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9話 怠惰に過ごすには目立ってはいけなかった。

「はぁー。楽だ」


宿屋に泊まって4日目。俺はほとんど外に出ていない。


朝と夜は食事が出てくるし、昼はセリーヌさんが作ってくれるし、クエスト的なやつは、セリーヌさんが受けてくれてるから、リアルに俺のやることがない。


なんか用事があってもたいてい対応してくれる。あのコミュニケーション能力は日本でもやれそうだな。


顔の広い人気ある若奥さんにでもなってそう。家事完璧だし。なんか知らんけど部屋がもともと来た時より綺麗になっているもん。いじわる姑さんでもいちゃもんつけれない。


正直言って、セリーヌさんが一緒にいてくれて助かった。


いくら俺が何もしなくてもいいスキルがあるとは言っても、誰かと接したり細かい対応は俺が1人だったら、やらなくちゃいけなかったしな。


その場合もスキルが何とかしてくれんのかな? このスキル能動的に動かんからわからん。


そもそも俺が能動的に動かないから、受動的にすらスキル動いてない。あ、これ俺が悪いわ。


「あ、誰か来たみたいだよ。また対応しとくね」


また誰かいらっしゃった。でも対応はセリーヌさんが対応してくれるからいいや。


「用事があるのは誠という方だが」


「誠くんは現在修行中なので、対応できないですー」


「修行中とは言っても、寝そべっているだけにしか見えないんだが」


ごもっともですね。


「それでも勇者ミズグチ殿の直々の来訪で……」


ん? ミズグチ? ミズグチ……、水口……、名前が日本人くさいな。しかも勇者?


ちょっと気になるな。話だけ聞いてみるか。


「あーセリーヌさん。ちょっとだけ俺が話してみるから、入れてくれていいよ」


とは言ってもベッドからは起き上がらない。


「いいの? そうしてないと魔力がたまっていかないんでしょ?」


「ここ何日かはセリーヌさんのおかげでのんびりさせてもらってるから大丈夫だよ」


「そっか、じゃあどうぞ」


「お時間をいただきありがとうございます。なぁに、時間はとらせません」



そう言って、男が1人部屋に入ってきた。


いかにも誰かに忠誠を誓っていそうな騎士の人。いい年の取り方をした、ナイスなおじさまとでもいうべきかな。若い女性に人気が出そうでもある。


「どうぞ、紅茶とクッキーです」


「あ、これはどうも」


「ありがとう、セリーヌさん、これ美味しいんでどうぞ」


セリーヌさんは、クエストの時間で家事手伝いをしているので、いろいろな家で料理を学んでいるので、レシピが豊富だったりする。これまでは、お金がそもそも無かったので作れなかったらしいが、きちんとメモは取っていたらしい。叶わないかもしれないことに対して、きちんとできるというのは素直にすごいと思う、


この世界にクッキーとかケーキとかのスイーツがあったのも驚きだったな。


「おお、これは美味である。おお、挨拶が遅れ申した。私は、騎士のジェイと申す。それでは、早速じゃが、お話をさせてもらってよろしいか」


まぁここまで来てやっぱやめましたとかいったらパンチされる。聞くだけならいいか。


「実はあなたを腕利きの魔法使いと見込んで、水口殿から直々にスカウトの話があったのだ」


「へ? 腕利きの魔法使い?」


はて? なんのこっちゃ分からん。


「謙遜されるな。あの幽霊村の騒動をわずか1日で静めたという噂は現在ギルドでは有名じゃ。名前しか分からなかったから、探すのに苦労したが、とても可愛らしい家事好きのお嬢さんと一緒にいる目撃証言があって、そこからここにお邪魔したというわけじゃ」


「え、俺の名前知ってるんですか?」


「またまたご冗談を。クエストを攻略した場合、その後1週間ほどは、攻略済みクエストとして、名前が載るようになっておるではありませんか」


「へ?」


何それ知らない。


俺はセリーヌさんを見る。


「うん、そうだよ。あの掲示版とは別の場所に、攻略済みクエストとして、済の印鑑を押された状態で、張られるよ」


「なんで?」


「そのクエストが攻略済かどうかを、他の人が確認しやすくするためだよ。名前が載るのは、似たようなクエストを攻略している人が協力したりしやすくするためなんだって。一応依頼するときに、名前を載せないようにもできるけど、誠くんは下のほうにあった、名前を載せないって欄にチェックしてなかったからいいかなって思ってたけど」


何それ知らない。……確かにめんどくさがってサインしかしなかった俺も悪いけど、そういう説明は最初のときに言わなきゃダメだろ。あの受け付けの人のバカ。


「普段は黒難易度ならそこまで気にされませんが、あの幽霊騒ぎの攻略ともあって、かなりミズグチ様はご興味を持たれておりましてな」


「ちょっと待ってください。ミズグチ様とは誰ですかね?」


「おお、失礼した。既に知っておるものと思いましたが、そういえば最近こちらに来られたのでしたな。ミズグチ様は、2年ほど前に突如このアルバンティーア国に現れました若き英雄でございます。少し落ち目であったアルバンティーア国を再び復興に導き、ギルドの階級式制度、奴隷制度の廃止、新しい料理の方法に、決闘ではなく、投票という安全な形での王や長の選定制度という政治面での活躍に加え、ありとあらゆる武器を携えて、高難易度のクエストでも攻略した、まさに英雄とも呼べるお方です」


ジェイさんがとても快活にしゃべっているが、俺は途中から察した。さてはそのミズグチとかいうやつ。転移者だな。名前もファンタジーぽさ0だし。高いレベルのクエストを簡単にこなす性能とか、民主主義っぽい制度に、無駄に日本式の色が強い料理。そういうことか。あの新米神様が言ってたが、転移は何も俺だけの話ではない。この町に俺以外の転移者がいるのもおかしいことではない。


いやー、そのミズグチというやつが先に来てて助かった。俺がダラダラできるのも、そのミズグチのおかげだな。


まず日本式の味が強い料理があるおかげで、あまり食事に違和感ないし、民主主義がある程度成立してるから、全くないというわけではないが物騒でもないし、ギルドの制度が分かりやすいから、俺でも簡単にこなせるし、奴隷制度がないから、人間関係にストレス低いし。この世界の奴隷制度は分からんが、セリーヌさんみたいな子は、奴隷になっていてもおかしくなかった。彼女との出会いが奴隷としての契約だと、今みたいな気軽な関係にもなれんしな。ミズグチには感謝しなくては。


「ミズグチ様のことは分かりましたが、それだけ強い人なら、俺が何もしなくてもいいのでは?」


普通に俺より強そうだし。


「いえいえ、ミズグチ殿は優秀ではあるが、それでも彼の体は1つしかない。戦闘に立つべきときもあるが、我々を指揮したり他国との政治関係で、アルバンティーア国を離れねばならぬことも多い。しかし、魔物の数は増える一方で、最近はマシュー国付近で、魔物が大量に住み着き始めてな。我々騎士が動くには、ミズグチ様に連絡をとって、正式な手続きを踏んで動かねばならない。それまで、魔物を食い止めてくれるものを、現在緊急クエストで黄以上に依頼をかけておるが、なかなか集まらなくての。そこで、ランクは低い状態ではあるが、上級ランクでも到底こなせぬ幽霊村の騒動を解決した誠殿に協力を依頼しようとこうして参ったわけじゃ」


なるほど……。民主主義の難点がもろに出てるな。やたら動き出しが遅いところとか。


そこで、素早く動けるギルドにいる冒険者に声をかけたはいいが、数が揃わなくて、俺に白羽の矢が立ったわけか。


「それでは誠殿、お願いできますかな?」


「お断りします」


もちろん断るに決まっている。







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