天下・百鬼角狩合戦(1/8)
お待たせしましたm(__)m
今回はモチベーションの都合で後回しにしたお話です。夜光達が酒呑童子や元実と戦っていた頃に都で起きていた事になります。
※ブックマークして頂きありがとうございます。
激戦となった二瀬渓谷の戦い。
夜光や百之助が元実や酒呑童子と戦いを繰り広げていた頃、都では人と鬼による天下分け目とも言えるもう一つの大合戦が行われていた。
話は百之助達が二瀬渓谷に出発した刻まで遡る。
朝、午前8時頃。
横這いのなだらかな山・大江曽山。
緑の木々に所々赤や褐色が混じっており、その色付いた山の起伏が青空と共に遥か遠くまで続く。
その美しい山々を南へ行った場所に、刺々しく赤っぽい生き物が列を成して進むのが見える。それは遠目からだと、砂山に群がる大小の蟻の大軍のようだった。
獄鬼、餓鬼、そして山が小さく見えそうな程大きな鬼・岳鬼。
朱天鬼軍の鬼兵達である。
列は一箇所からでは最前列と最後尾が遠くて見えない程長い。
鬼達が目指すのは山と山で挟まれた峠にある堀で囲まれた石垣の砦。
角狩衆の重要拠点・枯皮砦である。
不思議な事に櫓にも門の上にも人影が無い。
岳鬼が門を手で引っ張っぱる。閂を壊しながら、いとも簡単に開門させる。その様子は人間が小さな仏壇の扉を開く様なものだった。
朱天鬼軍の最前列らしき所から斥候らしき獄鬼と餓鬼、それとその主人と思われる人鬼が乗り込む。
砦の中ーー。
やはり人は見当たら無かった。
「何だここ、クセっーー!!
遠くからも匂っていたが、腐った魚や糞尿を焼いたのか!?」
獄鬼が自分の鼻を摘み、鼻声になりながら辺りを見回す。
別の獄鬼が辺りの樽や物を破壊しながら辺りを探る。餓鬼は四つん這いで殺気立った猟犬のように走り回って獲物を探す。
「臭い消しでしょかい?
臭いを消しても音で分かる、と、言いたい所ですが物音一つ聞こえんですがねえ。
へへ、富路様を迎え撃った角狩でも、流石にこの大軍じゃ敵わんと逃げ出したんですかねえ?」
「何にせよ重要拠点が手に入ればこちらのものだぁ!」
北側にいる主人の人鬼の方を向いて、嘲笑する獄鬼。
その背中に落ちる、鬼と見間違える程の大きな人影。
「それはどうかな?」
突然野太い声が聞こえ、思わず振り返る獄鬼。
南の櫓に目を向ける人鬼。
櫓の上で腕を組んで立っていたのは虚無僧笠を被った筋骨隆々の大男。
兼十だった。
「逃げ出したほうが身の為なのはお前達の方かもしれんぞ?」
「何をぉ〜!
赤鐘様に軽く押されて泣き喚いてた雑魚が!食ってやるから降りてこいやぁ!」
「肩が鴨の照り焼きみたいに美味そうだぜ!」
櫓に向かおうとする獄鬼。異変に気付き、門の外で待機していた鬼達も雪崩れ込む。
しかし、人鬼がそれを止める。
「……待て!!火薬の匂いが微かに……!
それに地面が濡れているのは水じゃない!この匂いは油だ!
……まさか!!」
人鬼が青ざめた瞬間、近くの納屋から爆発音、そして幾つもの陶器が割れる音ーー。
黒煙と炎の渦が飛び出す。
爆風で吹き飛ばされる人鬼と獄鬼達。
「何だ!身体に熱した金属が刺さって、ああああっ!!」
「それに体が痺れて動かなく……!
いくら俺達が火が平気でも、こう長時間炙られては、空気が吸えなくなって死ぬ!」
鬼達の皮膚の薄い箇所や目には溶けかけの釘や鉄屑、壺の破片などが刺さっていた。
そしてのたうち回っている間に、何故か皆膝を突いて動けなくなる。
砦内は炎に包まれ、鬼兵達は動けないまま悲鳴をあげた。
兼十達は予め砦内に油を撒き、更に納屋の中で大量の炭や穀物の粉などの大量の粉を充満させ、そこに鉄屑と火薬入りの焙烙玉を設置。
そしてそれに導火線の火が着火し、強力な粉塵爆発が起きたのである。
更にその爆発により焙烙玉も一気に爆発。中身の鉄屑が熱された状態で飛散し、鬼達に追加の傷を負わせたのだ。
また更に、粉には鬼や妖には有害となる寺社から出た祈祷や線香の灰も混じっており、鬼達の動きを鈍くする。
いくら火に強い皮膚があろうとも長時間炙られて低温火傷を起こす上、生物である以上は呼吸を阻害されれば一溜まりもない。火の中でもたつく内に酸素不足で死ぬ事になると言う訳だ。
鬼達が混乱してる間、南門の外では兼十が脱出していた。鉞を担いで馬を走らせる。
「これで何匹か減らして進行速度を遅らせられたはずだ……。
南門には鳳凰札……。迂回しようものなら砦の堀や外周に仕込んだ罠が発動するからまだ減らせるだろう。」
***
枯皮砦から南。都手前の山道を馬達が駆ける。
筋骨隆々の男達と、褐色肌の健康そうな若い女。乗っているのは兼十達の部下である金時隊の者達と、兼十の妻・月輪だった。
部下の一人が心配そうに呟く。
「一人で殿をやるなんて……。金時隊長……。」
「鬼に頭と顔の皮毟られても生きてた不死身の隊長だ。隊長を信じろ!それより早く本隊と合流するんだ!」
月輪は部下達の会話を聞きながら、来た道を振り返る。
(囮ぐらいなら足手纏いの私がやるって言ったのに、聞くはずないわよね……。
私がお腹に子供を宿していようがいまいが、危険な事は自分で全部背負い込む。昔からそういう人だから……。兼さん。)
月輪は唇を噛み締め、愛おしげに自分の下腹部を摩った。
***
午前9時。都の郊外。
鷹文を回収する貞光の隊員。
「枯皮砦の兼十様より通達!
第一の計が成功したようです。」
「まさか枯皮を手放すなんて奴らも思ってなかっただろうな。
また直ぐに取り戻すにしても……。」
三叉槍を抱いた束ね髪の男が手頃な岩場に座り、手酌で酒をやっている。
射貫だった。鬼の皮を再利用した特注の軽装鎧を着込んでいる。
遥か先の味方の陣や綱隊の状況に睨みを利かせ、どれだけ飲んでいても戦人としての精悍な表情は崩さず、やはり素面である。
伝令と入れ違いに、今度は具足姿の男がやって来る。
彼は今回の作戦に協力をしてくれた隣国の使者であり、角狩に貸した軍の指揮を任されている。
他、今回の協力者は昔から帝と縁のある武家や、同じく鬼の脅威に怯える国などである。
「射貫殿。こちらに居りましたか。」
「おう、刀と矢に上手く朱は塗れたか?」
「ええ。教えられた通りに。
本当に普通の刀や矢尻にこの朱色の塗料を塗るだけで良いので?」
「おう。どんな鈍武器でもそいつを塗った状態で鬼にひと傷負わせればそこは回復しなくなる。人間には無害だから安心しな。
それより攻城兵器各種、貸してもらっちまって悪いな。
貧乏なウチじゃ持てねえもんだから、嬉しくて拝み倒したくなるぜ。」
「何かとそちらに恩があるのでそれは良いのですが、……本当に倒せるのですか?あの大軍を。」
「ああ、倒すさ。」
射貫はまた酒を飲み干す。盃のせいで顔は見えなかったが、彼ははっきりと答えた。
***
午前10時。
物見が都に一番近い北の山から接近する朱天鬼の陣を視界に捉える。
晴天の空に真っ直ぐと狼煙が上がった。
[朱天鬼軍 5万]
餓鬼・獄鬼・岳鬼、下級鬼兵部隊……約49700体
人鬼・天鬼、上級鬼……約300体
標準装備……無し
[角狩連隊 5000]
角狩衆……300人
協力国からの援軍……4700人
標準装備……朱刀、弩と朱矢、朱槍、魔除け札各種、その他魔除け具
その他使用兵器……対鬼用・破城槌、棒火矢、焙烙玉、弩砲、投石機など
兵力差 9対1。
向かい風が吹き始める中、配置に就く各隊。
その中の綱隊の一人である10半ば程の少年が、長槍を握り締めて震えを止めようとしている。
彼は最近配属されたばかりの新人だった。
農民の出であり、角狩衆に入った理由は家族を守り食いつなぐ為ではあるが、それ以外にも志があった。
(俺の周りの村はもう赤鬼に侵略された。無抵抗の内に……。
今度は俺の村かも知れない。
鬼で力があるから圧倒的なんて、だからやられるだけなんて、それで敵わないから餌だけの存在だなんて、そんなの嫌だ!
その為に勉強して、辛い訓練にも耐えてきたんだ。
昔の自分じゃない。今、俺にだって救える力があるんだ……。)
射貫は鬼の骨や牙で作った面頬を装着した。
そして、緊張した新人の肩を叩き、激励する。
「なーにシケた面してんだよ!
いいか、基本忘れんな?鬼との戦いでは先にビビった奴が負けだ。
そしてどんな姿になろうと最後まで曲がらず堂々笑って立ってた奴が勝ちだ!
俺達人間は過酷な戦場である程、鬼になれる。
……良くも、悪くもな。」
山を下り始めた朱天鬼軍。
数え切れない3メートル前後の化け物達が、ドコドコと土を蹴って響かせ向かって来る。この時点で1000はいそうだった。
ここに北へ先陣を切るのは100にも満たない綱隊である。
射貫は馬に騎乗して三叉槍を振り上げ、悪どく微笑み叫ぶ。
「出るぞ!角狩の太え一本柱、綱隊の長槍隊!
泣かしに行くぜ、鬼を……!!!!!」




