第四話 ネ族の懲罰
そういえば、利子25%は現代の日本の利息制限に近いのでアントウェルペンは日本と同じ考え方と言えますね。
話の後はガルジアと共に家の扉を出て鍵を閉めて護衛する形で歩くことにした。もちろん、外で待っていたテレジア、シーマ、少し離れたところにいたセルビィウスも付き従う。歩いている間は妙に皆黙り込んでしまった。そのせいか一行が歩く中で出会う人々は静かに挨拶しながら頭を下げるのが精一杯という感じになってしまう。
人通りの多い場所に出るとガルジアに尊敬の念を持つ人か市民が挨拶した上で道を通る人に「道を開けろ!!」と叫んで道を開けさせていった。
「これでもアントウェルペンの現状にお父様は嫌なのですね」
テレジアが会話を聞いていたことを普段では隠して知らんぷりする癖に今回は妙に怒った風にガルジアに噛みつく、よほど腹が立っているらしい。
「…私は健全な人々による経済発展を望んでいるにしか過ぎない…」
「お父様は理想が高すぎます。倫理を求めるくらいなら法と秩序で縛り付ければ良いのです」
商人というよりは経済学者思考の政治家という思想が強いテレジアらしい考え方だ。
「商人というものは簡単には法と秩序に頼るべきではないのだ」
それに比べるとガルジアは人間帝国、全盛期のセルギア王国といった大国と渡りあった時代の思考に今だに取り付かれている。
「それは昔の話です。お父様もご存じの通り、今この世界は混沌としてます。我がアントウェルペンこそ自由と平等の守護者として法と秩序を回復する立場に立つべきなのです。いつまでも商人気取りで大国を渡り歩いても大国が無ければ話にならないでしょう?」
テレジアの言う通り、かつてと違ってガルジアのような人が大国の利害を利用して国の利益を増やしていくという手法は時代遅れとなった。今は旧秩序から新秩序への移行が求められている時代である。
「大国は今だに存在しているだろう?それに人々に倫理の大切さを説いて適切な市場を構築して商売して、金銭を稼いでアントウェルペンに還元していくやり方が正しいのだ」
大国はウェルペン家の本家が支配している水の国ゼノギアなら近くに存在している。もしくはガリア帝国だろうか…しかし、どちらも遠い、しかもゼノギアはウェルペン本家、ガリアはネ族経済圏で強力な競合相手が両方にいる。アントウェルペン家は良心的で公金横領以前に外部から稼ぐ量が多く税金も適切に支払っているため国民は統治には不満は無い、使い道は最近は緊縮財政気味で評判が悪いが…
「皮肉を言えば、お父様、男爵という男を今だに男爵と呼んで卑下するのは結構ですが!男爵の勢力拡大を許して大国にしたのはお父様の責任ですよ。」
酷い言い方である。しかし、大方の市民が思っていることでもある。ガルジアは父上を失ってから「果敢さが感じられなくなった。」と伯父のハイゼンがボヤいていた。男爵ことガウヴィン・シュタウフェンの拡大は父上が死んだ頃から始まった。男爵はアルカディア王国が健在だった頃に彼の家に与えられた爵位である。人間帝国は彼に侯爵を与えている。アントウェルペン家は前者からは伯爵、後者からは大公に任じられていた。
「何だと!!男爵ごときに我がアントウェルペンが負けている訳がないだろう、冗談はよしなさい、テレジア」
力だけなら…だが勢いはガウヴィン・シュタウフェンに比べてアントウェルペンは防衛的でアルカディア地域では守勢に立たされている。
「そういう問題ではないんですよ!!」
二人が路上で国論を二分する勢いで語り合うものだから市民たちが面白がって近づいてきて熱心に聞きこんでくる。二人の話を聞く人で周りは一杯になった。それを護衛するシーマとセルビィウスが大変そうに整理する。
「なにをしているのかしら?」
話している中で二人の作った群衆とは別に群衆が広場に集まっていた。それをテレジアが見つけて興味をいだくのでガルジアも興味を示して群衆が集まっている方向を見る。そして二人は「何をしているのだ?!」と言いながら群衆に道を開けさせて群衆の見ている者を見つけた。
「にゃにゃ!!これはこれはガルジア様とテレジア様ではありませんかにゃ」
可愛い声して話しかけてくるのは大きな舞台の上にいるネ族の人だが…やってることが物騒過ぎて可愛さなど微塵も感じられない。感じるのは狂気だ!!ネ族の人は血の付いたコック風の服を着ていて手には血の付いた鉈を持っていた。
「やめてくれええええええ助けてくれええええ」
ネ族の前に血がべったり付いた台が置いてあって台の上に上向けで寝る姿勢で鎖に縛り付けられた男性がいた。その男性が必死に命乞いをして叫んでいた。
「素晴らしい、コイツは借金を返せないでそこにいるのだろう?」
「はいにゃ、これから解体ショーをするところです!!」
ドン引きの発言だがガルジアは喜んでいた。これは話では聞いていたが…ネ族が借金を返せない人間に借 金を返済義務を免除する代わりに行うという借金をした人間の解体ショーである。解体した人間は獣人達が美味しく食べるという行事である。獣人達は本来は人間を食べないが人間社会に溶け込むと同時に人間の中には獣人を軽く見て舐める人間もいるせいで定期的に自らの力の誇示という意味もある。匂いを魔法で消して見物客が安心して見れるように配慮までされていた。
「どれどれ」
ガルジアは嬉しそうに台の上に階段で登ると台の上にあった煮えだつ釜の中を見る。釜の中は容易に想像出来るが…あまり見たくは無いし想像もしたくない。
「マズそうではあるが、よく煮えているな!結構けっこう!!」
「おい、おまえふざけるな!!俺を可哀そうだと思わないのか!!」
ガルジアが喜びながらネ族と話すものだから解体される予定の男は釜の中に入っている同類達と同じに成りたくないのかガルジアに向けて叫ぶ
「はて、君は私が誰なのか知らないらしい、それでは助ける気になどなるはずも無し、お前のような男でも死んだ方が借金が無くなって助かる人がいるのだろう?なら潔く死にたまえ!!」
ガルジアの残酷な一言に男は黙りこんでしまった。そして近くにいたであろう家族を見つめて涙ぐみながらも恐怖で顔が青ざめていく
「それでは、私はようがあるので去るよ、娘もいるので離れた後に始めてくれたまえ」
「はいにゃ!!ガルジア様、これからもよろしくお願いいたしますにゃ!!」
こうして広場から離れた。離れた後にテレジアがガルジアに話しかける。
「何も喜んで見るほどの物でもなかったでしょう?」
確かに喜ぶのは可笑しい、ガルジアは最近人間に対しての不信感が出てきた。逆に人間以外には優しくなっている。
「ネ族の文化を尊重しなくてはいけないだろう?それに私は借金を返さない人間が嫌いでね」
文化というか何というか…野蛮だが効果的ではある。ネ族は人間神と盟約を結ぶウルフ神の傘下に入っている盟友である。アストレイアも人間に対して厳しい面があり、盟約を結ぶ種族達と共存するように説いている。つまり、中立であり、ネ族に対しても優しい
「そういうところが商人然としているんですよ!借金をしないと生活に困る人もいますよ?」
テレジアにしては随分温情的な発言である。たぶんガルジアの人間不信な部分に対しての反論をしたいのだろう。
「そういう人間を救済する措置は別にある、仕事に困る状況ではあるまいし、働いてでも返せばいい」
最近の借金踏み倒しはをする人々は外から来た人が多く、彼らは借金をしたのは自分たちが『搾取されたからだ!!』と開き直る始末である。貸した側からは『これじゃ私たちが搾取される側じゃないか!!』と泣きが入る。当然だが利子は適切だし、信用してお金が貸されずに市場に出回らなくなれば経済は落ち込んでしまうので我々は決して借金の踏み倒しを認めない。
「…」
これにはテレジアも黙ってガルジアを見つめて無言の同意をせざるおえなかった。
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