表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜行鬼  作者: 参望
8話/番う鬼
104/168

番う鬼(4/4)

 夜光が八重を洞窟に連れて行った時より少し前の事ー。


 夜光達のいる二瀬川の支流とは別の支流。

 丸石の河原に体格の良い男が半裸でうつ伏せになっている。


 赤土色の髪ーー。変化を解いた赭であった。

 赭の体の皮膚は火傷で赤くなり、雷模様にも似た黒い焦げだらけだった。

 雷のギザギザ模様の焼きごてを何十箇所も押されたかのような跡があった。


 彼は二瀬渓谷の戦いの最後で青鬼の蒼が現れた際、元実が撤退する時間を稼ぐ為に蒼の攻撃を食らって致命傷を負った。そして、そのまま打ち捨てられた。

負けたら助けはない。赤鬼の掟、常識だ。


 赭はヒビ割れた唇を開く。目は白く濁っている。

 乾ききった喉から声を絞り出す。

 「……よ、う、こう様。」


 (鬼でありながら繊細で優し過ぎる貴方が……、立派に元実様の跡を継がれるまで……、人鬼にして頂いたご恩を返し続けると誓った……。

 人間だった頃に亡くした息子と妻ーー。それに等しい存在……。


 今、戻ります……!)


 前に這おうと、手を伸ばす赭。

 しかし、その手は何かによって踏み潰された。

 「ぐぅあっっ!!!」


 人間の足。角狩衆の黒い装束。長い前髪。

 三ツ葉だった。

 手足を布や蔦で縛り、止血をしている。

 

 怠そうな口調だが、前髪から覗かせる眼光は刃のように鋭い。背後の夕日の光によってより輝きが強調されている。


 「……クソ人鬼、2匹目。

 次会ったらぶっ殺したい女の鬼がいるが、その前の憂さ晴らしに丁度いい……。」

 「角狩の生き残りがこんな所に……!!」


 三ツ葉は弩で矢を赭の四肢に打ち込む。

 仰け反り、呻く赭。


 赭の手足から血が流れ、河原の丸石に染み込む。やがて川の方まで流れて水に溶けていく。

 蒼から受けた多量の出血と火傷、神経系の負傷で、変化する力も、力尽くで脱出する体力も、もう彼には残っていない。


 「血の大半を失えば人間と変わらないな。鬼って奴は。」

 腰の矢筒に残っていた弩を全部射終えると、直刀二本を抜く。

 そして赭の髪を掴んで釣り上げ、刀の切っ先を目玉に向けた。


 赭の眼球が緊張で僅かに痙攣する。瞼の中に流れ混む血。

 「……何も、喋らんぞ……!」

 並みの鬼や人間ならば縮み上がって醜態を晒す所だが、赭は山のように落ち着いている。もう戦える体ではなくとも、三ツ葉を睨みつける。


 三ツ葉は八重歯を見せてケタケタと笑った。


 赭の頭を地面に叩きつける。

 丸石に血糊で粘りがつくまで何度も何度も叩きつける。


 三ツ葉はドスの効いた低い声を出す。

 「そうじゃねえよ。ドアホが……。

 

 ……いい声で鳴けってんだよ。食われる人間みたいによぉ。

 手足噛みちぎられて、腹裂かれて腹わた出されて、ガキに戻ったみたいにギャンギャン泣いて無様晒してる人間みたいによぉ……!

 

 そしてお前らが餌、弱者と見下してきた俺らが今度は見下す立場になってよお、どんな気持ちか言ってみろよ……?」

 

 赭は呻いたが、何も言わなかった。ただ、陽光の姿を脳裏に浮かべた。


 「人鬼だから主人の為に誇り高く死にてえか?

 させねえよ……!どん底まで絶望して、俺を満たせ……。

 お前らはその為に生きてる……。俺にとってはな……!」




 響く悍ましい悲鳴。飛び立つ山の鳥達。蛙の声。蹴られる音。

 流れた多量の血で真っ赤に染まる川。

 三ツ葉は刀や蹴りで体のあらゆる箇所を傷付けて拷問し続けた。


 「骨は丈夫すぎて折れねえから、結局目とか神経の集まってる所をチマチマとやる事になる。

 困るよな?死ににくいってのは……。拷問だって一日中やって楽しめる程だ。」


 赭の痛々しい呻き声が何度も何度も聞こえ、やがて静かになった。

 



***




 所変わって大江曽城。

 天守の最上階の廻縁から陽光が地上を見渡している。

 山の中腹辺りで集団で移動する鬼達の群れを確認する。


 「あれは……!父上達か?

 ならば赭もいるかもしれない!連絡してみよう。」


 陽光は念じて会話しようと角に神経を集中させる。

 その時、頭や全身に生きたまま臓物を抉られるような激しい痛みを感じた。

 何が起きたか分からないまま、陽光は気絶した。

 

  (え?

 あ、か、つち……?)

  



***




 極度の興奮状態を通り過ぎ、赭は夢を見た。

 赤蜻蛉が彼の指先に止まっていた。


 (赤蜻蛉……。長い間戦で会えなくて寂しがっているだろうから、捕まえて、持って帰ってやらねば……。

 ……。

 誰の為に?息子にか?


 ……。ああ、そうだった……。

 

 ……蜻蛉よ、頼む。私の願いを大江に運んでくれ……。

 そしてその美しい姿で、私の代わりに陽光様を……慰めてくれ……。一人になっても……大きく羽ばたけるように……。)


 赤蜻蛉は飛んだ。

 夕日が沈む、遥か彼方へ。

 



 <番いの鬼・完>

 



<おまけ・蒼&与紫乃ラフ>

挿絵(By みてみん)




<読者様達へのお礼>

挿絵(By みてみん)


 お読みいただいてる事へのお礼の為に描かせて頂きました。

文字ですとまた、病んでつまらない事ばかり言ってしまうと思うので、感謝の気持ちを主人公に表現して貰いました。

応援してくださった皆様に重ねて感謝を申し上げます。


 今回は前から書きたかった所なのですんなりと終われましたが、次回はもう少しお時間を頂くと思います。

 気長にお待ち頂けたら幸いです。


 

●今後の予定(仮)●


都防衛編『天下・百鬼角狩合戦』(仮)

9話・鉄籠の鬼(仮)

10話・最終章

エピローグ(完結)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ