3話 少女セリーヌ
「本当に助けていただいてありがとうございますですわ」
「私の覚えたての魔法とは全然違うね」
「けほんけほん、すごかったねー」
そして馬車に揺られていると、一緒にいた3人の女子に笑顔で話しかけられていた。
遠めでも見ていたが、1人目はエルフの少女、耳が長くて実に胸もある大人のお姉さんである、口調も柔らかい。
2人めは、ちょっと強気そうなツリ目をした見た感じ魔法使いっぽい人、俺と同い年くらいっぽい。
3人目はなんというか、普通の格好をした普通の少女という感じ。他の2人と比べると、身だしなみも綺麗であるとは言いがたい。体調も悪そうだ。
共通するのは実に可愛らしいということだ。19年ずっとろくに女子ともしゃべってない俺には、ちょっと難易度が高い相手である。しかもすごく褒められているし。
こういうのってさ、得てして漫画とかゲームだと、このうちの誰かとフラグが立って、ハーレムとかを築く最初の礎とかになったりするけどさ。俺絶対に女の子と仲良くなりたくないんだよな。
俺の理想はとにかく何も考えないことだ。それには、彼女の存在は邪魔になる。
特にさ、1人目のエルフとフラグなんか立ってみろよ。見た感じ高貴な人だから、絶対に関係が面倒になる。どう考えても大変そうだもん。いろいろ身だしなみとか気遣ってあげる必要有りそうだし。
2人目の魔法使いも妙にプライド高そうだし、正義感がありそうだから、何か能動的に面倒ごとに首を突っ込みそうに見える。絶対にこれも面倒になる。
強いて言うなら3人目の子はそういうしがらみはなさそうだが、まぁそれでも強いて言うならだ。病気してるみたいだし。
正直そんな心配しなくても、俺の無気力感を話せば、大抵皆去っていく。数少ない女子の友人もそれではなれたし、一般的に最後の砦である母親ですら、この思考にだけは反対した。
仮に俺に彼女ができるとすれば、俺を一切否定しないという女子くらいなんだろうな。
「お兄さん強いわね。私はエルフのミドリって言うの。ねぇ、私これからかなりの権力者の下に行くんだけど、お兄さんボディガードで付いてきてくれないかしら? もちろんただじゃないわ」
「それよりも誠さん、私ことナックリと一緒にパーティを組んでくださいよ。実はけっこう有名なパーティにもう私誘いを受けてるんです。あなたくらいの人なら歓迎ですよ」
エルフと魔法使いがさっそく俺に誘いを入れてきた。
女子との関係が少ないとは言え、俺は別にぼっちをやっていたわけではない。なんとなく分かる、いい感情を向けられているのが。
「あ、すいません、俺はまだまだ修行の身ですから、特定のグループに入るのは難しいです」
「そうですか」
「残念です」
思いのほか簡単に引き下がってくれた。助かる。とは言っても、ちょっと向けてくる目線に、未練がすげぇ。
「ではいずれお願いいたしますね」
「いつでも歓迎するから」
やっぱり。でもこのヤル気のありすぎる感じが、俺の熱量の低さと合わない。
そんな有力貴族とか、有名パーティと関係したら、絶対に俺が能動的に動かされる。
多分リーダーをやる必要は無いので、俺が考える必要は無いだろうが、それでも動かなくていいのなら動きたくない。
俺はのらりくらりと2人の意見を交わして、セインの目的地であるアルバンティーア国に付いた。
「それではご検討をお祈りいたします」
「さよならですわ」
「ありがとうねー」
エルフと魔法使いも俺に手を振ってきた。
あれ? そういえば、荷物を下ろしてたあの3人目の女の子はどこに?
「けほんけほん、誠くん、ここでどうするのかな……?」
「おおう!?」
俺の後ろにはあの3人目の少女がいた。
「え、えーと君は」
「けほんけほん、私はセリーヌって言うんだ。誠くん、さっきは本当にありがとうね。怖くてつい泣いちゃった」
「あ、ああ。それじゃあセリーヌさん? 君はここで何を?」
「にはは。私はこの荷物を運ぶ仕事をしてる人だから。これをギルドに持っていって、お金をもらいにきたんだ、けほんけほん」
セリーヌと名乗る少女は、他の2人と比べて俺に絡もうとはしてこなかった。でも別に暗い感じはしなかったし、笑顔で俺と他の2人が話しているのを見ていて、なんとなくその笑顔には惹かれてはいた。
「セリーヌさんは若そうなのに働いてるのか」
「私は確かに16歳だけど、働くのは普通だよー。誠くんは働かないのかなー? けほんけほん」
そうか、この世界は異世界。16歳の少女が普通に働いていることに違和感を感じるほうがおかしいのか。
俺は19歳。3つも下のセリーヌさんに負けているな。とは言っても働きたくは無いが。
「おじさーん。荷物持って来たよー」
「はい、お疲れさん。報酬ね」
俺がそのようなことを考えていると、セリーヌさんが、ギルドの人と何かやりとりをしていた。
報酬で、セリーヌさんがもらっていたのは、銀貨が2枚。つまり二千円くらいか。高いかどうかよく分からん。
「誠さん。今日泊まる場所はあるのかなー?」
するとセリーヌさんが俺に話しかけてきた。
「え、そんな場所はないけど……」
お金はあるから、どっか宿は取れるだろうが。
「うちに来てもいいよー。いろいろお話もしたいしね。けほんけほん」
「へ?」
セリーヌさんに俺は家にお誘いを受けた。
「い、いやでもさ、セリーヌさんのご家族も迷惑だろうし」
「? 私に家族はいないよー? 1人暮らしだからー」
「…………ごめん」
いかん、ちょっと不用意すぎた。
「? 謝らなくていいよー。いい人だねー。私みたいな人普通なのに」
余計に心が痛い。そうだよなー。平和な日本でも親がいない家庭が普通にあるのに、人の死が普通になってるこの世界で、そうなってることはもっと考えないと。あー、考えたくねー。
「それじゃあお願いする」
「いいよー。にははー」
俺は考えるのをやめた。また宿屋探すのも面倒くさいし、お世話になろう。もっとこの世界のこと知りたいし。