羽琴の姫君
羽琴の姫君
昔・・白の国の王族に
羽琴の姫君と呼ばれる美しい姫がいた・・。
金の髪に 青と茶のオッドアイの瞳の姫
その昔・・羽琴の姫君・・エリンシアナは 白の国の統治者である
白の宗主に願い出でて こう言った
「どうぞ 私を・・エイル・・エルトニア姫の代わりに
黒の国へ 行かせてくださいませ」
「エルトニアはまだ幼い子供・・白の王族であれば
誰でも構わないはず・・あの子は大事な私の姉の忘れ形見の子供・・
お願いです!どうか願いを聞き届けてくださいませ」
白の宗主は しばらく沈黙していたが やがて口を開いた
「・・そなたは私の側室の一人・・誰よりも素晴らしいあの扱いの難しい
羽琴を奏でる者・・そうそう 手放すと・・?」
「宗主さま・・どうか・・」
「・・自分の娘は 可愛いか・・」
ハッとして 目を見開いて 白の宗主を見るエリンシア姫
「私が知らぬとでも 思っていたか?羽琴の姫君よ・・
そなたが私の傍に 来る前に 跡継ぎ争いで 私が殺した
私の弟が そなたと恋人同士であった事など 前から知っていた・・
密かに産んだ子供を 子供がいなかった姉夫婦に託して
私に乞われるまま、いやいやながら私の側室になった・・
同じ瞳 オッドアイの瞳・・さすがは親子だ・・。」
「まあ・・良い 幾度抱いても そなたは私に心を決して開かぬ・・
いとまをやろう・・どこへなりとも行くがいい
・・だが、黒の国で何が起ころうとも 私はそなたを助けてやれぬぞ
良いな!」
「はい、仰せのままに 白の宗主様」
そうして・・数日後の事
義兄とその幼い子供であるエイル・・エルトニアが
彼女の居住する屋敷にやって来た
「エリンシア姫様!叔母様!」幼い子供の明るい声
駆け寄り 腕を広げたエリンシアのその胸に抱きとめられるエイル
「まあ!エイル、エルトニア姫」
「エリンシア姫」
「お義兄様・・」呼ばれて 幼いエイルを抱きしめたまま 傍にいた男
エイルの父親に微笑む
「本当に 敵対していた黒の国へ行くのか?」
「はい」
「・・・そなたには 申し訳ないと思っているよ
まさか、エイルが選ばれて 先々の事を思い困り果てていたら
エイルの身代わりになろうとは・・」
「身代わりなんて・・良いのです これで・・」
「私の事は心配なさらないで・・今回は平和条約の対等な取引・・
黒の国からは 黒の王子確か・・名前はアーシュランと言われたかしら?
その御方が 白の国に来られるそうですから・・」
「知ってるよ・・まだ彼も幼い子供で、私が預かる事になっている」
「!まだ幼い子供なのですか?」
「エルトニア、エイルより少し年上らしいが・・そう年齢は変わらないと
聞いている・・そうだ、黒の王の家族達の絵姿を描いた絵が送られて来た
あとで見せてあげよう それに描かれてるだろうし・・」
「有難うございます 義兄様・・それにしてもエイル、エルトニア姫は
しばらく見ない間に大きくなられましたね・・
この子は両生体だから どちらの性を選ぶのでしょうね」
エイルのオッド・アイ 片方が茶味がかかった金色 もう片方は天上の青・・
可愛らしい整った容姿を ほれぼれと見る
「どちらの性を選ぶとしても 綺麗な子になるでしょうね・・ふふふ」
「お茶とお菓子の準備は出来ていますわ」
「本当?叔母様」
「ええ・・エルトニアが大好きなあの赤い果実テインベリーのケーキも用意してますよ」
「叔母様 羽琴も演奏してくださいますか?」
「もちろん! さあ中へどうぞ
後から リアン様もおいでになるそうですわ」
「リアン兄様も!楽しみ♪」
「うふふふ・・」楽しそうに笑うエリンシア姫
小1時間後ほど リアンが 白銀の髪をした女ケンタウロスの騎士を
お供に伴い やって来た
「リアン兄様!」エイルは嬉しそうに声を上げる
「リアン様」微笑むエリンシア姫
「これはリアン様よく来られましたな」エイルの父親が答える
「皆様 こんにちわ久しぶりに会えて嬉しいです」
リアンと呼ばれた
淡い金の髪をした13歳前後の少年は 微笑みながら そう答えた
「お供の方・・確かレグルス様は こちらにはお通しされなくてよいのですか?」
「いえ 彼女は向こうで控えてるそうです
ただ 良ければ何か・・」
「ええ お酒がお好きでしたね 召し上がれますか?」
「いえ それには及びません 一応 僕の警護・・仕事中ですからね」
「では 何か飲み物と軽い軽食でも 召使に用意させましょう」
「有難うございます エリンシア姫様」
「エリンシア姫様は いつもお優しくて
数年前に亡くなった身分の低い母をいつも庇ってくださって・・感謝してます」
「そんな・・あの方は 物知りで 色んな事を教えて下さったわ・・
それに 同じ白の宗主様の側室でしたから・・あの方こそ 私を何度も助けてくれましたわ」
「エリンシア姫様」
「さあ お茶とお菓子のお替わりは如何ですか?
羽琴の演奏をしますが 何かリクエストがあれば・・?」
「有難うございます では 夜想曲を・・」
「あ!叔母様 僕は 雪花祭りの歌が聞きたいです」とこちらはエイル
「はいはい わかりました では・・夜想曲から・・」
羽琴と呼ばれる琴の楽器・・
大きく 琴が幾つも 一つは正面と斜め横にと また3つ琴と弦が重なりあい
下には 土台がそれらを支えてる
小さな椅子に座り 巧にその弦を弾きらして 音楽を奏でている・・
妙なる調べ・・
次々と曲がリクエストされて
夕方 近くまで その演奏会は続いた・・
楽しいおしゃべりの後で・・
「では・・エリンシア姫様 僕はこれで・・」
「良かったら 夕食でも・・?」
「いえ 明日 家庭教師から出される試験がありまして 帰って勉強しないと」
リアンは答える
「じゃあ!またねリアン兄様 僕らは夕食まで叔母様と食べるよ」
「リアン様 また・・」
「はい!また」
リアンは 女騎士である白銀の髪のケンタウロスの背に乗り 帰路についた
「・・リアン殿」そっと白銀の髪のケンタウロス・・レグルスが声をかける
「二人だけの時は リアンでいいよ」
「そういうわけにも・・な・・
ところで あれが 噂の羽琴の姫君か・・?
向こう側の部屋にも演奏の音が流れてきたが 素晴らしいものだったな」
「エルトニア姫の身代わりに黒の国へ行くだって・・
あの噂は本当なのか? エルトニア姫は・・あの姫の・・」
「そうだよ・・本当の子供だよ・・。」
「そうか・・」
「・・・」
「何も知らずにエイルも可哀そうに・・そして姫も
あの黒の国へ行かされる・・。」
「運命とは 時に残酷なものさ・・仕方ない・・。」
「・・・人質として来る 黒の国の王子アーシュラン
どんな子供かな? エイルより2,3しか歳が変わらないと聞いた・・」
「さてね・・しかし・・その名前聞いた覚えが・・」とレグルス
「え?」リアン
「まさかね・・偶然の一致 まあ気のせいだろう・・。」とレグルス
「?」きょとんとするリアン
「そろそろ リアン殿のお屋敷に到着だ・・食事が待ってるぞリアン殿」
「レグルスは酒と食事だろう?」
「もちろん!」レグルスはニヤリと笑う・・。
それから・・エリンシアの屋敷では・・
「あら、エイルはお眠?」
ゆったりとしたソフアですやすやと寝息を立てて
エイルは眠っている・・
「ふふ・・義兄さま 今日は泊まってゆかれては?」
「そうさな・・お言葉に甘えよう 有難うエリンシア姫」
「はい どういたしまして・・」
そして・・それから・・瞬く間に日々は過ぎ・・
見送られて 羽琴の姫・・エリンシア姫は旅立った・・
「エリンシア姫 叔母様」
「エリンシア姫」
「姫様」
優しく多くの人に慕われてた姫・・
見送る者の中には 涙ぐむ者もいた
「どうか 皆様 お元気で・・」
「義兄さま・・リアン様
どうか エイル・・エルトニア姫をよろしくお願い致します」
「叔母さまああ」ほろり・・そして 涙を流すまだ幼いエイル・・エルトニア
リアンは前に進みでて、金の髪飾りを差し出す
「エリンシア姫さま どうぞこれを・・」
「まあ!有難うございますリアン様
あ、そうだわ これをどうぞ・・」
そう言って 荷物の中から 小さめの持ち運べる竪琴をリアンに差し出す
「私が 以前、姉さまから頂いた物ですが・・
最近は羽琴しか扱わず あまり使わないものですから・・
リアン様も楽器はお好きでしたから・・」
「そんな・・いいのですか?」リアン
「ええ・・どうぞ」微笑んで リアンの手渡す
リアンはその竪琴を受け取った・・。
「有難うございます エリンシア姫様」
そうして 集まった皆を見渡して・・
「叔母様!」
「あっ、エイル エルトニア・・」
抱きついてきたエイルを抱きしめて、額にくちずけをして
そっとエイルのその幼い身体から手を放してから
「元気で・・健やかに・・祈っております」そう言い残して 白の国を去っていった
今度は エイルをそっと後ろから抱きしめるリアン
「大丈夫 何年かたったら きっとお戻りになるよ」
「うん わかりましたリアン兄さま」鼻を赤くして まだ少し瞳に涙を残したまま
エイルはリアンに答えた・・。
だが・・しかし・・運命は 羽琴の姫君の故郷である白の国への帰還を許すことは
なかったのだった・・
無事に何事もなく、黒の国に到着した 羽琴の姫君エリンシア姫
黒の王たちが 彼女を出迎えた・・。
物憂い顔で美しい顔立ちの竜の王黒の王
黒髪は長く 金色の瞳の持ち主
しかし右の片方の瞳を隠している・・そう戦で失われた瞳 再生能力を持つ
黒の王族でさえ 再生が叶わなかったのだ・・
その隣には 類まれなる美貌の持ち主の黒の王妃
艶やかな長い黒髪は纏められて 綺麗な金の飾りで飾られている
腕には 赤ん坊 正統なる血を持つ 王の嫡子・・王子
王妃の傍に 姉になるまだ幼い少女・・エイルとそう変わらない年頃の少女
あとで聞くとエイルより1つ年上だという・・。
側近のタルベリという男 子音で 小男で耳が大きく
少々 人は違った姿をしている・・。
なかなかの切れ者だという話を 白の国で聞いた事がある・・
「エリンシア姫様 ようこそお越しになられました」
うやうやしくタルベリイは頭を下げた
それから・・家族とは少し離れた場所に立つ少年
その少年こそ 黒の国の王子アーシュ、アーシュラン
少年は 軽く会釈した
燃えるように深く紅く、時に金色の光を映す少し吊り上がった瞳が印象的な黒髪の少年・・
交換に 人質として白の国へ送られる予定の王子
戦が・・事があれば・・人質として処刑の運命が待っている。
もちろん それは 羽琴の姫君エリンシア姫も同様であるが・・
しかし・・その少年・・王子こそ
後に 黒の国が一度 滅亡の憂き目にあった時に ただ一人生き残り
黒の国で生き残った貴族のリュース家の者達や竜の顔をした猛将セルト・・と手を携えて
黒の国を復活させ、火竜王黒の王となり・・
白の国でまだ幼いエイルと出会った事により 彼女を想い焦がれ
彼女一人を救いたいが為に 巨人族に滅ぼされようとした白の国を救う事になる・・などと
そんな運命を持った少年・・・
そう・・エリンシアが・・誰より守りたかったエイル・・エルトニアの運命の恋人となる
少年・・
そう・・もちろん・・それは後々の未来の御話ではあるのだが・・
「白の国の姫よ これは私の大事な家族と側近のタルベリイ・・
後程 それは歓迎の食事会の時に この場にいないもの達も含めて ゆっくり 紹介しよう・・」
「・・が・・この者 私の息子アーシュランは すぐこの後 白の国に出発するので・・
ここで・・」
「王子様 アーシュラン様」エリンシア姫は 微笑みかける
少し戸惑いの表情をみせながら アーシュランは再び会釈した
「初めまして 白の国のエリンシア姫様 私はこれから すぐに出発しますので
これにて 失礼いたします
どうぞ つつがなく黒の国で過ごされてください」 そう言い残して 振り返りもせずに
その場から立ち去った・・。
まだ 幼さが残る どこか寂しげな後ろ姿が印象に残る・・
「エリンシア姫様 どうぞこちらです」 明るく笑う幼い少女 王女
彼女の瞳も 先ほどの少年・・王子と同じものだった・・。
エリンシアは思い出す
そうだったわ 先読みの占い師の間では 有名な話・・
黒の国の次世代は 焔の使い手 瞳はその証を示すもの・・
でも・・本当に不思議な色の美しい瞳だわ・・エリンシアはそう思った
夜・・歓迎の宴は始まる
離れの大広間に向かう 道の途中の屋根のついた柱の道
ふと 気が付いてみると 数頭の馬が王宮の外に出ようとしていた・・。
よく見ると 2頭目の馬に先程の少年 黒の王子アーシュランが乗っている
1頭目は 警護の者 3頭目には同じく警護の者だろう・・
たった2人の警護の者だけ・・
見送る者もなく まるで・・ 捨てられているかのごとく・・
「・・・」
「姫さま・・」
「あまり 気にされない事です」あっさりとエリンシア姫付きの女官となった
黒の国の女官は続けて言った
「あの方の半分の血は 卑しい人族の者ですわ・・
母親は卑しい身分の者・・売春宿にいた事もあるのですから・・」
「え?それは・・一体どうゆう事ですの?」
女官は エリンシアに事の次第を問われるまま あっさりと話をした・・。
王子アーシュランの母親は 人族の娘・・
しかも 一度攫われて 売春宿にいるところを
恋人であった竜の顔を持つ戦士セルト殿に救われて・・
ある時 偶然、黒の王の目に止まり、無理やり恋人との仲を裂かれ
王のものになったという・・
その為 黒の王はありもしない罪を戦士セルトにおわせ、追放させ
戦士セルト・・彼は 幼い義理の妹とともに王都から出ていったという
しかも そのアーシュラン王子の母親は数年前に流行り病で亡くなり
その上、まだ幼い彼は 黒の王妃から大変疎まれ・・
平和条約の為の人質交渉に真っ先に候補にあがり
こうして・・白の国の人質となったのだ
そう 捨てられるように・・
「可哀そうに・・」小さな声でエリンシアは呟く・・
女官は聞こえなかったか、聞こえないふりをしたのか
そのまま エリンシア姫と供に 無言で付き従って行った
歓迎の宴は 華やかなものであった
「エリンシア姫・・我が王妃 黒の王妃アリアンです」
「アリアンですわ エリンシア姫」
黒の王 竜王に紹介されて アリアンは微笑んで答える
「見事な金の髪に 変わった 美しい瞳の持ち主ですね エリンシア姫」
「有難うございます」
「娘のテインタル姫です」
「テインタルです これから宜しくお願いいたします」
美貌の母親に似た 綺麗な顔立ち 焔の瞳を持つ少女・・
「アリシュア王子です」
アリアン付きの女官の腕に抱かれた王子・・すやすやと眠っている
先程、赤ん坊を見た時にはその瞳は金色・・
どうやら先読みの予言では 次の王は焔の力を受け継ぐ者
火竜王を名乗り黒の王となるはずの者
赤ん坊は焔の力は受けつかなったようなのだが・・?
・・少女が女王となり、この黒の国を受け継ぐのだろうか?
黒の王と赤ん坊の王子の金色の瞳
火、水、風、大地すべての属性と守護を合わせ持ち それらの魔法を全て使いこなす
また、先読み・・過去見と予知の力を持つという
ゆえに 竜の王と呼ばれる・・
「エリンシア姫は羽琴の名手だという御話を聞きましたが?」
「はい 白の宗主様の御前や宴では よく演奏いたしました」
「では 一曲 所望しても構いませんかな?」
「はい 黒の王様 なんなりとご所望の曲をどうぞ・・」とエリンシア姫は微笑み答えた
見つめる黒の王・竜の王の金色の瞳に 何か心の琴線に触れる思いをエリンシアは
感じた
それから・何事もなく、平穏な日々の数か月の時が流れ・・
エリンシア姫は この黒の王宮に庭の眺めの良い大きな部屋を与えられ
数人のエリンシア付きの女官が従い 事細かい要件をこなしてくれた・・。
部屋には 彼女が奏でられる羽琴が置かれ
彼女の為に白の国の食べ物や遠い国の珍しい美味しい食事がふるまわれる事も多く
そして 事あるごとに 黒の王妃アリアンが訪ねてきた・・
時折、赤ん坊や娘である幼いテインタル王女を伴う事もしばしばだった・・。
この極上の美貌の王妃は エリンシアには優しく よく話をした その会話を楽しく
また・・
エリンシアは 王妃や王女の為に羽琴を奏でた・・。
庭には 花が咲き乱れ 木々には小鳥がさえずる・・。
小さな噴水が心地よい水音をさせている・・
白の国からは よくエイルやリアン、エイルの父 義兄からの便りやささやかな贈り物が
届けられた・・。
懐かしさに それらの便りを胸に握りしめる・・。
リアンや義兄の手紙には エリンシアの日常の心配とエイル、エルトニアの事の
黒の王子・・エリンシアと交換に白の国の人質となった黒の王子アーシュランが
義兄が世話係を引き受ける事などが書かれていた
またリアンが軍事学校に入る事になった事も・・
エイルの便りの手紙には 黒の王子アーシュランの事が
事細かに記述されていた・・
どうやら、エイルエルトニアはアーシュランの事を大変好きであるらしく
彼は 無表情でよくムスッとしてるが 得意の火の魔法でちょtっとした料理やお菓子を作ってくれたり
エイルがつまずいてこけたら慌てて駆け寄ってくれるし チエスの相手や黒の国の言葉を教えたりしてるらしい・・
王子アーシュランの方は 白の国の言葉や文字は習得済みで 特に何も教えてあげられる事はないという・・
本当に無口で あまり自分からは話をしてくれなかったりするとも・・
それから リアンの事にもよく触れていた・・
リアンがエリンシアがあげた小さな竪琴を待って
アーシュランと三人で 近くの森にピクニックにいた時にその竪琴で演奏をしてくれたり
部屋で 眠れないときには その竪琴で子守唄などを歌と一緒に演奏してくれると
よく眠れると・・
ただ・・今度 遠くの軍事学校に入るので まったに会えなくなるから
寂しいとも・・
エイルと義兄からの便りの中で 1つ気になる手紙があった
何でも 何者かが 義兄の城に侵入して 黒の王子アーシュランを襲撃したという・・
エイルも傍にいて 王子のケガよりは軽かったものの 少し怪我をしたと・・
犯人は 2人で黒の国の人間・・襲撃犯はその場で殺してしまったので
黒幕はわからずじまい 恐らくは 反乱分子だろうと記述されていた・・。
それらの便りの数々を リアンに貰った金の髪飾りとともに 小さな綺麗な小箱にしまう
金で縁どられた 小さな宝石も埋め込まれた 綺麗な小箱
すると 丁度 後ろから部屋のドアをたたく音・・
「エリンシア姫様」エリンシア姫付きの女官が声をかける
「え?何」
「エリンシア姫様」可愛らしい幼い少女の声・・。
「まあ!テインタル姫様 いらしゃいませ
あら?今日は 黒の王妃様お母さまのアリアン様は?」
「お母様は 今日は公務で 近くのお城にお出かけになってます
今日は 私1人です・・お邪魔ですか?」
「とんでもない! さあどうぞ・・お茶とお菓子をお願いしますね」
女官に声をかける
「はい エリンシア姫様」
幼いテインタル王女とおしゃべりを楽しみ
羽琴を奏でたりして 時を過ごす・・
「これは 私の家族・・義理の兄とその子供のエイル、エルトニア
それと・・親戚筋にあたるリアン様」
小さな絵姿の絵をテインタル王女に見せる
「まあ この金髪の子は エリンシア姫様と同じく瞳の色が左右違うのですね!」
「オッド・アイというのですよ 王女様」
「可愛らしい子ですね それに少年の方 リアン様?
淡い金色の髪で 整った顔立ちの綺麗な方ですわ」
「そうですね」微笑むエリンシア
・・その後々の事 未来の御話・・
まさか、このテインタル王女が 黒の王となったアーシュランの思い人のエイル、エルトニアを深く憎み・・
エイルの腕に 呪いの魔術をかけた焼いた印を刻み込む事になるとは知る由もない・・。
「夕食も 一緒に食べませんか?王女様
今日は 白の国の食材を使った 白の国の美味しい食事ですのよ」
「はい!有難うございます エリンシア姫様」嬉しそうに答えるテインタル王女
幼いながらも美貌の母親譲りの面立ちの王女・・
成長したのちはさぞや美しい姫になるだろう・・エリンシアは微笑みそう思った。
穏やかな平穏な日々が続く・・よく宴では 黒の王と会う・・
彼と目が合う度に 何か 不思議な感覚を覚えるエリンシア
ある夜に 黒の王 竜の王に呼び出された
向かう途中柱の道で 美丈夫の長い金色の髪の男にすれ違う
男は白い服を腰で金の刺繍入りのベルトで縛り
右肩から斜めに深いワイン色のローブをかけている
長い金の髪を下から軽く縛っていた
切れ長な瞳は青・・なかなかの美丈夫
「え?」 白の国の方?エリンシア姫は思う
「初めまして 白の国のエリンシア姫様
私は黒の国の貴族・・リュース公と言います」
「はじめまして 白の国のエリンシアです」
「お噂はかねがね・・金の髪と、とても美しい瞳をお持ちの御方だ」
不思議そうな顔をしているエリンシアの思いを察して
エリンシアと同じく金色の髪をしたリュース公は答える
「私たち一族には 何世代も白の貴族や王族の血が流れてるのですよ
私の母親は 白の王族のリリイス姫・・
三十数年以上前・・短い間だけ 平和条約が結ばれたのをご存知でしょうか?」
「あ、はい」エリンシア姫は ハッとして答える
「その時に使節として来たのが リリイス姫
だが条約は すぐに破られ
当時の白の宗主は傲慢で誇り高く
先代の前の黒の王の恋人となっていた彼女が戻る事を許さず・・
黒の王とは結ばれる事のないまま・・
もともと家族で戦で いなかった彼女は行き場をなくし
以前にも他には 時に戦で囚われて人質となり白の貴族の戦士と我がリュース家の姫
やはり戦で人質として囚われた白の国の姫たち・・
その時に兵士に汚されたとして 白の国には戻れずに・・
そのように何度も同じような事があった行き場のない白の国の者達の血が流れるリュース家に
嫁いできたのです」
話を聞き 青い顔しているエリンシアに 微笑みリュース公は続けて話をする・・
「ああ・・貴方様は大丈夫ですね・・ご家族からよく便りが来ていると聞き及んでます
ちゃんと 戻れる場所がある・・
大丈夫 あと数年もすれば 帰れますよ
貴方の愛する人たちの元に・・」
「貴方様はあの扱いの難しい羽琴の名手だとか・・
いつか 機会があれば ご演奏を聴いてみたいものです」
「あ・・有難うございますリュース公様
宴か 黒の王様のお許しがあれば リュース公様のお城にお伺いする事も可能かと
思います・・」
「楽しみにしてますエリンシア姫」
「有難うございます・・では 黒の王様に呼ばれてますので ・・
失礼いたします」
頭を下げて エリンシアは立ち去った・・。
その姿を見送り 無表情でリュース公は一人呟く
「今日は 王妃は留守・・あの姫に もしや王は・・」
そして彼もその場を立ち去った・・。
黒の王の部屋にエリンシアは入る
「黒の王様」うやうやしくエリンシア姫は頭を下げる
「こんな夜分に どうされましたか?王様」
「何 夜遅くに申し訳ないな 姫
どうしても そなたの演奏が聴きたくなってな」
「はい 何か曲のリクエストはございますか?黒の王様」
「では 夜想曲を・・」
「はい 黒の王様」
そして・・
演奏の途中で 黒の王はエリンシアに近づき 腕をつかんだ
「お、王様?」
黒の王の顔をまじまじと見るエリンシア
黒の王の金色の瞳が妖しく光る
その瞳にはまよくがあった・・呪縛の魔法・・
「あ・・」動けなくなったエリンシア
崩れ落ちそうなった彼女の身体を抱き留め 軽々と抱えて
自らの寝床 大きな天幕付きのベットに横たえる
何を・・?そう言いたかったが 声が出ない
「・・・そなたは 白の宗主の側室だったと聞いている
男がこれから 何をしたいのか・・何を欲しっているのか わかるだろう?姫?」
エリンシアの首筋に王の唇が触れて・・そして ゆっくりをエリンシアの服を
脱がせてゆく
「や・・」やめてと叫びたかった だが 声は出せない・・
朝・・エリンシアは茫然としたまま 黒の王付きの侍従に 自室に連れて行かれた・・。
その夜から・・度々・・黒の王は 王妃のいない夜には エリンシアを呼び出した
エリンシアは 抗う事も出来ぬまま 一夜を過ごす・・
だんだん・・と黒の王との一夜を待ち望んでいる自分に気づくエリンシア
そんな自分自身にも どうしていいかわからずに戸惑う・・
黒の王妃はまだ何も知らず 王女を伴い エリンシアの元を訪ねてきては
エリンシアの演奏や会話やお茶会を楽しむ・・
エリンシアは 羽琴の名手・・
よく宴に出るように乞われる・・
白の国の為にも その誘いを断る事はなく
その素晴らしい演奏を披露した・・
ある夜・・
黒の王はエリンシアとの睦言を楽しんだ後で・・
黒の王はポツンと呟いた・・
「私が恨めしいか?姫よ?」
「本当にそなたは 美しい・・金の髪も そのオッド・アイの瞳も
その身体も・・・」
エリンシアの唇に王は自らの唇を重ねた後に
また呟く
今度は エリンシアの耳元でささやく
「喜ぶがいい・・そなたが憎むべき私はやがて殺される・・
どうやっても この黒の王国は一度壊れる・・
私が先読みの力を使い この国を維持してきたが・・
どうしても・・抗えぬ・・。
幾度も 生き残る この運命を避ける術を探したが・・
生き延びるのは白の国の人質となった黒の王子アーシュランと王女のテインタルのみ・・
王女テインタルは囚われ、印をされて日陰の道を歩む事になる・・」
「そなたは 少なくと生き残られる・・テインタルと同じく囚われてな・・」
「・・しかし・・。」複雑な表情・・
黒の王は 思い出して含み笑いをする
「そなたの実の子供・・エイル、エルトニアはとても面白い運命をたどる・・。
息子のアーシュランと深く結ばれる運命とは・・な・・。」
とうの昔にエリンシアに触れて、エリンシアの過去を そしてエイル、エルトニアの未来を・・
過去見の力と先読みの力で
その運命を知った黒の王、竜の王は語る・・
それを夢うつつに聞きながら・・
その事を その夜の事を何故かエリンシアは忘れてしまう・・
ある時に エリンシアは 黒の王に許しを得たリュース公に乞われて そのリュース公の居城に訪れた
「よく来られましたエリンシア姫」
「ご無沙汰しましたリュース公様」
リュース公の傍には少女が一人
「娘のアルテシイアです」
長く美しい流れるよな黒髪、やや吊り上がったアーモンド型の大きな瞳
美しい少女・・
後に 戦姫・・黒の王、火竜王になるアーシュランの
片腕・・女将軍となるアルテイシア
水と風の属性と守護を生まれながらに持ち
特に水の魔法に長けていたゆえに のちに黒の国の水の竜の王の加護を手に入れる
水竜の女王 そう呼ばれる事も・・
そうして・・
白の国から処刑されようとして逃げ出したアーシュランを助けるのも彼女の宿命、運命・・。
「母親は 私の護衛の女騎士だったもの・・
数年前に ちょっとした小競り合いの戦で毒矢を受け あえなく亡くなってしましましたが・・」
大事そうにアルテシアの頭を撫でる
アルテシアは エリンシアに顔を向けて
「はじめましてアルテイア姫様」
少女はニコリと笑い 話しかけた
「はじめましてエリンシア姫様
姫様はあの羽琴の名手だとか・・今宵の宴を楽しみにしてます」
「はい 姫様」
リュース公の城は 湖畔に浮かぶ美しい城・・
水竜が大きな水音を立てて泳いでいるのが バルコニーからもよく見える
宴は多くのリュース公の縁りの者達や友人の貴族などが集まり
エリンシアが思っていた以上に 華やかで賑やかであった
一人娘・・未来の女侯爵は 利発で活発
多くの大人相手に 物おじもせずに会話を楽しんでいる
宴のご馳走は 湖畔でとれた魚やこの地 地元の果実に 鴨などの肉料理
それに白の国の食材を使った白の国の料理・・。
リュース公が少し離れた場所に一人立っていたエリンシアに近づき話しかけてきた
「どうぞ 楽しんで下さい エリンシア姫
・・そうそう・・ちょっとした昔話などでもよいですか?」
「はい・・」エリンシアは 美丈夫で金の髪のリュース公に答える
「実のところ 私は白の国の血が濃くでて、子供の頃は両生体だったのですよ・・。」
「そうなんですの?リュース公様」驚くエリンシア
確かに 白の国の者は 2人に1人が両生体で生まれる・・この方も・・とは
「20歳上の兄がいたので、私は女性になるように勧められて よくドレスも纏ったものです・・」
この美しい顔立ち 美しい金の髪に青の瞳、すらっとした身体・・
さぞや 美しい少女の姿だったのだろう・・。
「一時は 当時まだ王子だった 黒の王に乞われて 側室候補にもなった事もありましたね」
「彼とは 一時 恋人同士だったことも・・」
含み笑い・・それから
肩をすくめて 続けて話を続ける
「なにせ 大貴族とはいえ 多くの白の国の血を引くリュース家・・
この黒の国では 微妙な立場でね・流石に黒の王妃候補にはなれませんでした・・・」
「残念ながら10歳年上の兄が先の戦いで死んでしまったので
私は男性の性を選び、このリュース家を継ぎました。」。
戦の間も白の国と親交もある 間を取り持ち 最初の使節の役目はリュース家の者が
選ばれるが・・
よくよく 黒の国には使い捨てにされて
その上 時の白の宗主が気の荒い者だった時に 使節の者が処刑された事も・・」
「エリンシア姫・・貴方も よく気をつけられる事です・・
貴方は優しい大変良い方だ・・
黒の王にも黒の王妃達にも 彼らは貴方を気にいっている
黒の王女テインタル姫も貴方を慕ってると聞いてます・・ですが・・」
エリンシアの瞳をじっと見つめて
声をひそめて話をする
「エリンシア姫・・黒の王と深い関係を持ちましたね・・
黒の王 本人から聞きました 何かあれば 昔のよしみで 庇って欲しいと頼まれました・・。」
「本来は優しい気性の黒の王妃アリアン様・・だが・・しかし
事が 黒の王との事になると また別だ・・
あの方は 黒の王を愛しすぎている・・そう狂った程にね
そう・・狂ってる・・」
「あの御方が アーシュラン王子に どうような態度で接していたかなどご存じない・・
花瓶をぶつけて 軽いケガを負わせたり テインタル王女がアーシュラン王子を慕っていたので
よく 遊んだり話しかけていたりしたのだが・・
ある時に我慢出来ずに 突然 王子の頬をぶったり・・
背中を押して階段からから突き落としたりした・・
何故か王子アーシュラン殿は それでも黒の王妃を慕っていたようだが・・
寂しげな表情で よく黒の王妃を見つめていたものです
以前少し前の事ですが 黒の王子アーシュラン殿が 滞在先の白の国の城で
何者かに襲撃されて 危うく殺されそうになった御話はご存知ですか?」
「はい 義兄からの便りで 存じあげております・・。
人質として 滞在しているのは 私の義兄の城で 腕を折られて、危うく首を切り落とされそうに
なったところを 護衛の兵士が発見して 事なきを得たのですが
ちょうど 義兄の子供のエイル、エルトニアも傍にいて 軽いケガをしたとか・・」
「真犯人・・黒幕は誰だと思いますか?」とリュース公
「え? 黒の国の反乱分子ではないのですか?」
「いいえ・・真犯人 黒幕は 黒の王妃アリアン様です」
「なん・・」となんですってと叫びかけたのを見て サッとエリンシアの口元に
手をやり 黙らせる・・。
「お静かに・・」微笑むリュース公
「あの御方は 嫉妬深い・・そして黒の王の事となると見境もなくなる
先程も申し上げましたが 愛しすぎて・・少々狂っている・・
「残念ながらね・・」
「・・・何故?何故そんな話をされるのですリュース公」エリンシアは問いかけた
「・・貴方の為ですよ・・エリンシア姫
お気をつけなさい・・
黒の王の情人となった事を黒の王妃が知れば 貴方の身にどんな事が起こるか・・」
「それから 覚えておいて下さい 黒の国やって来た白の国の者を庇うのは
代々の先代から続くもの・・もはや使命・・宿命なのです・・。
私は 貴方の味方です そう・・そして、もし・・?」
「もし?」エリンシア
含み笑いをするリュース公
「私も貴方の事を 大変良く美しい方だと 本当に思っておりますよ・・
いざとなった その時には・・きっと
そうですね・・娘のアルテイシアも貴方なら 受け入れて気にいるでしょう・・」
「え?」エリンシア
「ふふ・・その時には貴方にもわかりますよ」意味ありげな笑み
「・・それから ヴァン伯爵には 会われましたか?」微妙に硬い表情でリュース公は問う
「あ、はい 先月の宴でお会いしました 広大な領地をお持ちで 影響力の強い黒の大貴族の御方」
「黒の王妃アリアン様とは従兄同士ですし・・ね」リュース公
「はい その事も聞き及んでおります」
「あの御方には くれぶれもお気をつけて・・
王妃とは違った意味で 危険な方です・・。」
「・・・・」
「では、姫そろそろ 宴の方へ・・今回の主賓は貴方なのですから
それから 前にお約束した通り・・その素晴らしい羽琴の演奏をお聞かせください」
「私と親しい者達にも 貴方という素晴らしい方を紹介しなくては・・」
「まあ・・そんな・・」エリンシア
「どうぞ・・こちらへ」
夜遅くまで 宴は続いた・・城からは羽琴の演奏・・湖には水竜が長い首を伸ばして顔を上げ
城とともに 月明りに照らされて映えていた・・。
思っていた以上に遅くなってしまったので リュース公の湖畔の城に泊まる事になった
エリンシア・・
部屋のドアをたたくノックの音・・
「はい どうぞ・・」
「遅くに御免なさい エリンシア姫様」
まだ少女であるリュース公の娘 アルテシイア姫が訪れた・・。
「御気にされずに どうぞ いらしゃいませアルテイシア姫様」
「アルでも構いませんよ エリンシア姫様」
「まあ・・そういうわけにも・・で・・ご用件は?姫」
「白の国の事を知りたいの! それに白の国の言葉も文字も
お父様も教えては下さるけど 本当はお忙しいし
実は ちょっと語学はちょっと苦手なの・・」
「黒の王宮では テインタル王女に白の国の言葉と文字を教えてると聞きましたわ」
「ええ その通りですわ」微笑むエリンシア
「それだけじゃなく テインタル王女様とお友達になりたいの!」
「素敵な事ですわ!では 黒の王宮にお越しになられるのですね」
「ええ もちろん!しばらく滞在するわ もうお父様の許可は取ってあるの」
「わかりましたわ 姫様 お好きなお菓子はありますか?
勉強の合間に ご用意いたしますね」
実はエリンシアは 子供好きであった 微笑みを浮かべるエリンシア
「本当嬉しいわ! お菓子は・・」会話は続き・・そして早朝には
エリンシアはリュース公の娘 アルテイシア姫を伴い 黒の王宮に戻っていった
テインタル王女もアルテイシア姫も 飲み込みが早く みるみる内に
砂に水が染み込むかのように 白の国の事を習得していった
二週間が過ぎようとした頃・・
「本当に お二人とも 覚えが早いですわ あと1か月もしない内に
言葉も文字も完璧に覚えてしまいますわ」
二人にお茶とお菓子をふるまいながら 微笑むエリンシア
「有難うございますエリンシア姫様」「有難うございます」
二人ほぼ同時に礼を述べる
「エリンシア姫様 アルテイシアは 剣術も魔法もとても上手よ!
特に水の魔法・・ねえ アル♪」
「テインタル、テイは 楽器の演奏と歌が上手よ
この前のリュートの演奏と歌は素敵だったわ ねえテイ♪」
年頃が少ししか変わらない幼い少女二人は 愛称で呼び合う程に仲良しになっていた
後の未来・・リュース公のアルテイシア姫 黒の王となったアーシュランを守護する者一人・・
彼女は 哀れにも巨人族の手先となり果て アーシュランの敵になるテインタル王女とは
敵対する運命にある・・。
話ながらお菓子をほおばり 笑いあう二人にそんな運命が待っていようなどと知らずに
二人に微笑むエリンシア
「ねえ そろそろ私の事はアルって言って エリンシア姫!」
「わかりましたわ・・では 私の事をエリンと呼んでくださいね」ふっふふと笑いエリンシアは言った
バルコニーの窓を開け広げた庭には 青い空と花々に小鳥のさえずり 小さい噴水の水音・・
穏やかで 楽しいひと時を彩っていた・・。
それから1月のち・・白の国の言葉や文字を完璧に習得したアルテイシア姫は
父であるリュース公が待つ 自分の城へと帰っていった
「じゃあ!また また会おうね約束よ エリン!テイ!」
元気よく手を振って 迎えに来たリュース公の部下を伴い
翼竜に乗って帰っていった
見えなくなるまで振り返ったままずっとアルテイシアは手を振っていた・・
「またねアル!」同じく手を振るテインタル王女
「お元気で またアル・・アルテイシア姫」エリンシア
それはエリンシアとってアルテイシア姫とは二度と会う事のない・・約束となる・・
テインタル王女がアルテイシアと再び再会する日は
時が流れて・・大人となり 敵対する二人として剣や魔法を交えての対峙する日の事・・
未来の事・・
平穏な日々・・穏やかに時は過ぎてゆく・・
悲劇の時がゆっくり 忍び寄ってきているなどとは・・そう 知らずに・・
そしてエリンシアは いつの間にか 黒の王妃の不在の日を心待ちしている自分
そう黒の王妃の不在の時には 必ずといいて良い程・・
夜半には 黒の王に呼び出される・・
睦言を・・黒の王の瞳を深々と見つめ その美しい黒髪に触れる時が恋しくてたまらくなっている・・などと・・
一糸纏わぬ肌に 黒の王がエリンシアの胸先に軽く、触れて・・それから・・
寝床の中で 身体を抱かれて エリンシアの腕が 黒の王の身体を抱きしめる
首筋に触れている王の唇が時折 くすぐったい・・
「あ、・・」 王はクスクスと笑っている・・甘い時間
・・そして その後 甘い酒を王は口に含み それを口移しにそれを飲ませられる
「ん・・」
「味は? 女性向けの蜂蜜入りの果樹酒だ 旨いかな?」
「はい・・王」
何度もそれを繰り返して たくさん飲まされて・・
それは少し強い酒で すぐに酔いが回る
酔った身体に 再び王の身体がのしかかる 「あ・・」
しばらく後・・いつものように 黒の侍従が呼ばれ エリンシアを抱きかかえて
人目につかぬように 庭を通り抜けてバルコニーから部屋に入り 寝床にそっと置かれ
毛布をかぶせられる・・
エリンシアはぼんやりとしていた・・
バルコニーのドアが小さな音を立てて 閉まる・・。
黒の王妃への申し訳ない思い・・幼い自分を慕ってくれてるテインタル姫・・
最近では 赤ん坊だったアリシュア王子も まだ幼い歩きと上手くは喋れないものの
王妃達に連れられてやってきては 時にエリンシアの胸に抱かれて笑ったり すやすやと眠むたり・・
「エ・・エり・・姫 好き・・」王子は 王と同じ金色の瞳で見つめて
エリンシアの胸に抱かれて そう言って笑っていた・・
そう同じ金色の瞳
思わず、両手で 顔をおおう・・王妃達に対して 申し訳ない想い
涙が流れて落ちる・・
そして 自分は あの黒の王に 体も・・心も奪われた
「ねえ エリンシア姫は好きな御方がいるの?」テインタル王女との白の国の歴史などの勉強の後の
二人だけのお茶会の時の事・・
「最近 なんだか エリンシア姫は変わったわ 時々 うわの空で 恋する人の目になっている」
「まあ 王女様たら そんな事はありませんわ!」
まだ幼い少女であるテインタル王女に見抜かれるとは・・黒の王妃にも気がつかれたら どうしょうか・・
一瞬 戸惑いの顔になるエリンシアに 悪い事を聞いたのかしら・・と幼いながらも王女は思い
話題を変える・・
「私ね‥好きな御方がいるの・・」
「え・・?」
「異母兄妹である・・私の兄 黒の王子アーシュラン兄さま・・」ふっふふと頬を赤くして答える
「知ってる? 血の濃さを重んじる黒の王族は 異母兄妹なら 婚姻は可能で許されるの・・」
「早く・・戻って来てほしいわ・・お母様は アーシュランお兄様の事を嫌ってるけれど・・」
「じゃあ そろそろ 部屋に帰ります 今日は有難うございます エリンシア姫様」
ぺこりと頭を下げて 王女は部屋に戻っていった・・。
あのテインタル王女が恋・・しかも初恋が兄とは・・まあ 兄妹同士の婚姻が可能と言うなら
それはそれで 良いかも知れない・・同じ不思議な焔の色の瞳を持つ 兄妹
確かに 黒の王子アーシュランは まだ幼いながらキリリっとした美男子だった・・
少々 吊り上がった・・印象的な あの焔の瞳
あの黒の王妃の美貌を受け継いだ テインタル王女なら 美しい一対になるだろう・・
しかし・・黒の王妃は間違いなく猛反対するだろうが・・
そんな事をエリンシアは考えた・・
次の晩の事
いつものように開催される 黒の王達が主催する宴
宴には ほぼ恒例となった 毎度の羽琴の演奏ある・・
演奏の後
大貴族の一人と通り過ごしに 軽くぶつかった
「おや これは失礼」
「とんでもない こちらこそ・・あ、ヴァン伯爵」
「これは 城の国の羽琴の姫君・・エリンシア姫」
緩いウエーブのかかった黒の髪肩程に切りそろえ
黒い瞳の持ち主
黒いローブの服 私服はU型で 首元には着飾りの文様の入った服がラインのロープに縁どられている
腰のあたりで勝首元と同じのその上から ベルトかわりに縛って結んでいる
真金色の中の入た同じような細き金縁の細く入る紫色のルーブを 肩からななめに横からかけている
「最近は 時間も出来て またこの宴に出れましたよ 姫
貴方の演奏は いつも楽しみです」
「有難うございます ヴァン伯爵さま」
「では 向こうにいる大貴族の中の友人が待ってますので・・・また
次回の宴を楽しみしております 姫」
向こうの人だかりの中に入りに行った
ヴァン伯爵・・リュース公は あの人に気をつけなさいと言っていた
すると今度は・・
その本人 リュース公がエリンシアの元に来た
「これは リュース公様 アルテイア姫はお元気ですか?」
「ええ、元気ですよ 最近は魔法や剣の腕もメキメキと腕を上げてますよ
特に 水の魔法が素晴らしい・・・いや、これは 私も親バカですね」
「そんな事はありませんわ こちらの王宮で滞在されたときに見せてくれた
水の魔法は素晴らしいものでした」
「どんな 魔法でしたか?」
「水を空中に浮かせて その水が蛇のように くねくねと動いたり
水が 丸い輪になったりしてましたわ」
「ああ、あれですね ところで 姫 先程 ヴァン伯爵と御話されてましたが・・?」
「いえ、肩が軽くぶつかっただけで・・それから 私の演奏を褒めていただいた後
お友達の方に行かれました」
「なるほど...」
小声で エリンシアは問う
「本当にあの方は 危険な方なのですの?」
「ええ・・危険ですよ」微笑みながら そう話すリュース公
「また 黒の王の許可が頂ければ 私の城に 遊びに来てください アルテイア姫も
楽しみに待ってますよ それから 羽琴の演奏は相変わらず 素晴らしかったです
有難う エリンシア姫」
「では・・また 黒の王に要件があるので・・」
そう言って 立ち去った
見送るエリンシア姫
数日後の事・・
エリンシアは リュース公がプレゼントしてくれた魚 彼の領地で取れた魚 その魚料理を
一人で食事をしてる途中で 吐き気をもようして
トイレで慌てて 吐き出した・・
「調子が悪いのかしら・・?」
だが 度々 吐き気があった その原因は・・?
黒の王との二人でいる夜 黒の王の為に羽琴の演奏中 やはり吐き気をもようした
「申し訳ありません 王さま」
「調子が悪い? いや、そうか・・私の子を孕んだな」無表情に事もなげに呟いた
「!まさか!」
「いや 間違いない 先読みの私が言うのだから」
「・・・リュース公の元にゆくか?」
「え?」
「こんな事や戦が始まったら リュース公は 姫を預かると私と約束してくれた」
「そこで 子供を産んで 赤ん坊を彼に預けて そこで白の国へ戻るもよし
リュース公がそなたなら 再婚してもいいと言っている どうする?」
「白の国の人質として ここに残るのは私が選んだ運命です
他の方を また人質として 連れてくる事は出来ません」
「・・また そなたの子供 確かエイル、エルトニアといったな
その子が 再び人質として選ばれるか・・」ため息をついて 黒の王
「では リュース公の花嫁となるか
子供をリュース公に預けて また白の国の人質として黒の王宮で暮らすか?」
「・・・」
「まあ、ゆっくりと考えるがよい」
「・・はい おおせのままに・・」
「ところで そなたをまだ抱いても良いか?
そう負担をかけぬようにする・・」
「・・はい・・」
黒の王はエリンシアを抱きしめ 唇を重ねる
唇をかさなたまま エリンシアの服の帯を緩め 服を脱がす
白い身体が 王の目の前にある
エリンシアを抱え 寝床にそっと置き 自身の身体をゆつくり
そっと重ねる・・
金の髪を1つにまとめていたピンを取り エリンシアの豊かな美しい金色の髪
天蓋付きのベットに広がる
夜の月明りが二人を照らしていた・・。
それから数日後・・
ある時 竜の顔をした竜をそのままの姿で人したような男が、いや老人が
城を訪ねて来た
「これは 黒の王妃アリアン様 先日の宴では素晴らしい羽琴の演奏を有難うございました
エリンシア姫様」
彼は 以前 黒の王宮に同じ種族の戦士セルトと供に戦士として努めていたが
歳を取り 引退して 店を開いた
高級なレストランが1階にあり 2階は 宿になっていて
そのレストランには 彼の描いた絵画が飾られて 売られてるという・・
しかも 魔法の力が入った魔法画・・
ゴトンと連れの物達が運んできた品物を床に置く
大きな絵画が3枚・・
1枚は 黒の王達の家族の肖像画 もう1枚は小さくこれは エリンシアを描いた絵
最後の一枚は これも大きな絵で左右の違う瞳の4枚の羽を持つ白鳥・・
「2枚は 王様に頼まれましてな・・
1枚は 実は魔法画で 同じく似たようなテーマで描いた
絵があと2枚ありましてな・・絵の中の物同士がそれぞれ仲良しではあったのですが
黒の王が ぜひにと言われまして・・いえ 実この白鳥は貴方様をイメージして
描いた物なのですから・・」
ポンと軽く白鳥の絵に触れると 絵の中から 白鳥が現れた! 羽ばたき 柱の上の近くに留まり
それは美しい妙なる声で鳴き出す・・その声は まるで歌のようだった
「なんて 素晴らしい」
白鳥は うやうやしく頭を下げて 再び絵の中に戻った
「喜んでいただけて 何よりです・・ところで エリンシア姫様
戦士セルト殿の行方について ご存じありませんか?」
戦士セルト・・黒の王に以前使えていた者・・黒の王子アーシュランの実の母親と恋人同士で
その為に無実の罪で追放された者
「確か・・先日 リュース公がら聞いた御話なのですが・・何でもヴァン伯爵の元にいるらしいのです
首には魔法の呪文が刻まれた 太い金の輪を首につけ 無表情で 何も話さず 人形のようだったとか・・」
「まさかとは思いますが それは魔具・・魔法の呪文で 心を封じられてるのかも知れません
操り人形のように 命令以外は 何も受け付けずに・・」
心配そうに話す 竜の老人
「同じ種族は少なくて・・少々 心配しておりました・・まあ 消息がわかっただけでも・・」
「しかし もし 本当に 魔法で心を拘束されてるならば 何とか開放させてあげられるといいのですが・・」
「本当ですわね・・。」
「では・・私はこれで・・どうぞ息災で エリンシア姫」
「有難うございます お気をつけてお帰りくださいませ」
そうして竜の老人は 3枚の絵を残して 黒の王宮を後にした
エリンシアの肖像画が 彼女の部屋に飾られ 後の2枚は 白亜の柱の廊下の道に飾られた・・。
次の日の事・・
「ヴァン伯爵が?」 いつものように 部屋に訪ねて来た黒の王妃アリアンの為の演奏・・
羽琴の演奏を終えてからの会話の中で 王妃アリアンが 少し心配そうに話す
「ええ・・全く連絡が取れなくて 私の実家のある地域で取れる珍しい果実を
送ってもらおうとしたのだけれど・・何処かに出かけたらしく それがひと月にもなるの・・」
ため息一つ
「それは ご心配ですね 王妃様」
「そうね・・あら、そろそろ他の貴族の面会する約束の時間だわ ではまたエリンシア姫」
「はい 王妃様」
異変は 突然にその夜の遅くに始まった 悲劇の始まり・・
悲鳴の数々!剣を打ち鳴らす音! 火薬か魔法により 建物の石垣が大きく崩れる音
寝床から 飛び起きて
金の髪飾りに手紙やエイルたちの小さな絵が入った大事な箱を持って部屋を駆け出す
エリンシア姫付きの女官たちは見当たらない
どうしようかと思い悩んだが まずは 黒の王妃アリアンの元に行ってみる事にした
白亜の美しい柱の廊下は所々、壊れて 先日竜の老人が 持ってきた飾ってあったはずのあたりには
黒の家族の絵
その絵は炎に包まれ 焼けていた・・もう一枚の白鳥の絵は 見当たらない
どうやら 何者かに 持ち去られたようだった・・。
「王妃様!」部屋に飛び込むと そこには 槍で貫かれて 絶命していた黒の王妃が倒れており
まだ幼児だった 黒の王子 アリシュア王子 彼は首から上がない・・首なしの死体・・
哀れな骸となって床に転がっていた・・
近くに 黒の王である竜の王が身体中血まみれとなり 剣を杖代わりに 上半身だけ起こしていた
「王様!」
「・・白の国の裏切りだ・・彼らが守る 黒の国に通じる道にある城の城門を開いて
巨人族の軍を通した・・」
「・・すまぬ 少し日時を読み間違えた・・そなたと王女テインタル姫だけは助けたかったのだがな
そなたをリュース公の元に連れてゆき 王女もリュース公の元に・・
やはり残酷な運命から逃れなれない・・か・・」
ぐふ・・血を吐き出して そのまま 力尽きる・・
「王様! 黒の王様!お願い目を・・目を開けて・・!」瞳を閉じて みるみる冷たくなってゆく
「ああ・・そんな」涙が零れる
「おや!まだ獲物がまだいたぞ!」敵の兵士・・同じ黒の国の者と 大柄な巨人族の戦士
その中の一人・・無表情で立ちつくす竜の顔の異形の戦士 手には血まみれの剣
噂で聞いた おそらくあれが竜の戦士セルト・・
「先程 王女は捕らえたが・・ここにも いい獲物が・・クク・・」
「城の国の人質のエリンシア姫か・・ヴァン伯爵は 獲物を生きていたなら 少しぐらい
好きにしてよいと仰せになられた!」
「な・・なにを!」
捕らわれて 舌を噛まぬように 布で口元を縛られて 数人がかりで手足を抑え込まれて
「大人しくしろよ・・テインタル王女の無事を確かめたいだろう?」
服を半分破かれ 兵士に乱暴されて 気を失った・・
目が覚めた時には 牢屋の中だった 他の牢屋の部屋にはエリンシアと同じく 捕らわれた黒の貴族の娘や妻達
ほとんどの者は奴隷として売られたり 巨人族の奴隷として巨人族の国へ連れてゆかれた・・。
エリンシアは 牢屋の中で 孕んでいた王の子供を流産した・・。
身体が回復すると間もなくの事・・
夜・・風呂に入れられて後・・
ヴァン伯爵の寝屋に連れてこられた
「御身体の御加減はいかがですエリンシア姫?
ところで流産した子は黒の王かリュース公の子か?」
「・・・テインタル王女はご無事なのですか?」
「今はね・・無事でいてほしいなら 言う通りにする事だ・・」
「?」
エリンシアに近づく・・エリンシアの顔を指先で持ち上げ
ヴァン伯爵はくちづける
「! いや!」
「おや? 逆らうのか? いいのか テインタル王女がどうなっても?」
「・・先月 初潮を迎えたという・・もう立派な娘だ・・」
「テインタル王女は まだ12歳です!」
「ふふ・・あの美貌の黒の王妃譲りの美しい少女だ」舌舐めずりをする
「やめて!お願い!」
「では・・逆らわない事だ エリンシア姫」
エリンシアの服に手をかえて 彼女の腰布を緩めて 服を脱がす
「白の宗主の側室でもあったと聞く 楽しませてもらうぞ」
エリンシアの瞳から涙が零れ落ちる・・
一夜をヴァン伯爵と過ごし その次の朝・・
「そうだ・・楽しませてくれた褒美だ」
そう言って 小箱を渡す
エリンシアの小箱 リアンに貰った金の髪飾りにエイル達の小さな絵や手紙の数々が入っている
小箱を抱きしめるエリンシア
しばらくして・・数日後のある日の朝・・
エリンシアは魔法の火で 喉を焼かれた 悲鳴が上がる
エリンシアの身体の奥にしまわれてる白い翼は 無理やり引きだされ 切り落とされる
「数時間もすれば 痛みも引く 喉も背中も どちらの薬も用意はした
これからは無口で 従順に巨人の王に仕えるのだぞ」
数日をかけて 馬に乗せられて 巨人族の王の元に連れて行かれた
先導するのは ヴァン伯爵の操り人形となり 自らの意思を持たない異形の竜の戦士セルト
巨人族の王への贈り物の荷物の中には あの魔法画 白い白鳥の絵もあった
・・先に テイタル王女は 巨人族の国に向かったという・・
巨人族の国
そこは冬の季節の長い雪深い国だった・・
城は不思議な城・・大地にそそり立つ大きな骨を彫り上げて 城にしたのだという
骨は 先祖たる巨人のものだという・・
背の高い者も 大柄な者も多く 10メートルもの背丈の者もいた・・
今でこそ 人族とそう変わらない姿になったが
大昔は 山程の大きさの身体の者が多くいたという・・
人々は 赤毛や茶色の髪の者が多かった・・
赤毛の巨人族の王はエリンシアを大変、気に入り 自分の側室にした
「美しいオッドアイの瞳だ・・」巨人族の王は 楽し気に言う
毎晩のように エリンシアの身体を抱きながら
「羽琴の演奏も素晴らしいが そなたは美しい 白磁の肌に
オッド・アイの瞳に金の髪に 美貌とその身体 」
エリンシアの瞳には涙が浮かぶ・・
巨人族の言葉はまだ 分からなかったが 王が自分を気にいってる事はよくわかる
その後のある日の昼間近く
部屋でうたた寝していると 部屋のドアをたたく音・・
王の呼び出しだろうか? 身をすくませるエリンシア
現れたのは 赤毛で 優しい気な瞳の青年が立っていた
「はじめまして 白の国のエリンシア 私は王の従弟で アーサーといいます」
すらすらと流暢な黒の国の言葉で話かけられる・・。
「・・・」軽く頭を下げて 会釈する
「ああ・・知ってます 声が出ないそうですね」とアーサー
「私は 以前 黒の国に商人に化けて 潜入した事があって 黒の国の言葉なら
よくわかります 貴方に この巨人族の言葉や文字を教えるようにと 王に頼まれました」
「・・・・」
「早速 今日から 初めてもいいですか?姫?」
頷くエリンシア・・
毎日やって来て
彼は優しく 接してくれた ゆっくりとしたペースで
言葉や文字を教える・・
覚えの早いエリンシアは 瞬く間に 巨人族の言葉や文字を習得した
ある日 アーサーは言った
「もう完全に習得したようですね・・教える事はありません」そう言って微笑んだ
彼の その優しい瞳は 恋人だった男 エイルの実の父親を思い出させた・・
涙がこぼれる
・・・もう彼は来ないのだ・・。
エリンシアの涙に彼は
そっと肩に手をおき・・優しく抱きしめる
「・・・貴方の事を好きになってもいいですか?エリンシア姫」
エリンシアは頷く 涙を流すエリンシアにそっとくちずけをする
「・・また 理由を作って 会いに来ます・・エリンシア姫」
部屋から彼が出てゆき エリンシアは一人残される・・
夜には また あの巨人族の王に呼び出されるのだ・・
エリンシアは涙を流しながら 再びアーサーに会えるのを祈るような思いで待つ事にした
白の国にいるあの懐かしい人達はどうしているだろう・・
義兄様・・リアン殿・・そして我が子 エイル・エルトニア・・
それに・・テインタル王女・・
この巨人族の国にいるというのに どうしているのか 全くわからない・・
会いたい・・どうしているだろうか? 無事なのだろうか?
酷い事をされてないように ただ 祈る事しか出来ないエリンシアだった
ひと月後・・アーサーは約束通り訪ねて来た
それから土産だと言って 手に入れる事が難しい白の国の果実や ちょっとした白の国の料理を
持参して ご馳走してくれた・・
「遅くなってしまって 申し訳ないエリンシア姫 あの後
ヴァン伯爵に会う為に また黒の国に行っていたんだ・・」
ヴァン伯爵の名前に ぴくんと反応するエリンシア
「どうしましたエリンシア姫?」
首を横に振り 何でもないとジェスチャーするエリンシア
数時間後・・アーサーは
「また必ず 来ます」エリンシアにくちずけをした後 約束して 去っていた・・
そんな僅かな救いと・・残酷な日々の中
一年後 やっとエリンシアはテインタル王女と再会した
テインタル王女に会っても 紙に書いたりして執談での会話は禁じられた
それとある事実を告げられた・・・テインタル王女は記憶を無くし
巨人族の王に従うようにと 魔法の呪文を身体に入れ墨として 入れられたという・・
今は アムネジアと呼ばれているという・・
無表情で立っているテインタル王女・・
もう15歳の歳を迎えてる・・。
エリンシアは心の中で 思った・・なんて大きくなった・・そして
あの美貌の黒の王妃にますます似てきた
エリンシアは 私のような惨い扱いを受けないようにと 祈った・・。
「・・貴方が エリンシア?」
頷くエリンシア・・
「私がなくした記憶の中に貴方はいるのね・・そう」無表情のまま 話をする
テインタル王女・・今はアムネジア・・
肩から わずかに見える 彼女の身体の入れ墨
「・・どうでもいい・・貴方がどんな人だとは・・
王の側室で夜伽をしてると聞いたわ 可哀そうね」
「・・・黒の王宮の陥落の時に兵士達に乱暴され ヴァン伯爵にも弄ばれた事も
聞いてるわ・・」
無表情で 話をするテインタル王女ことアムネジア
「・・・・」見つめて涙を流し テインタル王女を思わず抱きしめるエリンシア
黙って されるがままにされて・・しばらく後
「また、会ってもいいかしら・・?貴方といると 記憶が蘇るかも知れない」
「じゃあ 私はこれで・・戦士としての訓練を受けてるの
体術に 剣や魔法の訓練・・王は とりあえず私を間者として 使うつもり・・」
「だって・・王が私を抱こうとしたら 無意識に魔法が暴走して 炎の魔法で
王にケガを負わせて 私を押さえつけていた王の侍従を焼き殺してしまったですものね」
「・・・」エリンシアは黙って聞いていた・・
なんて事!でも 炎の加護が 王女を守ったとは・・
そういえば・・以前 王が包帯を巻いていた事があった・・。
「・・確か 口はきけないのよね 喉を魔法で焼きつぶされて 声が出ない事も
背中の白い翼も切り落とされた事も聞いてるわ」
「じゃあ また・・」そのまま王女は立ち去った・・
日々は 残酷に過ぎ去り・・時だけが流れて行く・・
寒い 冬の国 巨人族の国・・
ある時 突然に変化は起こった・・。
アーサーが戦で 大きな手柄を立てたのだ
「褒美は?何でも願いを叶えるぞ」王は言う
その言葉に彼は 思いきって 願いを言った
「王の側室 白の国のエリンシア姫を私に下さい!」
しぶしぶならがら 王は アーサーの願いを叶えた・・。
エリンシア姫の部屋に向かい そして ドアも叩かず
部屋に飛び込む
「エリンシア姫!」嬉しそうに彼は彼女を抱きしめる
そして 今 戦で手柄を立て その褒美として
王がエリンシアをアーサーの花嫁になる事を許したのだと話した
「エリンシア姫・・私の花嫁になってくれますか?
・・それとも 白の国に帰りたいなら・・」そう言いかけたアーサーの口を塞ぐように
エリンシアは アーサーにくちずけをした・・。
アーサーは 両親と弟を流行り病で亡くして 今は彼に仕える執事や召使数人と暮らしている
エリンシアは彼の元に嫁ぎ 数人の友人達と 子供のいない優しい叔父夫婦に見守れて
ささやかな結婚式を行う・・
エリンシア姫の事は誰もよく知っているのだが
誰もその事を口にせず 優しく アーサーとエリンシアの幸せを祝福してくれた
その夜 彼と結ばれ
穏やかな日々が 訪れる・・
しかし・・間もなく エリンシアは懐妊した事がわかった
子供の父親は 王なのかアーサーなのか わからない・・
赤毛の子供・・アーサーも王も同じ赤毛・・
だが アーサーは生まれた子供を我が子として可愛がった
アーサーは しばらく後 また間者として 黒の国へ旅立った
彼の召使たちに助けられながら赤ん坊を育て アーサーを待つ日々の中・・
ある時・・アムネジア・・テインタル王女が訪ねて来た
「エリンシア姫・・私ね やっと記憶を取り戻した」微笑む王女
今度はアムネジア・・テインタル王女の方がエリンシア姫を抱きしめた
「・・・貴方の故郷の白の国へ帰りたいでしょう? 貴方の大事な人達がいるわ」
エリンシアは心の中で 思った
いいのです・・貴方が記憶を取り戻しただけでも
私には 幸いです・・
二人は互いに抱きしめあい 涙を流した
丁度 その時だった アーサーがやっと黒の国から帰ってきたのは・・
その夜は夫であるアーサーを交えて 羽琴の演奏に それに食事をした
アーサーは 土産にと黒の国と白の国の食材が手に入れ
黒と白のそれぞれの料理がテーブルいっぱいに並んだ
皆 微笑み 幸せな時間を共有した・・。
会話の中で アーサーが思わぬ話をした
黒の国は 執権として黒の国を治めていたヴァン伯爵を殺して
黒の王子アーシュラン リュース公やアルテイシア姫に
開放され 王子に従う戦士セルト達により 黒の王国は奪還され
王子アーシュランは 火竜王と名乗り 黒の王になったという..
王女が・・テインタル王女が黒の国に戻れたらいいのに・・降りしきる雪を窓越しに見ながら
思うエリンシア
それは 少し前の出来事の御話・・
黒の国では・・
黒の国 元の黒の王宮では そこで暮らし 執権として黒の国を治めてたヴァン伯爵
ヴァン伯爵は黒の王子アーシュラン達に追い詰めれて この黒の王宮の中で
今にも殺されそうになっていた・・
王宮は所々 燃えて また酷い有様だった
「聞きたい事がある・・ヴァン伯爵」
リュース公が鎧を身に纏い リュース公が持つ血まみれの剣を
大きな怪我を負ったヴァン伯爵に突きつける
そこには 黒の王子アーシュランと戦士セルトがいた・・。
「聞きたいのは 死体が見つからなかった テインタル王女とエリンシア姫だ
彼女達は 無事なのか? 巨人族の王の所か?」
「・・私は知っているぞ!エリンシア姫に乱暴したという話・・」
冷静に リュース公は言う・・
「・・ハハッ・・最初は その戦士セルトの目の前で この黒の王宮で 私の兵士達が犯した・・
その頃は 魔法具で 心を封じていたからセルトは覚えてはいないだろう」
顔色を変えるセルト・・
アーシュランがセルトの心を封じていた ヴァン伯爵に従うように作られた魔法具を壊して
そのセルトを解放して セルトがアーシュランに忠誠を誓ったのは ほんの数か月前の事・・
「その後で 私が姫を抱いた 美しいオッド・アイの瞳に金の髪 白い美しい美貌に身体
素晴らしい夜だった!抱かれて泣いている様も美しかった・・」
「・・・」無表情で立ちつくすリュース公 アーシュラン達も黙って聞いていた
「エリンシアは 懐妊してた あれは 黒の王の子か? それともお前の子か? リュース公?
何度も犯してやったから 子供は流産したが・・」口元から血を流しつつクククッと笑う
「・・私の子供だ・・」リュース公は言う
「そうか!あはは!」笑うヴァン伯爵
「テインタル王女の事は知らない・・兵士に殺されたのでは?
エリンシア姫は 私や兵士どもに乱暴され 子供を流産して まもなく
ある晩 牢屋の中で息耐えた」
「エリンシア姫の亡骸は?」
「あの樹海 パンプローナの森の奥に捨てた・・死体は獣に食われて もう探し出せぬだろうさ・・」
ヴァン伯爵にリュース公は 剣を突き刺し まず手足を切り落として
悲鳴をあげるヴァン伯爵にとどめを刺すリュース公
肩で息をつきながら・・リュース公は言った・・。
「どうか 今 丁度 この場にいないアルテイシアには ご内密に・・
エリンシア姫は私の花嫁になる御方でした」
「アルテイシアもたいそう姫を気にいって 母と呼んでもいいと 以前話をしておりました」
悲し気に リュース公は言う・・
「・・白の国の噂話で聞いた事がある・・エリンシア姫はエイル、エルトニアの本当の母親か?」
アーシュランは問う
「・・さあ・・私は知りませぬ」何故かリュース公は真実を知らぬふりをした
「・・そうか・・いずれにしろ エイルの実の叔母で エイルが
とても慕っていたとエイルの父親から聞いていた・・ この話は 伏せておこう・・」
「・・やる事がいっぱいだ リュース公 セルト
この黒の王国を完全に取り戻し
黒の王宮をはじめ 城下街の壊われた建物を復旧させ
奴隷として売られている黒の貴族の子供や妻達を助けだす・・
巨人族に連れて行かれた者達は 救い出せないが・・」
アーシュランは言う
「それに加えて 戴冠式をされて 正式に黒の王とならねばなりません王子」リュース公
「ああ・・そうだなリュース公」アーシュラン
「・・ところでヴァン伯爵の家族や縁者はどんな処分を・・?」リュース公
「ヴァン伯爵は 前の黒の王妃アリアン様の実家でもある・・。」
「自害したもの以外は 命だけは助けてやろう・・」
「・・ずいぶん 寛大な措置ですね よろしいのですか?」
「・・黒の王妃アリアン様の為だ・・」
「あんなに アリアン様には 酷い目にあわされたのに・・?」
「・・俺は あの人が好きだった・・本当に美しい人だった
俺が王の庶子でなかったら・・
その事実を知らぬ僅かな間だけでは あの人はとても優しかった」
出会って わずか数時間だけの間の出来事
タルベリイがその事実を黒の王妃知らせるまでは・・
そのわずかな時間だけは・・美しいあの人は 微笑んでくれた・・
アーシュランが優しく類まれなる美貌の黒の王妃アリアンに
心奪われるのには 十分な時間だった
そして・・テインタル王女・・
人族の血を引く俺を慕ってくれた 美貌の黒の王妃アリアンによく似たあの王女・・
美しく可愛らしい笑顔を見せた少女 俺の異母兄妹 妹・・
「アーシュラン兄様が好きよ・・」そう言ったテインタル王女のあの笑顔を思い出す
そして 父親である 前の竜の王黒の王
片方だけの金色の瞳で 見つめながら 別れ際に「・・お前は生き残る」と言った王
子供の頃の・・ あの頃は信じなかった
きっと白の宗主か巨人族か誰かに 処刑されて殺されると思っていたが・・
・・哀れな最後を遂げた 白の国からの人質・・エリンシア姫
一度だけの束の間の出会い・・エイルによく似て 穏やかで優し気な風情の美しい姫・・
エイルと同じ美しいオッドアイの瞳・・
羽琴の姫君・・
アーシュランは大きく息を吐く
「アーシュラン様! お父様! セルト!」別の場所で戦っていたアルテイア姫がやって来た
「では 先程の件は・・どうぞ内密に」とリュース公
「ああ・・わかってる」アーシュラン
「セルトも・・」振り返ってセルトを見ながらアーシュランは言う
「はい・・承知しました」セルトは答えた
巨人族の国では まだ長く寒い冬の中だった 雪が国中を覆う・・。
エリンシアは 暖炉で暖まりながら 椅子に座り 温かなミルクで作ったシチューを食べていた
「今度 大きな戦がある・・」アーサーは言った
「・・・・王は 貴方に 私が戦に行ってる間 王の城に戻るようにと・・命令された」
「・・・」もしや・・王は また私を?そう思い 顔色を変えるエリンシア
「・・王命には逆らえない・・」少し震えて自分の手を握り締めるアーサーもそう思っている様子だった
次の日 荷物をまとめ
赤ん坊を 子供のいない叔父夫婦に預け アーサーは戦場に
エリンシアは 巨人族の王の居城に向かう
別れ際 エリンシアとアーサーはくちずけを交わす・・
王の城で迎える際 最初の夜 エリンシアは王に呼び出され
羽琴の演奏の後で ベットに押し倒され 乱暴された・・
ただ 泣いて 耐えるしかないエリンシア・・
また あの悪夢の始まりだった・・。
時折 訪ねてくる アーサーの優しい叔父夫婦に自分の子供・・彼の友人達・・
なかなか 会えないが テインタル王女・・アムネジアの再会が 救いだった・・
成長する事に 美貌の黒の王妃にますます似て美しくなるアムネジア(テインタル王女)
それに 自分の小箱・・ リアンに貰った金の髪飾りに 白の国の皆の絵
エイル、エルトニア幼い子供姿の絵・・
エイル‥エルトニアはどっちの性を選んだのだろうか?
もしかしたら リアンの花嫁になったかも知れない・・
ところで 戦の事だが・・
白の国の侵略は 突然現れた 黒の国の王‥火竜王の援軍により
巨人族は敗退して
その戦いの中で アーサーは行方不明となり 戦からは 帰還しなかった・・
毎晩のように 王に呼びされて 辛い毎日を送る・・ひたすらアーサーの帰りを待った
・・救いのない 絶望の日々・・
ある時・・ようやく待ち望んでいた事が起こる・・
アムネジア(テインタル王女)に伴われて アーサーが現れた・・。
「あ・・アーサー!」
「戻ってくるのが 遅くなってすまない・・エリンシア!」
そう言って エリンシアを抱きしめるアーサー
「ずっと 生き残った者達とともに 捕虜として黒の国の収容所に囚われていた・・
ずっと前の戦 一度 黒の国を滅ぼして
その時に奴隷にする為に この巨人族の連れていった黒の国の人間や貴族達
多くは 女たちだが・・その者達と交換で 他の捕虜達とともに 戻って来れた・・」
「・・・」抱きしめられたまま 話を聞きながら 涙を流すエリンシア
「・・本来なら エリンシア・・お前も・・戻る事も・・」
首を振るエリンシア そっとアーサーの唇に 自分の唇を重ね
アーサーを見つめる
「エリンシア姫・・私の大事な羽琴の姫・・
私 貴方にお土産があるの!」
アムネジア(テインタル王女)が声をかける
「これよ・・」差し出されたのは二枚の小さな絵
そこに描かれてたのは 三人の男女の絵と一人の青年の絵
一人の青年は淡い金の髪に 青の瞳の優し気な瞳の青年 その面影に見覚えがある
リアン! リアンだった
「白の国の武官リアン殿・・騎士となった彼は ある時に戦で片腕を失ったそう・・
今は エイル・・エルトニア姫の傍に居たいが為に 白の国の使節の一人として黒の王宮に
滞在してるわ・・」
あのリアンが 片腕を・・! それに何故?黒の王宮に? エイルが あのエルトニア
あの子が・・なんて?
驚くエリンシアに 事細かく 事情を説明するアムネジア
「先の巨人族が白の国に侵略戦争をしたでしょう?
あの時 何故 白の国の裏切りで 黒の国は滅ぼされたのに
白の国を助ける為に 巨人族の軍と戦ったと思う?
たった一人の為よ・・たった一人の人を助けたかったのよ アーシュラン兄様は・・
アーシュラン兄様は 白の国に人質として滞在した時に エイル・エルトニアと出会い
恋をした・・
その恋の為に お兄様を助け 黒の国の再建に大きな手柄のあったリュース公とリュース公の姫
あのアルテイシアとの婚約を拒み続け、白の国の危機を知るなり
皆の大反対を押し切り 自ら軍を引きいて 白の国を救った・・
その見返りに エイル・エルトニア姫を望んだの・・
花嫁になる事は 彼女に断られたので ひとまず 貴方のように・・
白の国の人質・・平和使節として 黒の王宮に滞在している・・
そのうち 黒の王妃になるでしょうね・・。」
その時 エリンシアにある記憶がはっきりと蘇る・・。
その・・あの晩 先の黒の王・竜の王 私を抱いた王は言った
夢うつつの中で聞いた・・あの言葉・・
「そなたの実の子供・・エイル、エルトニアはとても面白い運命をたどる・・。
息子のアーシュランと深く結ばれる運命とは・・な・・。」
とうの昔にエリンシアに触れて、エリンシアの過去を そしてエイル、エルトニアの未来を・・
過去見の力と先読みの力を持った あの方は そう言った・・。
「ああ、エイルとアルテイシアはとても仲が良いそうよ
エイルがアルテイシアの為に リュートを弾いてあげたり アルテイシアはよく黒の王宮を訪ねたり
少し前に 自分の湖畔にある城にエイルやリアンを招いて宴をしたそうよ・・・
・・アルテイシアは アーシュラン兄様の事は諦めてないらしくて
第二王妃の座を狙ってるみたい・・との噂話を聞いたわ・・。」
首をすくめるアムネジア・・
「そちらの絵は 今のアーシュラン兄様とエイル・エルトニアにアルテイシアよ」
三人の人物の絵・・
若い男性が左側に立っていて 真ん中に置かれたソフアに二人のまだ17,8歳の娘が
二人仲良く座っている
長いウエーブのかかった金の髪と・・
ストレートの長い耳元の辺りで左右の横の髪を少し切っている黒髪の少女
金の髪の少女は長いウエーブのかかった髪をポニーテールにしている
大きな瞳の・・青と金に近い茶色のオッドアイの美しい少女
白を基調とした 裾の短い服を着ている・・胸元には 大きな金の飾り
裾には 金ラインの裾飾り・・
これがエイル・・エルトニアなのね・・涙ぐむエリンシア
長い黒髪の少女は あのアルテイア姫・・
アーモンド型の大きく少し吊り上がった瞳・・
淡い緑色の刺繍の入った 裾の短い服
大きめの胸元には少し開いて見えて 金のエメラルドの宝石の入ったネックレス
左の人物 黒髪の青年 吊り上がった瞳
精悍な顔立ち・・
あの不思議な焔の瞳・・王女テインタルと同じもの
黒髪は肩より少し長い髪を紐で縛っている 金の輪を 頭に被り
金の縁取りをされた黒い服を身につけ
肩に深紅のローブを斜めにかけて
その深紅のローブにはの辱に細長い金模様のライン状のものがついている
腰には 同じく深紅の布で ベルト代わりに縛ってる
彼女二人を守るようにソフアの傍近くに立っている・・
三人とも・・ いや四人ともそれぞれ 幼い頃の面影がある・・。
黒の王・火竜王となったアーシュランとは
ほんの少し会っただけだが 白の国に向かう馬に乗った 寂しげな後ろ姿
印象的なテインタル王女と同じ不思議な美しい焔色の瞳
忘れられない・・
我が子 エイル・・エルトニア・・
なんて 愛らしく美しくなって・・
本当に 黒の王の花嫁になるのだろうか・・?
語学は苦手だったが 今は黒の国の言葉はマスターしたのだろうか?
楽器の演奏は 私が教えてあげて 竪琴やリュートは上手だった・・。
リアン・・可哀そうに片腕を無くしたとは・・あの頃のまま 大きく立派な青年になった
しかし・・武官になったとは・・確かに剣の腕も 魔法も上手だった
幻獣を従わせる呪歌は 幼い頃から 素晴らしかった
しかし、もう片腕では演奏は出来ない・・
あの女騎士でケンタウロスのレグルスはどうしているだろう?
彼を守って 今は黒の王宮にいるのだろか?
アルテイシア姫・・
活発で 勝気そうで 優しい一面を持つ 綺麗な姫・・ますます美しくなった
水や風の魔法も剣の腕も良いとリュース公は褒めていた・・。
リュース公はどうしてるだろう?
全ての事情をした上で 黒の王の子を身ごもった私を花嫁に迎えると言ってくれたあの人は?
エリンシアは二枚の小さな絵を胸元で抱きしめる
そして ドアをノックする音・・
エリンシアの幼い子供
「母様!」 胸元に飛び込んできた
その子を代わる代わる エリンシアとアーサーは抱きしめる
その様子を嬉しそうに見るアムネジア・・
その後の事・・巨人族の王は エリンシアを手放したくはなく
月のうち 十日間は 王宮に滞在するようにと命令された・・。
十日間・・また王の玩具になる・・。でも残りの日々はアーサーや子供と過ごせる・・
辛い気持ちはあるものの・・
その夜 アーサーの屋敷に帰宅して 皆で食事を楽しむ・・
アムネジア・・テインタル王女は 白の国と黒の国の食材も持参していた・・
その食材で 沢山の料理が作られ それぞれ食事を楽しむ・・
会話が続く・・もちろん喉を潰されているエリンシアは喋れないが・・
ニコニコと笑っている・・。
食事の後は 羽琴の演奏するエリンシア
次には アムネジアがリュートを演奏した・・
見事な腕前だった
拍手するエリンシアとアーサーと幼いエリンシアの子
アムネジアは・・その夜は 屋敷に泊まっていって 昼頃 名残惜しげに 去っていった。
しばらく後に またエリンシアは懐妊した・・
その子は 無事に産まれた・・
そして・・上の子と同じく 父親は王なのかアーサーの子なのか分からない
それでもアーサーは その子も愛してくてた・・。
日々は変わらずに 過ぎてゆく・・残酷な地獄の日々と愛する夫アーサーと子供達と過ごす日々・・
時折 訪ねてくるアムネジア・・テインタル王女は いつも白の国と黒の国の食材を土産に
持ってきた・・
そして・・彼女が知りうる 黒の王宮の話や エリンシアと縁深い人達 エイル・エルトニア
リュース公 アルテイア姫 リアン・・ 黒の王アーシュランの話をした
アムネジア・・テインタル王女は 今だ・・いや もう彼女と同じ血族は 黒の王アーシュランと
二人しかいない・・・
幼い頃 私はアーシュラン兄様が好き・・黒の国で王族は兄妹婚は可能だと話していた・・
今も恐らく 彼に深く恋してるのだろう・・。
類まれなる美貌・・先の黒の王妃アリアンによく似た 美貌の娘・・
可哀そうに・・。
訪ねてきて いつも ほんの少しだけ滞在するアムネジア・・
彼女を見送りながら・・エリンシアは思った・・。
ある夜・・
巨人族の王は エリンシアを抱きながら
「白の王族は 長寿で あまり歳をとらぬという・・確かに そなたは 昔と変わらず
変わらず 美しい・・」
早く 朝にならないか・・明日の朝はアーサーの待つ屋敷に戻れる日
ただアーサーの事を想い ひたすら耐えた・・。
ある時 エリンシアは 自分の体調の不調に気が付く・・
まもなく 少し吐血した・・
エリンシアは その事を誰にも言わず 黙っていた・・。
数日後・・
アーサーにこう言った・・
一枚の紙を手渡す
アーサー 私の貴方・・お願いがあるの・・と書かれてる
「?何だい エリンシア」 子供をあやしながら アーサーは文章を読んで聞く
続けて紙に文章を書く
もし・・私の身に何かあったら 私の小箱 この中の金の髪飾りと
アムネジア様から頂いた 三人の絵・・あの黒の王の描かれた小さな絵を
アムネジア様・・テインタル王女様に差し上げてください
残りの絵と手紙は私と一緒に葬ってくださいませ
今の黒の王とは 王女の異母兄妹・・黒の国では仲が良かったとか
「なんで・・そんなことを? 体調がよくないのか?」心配そうにアーサーは問う・・
問われて 紙に文字を書く
いえ‥何でもありません 大丈夫ですわ・・ただ・・ちょっと気になっただけです
エリンシアは微笑んだ
それから・・間もなくの事であった
・・エリンシアは 突然 倒れ まもなく息耐えた・・。
アーサーと残された子供達は泣いた・・
そしてアムネジアも・・
エリンシアが望んだとおり・・金の髪飾りと黒の王が描かれた小さな絵は
アムネジア・・テインタル王女に渡された・・
アムネジアも涙を流し・・それを受け取った・・。
そして・・こちらは 黒の王宮
エリンシアが残した小さな竪琴が 窓辺に置かれている部屋
そこは リアンの今の部屋・・。
リアンの滞在する部屋に エイル・エルトニアと・・リュース公が訪ねて来た
「エイル! それにお初にお目にかかりますリュース公 白の国の武官リアンです
リアンは片腕・・ 残された左手を差し出した
「ようこそ・・リアン殿 先日 私の娘アルテイシアと酒の飲み比べをされたそうで
なかなかの酒豪とはお聞きしておりましたが・・こんな美しい美丈夫の青年とは・・」
少し照れ臭そうに 微笑むリアン・・
「あ、リアン兄様! 僕・・じゃない私 アーシュとセルト将軍に会う約束があるからこれで・・
また 来るね・・ ではすみません・・リュース公様 失礼します・・
アルテイシア姫によろしくお伝えくださいませ・・」
エイルが立ち去る・・
「エルトニア姫は本当に愛らしく美しい方ですね・・」
「ええ・・美しく成長しました・・」
「! ところで その窓辺に置かれた小さな竪琴は?」
「ええ もう片腕で奏でる事も出来ないのですが・・
亡きエイルの叔母である 羽琴の姫君 エリンシア姫に頂いた物で・・
エイルに渡すつもりで 持参したのですが なかなか 渡す機会がなくて
さっきも 渡しそびれましたし・・」
「そんなに大事なものなら たとえ奏でられずとも お持ちになれば良いでは
ありませんか・・」
「そうですね・・」
「・・エリンシア姫は エイル様の実の母君だとか・・」
「! 何故それを?」
「先読みと過去見の力がある 先の黒の王 竜王がエリンシアに触れた時に知って
それを私に教えてくれました・・
ああ・・エイル様には 申し上げませんので ご心配なく・・」
「その代わりと言ってはなんですが・・もう貴方様はご存知だと聞きました・・
黒の王アーシュラン様が 怪我を負った際
治療の為の魔法薬の副作用で 子供の姿になり 記憶も無くしたという話は
白の国には内密に・・」
「わかりました リュース公・・」微笑むリアン
「それと・・もう一つお願いが・・リアン殿」
「何でしょうか?」
「エリンシア姫様の姿を描いた絵があれば しばらく御貸し頂けませんか?
あの方は 私の花嫁となる約束を交わしていたのです・・アルテイシア姫に白の国の言葉や文字を教えたりして頂き・・アルテイシアも
大変 慕っていて、あの御方なら 母と呼んで言っておりました・・
それに・・」
「・・それに?」
「私の子も身ごもっておられました・・。」
「!!」
「・・わかりました・・白の国の私の屋敷に沢山 エリンシア姫の肖像画がありますから
それを一枚取り寄せ 差し上げます・・」
「よろしいのですか? 絵師に描き写させますよ?」
「構いません・・」微笑むリアン
「有難うございます・・では 今日はこの辺で・・またを後日
エリンシア姫様の御話でも・・」
「ええ・・そうですね・・ところで・・お急ぎですか?」
「いえ そうではありませんが・・何か?」
「・・・エリンシア姫は 先の戦争の際 黒の王宮から行方不明となりました
その後の消息は そちらでは 何かわかりませんか?」
「・・・いえ 何も・・」
あのヴァン伯爵を殺した際 ヴァン伯爵が言ったエリンシア姫の最後の話は
リュース公はしなかった・・
黒の王アーシュランが記憶を無くした今は・・その話を知るのは
リュース公とセルト将軍のみ・・
後に リュース公達は 本当の真実の話・・エリンシアが巨人族に囚われ
どのような最期を遂げたかは・・後々に知る事となる・・・。
「そうですか・・ すみません・・」
「いえ・・謝らずとも・・エリンシア姫様とは親しかったのでしょう・・」
「私は 白の宗主の愛妾の子で・・同じく白の宗主の愛妾であった姫は
私の亡き母にも 私にも 大変優しく良くして頂きました・・」
「今度 その御話をお聞かせください・・私も黒の国での過ごされたエリンシア姫様の御話を
いたします・・
宜しければ 娘のアルテイシアも連れてきても?」
「歓迎いたします リュース公」
「では・・必ず・・そうそう 私の領地で取れる魚や 酒も持参いたします」
「それは有難いです リュース公」
「湖畔の中にある私どもの城にもご招待いたします
アーシュラン様やエイル様もぜひ ご一緒に・・」
「それは素晴らしい 美しい城だと 聞いてます
楽しみにしておりますリュース公」
「エルトニア姫様と同じオッドアイの美しい瞳と美貌・・
羽琴の名手 羽琴の姫君・・
優しく素晴らしい方でしたね・・またお会いして あの御方の御話をするのを私も楽しみにしております」
リュース公も微笑んで そう言いった・・
「ではまた リアン殿」リュース公は立ち去った
リアンは窓辺に置かれた エリンシア姫の形見である 小さな竪琴に触れ
指先で 弦を弾く・・
変わらず・・良い音で鳴る・・
両手があった頃・・よくこの竪琴を奏でた・・
その頃は あの白銀の髪をしたケンタウロスの美しい女騎士レグルスも
生きていて 彼女と二人 酒を飲んだり 演奏を聞かせたりした・・
そして 今は亡きエリンシア姫・・
彼女の事を思い出す リアン
窓辺の春の穏やかな風に リアンの淡い金の髪がほんの少し乱れる・・
木々にいる小鳥のさえずりに耳を澄ますリアン・・
懐かしい思い出が 走馬燈のように 駆け巡る・・
あの懐かしい穏やかな日々の事を・・
FIM