13話 ロロと2人きり
「じゃあ出かけてくるねー」
次の日、セリーヌさんがいつものクエストに出かけたため、ロロと2人きりになる。
「………………」
「………………」
うーむ、会話の糸口がない。セリーヌさんはおしゃべり好きで、しかも話し上手の聞き上手と来てるから、俺でも会話がしやすいが、原則俺は女子と話すスキルは持っていない。それはスキルセレクトでもどうにもならないか。
「えーと、ロロ。昨日は強引にセリーヌさんが連れてきちゃって悪かったな。迷惑じゃなかったか?」
「……迷惑ではありません…………」
「言いたいことがあったら言ってもいいからさ。俺急かさないから」
セリーヌさんは基本的に元気な子で、ワンテンポ速い。昨日の会話も、ロロが言いたいことを言い切れていない印象を受けたので、めんどうでも、俺は今日2人になったときに会話をしようとは思っていた。
いや、面倒だけどさ。完全に無視してロロが傷ついても居心地悪いし、寝てる間にロロが出てって、セリーヌさんが悲しむのも見たくないし。
「えーとさ、一緒に住む以上ロロのことを少しは知りたい。話したくなったらでいいから話してくれ。俺は特に今日外に出るつもりはないから」
こうしてあげるのがいいだろう。ロロのペースに任せよう。
「…………私は5年くらい前から、ずっとこの村にいました」
数時間ほどぼーっとしていると、ついにロロが口を開いた。
「でも幽霊騒ぎもあったし、少なくともここ1ヶ月は俺達がいたから、ここにはいなかっただろ」
「いいえ、ずっといました……、あの幽霊騒ぎの犯人は私です」
「は?」
ロロの言葉に俺は耳を疑った。
「ど、どうやって…………」
「どうやってと言われましても、私の能力がそれですから……」
質問に答えてもらっても、俺は困惑する。
「すげぇな。まだ小さいのに」
「小さいといいましても私もう15歳です……、セリーヌさんと1歳しか変わりませんけど……」
まじかよ。
昨日はずっとセリーヌさんがべったりしてて、俺は会話に参加しなかったけど、そのくらいの話はしてるんだな。というか、セリーヌさんが16歳にしてはしっかりしてて女性っぽい見た目だし、ロロが15歳にしては小柄だから、どうも年齢とのイメージがずれる。
「15歳でもすごいだろ。なんだ、魔法使いか何かか?」
「……いえ、私の職業はソーサラー、悪霊を利用した呪術師に近いです……」
「へー、すげぇな。どうやってその年齢で」
もしかしてこの子も転移者? いやそれにしては、名前も見た目にも日本人の面影が無いし……。
「あの……、本当のことを言っても私を嫌いになったりいじめたりしませんか?」
「いや、しないけど、そんなこと面倒だし」
俺はいじめという行為を見ていたが、あれの何が面白いのかよく分からない。どう考えてもやってる側のメリットを俺は感じないんだよな。
「…………、私は魔王幹部7人衆の1人です……すいません、いえなくて……」
「へー、そりゃ驚いたな。びっくりしたよ。なるほど、それで、見た目が妙に小奇麗で、家柄もありそうな感じだったわけか。納得納得」
ちょっとあった違和感が抜けて安心した。なるほどなるほど。
「…………あのー」
「ん?」
俺が1人納得して再び寝ようとすると、ロロが話しかけてきた。
「どうした?」
「あのー、さきほどの話聞いてましたよね」
「聞いてた。ロロは魔王の幹部なんだってな。ちょっと驚いたけど、幽霊を扱えるくらいなんだから、それくらいの実力はあるよな」
「いえ、そういうことではなく、誠さんは人間ですよね」
「まぁ人間だな」
少なくとも見た目はそうである。クズと人間という境目があるとしたら、クズ寄りであるが。
「私は魔物でしかも幹部クラスです……。人間は魔物を嫌っているはずではないのですか」
ロロが目線を下げて言う。
「まぁ一般的にはそうなんだろうな。人間と魔物はそういう関係なんだろ。だけど俺はそんなんはどうでもいい。嫌ったり苦手に思ったり憎しみあったりするのは、考えることが多くて疲れる。だから、ただそう魔物だからって嫌ったりはしねぇよ。もちろん人間が相手でもな」
逆もしかり。無関心以外の感情は、結果的に考えることが増えて面倒くさいものである。
「人間でも魔物でも……、同じというのですか」
「同じだよ。要するに俺に面倒ごとさえもってこなきゃいい。ついてだが、ロロは何で幽霊をこの村で出してたんだ?」
「……魔王様の命令です……」
「人に危害は?」
「加えてません……」
「それだけだろ。今は幽霊を出して俺とセリーヌさんに何か危害をくわえる気はあるか?」
「…………セリーヌさんは優しいですし、誠さんも、私をどうにかしようとする気はなさそうです……、ならそのつもりはありません」
「じゃあいい。セリーヌさんもロロを気に入ってるみたいだし、いたきゃいろ。2個だけ守ってくれりゃ俺は追い出さないから」
「2個とは何ですか」
「ここを出ていく場合は、ちゃんと理由を言ってから出てくことと、ここにいてもいいのか的な発言はしないことだ。前者は勝手に出てかれると、何かあったのかと思ってセリーヌさんが心配して、探しに行くとか面倒ごとが増えるから、後者は俺がロロを追い出したいと思ったら、問答無用で追い出すから、そうじゃない限りは、絶対に追い出さない。そのたびにお前に説明するのが面倒だからだ。いいか」
「…………誠さんは高潔な心をお持ちなんですね……。わかりました……、ずっと1人で寂しかったです……、一緒にいてもらえればうれしいのでお願いします」
こうして、俺の周りにもう1人同居人が増えることになった。