4話 家?とスキルセレクトの分析
「はい、ここが私の家だよ」
…………これはなんだろう。
セリーヌさんに連れてこられて、少しギルドから離れた場所に行くと、人気のない場所に来ていた。
何か鉄くずとかがたくさんある場所にきたなーと思うと、その廃墟みたいな場所の一部がセリーヌさんの主張する家だった。
いや、俺の家の定義がぬるいのかもしれないが、これを家と言うのは難しいのではないか?
まずドアが4分の1くらいなくて、家の中見えてる。
壁は3分の1くらいなくて、風が入り放題。
窓は2分の1くらいないし、割れてる。
大問題は屋根が10割に近いレベルでない。雨風しのげない。これは家というより、野営キャンプである。
「まぁなんというか、ワイルドな家だな」
俺なりに気を使って言ってみた。これが家じゃないとは言えない。言えない。家ない。何言ってんだ俺。
「お金がないからねー。じゃあ入って入って」
セリーヌさんに誘われて、家に入ると、一応寝具とか、料理器具は揃っていた。
「タダで泊めて貰えて助かる。地面に寝るよりは楽そうだしな」
俺は普通にそう思った。先立つものがまだないので、手持ちのお金はできる限り無駄にしたくない。今日はいざとなれば野宿予定であったことを考えると、下に布団があるだけましである。
「…………誠さんいい人だね」
「へ? 何でだ。家に入れてくれるセリーヌさんが優しいんじゃ?」
「ううん、私の家を見ると、皆これ家じゃなーいみたいな目で見てきて、入ってもくれないから。でも何か感謝はしたかったから、でもちょっと怖くて……けほんけほん」
……セリーヌさんこそいい子だなー。俺の穢れた心が浄化されそう。日本にはこんないい子がいなかった。
「けほん、けほん」
「大丈夫? 風邪気味?」
セリーヌさんはずっと咳こんでいた。その咳の仕方が、素人の俺でもあまりいいように思えなかった。
親戚のおじさんが癌で亡くなる直前の悪い咳のようだった。病気なのかな。
「気にしないでー。お医者さんにも見てもらったことあるんだけど、原因不明で、今日は調子がいいほうだから、仕事はしたけど、いつもは寝込んでたりすることも多いんだー、けほけほ、でもお礼はするからねー」
なんというかけなげでいたたまれない。
そういわれると、あの3人の中で、セリーヌさんだけ小柄だし、16歳にしてはやせ細ってるし、かわいそう過ぎる。
なんとかしてあげたいな。ここまで関わってしまうと、めんどくさがりやの俺でも、気になってしまう。
「まぁなんというか、あまり無理はしないで……」
俺は何気なくセリーヌさんの肩に触れた。
『スキルセレクト、治癒効果を発動させます。スキルポイントは20消費です。残りは80です』
「え?」
すると無機質ないつもの声が俺の耳に届き、俺は首をかしげる。
「あれ? え?」
それはセリーヌさんも同じで、首をかしげた。
するとどうしたことか。ちょっと青白かったセリーヌさんの顔は血の気が戻り、赤みが差し、咳も止まり、目もかなり輝いていた。
「え? え? 誠さん? 今なにしたのー?」
驚いて俺に振り向き、俺の目をまじまじと見てくる。
うわ、すげぇ可愛い。
セリーヌさんは、明るい子ではあり、笑顔を見せてはいたが、俺の目は見てこなかった。
俺もあまり女子の目を見て話すのは得意ではないので、あまり直視はしていなかった。
だが、病気の状態で、あまり直視していなくても、彼女が可愛いのは分かったので、それが、頬に赤みが差して、きらきらした目で直視されたら、そりゃもう可愛いなんてもんじゃない。ぶっちゃけ好みではある。
勘違いされてはいけないが、俺は彼女がほしくないとはいったが、性欲とか女子への欲がないというわけではない。
ぴょん、ぴょーん。
「な、何かすごく体が軽いんだけど?」
特に意味もなく跳ねてしまうほど、セリーヌさんは調子が良くなっているようだ。
あのスキルセレクトとかいうやつは、俺に対してだけじゃなくても、発動するのか。確かに俺がセリーヌさんを何とかしたいと思ったが。
『スキルセレクト、現在スキルの必要性はないと判断いたしました。スキルを全て解除します。なお、このアナウンスは、次回以降なしにもできます』
これ毎回うざいな。待てよ。そういえば、ポイントの残数がさっき80あるって言ってたな。確か最後につかったときに残りが75だったはずだ。さっき治癒効果とかで20使ったから、残りは55のはず。何で25増えてんだ。条件はなんだ?
5? 5の倍数。……、さっき馬車に乗ってから…………、5時間くらいは経ってるな。
と、いうことは、1時間に5増えるってことか? いや、確定ではないな。仮定にしておこう。
「ねぇねぇ、何をしたのー?」
俺が思考にふけっていると、セリーヌさんが俺を揺らしてきた。
「え、えーと、俺は魔法使いだからな。回復魔法があるというわけで」
「で、でも、回復魔法じゃ直らなかったんだけどー」
「まあそこら辺は俺の魔法力が高いということで」
「すごいんだねー。でも強かったもん、あれだけ強くて回復魔法まですごかったら、もう勇者じゃんー」
勇者ねぇ……、こんな能動的に動けない勇者がいるもんかな。
しかしいかんな。セリーヌさんのフラグがすごく立っている感じがする。
あまり好かれても面倒だし、ここらで俺の悪い評価でも立てとくか。
「しかし、さっきので、かなり魔力使ってしまったから、しばらくは何もしたくない。悪いが、しばらくここでゴロゴロさせてもらうよ」
「…………」
「それに俺は自分が楽をするために、魔法を覚えたんだ。別にこれで世界を救おうとは思わない。俺は後はダラダラして人生を謳歌する」
「…………」
ほら、なんとも言えない顔になった。これでフラグもばっきばきに。
「そうだよねー。力をつけた人が戦わなくちゃいけない義理なんてないもんねー。いいと思うよー私は」
「え?」
しかしセリーヌさんからの回答は驚きのものだった。俺の家族ですら肯定してくれなかった、俺の主義を否定しないのか。
「お、俺は彼女も作らないし、子孫を残すつもりもない、俺は自分のことが好きじゃないからな」
これならどうだ? 自分が少なからずいいかなって思った相手にこんな風に言われてさすがに……。
「いいんじゃないかなー? 人生はその人の自由でいいと思うしねー。私はけっこう誠くんに興味あるけど、もし一緒にいられるならそれはうれしいかな。でも彼女とか恋人とかになれなくてもいいと思ってるよ。1人より2人のほうが寂しくないしねー」
女神様ですか。俺のことを否定しないのか、この子は。誰1人共感してくれなかった、俺のこの思考を。
「いくらでものんびりしていっていいよ、それに、私の家や私が嫌になったら、こっそりいなくなっていいよー。でもそれまでは……、一緒にいてくれるとうれしいな」
そう言って、セリーヌさんは俺に寄り添ってきた。
…………もし死ぬ前の日本でも、セリーヌさんみたいに、俺の思考を全て肯定してくれる人が1人でもいれば、俺はいい人生を遅れたかもな。