17話 悲報とロロの能力
「はぁ疲れたね」
「…………もう1回寝ます……」
無事家に戻ってくると、先ほどまでの喧騒が嘘のように落ち着く。
この村は首都バースよりも徒歩1時間は離れているので、喧騒も聞こえない。
セリーヌさんはほぼ毎日この距離を余裕で歩く。俺は余裕で歩けない。まだこの村に住んでいる人間が少なすぎるので、交通機関も何もないのだ。
家に戻るスキルはあるのだが、バース町に行くスキルはスキルセレクトさんが発動してくれない。
要するに何も考えずに楽できるためのスキルだから、俺が能動的に町に行こうとすることには、そういうカウントがされないらしい。能動的にはこのスキルは動かないのである。
「誠君とロロちゃんは休んでてもいいよー。何か簡単なもの作るから」
そして、いつも通りの日々に戻る。明日はセリーヌさんが出かける日のはずだけど、勇者水口が解決してくれてるはずだろう。
「なんで今日はついてきてくれるの?」
「一応だ一応。昨日あんなことがあったしな」
次の日、セリーヌさんが出かける日に俺は念のためついていった。
「別にロロちゃんはよかったんじゃないの」
ロロも普通についてきた。
「私も心配ですし……」
というわけで、2日連続で外に出ることの少ない俺とロロもセリーヌさんを心配してついていくことになった。
「……………………、なんというか…………、なんだこれ」
バース町はすでに原型がないくらいに荒れ果てていた。
ギルドはギリギリ原型を残しているが、俺がよくお世話になった宿もボロボロで、壊れかけではなく、ほぼ全壊していた。
「さすがにこれじゃあクエストはないかな」
半壊したギルドではけが人の治療が行われていて、クエストどころではなかった。
「あ、でもけが人の治療の手伝いはあるね。手伝ってくる。あ、すいませーん、手伝いまーす」
セリーヌさんはマイペースだった。
「うーん、セリーヌさんのクエストがあるのはいいけど、俺は何もすることがない」
「私もです……」
ロロはそもそもクエストも何もないし、今俺ができることはない。
「できることとしたら、この辺りにたくさんいる悪霊を操るなり、成仏させるなりくらいしかできません……」
「それはそれですごいな、というか悪霊いるのか……」
「うようよしてますよ……、やはり未練のある方が多いですね」
何それ怖い。
「成仏させといてくれるか?」
「はい…………、あ……」
「どうした?」
「誠君! 大変だよ」
俺がロロに尋ねようとすると、その前にセリーヌさんが出てきた。
「えーと、じゃあまずはセリーヌさんだな」
セリーヌさんが珍しく慌てていたので、先に意見を聞くことにした。
「あのね、実は……」
「…………」
「コウジ! えーと、そんなに落ち込まないで……」
「コウジさんは悪くないって……、リアリスはコウジさんのために……」
勇者水口が落ち込んでいた。
もちろん面識はないので、ちょっと遠巻きに見る程度だが、どうやらあの3人のうちのちょっと無口っぽかった子が今回の戦いで亡くなってしまったようだ。
「どうもあのヴァイパーという幹部の連れていた魔物を倒したときに相打ちになったみたいだよ」
俺の耳にこそっとセリーヌさんが声をかけてくる。
こそばい……、ではなく、さすがにあの姿には、俺も思うところがある。
セリーヌさんがあのようなことになったら……心が壊れてしまうかもしれない。もちろん今となってはロロもだ。
いろいろあったとはいえ、俺は家族と仲が悪かったわけではない。その家族と会うことはもうないと考えると、俺にとって、セリーヌさんとロロがそういう存在なのだ。
…………、はぁ。こういうのが嫌だから戦いたくない。
「あのー、誠さん」
「あ、そうだ。ロロの用事も聞かなくちゃいけなかったな、何だ」
「結果的にはセリーヌさんと同じ要件なんですけど……、あのうろうろしてる悪霊の中に…………、あの……リアリスさんでしたっけ? います。悪霊とはすこし違いますけど、たまに未練の強い霊は見えます」
「いるのか……」
「もし良ければ……、勇者水口さんと話をできますけど……、ちゃんと成仏させるなら、やりますか?」
…………はぁ、できるならやってあげるか。
「あのーすいません。ちょっといいですか」
「…………」
「何ですかあなたは」
「今は取り込んでます!」
取り巻きの女の人に怒られた。
「だ、大丈夫だよ。そ、それで何か用事かな?」
勇者水口様が俺に答えてくれた。何これ優しい。
「ちょっと今俺の連れの人から聞いたんですけど、1人大事な方がお亡くなりになったそうですね」
「…………ああ…………、前線で共に戦う以上は覚悟をしていなかったわけではないが……それでも辛い。ずっとともに戦った仲間……嫌、それ以上の大切な存在を……」
表情が悲痛すぎて辛い。なまじこの勇者様がいい人すぎて辛い。
「あのー、いいですか」
俺が説明に困っていると、俺以上に話が得意ではないであろうロロが自ら前に出てきた。
「何かな?」
「えーとですね……、私、詳しくは説明できないんですけど、幽霊を扱う職業についています。それで……リアリスさんでしたっけ……、います。ここにいます」
「リアリスが…………、いるのか」
うつろな目をしていた勇者水口の目に光がともる。
「すいません……もちろん生き返らせるようなことはできませんが……いるので……。会いますか?」
「できるのか!?」
「できます……、未練の強い幽霊は私の能力で直接姿を見せることができます。えい」
ほわぁぁぁ。
何もなかったところに薄い青色の姿が現れる。
ショートヘアーとやや無表情な顔。ちょっと見ただけだが、特徴的な見た目はわかる。リアリスという子だろう。
「リアリス!」
『コウジ…………』
「リアリス、すまない。君をこんなことにしてしまって」
『…………気にしないで。私が望んだこと…………。何もなかった私に命をくれたのはあなた……、私はあなたに合わなければ死んでいた存在。……言ったはず、あの日からあなたのために生きてあなたのために死ぬと決めていた。だから……気にしないで……』
「でも…………平和になった世界で、戦いもなく平和な時間をリアリスと……、カリンとミレディと日常を過ごしたかったのに……」
『……ううん、私はずっと楽しかった。カリンとミレディとコウジの取り合いをしてるのも楽しかった……。だから、あとは私のことを死ぬまで忘れてくれていなかったら……それでいい。ありがとう』
「うん…………、ありがとう……さよなら」
『ありがとう、えーとロロさんでしたっけ……。ありがとうございます……』
「い、いいえ……。私の能力ですから……、それに成仏させてほしいと言ったのは、誠さんですから……」
『誠さんですか……、ありがとう……。コウジをできるなら守ってあげて……』
シュウウウウウウウウウ。
そして安らかな顔で成仏していった。
「…………あのー、セリーヌさん、泣かないでくれないかな」
おしゃべりなセリーヌさんが何も言わないと思ったら、ずっと後ろでもらい泣きしていた。
詳しい状況はわからないが、セリーヌさんは自分の立場がリアリスさんと被ったようだ。
「……ありがとう。話せてすごくすっきりした」
「いえいえ、俺よりもロロに」
「ありがとう。ロロさん」
「……………いえ…………」
目を相変わらず合わせないな。そらして俺に合わせてくるな。
「あ、そういえば君は…………幽霊騒ぎを解決したんだよね。前確かうちの騎士が誘いにいったはずだけおど
うわー、この話に戻ってくるのか。どうしよ、断ったみたいな話をすると、すっごく気まずくなる。
「スキルセレクト、口先三寸。消費ポイントは5です」
ん? なんか発動した。
「申し訳ございません。ロロは優秀な魔法使いではありますが、戦いを好まないんです。そしてセリーヌは一切戦う術を持っていません。俺自身もまだまだ未熟で、きちんとした戦いをできないので……」
「そ、そうか……無理にとは言えない。でもきっとこの町にはまた危機が来る。その時には助けてもらえるか」
「ええ、それくらいなら……」
「また来たぞ!」
しかし、その不安定でまだまだ荒れているこの町に、再びヴァイパーが現れたのであった。