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Big Enough  作者: 朝楽
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3

 「何だったんだ……」

 二人のカウボーイのどちらから困惑の溜息が出たのかは分かりませんでした。しかし二人とも、心の中は同じでした。いつもは対を成すような性格の二人も、この時ばかりは同一人物のようでした。

 栗毛のカウボーイが白毛のカウボーイに聞きました。

 「相棒、あれは何だ?」

 「分からない。俺にだって分からない。なんだあれは。空一面に、人間のような像が映し出されて……。あれは誰だ?さっぱり分からない」

 「俺は夢でも見ているんだろうか……?」

 「幻覚だという線が一番しっくりくるのは確かだ。しかし、二人同時に同じ幻覚を見たというなら、話は違ってくる」

 「一体何だって言うんだ。あのカウボーイは、俺達そっくりの恰好をしていたが」

 言いながら、栗毛のカウボーイはこれ見よがしに頭のテンガロンハットへ手を置きました。

 「なぁ、相棒。あいつは俺達の同志なのか?」

 「分からない。あいつが人間であるかも分からない」

 「ひょっとしてあいつは岩山の向こうから俺達を呼ぶ、俺達の同志なのでは?」

 「落ち着けて、相棒。冷静になって考えるんだ。そんな推測は客観的じゃない。根拠がない」

 「しかしそうでないという根拠もない。あのカウボーイはこの岩山に囲まれた砂漠から、俺達を救い出そうとしているのではないか?」

 「少し冷静になる必要があるな、相棒。反論を立てるんだ。例えば、そのカウボーイが俺達を救い出すというが、何のためにそんなことをするんだ?」

 「もしかしたら、俺達はかつてあの岩山の向こうにいたが、何者か敵によってこの砂漠に閉じ込められたのかもしれないだろう。閉じ込められたときに争って、頭を打ち、記憶を失ったのかも知れない。そして今、俺達の同志がようやく助けに来たのかも知れない」

 「相棒、そもそも、この砂漠は、俺達にとって牢獄でもなければ、地獄でもない。俺達を救うと言っても、何から俺達を救うと言うんだ?俺達はそれなりに楽しくやっているはずだ」

 「そんなこと分からないだろう。それに、俺達は岩山の向こうのことは何一つ知らない、あるいは忘れている。岩山の向こうにはとてつもなく幸せな世界が広がっていて、それに比べればこの砂漠なんて地獄みたいなものなのかもしれない」

 「他の推測も立てられるはずだ。さっきお前自身が言った、夢だという説だ。確かに俺が自分で否定したように、二人が同じ幻想を見るというのはあり得そうにない。しかし、この俺自身が、お前の幻想かもしれないだろう。お前があの馬鹿でかいカウボーイを見た後、俺と幻想について話し合っているという幻想、あるいは夢……」

 「夢ならなおさら、岩山の向こうへ確かめに行っても問題ないじゃないか。痛い目に遭うこともないだろう。夢なのだから」

 「もしかしたらお前が俺の幻想、あるいは二人ともが誰かの……」

 「もういい、言い合っていても埒があかない。行ってみなきゃ何も分からない」

 「待て、考えるんだ、あらゆる可能性を。行動に移すのは、それらを検証してからでも、遅くはないはずだ。もしひどい目に遭って、それが夢でも幻でもない現実だったらどうする?」

 白毛のカウボーイは相手を諭しながらも、覚悟を固めていました。目は微かに潤っていました。

 「大丈夫だ、相棒。ほんの少しだけ、ちらと見に行くだけだ」

 言いながら、栗毛のカウボーイの瞳にも潤っていました。

 「そうか、じゃあ、小屋でたんと干肉を用意して待っていよう」

 二人のカウボーイは背を向けました。白毛のカウボーイは気付きました。眼前にまた大きなもう一人のカウボーイが空に浮かんでいることに。しかし白毛のカウボーイは一度軽く手を挙げただけで、空を見上げることもなく、足早に小屋へと去っていきました。

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