表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

1話 異世界に来ていきなり揉め事を見る、そして絡まれる

「…………くっそ、あの神様」


次に視界が広がったのは、平原であった。前方には森、横目では民家らしきものも見える。どう考えても日本ではない。


「服装は、俺が死んだときの格好か」


俺が愛用していた通気性のいいシャツと、ちょっとゆったりしたズボン。靴はスニーカー。実に異世界感がない。


「あの神様、金くらい渡しとけよ」


俺がいつもズボンにいれていた財布とスマホは入っていない。どのポケットも空だ。何もしなくていいと言う状態には金は不可欠。その金がないことに、俺はすごく不満を感じた。


「スキル。そうだ、何も考えず、何もしなくてもいいスキルがもらえてるんだったな。だったら、金がザックザックでてくるスキルとかじゃないか?」


俺にとって、何もしなくていいというイメージはそれである。あっちの世界でももし6億持ってれば、俺がダラダラしていても、誰も文句を言わないといつも思っていたものだ。


「しかし、使い方とかもさっぱりだ。ゲームみたいに画面があるわけでもないし」


「ぎゃあああああああああああ!」


俺が1人でぶつぶつ言っていると、男の大きな悲鳴が聞こえた。


ドラマとかではない、リアルな悲鳴だ。別にドラマを否定するわけではないが、やはり鬼気迫った声はドラマでは限界があるだろう。


「…………」


俺はすぐさま近くにあった大きな岩の隙間に隠れた。絶対に面倒なことになってる。関わりたくない。


「とは行っても様子は気になるな」


完全に隠れていると、状況の把握がし辛く逃げるのにも困る。ちらっとだけ見よう。


「おおう、まじか」


俺の視界に広がったのは、なんというか、典型的な盗賊というか蛮族みたいな屈強そうで、凶悪な顔をした10人くらいの男が、なんか商人ぽい人を襲っていた。商人ぽい人の近くには女性が3人と男が2人。


しかし戦えそうなのは、男2人だけで、商人ぽい人と女性は完全に丸腰。


あと良く見ると、1人血を流して、倒れている。おそらく彼も戦える人の1人だったようではある。


「くっそ、傭兵を…………雇ったのに!」


商人ぽい人の言動を聞く限り、どうやら、3人が傭兵。そして、商人ぽい人がその3人を雇っていて、女性3人はその男の商売仲間か、あるいは商売道具か。その商人を盗賊が襲っているというわけだ。


「…………おい、傭兵が…………」


「頼む……殺さない…………」



うーん、距離があるから聞こえないな。状況が分からんと心配だ。


『スキルセレクト。異常聴覚ハイパーアクセスを発動させます。スキルポイントは5消費です。残りは95です』


「ん? 誰の声だ?」


突如俺の頭にアナウンスのようか無機質な声が響いた。ボー○ロイド?


「この辺りは盗賊の出ない安全な地域と聞いていたが……」


「へっへっへ、そういう場所をきちんと狙うのも盗賊ってわけだ。そしてまんまとな」


お、何か急に声が聞こえるようになった。まるで横で話してもらってるみたいだ。急にどうした?


そういえば異常聴覚? スキル? あ、これスキルか? でも良く耳が聞こえても、俺のダラダラとは関係ない気もするが……。


「た、頼む、命だけは……」


「へっへっへ、今生殺与奪の権利は俺達にあるんだ。もちろん金はもらうし、そっちの女ももらう。だが、お前を生かしておいて、目撃証言をされるのも困るしな?」


「さ、触らないで! 私はエルフですわ! 連れて行くならこっちの子にしてください」


「わ、私だって将来有望な魔法使いですよ! くっ、さっきまで訓練していたから、MPがない……」


「ふえーん、けほっけほっ」


というか、俺が困惑している間に偉いことになってる。


金のほうはいいとしても、あの女性3人、あの男たちに連れて行かれたら、ろくなことにならんな。


女性3人といったが、1人はまだ少女だな。すげー泣いてるし。むせてるし。


まぁあの子は泣いているのも分かるし、他の2人も強気ではいるが、表情が絶望的である。


……いや、何を考えてんだ俺。事なかれ主義だろ。


平和な国日本で育ち、女性とろくに接してこなかった俺でもさ、あのまま何もしなかったら、どうなるんだろうというのはよく分かる。


俺はクズな自覚はあるけど、悪人ではないと思ってるんだ。実際生きている間、人に後ろ指をさされるようなことはしたことはない。要するに何がいいたいかというと、人並みの良心はある。このまま見てみぬ振りをしたら、すごく気分が悪いというのは俺も思う。


でもさ、あの10人くらいいる上に、仮にも傭兵みたいな人が殺されてるわけで、俺が出て行ってどうなるねんという話ですよ。ただ死者が1人増えるだけで何一つメリットがない。


日本で言うところの、これは殺害現場を見てしまった状態に近いだろ。その状況でさ、俺が犯人にばれたら、まず間違いなく殺される。俺にできるのは、こっそりと逃げて、3日ほどちょっと心が痛むのを我慢するくらいだ。


ぴとっ。


「ん?」


そう思っていると、俺の手元に何かが触れた。


「うわぉぉぉ!?」


それは蜂みたいな虫だった。俺は大抵の虫は大丈夫なのだが、蜂だけはダメなのだ。おそらくそれは蜂ではないのだろうが、そんなことを考える間もないほど反射的に声が出た。


すぐに口を押さえたが……。


「誰だ!」


しまったー。完全にばれた。


そりゃ10人もいりゃ気づきますよねー。


「その岩場に誰かいるぞ! 殺してしまえ!」


うぉぉ、こぇぇ。


まだ記憶に新しい火事現場での死。やっぱさ、死にたいと思ってても、本能的には怖いもんで、俺が自殺に踏み切れなかったのは、やはり死を恐れていたからだろう。何度やっぱり逃げようと思ったか。やっぱ死ぬのは怖い。


俺はさっと逃げようとしたが、10人相手にそんなことはできるはずもなく、あっさり逃げ場を失って、商人ぽい人たちの近くに追い込まれてしまった。


そこにいる商人ぽい人も女の子達も、絶望の表情である。いつの間にかしばられてるし。


「えーと、俺はどうすれば助かりますか?」


「運がわるかったとしかいいようがねぇなぁ! 死ね!」


異世界に来てからまだ10分も経っていないのに、死ぬのか。くそ、あの神様のバカ野郎。やっぱ天国が正解じゃん。無駄に怖い思いして、即死じゃなかったら痛い思いするじゃん!


『スキルセレクト。異常聴覚解除、絶対硬化アブソリュートカーリングを発動させます。スキルポイントは10消費です。残りは85です』


俺が目を閉じて覚悟をすると、またあの無機質なアナウンスが響いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ