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柿と正直者

連載物を書いてみたくて作りました。


まだまだ分からないことだらけですが、よろしくお願いします。


 午後5時半頃。俺は大きめの段ボール箱を抱えながら、最近よく通っているバーに顔を出す。

”カランカラン”と、ドアベルの綺麗な音が店内に鳴り響く。


「いらしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」


と、男性とも女性とも取れる声を出しながら、”バー・アルケミスト”のマスターが、俺を店内へと誘う。


ちなみに、このマスター。見た目でも男性か女性か分からない。マスター自身、自分の性別を明言することはなく、一言「昔、女装男装コンテストでグランプリを取らされたことがありますね。」と言っていたらしい。



 俺は、少量のアルコールの香りと、ふんわりとした紅茶の香りに体を包まれながら、近くのテーブルに段ボール箱を置き、椅子に腰を下ろす。


「ご注文はどうなさいますか?」


タイミングよく掛かるマスターの声に。


「今はストレートの紅茶で。あとで連れが来るから、酒はその時に。」

「かしこまりました。」


そう受け答えすると、マスターはカウンターで紅茶を淹れ始める。



 紅茶が来るまでの間、俺は実家から送られてきた目の前の箱をいまいましげに見つめ、ポツリと「どうすっかな……」とつぶやいた。


その声が聞こえたのか、マスターが声を掛けてくる。


「大きな段ボールですね、どうしたのですか?」

「ああ、実家からこれいっぱいに柿が送られてきてな。こんなにあってもダメにしちまうから今日来る連れに配ろうかと思って持って来たんだ。」


マスターの問いにそう答える。まぁ確かにそこは構わない。ちょっと面倒くさいだけだからな。


「へぇ、素敵な事じゃないですか。」


という感想と、注文した紅茶を持ってきたマスターに向けて、ちょっとした心情を話す。


「まあ、ありがたいことなんだけど……何ていうかな。ちょっとお礼の連絡を実家に入れずらいんだよね…。」

「え?……どうしてですか?」

「実は俺、柿食べれるんだけど、昔間違って渋柿齧っちゃってからあんまり好きじゃなくてさ……」


俺はその時のことと、前回の電話を思い出してしまい、少し顔を歪める。


「電話して味の感想聞かれる度に嘘ついててさ、何だかな~ってなっちゃう。まぁ、話をしたりすることは、嫌じゃないんだけどさ……」


 マスターはその言葉を聞くと、少し思案顔になり「ちょっと失礼します。」と言って、俺が持ってきた柿を手に取った。


「色もつやもいい……傷も割れ目もない、重さもあるし、硬さは十分……」


と、小さくつぶやいたあと、お願いするような、確認するような感じで声を出す。


「すみません、サービスするんで、少しこの柿頂けませんか?」

「ああ、別に大丈夫だよ。むしろサービスが付くんだ、こっちとしてはありがたいことだ。」


そう答えると、マスターは「ありがとうございます。」と言って厨房に向かった。



 それから少し時間が過ぎた6時頃、”カランカラン”とドアベルを鳴らし、俺の連れがやってきた。


「バーとはお前にしては洒落てるじゃん。」

「言ってろ言ってろ、まぁ実は俺もそう思ってたんだけど、想像以上に居心地良くてな。最近のお気に入りだ。」


そんなことを開口一番に言う連れに対し、俺はそれを流しつつ自身の心情を伝える。


「でも、テーブルには柿と紅茶……なんかずれてるな~」

「うぐ、……否定できない。でも、ここの紅茶も中々だぜ、目の前で茶葉のブレンドとか、確かジャンピング?とかやってくれるしな。酒も目の前で作ってくれるけど、お前待ち。柿は毎年の恒例行事だ。」


などと軽口をたたいていると。マスターが中身の入ったグラスとメニューにない料理を持ってくる。


「先ほどのお礼のサービスです。お口に合えば幸いです。」

「ありがとうございます。早速いただきますね。」


と、なぜか俺ではなく連れが答える。そして、マスターは微笑みながら席を離れた。


サービスのドリンクと料理は俺達の口に合ったようで、それを皮切りに雑談も腹も膨れていった。



 夜も深くなって来た頃、俺達も帰る時間となり会計をする。

その時、ふと、サービスのメニューが気になってマスターに聞いてみた。うまかったと感想を付けて。


「ありがとうございます。あのメニュー、実は先ほど頂いた柿を使ったものなんですよ。お口にあったようで何よりです。」


と、嬉しそうに答える。まさに、いたずら大成功とでもいうようなちょっと茶目っ気のある雰囲気で。


「……え?」

「へぇ~、柿って料理にも使えるんですね。」


俺は驚きの声を上げて固まり、連れは感嘆し興味深そうな声を出す。


「嘘の感想を言う必要がなくなったみたいで何よりです。またのご来店をお待ちしております。」


マスターは会計の時、終始嬉しそうだった。

俺は少し負けた気がしたが、すぐそんなことはどうでもよくなり、笑顔を浮かべた。

そのままお礼を言って店を出ると。


「うわぁ、お前の満面の笑みってなんか変だな。」

「うるせぇ、こっち見んな。」


と連れとの軽口が始まった。


心の中で、明日の朝すぐにでも実家に電話でもしようと思いながら。



読んでいただき、ありがとうございます。


小説を投稿してまだ1カ月もたっていない初心者なので、まだまだ分からないことだらけです。


ですので、何かアドバイスや感想、評価などがあれば是非教えてください。

また、面白いと思って頂ければ幸いです。


前作 短編小説

出れない彼女と諦めた僕

https://ncode.syosetu.com/n5232en/


こちらも宜しくお願いします。


ありがとうございました。


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