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5話 スキルが便利すぎて楽

「はいどうぞ、とは言っても、あまりいい食材じゃないけどねー」


セリーヌさんは俺に料理を振舞ってくれた。


でもさすがにお世辞にもいいようなものではない。


ぶっちゃけ、よくわからない草の炒め物と芋のスープだけである。質素だ。


「いただきます」


ずずっ。


「なんだこれ、うまっ」


スープは味付けが完璧、草は素材の味がきちんと生きた絶妙な甘みと苦味。


栄養と食べた気になるかどうかは別として、味は間違いなく美味い。


「えへへー。料理はけっこう得意なんだよ。あまりいいものは使えないけど、味付けは自信あるよ」


確かにこれなら、ちゃんとした素材と調味料があれば、相当いいものができるだろ。というか、これこそ魔法じゃん。


「だけど、これだと栄養不足になるだろう? 病気も病み上がりだし、栄養がいるだろ」


「栄養のあるものは高いから……」


「それに清潔感も足りないだろ。風呂とかははいらないのか?」


「近くに泉があったけど、最近貴族の人がそこを占有しちゃったから、入れてないよー」


セリーヌさんはちょっと落ち込んでいた、食事のときより落ち込んでいるところを見ると、綺麗好きではあるのだろう。


この家もぼろくはあるが散らかってはいない。整理はされている。だが、清潔感がない。


正直、セリーヌさんから不快な匂いがしないだけでも十分すごいのだが。


しっかし、俺も風呂は入りたいな。歯とかも磨きたい。


そんなことを思ったときだった。


『スキルセレクト。身体浄化アオフ・エアシュテーウングを発動させます。スキルポイントは1×2消費。残りは98です』


ん? 身体浄化? 強化じゃなくて?


すると何かちょっとかゆみがあった体が、なんかさっぱりして、口の中もミント味になった。


「これは何かなー? 何か水浴びした後というか……それよりも気持ちいい感じになってるんだけどー」


俺がそう思うと、どうやらセリーヌさんにもそれがあったようだ、俺が風呂入りたいと思ってたときに、セリーヌさんに触れてたからか。さっきのアナウンス1×2って言ってたし、要するにこのさっぱりする感じのスキルがわずか1でできるということか。わーこれは楽。風呂嫌いじゃないんだけど、入るのは面倒くさかったし、歯磨きも苦手で、虫歯も多かったからな。このスキルいい。今までで1番いい。


『スキルセレクト、現在スキルの必要性はないと判断いたしました。スキルを全て解除します。なお、このアナウンスは、次回以降なしにもできます』


毎回律儀に言ってくるな。これ。


「何かいい香りがするねー。すんすん」


「お、俺の頭の匂いをかぐなー」


セリーヌさんが俺の髪に顔をうずめてきた。その距離感はあまり女性に接してこなかった俺にはきつい。


というか、セリーヌさんが更に美人になってる。


さっきまででも決め細やかだった肌が更にすべすべになり、ちょっと黒くくすんでいた髪が、さらっさらの光沢を放つ茶色の髪に変わっていたのだ。セリーヌさんは俺のことをいい香りというが、セリーヌさんのほうがやばい、同じスキルで浄化されたはずなのに、とんでもないくらいセリーヌさんからいい香りがする。


「うーん、幸せ……、お父さんもお母さんも死んじゃって、病気になって、まともに生活できなくて……、1人で死んじゃうと思ってたのに……、誠くん、もし邪魔じゃなかったら、一緒にいさせてくれないかな……、戦えないけど、誠くんのためにいろいろ頑張るから……」


ずっと笑顔でわがままも言わないセリーヌさんの初めての我侭。


「俺にできる範囲でよければ一緒にいてもいいぞ。セリーヌさんは俺の誰にも受け入れてもらえなかった考えを受け入れてくれた人だからな。というか、俺のために頑張るとか大丈夫だから。自分のためにがんばってくれ」


その可愛らしい我侭を俺は受け入れた。本当にこんな子が前世にいなかったことが悔やまれる。


「ありがと。あ、でも恋人はいらないっていうから……、家族みたいな感じでいいのかなー?」


俺の恋人いらない宣言もきちんと尊重してくれている。こんなに優しい女の子にであえたなら、それだけ転移した甲斐あったかな。俺ちょろいなー。


そんなことを思いつつも、俺はセリーヌさんと一緒に寝た。寝ただけです。本当に寝ただけです。はい。



「うーん、朝か」


屋根も壁も少ないので、日差しと共に目が覚める。


横では可愛らしい天使のような寝顔で、セリーヌさんが寝ている。もちろん手は出していない。


「しっかし、今後いろいろどうするか。金はともかく、スキルのポイントの仕組みが分からん」


『おはようございます。スキルポイント残数は138です。毎朝アナウンスいたします。このアナウンスも不要でしたら、解除できます』


朝一で俺の頭には無機質なアナウンス。ポイントがまた98から138に増えてる。


俺の仮定では、一定時間でポイントが増えると考えた。そしてその仮定は1時間で5、俺の睡眠時間は時計がないからよく分からんが、大体8時間は寝ているから、5×8で40。そして、98+40が138。おそらく俺の仮定と間違っていない。なるほど、毎回わざわざスキルを解除している報告をしてくることはそういうわけだ。多分、スキルを発動していないときは、自動的に増えていくということか。ただ、このスキル俺が能動的に発動させてるわけじゃないから、あのアナウンスうざいけど毎回聞いといたほうがいいな。何が発動してるか分からんし。


しかし、戦うためのポイントを貯めるためには、何もしないことが必要だとは。最高だな。


何もしないことが合法化されている。いざというときのために何もしないという理論が完全にまかり通る。


皆が汗水流して修行しているのと、俺のダラダラは同じ意味なのだー。


後は今もっている金の問題さえ解決できれば、本当に何もしなくてもよくなる。


そのためには仕方ないが、ちょっとは動く必要があるか。


何もしなくても良い世界にこれたし、それを受け入れてくれる子がいるなら、死ぬ理由はそこまでもない。


あの神様ありがとう。これなら俺も人として生きていけそうだよ。



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