ホットチョコレートと甘党
感想頂くことが出来ました。ありがとうございます。
すごくうれしかったです。
世間的には節分が終わった瞬間から、もうバレンタインの時期らしい。
雪がちらつくような寒い日。俺は街中にあって、ひと際目を引くバレンタインキャンペーンとバレンタイン限定商品の宣伝を目にして、うんざりする。
いや、バレンタインや甘いものが嫌いなわけじゃない。むしろ大好きだ。
甘いものは単純にうまいし、バレンタインも、その日が過ぎればちょっと高かったチョコなどが、手を出せる範囲まで値段が下がることもある。それは良い。とても良いことだ。
だが……いや、だからこそ! 俺は飲食店のバレンタインキャンペーンは許せなかった。
「何でうまそうなものほど、女性限定やら、カップル限定なんだよ……」
その強い感情とは裏腹に、体は項垂れながら歩いている。
それから30分ほど過ぎ、もう大通り沿いの店は粗方見てしまって、今は少し外れた場所を歩いている。
もう冷たくなってしまった体を、温められればそれでいいかと思い。近くですぐ入れる店を探していると、
”バレンタイン、男性限定セットメニュー”と書かれた、小さいチラシが貼ってあるお店が目に留まった。
もう、どこでも良くなっていた店選びに、男性限定という言葉が背中を押し、バーと喫茶店を足して2で割ったような店に足を踏み入れる。
「いらしゃいませ、お好きな席へどうぞ。」
と、男性とも女性とも取れる声が放たれる。
俺は、カウンター席でドア風が当たらない場所に座り一息つき。店内の暖かさに緩みそうになる顔を引き締める。
そして、奥から聞こえる、奥様方の会話にちょっと埋もれるような声で注文する。
「バレンタインの男性限定セット1つ」
「かしこまりました。」
カウンターから、まだ若く見た目で性別がわからない店主の作業を、ボーっと見つめている。
しばらく経ち、店の奥から誰かが立ち上がるような、椅子の音が聞こえてすぐ。
「お待たせしました、こちらご注文のセットです。」
と、店主が先ほどやった俺の注文の仕方に合わせたであろう声量で、メニューの名前をぼかしながら、俺の前にバレンタインセットを置く。
男性限定セットはホットチョコとチーズケーキ、それに少量のチョコソースが小皿とスプーンで付いてきた。
俺は、ホットチョコとチーズケーキを口にして驚いた。
甘さ控えめのチーズケーキと、ホットチョコの組み合わせはわかる。が、ここのホットチョコは他のお店のものよりも飲みやすく、チーズケーキも追加のソースを付けると、一気に大人向けのケーキへと変貌した。うまい。
俺が夢中になって食べていると、いつの間にかすぐ横の席に4才ぐらいの子供がすわっていた。
「チョコってそのまま飲んでもおいしいの?」
その子は、ホットチョコを溶かしただけのチョコだと勘違いしたのか、俺を不思議な人を見るような目で聞いてきた。
「いや、これは、ホットチョコっていう飲み物で甘くて美味しいんだよ。お父さんかお母さんはここにいるの?」
俺は、久しぶりに引いた当たりメニューに気分が良くなっていたのか、一杯ぐらいならこの子にホットチョコをあげてもいいかなと思い、この子の親をさがす。
「おかあさんなら、向こうでつまんない話をずっとしてる。ず~っとね!」
「ああ、そうなのか、それに付き合うなんて、子供も大変だな。」
「まったくだよ、つまんない。」
そんな会話をしていると、カウンターから店の奥、奥からカウンターと移動していた店主が、ホットチョコを二人分持ってきた。
多分だが、奥でこの子の母親と少し話をして来たのであろう。
「どうぞ、サービスです。」
と、言って俺にアイコンタクト。一瞬後、お互いにうなずき合う。
「ありがとうございます。ほらお前もお礼言って、やけどしないようにゆっくり飲むんだぞ。」
「うん、ありがとう。」
子供は笑顔で、少し冷ましながらホットチョコに口を付ける。
俺は、ホットチョコのおかわりが出来て気分よく口を付ける。
店主はその様子を見て微笑んでいる。
「ホットチョコおいしいね、チョコだけどチョコじゃないみたい。これ好き。」
「そうだな、俺もここのホットチョコ好きだな。」
子供の素直で真っ直ぐな言葉に釣られて、俺も同じように言葉を重ねる。
「でも、おじちゃんはかわってるね。‘大人の男の人は甘いものなんて食べない‘って、家でおとうさんが言ってたし、お店でも大人の男の人ってぜんぜんいないのにね。」
ゆっくりホットチョコを飲んでいると、唐突に子供の興味の矛先がこっちに向かってきた。
あと、まだおじちゃんって年じゃない。まだ三十路前だ。
「まあ、確かに俺はちょっと変わってるかもな、他の人より甘いのも好きでよく食べてる。でも、やめられないね、甘いものうまいし。」
「うん、おいしい。でもやっぱり、おじちゃん変わってるんだね。だから一人で食べに来てる。」
「一人でも、うまいものはうまい。でも、久しぶりに誰かと話しながら甘いの食えたよ。ありがとな。」
俺が感謝を告げると、その子は‘新しい友達が出来た‘とでも言うように嬉しそうな声を上げる。
「えへへ~、それなら、また甘いの食べるとき、一緒にたべてあげるよ。」
「へぇへぇ、しっかりお互いの分を決めて、俺の取らなければな。」
「あ~、そんなこといって~。」
そう話していると、奥の方でこの子を呼ぶ声が聞こえる。
「は~い、いまいく~。おじちゃん、甘いの食べたあとはしっかり歯磨きするんだよ。」
「お前こそ、面倒くさがってさぼるなよ。」
「大丈夫! いつも、おかあさんにいわれてるから。じゃあ、またね。」
「おう」
そして、その子は母親の所に戻っていった。
……まぁ、まだ、奥様方の話は続きそうだけどな。
サービス分のホットチョコも飲み終わり、会計しようと店主を呼ぶ。
「すみませんでした。小さい子の面倒を押し付けてしまったみたいになってしまいまして……」
「いや、大丈夫ですよ。サービスも頂きましたし、中々面白かったですしね。」
店主の済まなさそうな雰囲気に対し、俺は笑顔で答える。
「ありがとうございます。子供も楽しそうでしたよ。」
「なに、俺も、あの子も甘いのが好きだっただけですよ。」
そんな話をしながら会計を済ませ、店を出た。
そろそろ大通りに出そうなタイミングで、ふと、重要なことを聞き忘れていることに気づいた。
「そういえば、バレンタインの男性セットって、何日までやってるんだろう……。」
その小さな呟きは寒空の下に吸い込まれていった。
俺は少しの間、引き返すかどうか真剣に悩んでいた。
……道の真ん中で。
読んでいただき、ありがとうございます。
小説を投稿してまだ1カ月もたっていない初心者なので、まだまだ分からないことだらけです。
ですので、何かアドバイスや感想、評価などがあれば是非教えてください。
また、面白いと思って頂ければ幸いです。
前作 短編小説
出れない彼女と諦めた僕
https://ncode.syosetu.com/n5232en/
こちらも宜しくお願いします。
ありがとうございました。