16話 魔王軍七賢人ヴァイパー
「ぎゃぁあああああ!」
ぐしゃあ!
「逃げろ!!! ぐはぁ!」
ドーン!
「うるせーな……、今何時だと……、いや……、世間的にはもういい時間か」
昨日は俺とセリーヌさんとロロはバースの宿に泊まった。思いのほかロロが楽しんでしまったため、元の家に戻らずに、宿に泊まることにした。別に俺のスキルには、自動帰還のスキルがあるので、俺が面倒くさいと思えば、3人一緒に家に戻れるのだが、セリーヌさんもロロと一緒で楽しかったのか、はしゃいでいて疲れていたので、いつもの家事をさせるのも悪いため、宿でお世話になることにした。
「おはよう、今日は早いね」
「男の人と同じ部屋で寝るなんて緊張しました……」
すでにセリーヌさんとロロも起きていた。セリーヌさんは原則俺より遅く寝て、早く起きるということが当たり前である。俺がどれだけ遅く寝ても俺より早く寝ようとはしないし、俺がある程度早く眼が覚めても起きている。セリーヌさんの寝顔を見るのは難しい。というか見たことない。
逆にロロはよく寝ているので、寝顔はいくらでも見られる。寝るのが好きらしく、俺よりも睡眠時間は長いことが多い。だから、このように俺より早く起きていることは珍しい。
「なんだか外が騒がしいね」
「私も起きちゃいましたよ……、ねむい……」
「俺もこんな時間に起きるのは面倒くさいな。だるいだるい」
ドカーン!
ゴォォォォォォ!
うーん、何事もないような会話を3人でしてはいるけど、やっぱりうるさい。
「大変だよ。外がすごく荒れてる」
「…………大変なことになってます……」
割とセリーヌさんとロロが落ち着いているが、セリーヌさんはもともと荒れた場所に住んでいたし、ロロはああ見えても殺し合いを経験している。むしろ俺が1番未経験者か。
「安眠妨害が過ぎるわ。というか、外そこそこやばいし」
窓の外には激しく欠けた建物に、逃げ回る住民がいて、騎士や兵士もいて、その向こうには5m近い魔物と、その魔物の上で指揮を執る1人の男がいた。
「大変だねー」
「あれは……」
「ロロ、知ってるのか?」
「あの上に乗ってるのは、幹部の1人のヴァイパーさんです……、下の魔物はヴァイパーさんの1番のお気に入りの破壊王ディークです……」
「強いのか?」
「強いです。七賢人の中でも単純な戦闘力だけならかなりのものです」
そんなやつが来てんのか。というか七賢人って。おそらく魔王の幹部7人のこと言ってるんだろうけど、魔王のメンバーの名前じゃないな。かっこいい。
「そういえば、昨日の感じだと、勇者水口が戦いに行ったはずだよな。何で魔物の進行が進んでんだ?」
勇者水口は、チートスペック持ちの転移者のはずだが。
「いるよ。あそこで戦ってる。昨日の女の子たちもいるよ」
セリーヌさんが指を差した先に、1人目立つ黒髪と、そこ場所に似つかわしくない少女たち。確かにあれは、昨日のメンツだな。
「うらぁぁ!」
勇者水口は、拳銃のようなものを取り出すと、それを連射する。
というか、窓が壊れてるから、すごく声が聞こえてくるな。
勇者水口の攻撃は威力、早さともに申し分ない。正直言って見えないし。
ガン!
だが、なぜかその明らかに目で追えない攻撃は、まるでその攻撃が来るのかを知っていたかのように正確にガードされる。
「くっ」
「援護するよ、2人とも!」
勇者水口と一緒にいた3人も攻撃に参加する。
炎、雷、氷3つの魔法がヴァイパーを襲う。どうやらあの3人はそれぞれ魔法使いのようだな。
「おらぁ!」
そしてその横から別の魔法攻撃を勇者水口が撃つ。
あのレベルの打撃をしながら、魔法も使えるのか。
ジュッッ!
スッ!
パリン!
しかし、その攻撃は届く前にあっさり消される。水属性魔法、地属性魔法、炎魔法で、魔法を無効化してしまう。
ゴォォォォ!
そして魔物の攻撃により、勇者水口の攻撃も打ち消してしまう。
なんというか、単純に反応が早いでは片づけられない感じがある。まるで、相手が何をしてくるかわかっているような……。
「ロロ、あのヴァイパーのことってどこまで知ってる?」
「えーとですね。なんというか、やたら私たちのことが分かっているというか、私たちの行動が読めているというか……」
「人の心が読めるタイプか?」
だとするとどれだけ動きが早かろうか、関係ないってわけか。行動する前に何するかばれてちゃ、動きが早かろうがいろんな攻撃ができようが関係ないな。
しかも使える魔法の種類が多く、それを受けるための技も多いとなると、面倒そうだな。
「はっはっは、勇者水口よ。その程度の実力で勇者を名乗るとは片腹いたいわ」
よく見ると、既に勇者水口のメンバーと一部の騎士以外は倒れている。えー、これは相手が強いのかこっちが弱いのか知らないけどさ。もう終わりとかないよな。
「まだまだこんなものじゃない!」
お、まだ終わってない。助かる。
というか、さっきから妙に声が近い……、おお、この宿の真下になってる。
もう少し違う場所でやってくれないもんかね。この町広いんだからさ、わざわざここでやらんでも。
「ここから本気を見せる。俺がなぜ勇者水口と呼ばれるか、それを見せる!」
お、本気を見せてくれるのか。これは完全な勝ちフラグだ。
じゃあもう勝てるな。俺は関わり合いになりたくない。
「セリーヌさん、村に戻るか」
「そうだね。あとは勇者水口様がなんとかしてくれると思うよ」
「…………私もあまり血なまぐさいものは見たくありませんので……」
満場一致により俺たちはスキルを使って家に戻ることにした。
え? 協力しないよ。面倒くさいもん。
あの勇者様が本気出しても勝てないなら、どっちにしても勝てないだろうし、勝てるんなら、俺が加勢しても邪魔くさいだろうし。