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Big Enough  作者: 朝楽
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2

 悲鳴のように鋭い口笛でした。遠くから聞こえてくるはずなのに、とても力強い口笛なので、耳元で鳴っているように思えました。しかし、それでいて心地よい口笛でした。口笛は優雅な大地を思い起こさせるような、壮大で、どこか懐かしい、たくましくも優しいメロディを奏でていました。二人のカウボーイは馬を立ち止まらせて、お互い向き合い、目を見張りました。

 「なんだ、この音は?動物の鳴き声か?」

 「違うよ、相棒。これは口笛って言って、人間が唇で鳴らしているんだ」

 白毛のカウボーイが試しに唇を細めて、遠くの誰かに真似て口笛を鳴らそうとしました。しかし、かすれるような音が抜けただけでした。

 「よく分からないが、にしても、俺達二人以外の人間がいるなんて、信じられん」

 「岩山の向こうには、大勢いるらしぞ」

 「なんてこった。いや、口笛が聞こえてくるのは確かに岩山のこちら側の方だ。……おい、見えるぞ。頂上近くの岩間に、岩山の向こうから乗り越えてきたみたいに、人影が。遠すぎて顔は分からないが、俺達と体格はかなり違っているぞ」

 「あれは女という人間だ。おい、見ろ。消えちまった。どこへ行ったんだ?」

 二人は辺りの山を見渡しました。そして前方に広がる砂漠のあちこちを目で探し回しました。しかしその女を二度と見ることが出来ませんでした。

 二人のカウボーイは肩を竦め、無言で示し合わせ、また馬を走らせようとしました。しかし栗毛のカウボーイが手綱を引いた瞬間、二人の耳に奇妙な歌声が聞こえたのです。


AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA


 驚いた二人のカウボーイが後ろを振り向くと、巨大な男、いや、巨大なもう一人のカウボーイが、空に浮かんでいるのでした。そのもう一人のカウボーイは大きな口を開け、ぎゅっと瞼を閉じ、悲痛に叫び、歌っていました。


AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA


 二人のカウボーイは、もう一人の大きなカウボーイの出現に圧倒させられて、口をきくことが出来ませんでした。ただもう、目を見開いて、その場に立ち止まる事しかできませんでした。


AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA

AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA


 もう一人のカウボーイは、言葉を持ちませんでしたが、二人のカウボーイに何かを語りかけているかのようでした。二人のカウボーイは、恐れてすくみ上がるというよりも、驚くばかりで、頭がしばらく追いつかないといった具合でした。しかし、やがてもう一人のカウボーイの歌が終わり、もう一人のカウボーイの姿が消えると、なぜか親近感のようなものが、胸の底からこみ上げてくるのでした。

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