継母義姉に虐められた私は王子様の玉の輿に乗ってざまぁする【底本・グリム童話版『シンデレラ』】
『シンデレラ』ってざまぁ系だよなぁ、って思いつきから深夜に文字をぽちぽちと。
なんかシンデレラの数世紀越しのヘイト創作みたくなりました。
【5/2 11:20 後半部分加筆しました】
なんやかんやあって、王子様は探していたヒロイン・シンデレラを見つけることができました。
やった。物語はハッピーエンドです。
ですがハッピーエンドの1ページ先には、そう綺麗でもない現実が広がっているものです。
シンデレラと王子様の結婚式の直後。閨の間から、物語をはじめましょう。
「ああ、シンデレラ。その繊細な髪は清らかで美しい生糸のようだ。君の塗れた瞳はルビーのように煌めいて、僕の心を怪しく揺さぶる。そしてその、白魚のような、細く、しなやかな脚!ああ、僕は君の脚を見る度に体の震えが止まらなくなる。その膕の窪みはさながらテセウスのラビリンス!僕のむくつけき指先で大冒険に赴き栄光を勝ち得たいッ──ああもちろん膕だけではないよ!君の美しさは例えばそのむしゃぶりつきたくなるような足首──」
王子様は過剰修飾のひとでした。
知性と教養というのを、もったいぶった厳かなしゃべりだと勘違いしているのです。文章のうまさ、表現の妙というものは、いかに婉曲的に、執拗に表現するかにあるとか考えているタイプです。
こういう人間が文章を書くと、まず目がすべります。
そしてそれ以上に、常識の範囲からちょっと逸れたレベルの足フェチでした。
ひかがみ、なんて漢字は別に読めなくてもいいです。ひざの間接の裏側に当たる部位を指すそうですよ。
(何言ってんだかわっかんね。でも、アタシのことを褒めてるのはわかるわ。チョーわかる)
シンデレラはシンデレラで、教養がないひとでした。
しかし、その美しさには、力がありました。その美しい口から『カラスは白い』という言葉が紡がれれば、たちまち世界中のカラスは彼女に高度な政治的な忖度を行い白くなることでしょう。
それくらい、シンデレラは美しい娘だったのです。
昔からことわざに『色の白いは七難隠す』と言います。昔からアルビノ萌えですね。色が白いだけで七つの難が隠れるのだから、王子に見初められるほどの美人は、少なくとも七つ以上の難を隠せるはずです。
もっとも、王子様はスカートから覗く足に夢中なのですけれど。
(アタシの魅力にイチコロなのね、王子様♥ じゃあ、ちょっとくらいのワガママは許されるかしら?)
「ねえ、王子様? わたくし、お願いがありますの──」
「なんだい、ふくらはぎ──じゃなかった、シンデレラ。白い脛のお願いなら、なんだって叶えてあげるよ」
「まあ! すてきですわ王子様っ。本当に、なんでも、叶えていただけるのですね?」
「勿論だともふとももちゃん──じゃなかった、シンデレラ」
「じゃあ──そこにいる女ども。拷問してくださいっ♥」
「まじで?」
王子様は素になりました。
さて、シンデレラの指した『そこにいる女ども』とは。うなだれる継母と義姉たちです。
みなさんご存じのように、シンデレラは血の繋がっていない家族にいじめられていました。
ただ、現在の多様化する家族関係を鑑みるとこのように血縁関係を過剰に神聖視する表現にはいささかの倫理的問題点が見られますので、当該作品では『いじめ』という表現ではなく『コンフリクト』という単語を使うことにします。
いじめは、ありません。
そこには不幸な行き違い、コンフリクトがあったのです。
もちろん、横文字で表現しても、やっていることは変わりませんよ。
(冷静に考えれば、なんで閨の間に家族なんだ連れてきたんだこいつ。聞かせんの? 怖っ。何が目的だよ。しかもなんか失明してるし。しかも二人の姉なんて、ストッキングから血が……血……)
王子様は、ふとももちゃんの脚にのぼせていた自分がいたことと同時に、新しい性癖の扉をノックしている自分がいるに気づき、これは倫理的にまずいとぶんぶん首を振りました。
このままでは、題目が『青ひげ』に変わってしまうところでした。うまく踏みとどまれましたね。
教養というのは、倫理観にもつながってくるのです。
王子様のサディスティックな性癖の萌芽はともかくとして、閨の間に連れられてきたシンデレラの家族三人の目は、すでに潰れて、足からは血が流れていました。
さて、ここで説明させていただきますと、グリム童話版『シンデレラ』には、全部で8つの版が存在しています。
それぞれの版によって、大筋は変わらなくても表現がちがっており、中には教育的によろしくない表現が見受けられる版もあります。
義姉が王子様の金のくつに合わせるために、自分の足指をちょんぎったり。シンデレラの両肩にとまった鳩が、家族の両目をくり抜いたりといったざまぁ的表現が見られます。
『シンデレラ』は、ざまぁの系譜にあるのです。
『シンデレラ』は、ざまぁの系譜にあるのです。
『シンデレラ』は、ざまぁの系譜にあるのです。
三回もいいました。
この三回(あるいは二回)の反復もまた、グリム版『シンデレラ』の特徴的な要素です。グリム版のシンデレラは複数回行動が可能なユニットなのでした。靴を落とすことになる舞踏会も、二晩行われ、シンデレラは二日間どちらにも参加しているのです。
わたしは、ひかがみの読み方よりも遙かにマシな知識を書くことができて、ほっとしていますよ。
さて、視点をシンデレラたちにもどしましょう。
(ねえ♥ねえ今どんな気持ち?♥♥どんな気持ち~~~~っ??♥♥♥ お母さまたちには、目が見えなくても王子様のささやき声聞こえるよねっ♥ 聞こえちゃってるよねえっ?♥♥ 寝取っちゃったぁ♥♥好きでもないのに寝取っちゃったぁ♥♥♥ 知ってるんだよ? おーじさま、あこがれのヒトだったんでしょ♥ ねえねえ~~~~♥♥♥♥」
シンデレラは絶頂のさなかにありました。
白い肌は上気し、肩や腰はがくがくと震え、口からはよだれが垂れています。ふしだらな女ですね。
教養とは、道徳にも繋がるものです。教養のないシンデレラにはやはり、およそ道徳といえるものもないのでした。
しかし、これは彼女が悪いというわけではありません。
シンデレラはいじめ──コンフリクト性が高い環境で育ったのですから。
卵が先か、鶏が先か。いじ──コンフリクトがあったから歪んでしまったのか、それとも歪んでいたからコンフリクトを受けたのか。
歪みきった今となっては、もはや誰にもわかりません。
参考まで、バジーレ著『灰被り姫』についても解説させていただきます。
ペローや、グリムが童話として刊行するよりも早く作られていたバジーレ版『シンデレラ』では、ゼゾッラ──シンデレラは、冒頭で家庭教師だった継母二号と結託し、継母一号を衣装箱に挟んで首を折って殺害します。そして継母二号からコンフリクトを受けます。
本作の底本はグリム版『シンデレラ』なので、この情報はなんら司法的な意味は持ちあわせていません。持ちませんが、グリム版もなんだかんだそういう女なのかもしれないですね。
いずれにせよ、親子関係が生んだひとつの闇はざまぁ展開にノリノリでした。
「ねえ王子様ぁ♥シンデレラ考えたのっ♥♥ お姉さまかわいそうっ♥♥♥ブザマですっごくかわいそう♥♥♥♥ だからねだからねっ♥♥ 拷問しないといけないのっ♥♥♥♥」
「まじで」
「うんっ♥おーじさまはシンデレラの望み、叶えてくれるよね♥♥ さっき、なんだって叶えるって言ってたもんね~~~~??♥♥♥」
「いや、それは……」
「あし♥♥♥♥ 根本からちょんぎっちゃおっ♥♥♥♥♥」
「まじで!?」
──王子様の倒錯的な性癖は、シンデレラの囁きを受けて、ついに爆発しました。
王子様は義姉の両足を、その付け根からちょんぎって、家臣に松葉杖を用意させます。
ですが、もちろん、両足が失われていては、もちろん杖をつくことはできません。
それでも、恐怖に身をふるわせる義姉が、杖をなんとか使おうして体勢を崩す姿を眺めるたびに、シンデレラは背すじから全身に電撃のような衝撃が伝わり、そのあまい痺れにふるえるのでした。
「ああ♥ お姉さますてき♥♥ 昨日まで、昨日まではわたしの方だったのに♥♥ 先に目を潰しちゃったの失敗だったな♥♥ もっと媚びるような目で見てもらえたのにっ♥♥♥」
シンデレラのざまぁは、これにて完遂しました。
一方で、倫理ゼロのモンスタートラックの玉突き事故を受け、すっかり加害者の仲間入りをしてしまった王子様はといえば。
切り取った義姉二人の脚を、右手左手それぞれに抱えて、鼠径部に頬ずりをしながら。
じっと、昆虫のようなひとみで、シンデレラのまっしろな脚をながめているのでした。
さて、ここまでで筆を置くこととしましょう。
これ以上は、無粋というものですね。
【教養的一文】
みなさんは、恋愛結婚というシステムが、結婚生活を予行演習できるという意味で、いかに優れているのかわかりましたね。
ひとめぼれなんて、ろくなものではありませんよ。
→ 『シンデレラ・オブ・ザ・デッド~追放された継母たちの逆襲~』に続く。
続きません