!真面目にやれ!
優等生のオメエが急にボケても面白くねえんだよっ!」
「イタタタっ!落ち着け射貫!
いやだからさ、『普通に戦ったら』勝てないって言ったんだよ。」
「だから隣の国から投石器とか色々借りたんだろ?!
それと魔除け札とかを使って上手く何かすりゃいいだろ!お前俺より頭いいんだから何か思い付くだろ!?頼むぜおい!」
百之助の代わりに首を振る木次郎。
「駄目だ。それ頼みで行っても岳鬼がいるからな。
先に弩砲や投石器を狙って潰しに来られたら、あの図体じゃ簡単にペシャンコだ。」
「天津城の時みたいに灰焙烙で動き止めたり、口の中に焙烙玉入れて爆発させりゃいいじゃん?」
百之助が落ち着いた様子で説明する。
「駄目だ。今回は岳鬼もそうだが獄鬼や餓鬼達の数が尋常じゃない。灰焙烙の数が間に合って岳鬼を足止め出来たとしても、とどめを刺そうとした所へ餓鬼・獄鬼が数で潰しに雪崩れ込んで来るだろう。」
「待て待て!じゃあどうすんだよ?!」
「射貫、お前にも『大将戦』をやって貰う。」
百之助は射貫を見つめる。信頼してると言わんばかりに真剣な眼差しだった。
「!」
射貫は急に大人しくなってドスンと座り込んだ。
「続けろ、百之助。」
「まあ、知っての通り、天鬼というのは誇りを大事にする。
そして、普段弱いと見下してる人間達から一対一の決闘を挑まれたら断れないはずだ。
強さが全てである彼らにとって、決闘を断る事は『自分は弱いと認める』意思表示をしてしまう事だからね。」
「つまりそりゃ、俺に天鬼の本陣に突っ込んで、タイマン挑んで、挙げ句の果てに首とって来いって事か?」
「平たく言えばそうだ。」
「こんなの作戦か?お前にしちゃ、イかれてるぜ。」
淡々と答える百之助に、射貫は怒るどころか楽しそうにニヤッと笑い返した。
「私は今までもそんなに丁寧・小綺麗な事して来た覚えはないよ?
いつだって無い袖を振りながら、鬼・妖怪退治と人助けの為なら仲間の君達に無茶をやらせて平気で死地に追いやって来た。正直、浄土に行けるとは思ってない。」
「へっ、バカ。最高だと言いたいんだよ、俺は。」
斗貴次郎が慌てて割って入る。
「待って下さい!そんなのほぼ博打じゃないですか!
射貫が負けたら終わりでしょ?!
ジリジリ嬲り殺されて、都の結界が時間で尽きて、鬼に侵入されて帝が殺されれば……天下は赤鬼達のもの……。そうなれば太古の天鬼戦争以前の、鬼達の人間支配が再び始まります……!
そんな大事な戦いなのに、こんな博打やっていい時ですか?!」
熱くなる斗貴次郎をよそに、宮比がぽそっと呟く。
「だが、撤退を要求して決闘に勝てばこちらの犠牲も軽く済む。
あくまで今回の戦いで優先する事は、百之助達が交渉に行ってる間、帝と都を守る事だ。鬼兵の雑魚達を全滅させるのは二の次だ。
どの道、根元である天鬼という存在を少しでも消していかなければ、獄鬼や餓鬼は作られ続けるし、生き返らされたりもする。」
「そう言う訳だから、射貫。
お前達綱隊が本陣まで突破する為に借り物の兵器を惜しみなく使うし、お前が天鬼を倒すまで皆んな都を死守するからね。
信じてるよ……。」
***
射貫は百之助の疲れた笑みを思い出す。古くからの友である射貫を失う不安の表情だったのかも知れない。
(馬鹿だなあ。今更俺みたいな甲斐性なしを心配すんなよ……。嫁にしたかった女に先立たれた、逝きたい時にいつでも逝ける独りもんだ。
だからこそ俺はいつだって、突破して突破しまくって、デカイ手土産に喰らい付いて喰らい付きまくって、持って帰るまで離さねえ……。
後悔が無いようにな……。)
鬼達に負けない地響きを立てながら、草原を駆ける100に満たない馬達。
草や土の煙に巻かれる、朱色の長槍。
数キロメートル先から迫る、1000程の刺々しい化け物達。まだまだ奥から現れる。
先行して放たれた猟犬のように餓鬼が駆け寄る。
それを先に待機していた火矢隊が、棒火矢を発射して蹴散らす。
爆発し餓鬼の肉片が舞う爆煙の中を止まらず突き進む長槍隊。
射貫は辺りを見回す。
北北東の方向に狼煙を発見し、そちらへ進路をとる。
「本陣はあそこか!
恩に着る!貞光の奴ら、よく短期間で発見してくれた……!」
止められない射貫達に痺れを切らしたのか、岳鬼が早速やって来た。城のような巨体が仲間の餓鬼達までも踏み潰しながら、大地を踏み揺らし走り寄る。
流石に地震のような揺れに馬が怯み、速度を落とす射貫達。
岳鬼は跳んで踏み潰さんと、しゃがんで跳躍体勢に入る。
しかし、その肩の辺りに何かが当たって破裂。灰が飛散した。
後方からの投石器の攻撃であった。
岳鬼は膝を突いてその場で四つん這いになってしまう。
灰焙烙と同じ魔除けの灰入りだったらしく、それで体が麻痺したらしい。
「あんな遠くから命中とは……隣の国の奴ら、いい腕してやがる!」
射貫達は岳鬼を無視して狼煙の方に急いだ。
その後、後方の援護を受けながら敵の本陣まで順調と思われたその時ーー。
斜め右前方に、熊程の大きな山犬が見えた。大きな人型が乗っている。
「隊長!山犬に乗った鬼が接近して来ます!
二本角、天鬼です!!」
「全員緊急停止!!はぐれず固まれ!!」
振り返って叫ぶ射貫。
天鬼は山犬の上から跳躍し、爪を立てて射貫の目の前へ飛び降りる。
(この図体、受け切れねえ!)
射貫は馬から飛び降り、受け身を取る。
綱隊の何人かを馬ごとなぎ倒して、着地する天鬼。
乗っていた馬は山犬によって首を齧られ、そのままオモチャにされた。
「隊長!」
射貫をひかないように各々の馬を停止させる隊員達。
止まった隊の周りに獄鬼達が迫る。
天鬼は射貫を見下ろす。
胴や四肢ががっしりとした筋骨隆々の体に、獣の毛皮を纏った若い男だった。犬の尻尾のような束ね髪と鶏冠のような前頭部と言う不思議な髪型に、吊り目。
鬼に相応しい風貌であるが、成人前なのかどこか幼さがある顔だ。
「止まれコラァア!こっから先は俺が行かせねえぞコラァッ!」
腹の底からドスの利いた声で怒鳴る天鬼。
周りの餓鬼や馬が怯えて大人しくなる。
射貫は冷静にスッと立ち上がる。
(強行すれば天鬼か人鬼をぶつけて来ると思ったがな……。だが、丁度いい。
いきなり本陣の天鬼へ決闘の話が通るとも思えねえ。まず下っ端の天鬼をやって実力を示せばいい交渉材料になるはずだ……!)
射貫はガンを飛ばしながら指差した。
「おい。お前、天鬼だって?」
興奮したようにドスドスと歩み寄る天鬼。
「だったら何だコラアァ!?ブチ殺されてえのかゴラァ!?」
射貫は相手を見据えたまま、槍の石突きで地面を力強く突く。
少しだけ、動きを止める天鬼。
「っ!!」
射貫は戦場に轟かせるように叫ぶ。
「俺は渡辺綱の名を預かる、柴本射貫!
俺と勝負し、俺が勝ったらテメエの大将がいる本陣まで道を明け渡せ!」
「な、何だとコラアァッ!!!
……そ、そんなのまずオヤジに聞かないと怒られる。一族の名誉がかかった重要な戦だし……。
『お前は賢く無いんだからまず深呼吸して10秒は考えろ』って言われる……。」
段々と自身が無さそうに声が小さくなっていく天鬼。集中力の無い幼子のようにもじもじとし、毛皮を弄る。
射貫はしめしめと面頬の下で笑う。
「おいおい、よちよち可愛い子犬ちゃんよお。やんのかやらねえのか?!
お前が断わりゃ、そのお前の父ちゃんの名前に泥塗る事になるんだぜ?『たかが人間の勝負も受けられない、負け犬息子の親』ってな。」
その言葉に、目をカッと開く天鬼。
砂煙を巻き上げながら射貫の前に立つ。
「……俺のオヤジの悪口言う奴は生かして俺が置かねえ。
絶対に!!
俺は犬穴の里、壱耀の息子・万耀!
その勝負受けて、テメエをブッ殺す!!!!」




