20話 スキルセレクトさんのレベルがあがった。
「ふぁ~」
昨日は1ヶ月分くらいの働きをしたこともあり、いつも以上に熟睡した。
『おはようございます。マスター』
「ああ、おはよう? リアリスさんか? でも別にそんな風に呼ばなくてもいいぞ」
目を覚ますと、挨拶が飛んできたので返すが、それが誰か一瞬分からなかった。セリーヌさんもロロも俺をマスターなど呼ばないから、最初リアリスさんがそういったのだと思った。
『私がどうかしましたか? 誠さん?』
「ん? 今俺にリアリスさん挨拶しなかったか?」
『いえ、それにこの時間はおはようとは言わないと思います』
正論突っ込みをリアリスさんにされたのはいいが、じゃあさっきの声は?
『マスター私です。スキルセレクトです』
なんだ、スキルセレクトか。なるほどなるほど……ってえ?
『いつもご利用ありがとうございます。スキルセレクトです』
お前ってそんな風に普通に話せたっけ?
言葉に出すと頭がおかしい人になるので、俺は頭で思う。
『はい、昨日魔王軍幹部を倒したことにより、私のレベルが上がりました。なので、マスターをある程度会話をできるようになりました』
まじかよ。何が変わるんだ。
『はい、まずレベルアップにより、スキルポイント10000追加です』
それは助かる。もうこれで、ほぼポイント管理の必要性がなくなる。
『また、スキルをこれまでは1つ使うたびに1つ解除していましたが、2つ同時使用が可能になりました』
それも便利だ。今後2人以上を相手にするときには使えるかもしれない。
『マスター、これでより一層考えなくてもよろしくなりました。ですが、この村は離れる必要があると考えます』
どうしてだ?
『マスターがこの村に来てからけっこうな数の魔物を倒されましたよね』
倒したのはあんただけどな。
『お褒めいただき光栄です。ですが、あの業者の方はそうは思っておられません』
業者? ああ、この家をくれたガイツさんのことか。
『そうです。実はマスター、もとい私が魔物を多く倒し、ロロ様が幽霊を使役しなくなりましたので、この村はすでに安全な村となっております』
なるほどな……つまり。
「誠さん、ただいまー。なんかね、ギースの町で壊れた家が多いから、この村の住宅すごく売れてるみたいだよー。そういえば最近魔物も出なくなったもんね」
そのタイミングでセリーヌさんが戻ってきて俺に伝えてくる。
「セリーヌさん、それと、おいロロ。起きろ」
「何かな?」
「……なんですか?」
「何~?」
俺は3人に声をかける。
ん? 3人?
「こんにちはー。誠さんー」
いつの間にか家にもう1人人がいた。
「なんであんたがいるんだよ。マリートさんだったか?」
そこにいたのは、長い銀髪ツインテールが特徴的なギルドの新人受付のマリートさんだった。
「最近仲良くしてるんだよー」
「はい、セリーヌさんはお得意様ですー」
セリーヌさんとマリートさんはいつの間にか友人関係になっていたようだ。
「まぁいいや。2人とも、ここを離れて別の村にいくぞ」
「わかったよー」
「……はい」
「そうだよな。なじみのある場所を何で離れるんだって思う……、って2人ともいいのか?」
俺は2人が何でそうするのか聞いてくると思ったので拍子抜けだった。
「そうすると思ったもん。騒がしくなったら嫌だと思ったしー」
「私も、静かなところがいいです……」
セリーヌさんは俺のことをよくわかっているし、ロロは俺とよく似ている。だからこそ、俺の行動にあえて質問をする必要もないということか。
「しかし、どこの町に行くのがいいのか……」
実際には偶然セリーヌさんと知り合ったおかげで、さほど苦も無くいろいろ考えることもなく話が進んだが、別の町で違う拠点を見つけるとなると、またそれはそれで考えるのが面倒ではある。
だが、移動しないのはない。絶対に俺のこと知ってるやつとか出てくるにきまってる。そうなると、考えずに生きる俺の計画がとん挫する。
「あのー、ちょっといいですか?」
俺が考えていると(スキルセレクトさんが仕事してくれない)、マリートさんが俺に声をかけてきた。
「何ですか?」
「実は私、ヴェルトー国にちょっと伝手があるんです。もし良ければ、そちらに行きませんか?」
「? どういうことだ?」
「私は……身寄りが無くて……、冒険者をやめてギルドにお世話になったんですけど、ギルドが前の事件で潰れてしまいまして……、ギルドの受付の仕事を失ってしまいました。そしたら、セリーヌさんが、私を誘ってくれまして……」
「ごめんね。勝手に連れてきちゃって」
「いや、別にいいけど」
マリートさんはそこまで長い付き合いではないが、あまりこっちに干渉してくる俺の苦手なタイプではなさそうだし。
「もし行く先に困ってるんなら、あまりいい場所じゃないけど、ヴェルトーの村に案内します」
「そうだな。任せていいか」
俺は即決した。ここに残るという選択肢がない以上は、楽に考えるのが1番いい。
「というわけで、さっさとこの村を離れるぞ」
「はーい」
「……わかりました」
「は~い」
『私はこの町に残ってていいでしょうか?』
「あんたは好きにしてくれていいけど。ロロ、そこら辺はいいのか」
「…………特に制限もないので、自由にしててください……。使役したいときは呼びますけど、成仏したくなったら言ってくださいね」
なんという自由な。おどおどしてても、魔王の幹部である。
こうして俺は、セリーヌさん、ロロと一緒に、マリートさんに案内されてアルヴァンティーア国を離れることになった。