10話 やりたくないことをやらなくて何が悪い
「な…………」
え、何でそんなに意外そうなの。さては、ミズグチというやつはイエスマンだな。実力あるからって、何でもほいほいやってたな。
だって黄色以上のクエストだろ。やばいのが出てきたらどうするんだ。まずきめんどいし。
「俺はまだ最近冒険者になった未熟者です。まだ自分の実力を理解できる段階に無いんです。かえって足を引っ張る結果になってはよくありませんので」
とはいっても、頭ごなしに面倒くさいとか言ったら、余計に面倒くさいことになる。それっぽいこと言ってごまかそう。
「む、むろん、成功したときの報酬は破格じゃぞ。危険な戦いに協力してもらうのじゃから。それに、成果が大きければ、黄ランクへの2段階昇格も約束しよう」
「それでも断ります」
いやいや、今自分で危険な戦いって言ったじゃん。そんなとこに、今自信ないんですよ発言をしたやつを行かせようとすんなよ、あなたは騎士だから、それでも行かなきゃいかんだろうけど、俺はこの国に何の忠誠も誓ってない。
あとさ、成功したときの報酬とか、成果を挙げたときの昇格とかさ、それ結果次第では報酬がはずまなくて、昇格もないってことだよな。まぁクエストとしての依頼だから、それはそうなんだろうけど、俺にメリット小さいじゃん。
「そこを何とかできないか? 騎士を勝手に動かすと反ミズグチ様派との軋轢の問題もある。協力者は必要じゃ」
「すいません、俺は断ります」
最後に1番俺に関係ないし。軋轢とか知らん。ミズグチ様が優秀なら、ミズグチ様の身内で解決していただきたい。そもそもの論点が違う。
「ぐぬぬ、ミズグチ様と同じ黒の髪を持つ英雄かと思ったが、正義感のかけらもないのか。ミズグチ様にはそなたは及ばぬな」
うわぁ……逆切れかよ。俺けっこう言葉選んで断ったよ……。ミズグチ様、そこら辺の教育もちゃんとしといてよ。怖いし。
「本来なら冒険者は自分の意思で何かをするかを選ぶはずです。騎士は自分の意思ではなく、国のために戦う存在です。本来こういうとき、つまりクエストでこなしきれない問題が起こったときには、あなた方が動けるようなシステムが成立していないのは、あなたたちの怠慢でしょう」
「…………もうよい。私がおろかだった。幽霊村の件でそなたをかいかぶりすぎたようじゃ」
そして、ジェイさんはこちらを1回にらんで出ていった。
あー。疲れる。
ああいうある程度正論をかざしてくる人は、ある意味悪い人よりやっかいである。あながち間違ったことを言っていないから、言い返すのに無駄に労力を使う。正義を振りかざす人間ほどやっかいなものはない。自分が間違っていないと思ってるからな。多分後で、絶対俺の悪口言ってるに決まってる。
「大丈夫? あまり騎士様に挑発的なこと言っちゃダメだよ。あの人達はプライドがあるから」
セリーヌさんが俺の手をとって、心配そうに声をかけてくれる。あ、これだけで癒されるわ。
「悪い悪い。でもちょっと幻滅したんじゃない? もっと正義感があって、かっこいい男のほうがいいでしょ。ミズグチ様とか言う英雄さんみたいな」
「ううん。誠くんはずっとぶれてないからね。言ってることは誠くんのほうが正しいよ。クエストを受けるかどうかは、あくまでも私達の意志で、騎士様はアルバンティーアの国民からの税で動いている人たちだから、こういうとき動くのは当然だもん」
……いい子だなー。正論とは言え俺の言ってることはかっこいいとは言えないのに。それでも味方になってくれるか。
「それにね。ミズグチ様はこの世界の英雄かもしれないけど、私にとっての英雄は誠くんだから。病気も治してくれて、一緒にいてくれて、今すごく幸せだから」
そんなことを言いながら俺に抱きついてくれる。俺こそ幸せなんですけど。
「でもほんとによかったの? あの幽霊騒ぎを解決できたくらいなんだから、魔物くらいなら、解決できるでしょ。お金も名誉もミズグチ様みたいに手に入れられたんじゃない?」
とはいいつつも、俺が断ったことに少し疑問があるようだ。
「俺は今はこうしてセリーヌさんといられるのが、名誉やお金より幸せだし、まだまだ俺は未熟だからね」
「そっか、私も今が幸せだよ。本音を言うとね。クエストを受けてくれなくて嬉しかった。私にとって、今いてほしい人は誠くんだから。あまり英雄になっちゃうと、ミズグチ様みたいに、遠い人になっちゃうから……」
「そっか。多分俺はこんなもんだよ、ずっとさ」
「うん、それでいいよ」
「ふぁー、ちょっと眠いな」
「寝てていいよ。今日は膝枕してあげよっか?」
「お願いするよ」
というわけで、俺の午後は柔らかい膝枕で過ごすことになった。
ちなみに、俺幽霊村騒動の解決で、金貨100枚もらってるから、金に全然困ってなくて、その日にセリーヌさんにいくつか服を買ってあげたんだけど、なぜか全部活発的な格好で、上のカジュアルさはいいとして、下が原則短パンかミニスカで生足を見せるスタイル。つまり、膝枕されると、完全に生足なのだ。タダでやってもらっていいのか。
「…………大好きだよ。誠君」
そして愛の言葉がささやかれる。
可愛くて可愛くて仕方ない。でも恋人ではない。キスもしていない。俺が最初にああ言っちゃったからな。俺からは行かないし、向こうからも来辛いだろうね。