8話 任務達成
「あら、おかえりなさい。まだ1日ですけど、あー、やっぱりあの任務は難しかったんですよね。分かります。でも一切自分を責める必要はありません。止めはしましたけど、そういう冒険心は必要だと思います」
俺が次の日の夕方くらいにアルバンディーアのギルドに戻ってくると、ちょうど受付をしてくれたお姉さんがいた。
俺が戻ってきているのを見て、どうやら失敗して戻ってきたと思っているようだ。
「あのー、成功したんですけど、これは完了でいいんですかね?」
「そうです、失敗は成功のはじまり……、え? 成功したんですか!?」
見事な乗り突っ込み。割とこの人できるな。
「あのー、見得を張らなくても大丈夫なんですけど」
「いえいえ、見得じゃないです。依頼者の人に連絡してもらえますか?」
ギルドの仕事は、基本的に一般人や特定の仕事をしている団体からの依頼であり、成功すると、ギルドの人がその人に連絡をして、その人や団体から問題ないと判断されれば、ギルドに連絡が入るという形だ。
たとえば最初にあった家事手伝いとかなら、そのまま依頼書を持っていって、直接依頼者の人からサインをもらうということもできるらしいが、今回のはそもそも依頼者が依頼元にいないから、できるはずもなかった。
「は、はぁ。分かりました。確認取れ次第連絡いたしますので」
「どれくらいかかりますか?」
「ずいぶん急でしたからね。また明日のこの時間くらいにここに来てください」
受付の人がそういったので、俺は従った。
「さて、どうすっかな。家に戻るか?」
「あの家もうぼろぼろだから限界だよー」
俺はセリーヌさんを気遣っていったつもりだったが、まさかの本人からの否定だった。
「いいのか? あの家ってお父さんとかお母さんとかの思い出があるんじゃ」
「ううん、何もないよー。あれは私が勝手住み着いた家だからー。住むところ無かったから、あそこにいただけ。正式に住所とかも登録してないから、もうあの家のことは忘れるー」
「そ、そうか」
天真爛漫で可愛らしいけど、割とそこら辺はしたたかなんだな。
「でも誠くんに頼ってばかりもいられないからね。体も元気になったし、これからは私も頑張って働くから! 誠くんはダラダラしててね」
何か俺が合法的に紐を認められたみたいになってる。でも何もしなくてもいいならいいかな。セリーヌさんが働きたいのをとめるのもなんだし。
「でもとりあえずは、まだ俺に金があるから、宿代は俺が出すよ。あのおじさんの宿屋に少し泊まろう。お世話にちょっとなったし」
「うん、ごめんなさい。私はまだお金が少ないから」
「いいってことだ。じゃあ宿屋行くか」
「おー」
そして俺はセリーヌさんと、最初に身分証明のことを教えてくれた宿屋に行くことにした。
「こんにちは」
「いらっしゃい、おや? 君は」
「どうもおじさん。お世話になりましたね」
「どうやらその様子だと、無事身分証明ができたみたいだな」
「ええ、ありがとうございました。それで早速泊まらせてもらえますか」
「もちろんだ。何日泊まる? 1日なら銀貨3枚だ。それが2日なら追加は銀貨2枚とでいい。4日までは同じで、5日目からは7日目なら、銀貨1枚でいい。1週間泊まってくれるなら、最後の日は無料だ。朝夜食事もついてるぜ」
1泊2日、朝夜食事つきで、銀貨3枚。2泊3日だと銀貨5枚。3泊4日だと銀貨7枚。4泊5日は銀貨8枚、5泊6日で銀貨9枚、6泊7日なら同じく銀貨9枚か。安いな。
まだあの幽霊の町の開拓に時間もかかるだろうし、7日以上世話になることもあるだろう。
「じゃあ銀貨18枚渡すから、2人分お願いできますか」
「ほいきた。ちなみに、部屋はなん部屋だい?」
「部屋?」
「1部屋でいいなら、銀貨は15枚で構わないぞ。部屋の管理が減るからな」
「まぁでも、セリーヌさんが」
「1部屋でいいです!」
「セリーヌさん?」
セリーヌさんが気にするかと思ったのだが、そんなことは無かった。そして俺は宿屋に宿泊することになった。
「いらっしゃいませ。宿屋の娘で、クレアと申します。店頭で担当をしているのは、父のダグラスです」
荷物、と言ってもさほどないが、それを部屋においてくると、ちょうど時間が夕食時だったので、食堂に向かった。
このアルバンディーアでも、この宿屋は割りと好評らしく、なかなか人はたくさんいた。
いかにも冒険者という人から、商人までさまざまである。
「本日のメニューは、カサナもどきのてんぷら定食です。どうぞ」
そして、すぐに料理が運ばれてくる。白身魚っぽいてんぷらと他に野菜ぽいてんぷらがあって、それにつけるタレのようなものがある。サラダがあり、米みたいなのもある。いわゆるてんぷら定食みたいなものか。
というか、普通にあったから突っ込まなかったけど、この世界は箸の流通があるのか。
「いただきます」
「まーす」
俺とセリーヌさんは手を合わせて箸を持って口をつけた。
「お、うまい」
とてもさくさくの触感にいい油を使っているのが分かる味わい。正直このままでも食える。俺は薄味は好きではないので、大抵のものに調味料をかけるが、これが素材の味というやつか。
「すごくあっさりしてて美味しいね」
「それは俺もそう思う」
俺は天ぷらは好きだが、たくさんは食べれない。油っぽいからだ。
だが、この天ぷらは、衣に油が全く無いとでもいうようなあっさり感がある。それなのに、味が淡白になっていない。
細かいことはいいか。美味いから。