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19話 手柄よりも名誉よりも

魔力放出が途中で止まって、590消費のアナウンスが入った。


さっきの魔力放出の説明を考えると、簡単に考えるとヴァイパーは倒れてはいるけど、死んではいない状態。


残り体力10で気絶している状態とも言えるだろう。ならば。


「はぁ…………、はぁ…………」


俺は体力の限界で、立てない振りをした。こうすれば。


「誠くん! 良くやってくれた! みんな、ヴァイパーは倒れてるけど、まだ体力がある! 起き上がってくる前に止めだ!」


そう、こうなるはずだ。勇者水口とその取り巻きは優秀なはず。1人くらいは生命力を見れる人がいると思っていた。


なぜならこうしたほうが、いろいろと面倒がないからである。


勇者水口は幹部の1人に止めをさせば、面子が立つし、この国の騎士や兵士も、総出でかかって、国が荒れ果てた挙句、名前も良くわからない正体不明の人間になんとかしてもらったなんて、それを上に報告することも難しいだろう。


俺としても、下手に目立つと、勇者の名前みたいなのをもらう羽目になりかねんからな。


幸い、セリーヌさんは目立っているが、俺とロロは別にここに来る必要がないから、顔を出す必要もない。


セリーヌさんが質問されても、後をつけられそうになっても、その辺の面倒な問題は、スキルセレクトさんが何とかしてくれるはずだ。



俺の望みは手柄でも名誉でも無い。セリーヌさんに甘えて、ロロとちょっと後ろ向きなトークをして、3人で何も考えず過ごすことだけだ。


有名になると、どうしても何も考えないとはいかなくなる。いや、なってもスキルセレクトさんが何とかしてくれる可能性はあるが、やらなくていいならやりたくない。


実際、幽霊騒動の問題で、ちょっと目立ったことを忘れてはいけない。幸い勇者水口はいいやつっぽいし、リアリスの件もあるから、強引には来ないだろう。


というわけで、方針が決まったところで、この場をさっさと離れるのが吉だ。


「セリーヌさん、ロロ、ちょっとこっちに」


みんながヴァイパーのほうを見ている隙に、2人をこっちに手招きし、スキル自宅帰還で、3人で家に戻った。




「ふぅ、やっぱ家は落ち着くな」


荒れた空気もないし、戦場の生臭さが焦げ臭さもないし、何より静かだ。


「お疲れだったね。誠くん、かっこよかったよっ」


俺にセリーヌさんが抱きついてくる。うーん、何度やってもらってもこの安心感はすごい。


「…………すごいですね。ヴァイパーさんを倒しちゃうなんて」


ロロも控えめにだが、俺の手を取ってくる。それがいじらしくてこれはこれで可愛い。


「なれないことをしちまったけど、まぁ知らない場所じゃ無かったし、倒せてよかったよ」


「でも、良かったの? 私よく分からないけど、ヴァイパーっていう魔物は、ロロちゃんと同格の強い魔物なんでしょ? あれを倒したんなら、名誉も報酬も思いのままなのに」


「はっはっは、セリーヌさん、一応聞いとくけど、俺がそういうのに興味あると思ってるの?」


「ううん、分かってて聞いたよ。そういうのよりものんびりするのが好きなんだもんね。私もそれでいいと思うよ。誠君が有名になっちゃったら、こんな風にロロちゃんと私で誠君を独占できなくちゃうしね」


セリーヌさんの表情は俺がそういうのを望んでいないことを分かった上での質問だというのがすぐ分かるものだった。付き合いは短いとは言え、俺の生活態度を見ていればすぐ分かるだろうしな。


「…………本当に強いんですね。幹部の中でも、単純な戦闘力だけなら3強に入るヴァイパーさんと真っ向勝負で勝てるなんて」


ロロはちょっと驚いていたようだ。


「ただ1個だけ心残りもあるんだけどな」


「何?」


「リアリスさんだっけ? あの子のことだよ。俺がちゃんと戦えば勝てるんなら、昨日いてやりゃよかったかなって思ってさ。俺が昨日残ってれば、リアリスさんが死ぬことが無くて、勇者水口にちょっと悪いことをした気があってな」


実際問題ちょっと後味が悪いのはある。これが、俺がヴァイパーに勝てないから安全を優先して逃げたというのならいいのだが、俺は実際スキルセレクトさんのことがあったので、もし戦いになっても負けることはないと思って逃げたのだ。勇者水口が強いだろうから、任せてもいいと思って。


だが、事実は魔物が予想以上に強くて、勇者水口の取り巻きの1人が死ぬ結果となってしまった。というか、リアリスさん以外にも、普通の住民がお亡くなりになった可能性はあるだろう。


『気にしないでください。本来であれば、あの国を守るのは、あの国の騎士や兵士と、その国で勇者として認められたコウジであるべきです。あなたはむしろやらなくてもいい戦いに身を投じてくれただけではなく、コウジやあの国の兵士の名誉を守ってくれました』


「そうか、そう言われると少し気が…………、ってわお!」


俺が少しだけ落ち込んでいると、俺を慰める声が聞こえてきたので、お礼を言おうとしたら、いたのはリアリスだった。勇者水口の取り巻きの1人だ。死んでいるから元取り巻きというべきか。


「なんでいるの? 成仏したんじゃ」


『やっぱりコウジのことが心配で……』


「すいません……、本当に意思が強い方で、全然成仏させれなくてですね……、ついてきちゃいまして……」


ロロが申し訳なさそうに言う。


「いや、別にいいし、慰めてくれてありがとう。でも、それなら勇者水口のところに行けばいいんじゃ」


『……死んだ私があまりコウジの側にいるのはいいことじゃないと思うんです。私のことは覚えててほしいんですけど……引きずってはほしくないので……、私は遠くからコウジを見て、大丈夫そうなら成仏します。それまでは、恩もあるのでロロさんに協力させてください』


「この人強いので、私としてもいていただけると助かります……。悪霊の人より無理やり使役する必要もありませんし……」


「いや、ロロとリアリスさんがいいならいいけど……」


「ぎゅー!」


「わぁっ!?」


俺がロロとリアリスさんを見ていると、後ろからセリーヌさんに抱きつかれる。


「仲間が増えるのはいいことだよ。よろしくねリアリスちゃん。それと、あんまり落ち込まないでね。そんな風に考え込むのは誠君らしくないよ。戦って勝ったのは誠君。それだけでいいじゃん」


「……はい。気にしないでくださいね」


「ロロもいいのか? 仮にもロロの仲間だろ」


「…………私が今大事なのは誠さんとセリーヌさんです……。思うことが無いわけではありませんが、私も今ここが居心地がいいんです。この私を受け入れてくれるあなたの側がいいです……」


「ありがとな、皆」


ちょっと珍しくセンチになってしまったが、慰めてくれる仲間がいる。それでいいんだ。


後、ついでに仲間が増えたといっていいのだろう。

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