7話 VS幽霊
「ますいってのは?」
「その依頼ずっとあるんだけど、高いランクの人でも成功しなくて、それで、条件を大幅にゆるくして、報酬も破格にして、黒の人でも受けれるようにしたやつなんだよ。とにかく、幽霊は謎が多いから、怖いよー」
ファンタジー世界でも幽霊は怖がられているのか。あれだけ化学が進んでいる日本でも幽霊はびびられてるもんな。でも俺は幽霊のことは嫌いではない。ちょっと変わった友人と、一緒に心霊スポットに行くことは結構あった。
肩透かしなのもあれば、けっこうまじでやばいのもあったな。十数回行ったけど、確か3回くらい本当に見たな。その後決まって回りに不幸があって、親に止められたことがある。ああいうのって、本人じゃなくて割と回りに影響を与えてくるらしい。
「でもこれなら、家も手に入るし、説明にもあるけど、死ぬことはなくて、呪われても保険ありって書いてあるし、安全ではあるんじゃないか?」
この大変そうな任務が最低ランクの黒のランクでも受けれるのは、そのアフターケアがあるからだ。そこまでしてでも、何とかこの幽霊騒動を何とかしたいということか。
「よし、これやろう」
「ええー」
俺の行動に対して初めてセリーヌさんが苦情らしきことを言ってきた。俺がこれを選ぶ理由? 肉体労働よりは楽そうだから。それ以外ない。
「ふぇーん、怖いよー、暗いよー」
俺は意気揚々と依頼を受けて、受付のお姉さんに依頼書を出した。
すごく何度も引き止められたが、俺としてはさほどデメリットがないので、行くことにした。
何か死んでも大丈夫的な誓約書を書かされたが、それは考えない。
セリーヌさんは先ほどから半べそ状態で俺にくっついた状態である。
可愛くて結構だが、腕を抱く握力が半端ではない。
「そこまで怖いなら無理して付いてこなくてもよかったのに。家事手伝いやってこればよかったじゃん」
「で、でもー。誠くんに何かあったら嫌だもんー」
目をぎゅっと閉じてるけど可愛い。
というわけで、一本道だったので迷うことなく目的地にはついた。
しかし時間が分からんが、確かにセリーヌさんの言うとおり暗いな。
ここに来た途端暗くなったし雰囲気はある。
「ここがその村か」
ギルドのあった街からはかなり離れた郊外。位置としては、すぐ南が森になっているようだ。
ギルドで地図を見たが、アルバンティーア国がこの世界の中心で栄えていて、北東にリージ国、北にヴェルト国、西にマシュー国があって、マシュー国だけが、魔王のいる国と接しているらしい。そして、この世界の5分の1はまだ草原や森で、それが南西から南東に向かって広がっているのだそうだ。
この場所はアルバンティーア国の中でもかなり僻地で、リージ国や草原がすぐ側にあるらしい。
だが、廃墟という感じはしない。人気と明るさはないが、死体があるとか、ものが散乱している感じではない。
「さてと、じゃあ食事にするかな」
何個か立っていた家を物色すると、そこまで汚れていない家があったので、そこに腰を下ろす。言い方は悪いが、セリーヌさんの家よりはまだ家らしい。
ここに来るにあたって、いくらか食料は仕入れてきた。2万円分くらい。
「じゃあお料理するねー」
そして、そのための調理器具も揃えておいた。ちょっと怖がっていたセリーヌさんも、俺がいるからか、少しづつ余裕になってきたようだ。
「フレイム! アイス!」
セリーヌさんは火と氷が使えるのである。
威力は本当に小さく戦いには使えないのだが、料理をするのには、小さな火種があれば十分で、うまく生かしている。
「はいどうぞー、鳥もどきのからあげと、三色野菜のサラダだよー」
そして、俺がそこそこ金があったので、材料を仕入れて、それを完璧にこなしている。
もともとひどい食材でもかなりのクォリティがあるのだ。素材がそろえば美味しくなるに決まっている。
ちなみに、から揚げは俺が少しやり方を教えた。から揚げは大好物だったのだ。鶏肉みたいなのがあったので、それをすぐに作ってもらった。
「本当にこれ美味しいよねー。どことなく、肌にもいい感じがするもん」
俺とセリーヌさんが出会って、まだ5日くらいなのだが、食生活の改善で、さらにセリーヌさんは可愛らしくなった。細かった体の肉付きが良くなって、とても女性らしい魅力にあふれていた。
それでいてあの満面の笑み。ここ最近はちょっと町の人から羨望の目で見られることもあった。
「さーて、寝るかな」
いつもの身体浄化で清めた後は、ぐっすり寝るだけである。ポイントはここ3日まともにつかってないこともあり、600ポイントはある。それなら多少何かあっても大丈夫だろう。
「あのー、誠くん……、一緒に寝てもいいよね?」
「え? 部屋数はあるから、別でもいいんじゃない?」
「だ、だって怖いもん! 安心できるのは誠くんがいるからだよ」
「まぁ今更だからいいけどさ。ほい」
俺はぽんぽんと布団の横を叩く。なぜかここには布団もあって、ほとんど汚れてもいなかったので、そのまま使った。何度もいうが、それでもセリーヌさんのところの布団よりは……、これ以上はやめよう。
「うん、ありがと」
そしてセリーヌさんは俺の布団に入ってくる。いつもいい香りと柔らかい感触にどきどきはするが、それでも俺への絶対的な信頼感が、どことなくそういう邪な感じにはさせない。
「むにゃむにゃ……」
さきほどまであんなに怖がっていたのに、俺の横で俺の手を取っているだけで、こんなに安心しきった顔で寝てくれるんだから嬉しい。
『スキルセレクト、強制成仏を発動させます。スキルポイントは50消費です、残りは550です』
ん? 何かスキルが発動してるな。強制成仏? つーことは本当に幽霊が……。
ほわわーん。
ほわわーん。
ほわわーん。
ほわわーん。
ほわわーん。
何かずっと健やかな音が聞こえてくるんだけど。
ほわわーんって音がするたびに、白い光が輝くし。
まぁいいや、寝る。
ほわわーん。
ほわわーん。
ほわわー……。
俺の意識は途中で眠りについた。
「ふぁ~、やっぱり朝は眠いな」
次の日、俺はいい目覚めを迎えていた。
「ここも朝はさすがに明るいんだな。うん」
『おはようございます。スキルポイント残数は250です。毎朝アナウンスいたします。このアナウンスも不要でしたら、解除できます』
「250? 俺が寝てる間に300も減ったのか? 何をした?」
答えが返ってくるはずなどないがつい突っ込んでしまった。寝る前に600から50減って550になったのは覚えているが、その後のことが分からなかったからだ。
『回答します。50は強制成仏、300は時空切断に使用いたしました。時空切断は、幽霊がどんどん入ってくる霊道というものを塞ぐのに使用しました。この村に幽霊は入ってきませんし、残っていた幽霊は全て成仏いたしましたので、幽霊はもういません』
「へ? 回答?」
基本的に一方通行だったアナウンスが、突如返事をしてきた。
その後何度が呼びかけてみたが、返事が来ることはなかった。
「うーんおはよう……、あれ? 何か昨日までのいやな雰囲気がない?」
そうしているとセリーヌさんが目を覚ました。だが、昨日までの怖がりが嘘のように、きょとんとした顔をしていた。
「えーと、セリーヌさん。任務完了しちゃったからさ。もう戻ろうか?」
「えー、いつの間に? 私が寝てる間に何したのー」
「ちょっと、強制的に成仏させる魔法と、幽霊の根源を絶つ魔法でなんとかなっちゃった」
「すごいすごーい。さすがだねー。この任務は赤とか青の人でも成功しなかった依頼なんだよー。それを1日でやっちゃうなんてー」
まぁ俺は何もしてないんだけどな。俺のスキルさんが、勝手にやったことです。