第三話 悪い商人は領民に愛されています。
ドン!ドンドン!!ドンドン!!という家の扉を叩く音がするので家の住民がうるさいとばかりに扉を開く
「なんだうるさいぞ!ふざける…」
家の住民は扉を叩いていた人を見て驚く、扉を叩いていたのはヴェニス商人風の紫の服を着た黒髪の年老いた商人であった。年老いていても鋭い眼光が家の住人を人睨みする。
「ひっ申し訳ありません!!ガルジア様だとは知らず…」
家の住民は今にでもひれ伏しそうな勢いである。なにせ領主が訪ねて来たのだ。
「いや、いい、それより君、私のバカ娘を見なかったかね?!」
ハァハァと息が荒いながらガルジアと言われた人物は家の住民に聞く、馬鹿娘というのはテレジアのことを指しているのは公然の事実である。ただし、多くの人が馬鹿とは思ってはいない。
「テレジア様ですか!ああぁそういえば見かけたことがありますね」
もちろん知らない訳が無い、この都市の住民でテレジア様を知らない人間などいない、身なりもだが神々しいまでに威厳と美が備わっている人を他に知らない。見間違えるはずは無い。
「なに!!やはりか!!クソッたれめが…どこだ!!」
ガルジアからすれば最近、テレジアは自分の言うことを聞かない、よく口論になり、感情面でテレジアはガルジアに強く反発しているようにしか見えない。
「あっちです!それよりもお水でも飲んでいかれた方が…」
ここの住民はガルジアのことを尊敬していた。いや、大半の人々は尊敬している。
「いや良い、邪魔したな」
家の住民が指し示した方向にガルジアは歩いていく、その姿に家の住人は深々と頭を下げて見送った。
ガルジアが少し走ると見覚えのある人物が建物の前に立っていた。
「いたな、おい、シーマよ、二人は中にいるか?!」
シーマと言われた少女は大人びていたが優艶な雰囲気を漂わせていて鎧を着ている。ムッとした顔の後に言葉を発する。
「これはこれはガルジア様、このような庶民の区画にようこそ!ええぇ二人なら中にいますよ」
ガルジアはシーマを人睨みするとシーマが見張っていた家は一見すると普通の家に見える建物にズカズカと入る。
中に入ると二人の男女が愛を語り合うように向かい合って座っていた。
「おい、お前たち!!ふざけるのもいい加減にしろ!!」
ガルジアが呼びかけると二人のうちの金髪の少女が睨むようにガルジアを見て言う。
「これはお父様、来ていらっしゃったのね、このような庶民の家に無粋に入るとはお父様も落ちたもので」
「何が庶民だ!我がアントウェルペンに庶民などおらぬ、それにこの家はテレジアが買った家だな!!つまり私の家だ!!!」
息まくガルジアにテレジアは睨みながら叫ぶように言う。
「聞くところによりますとね、お父様はセルディウスに商人の一行を襲わせたそうではありませんか!!」
テレジアは先ほどセルディウスから聞いた話を糾弾する。この機にガルジアを糾弾して事態の掌握を図りたいのである。
「だからなんだと言うのだ、こやつは私の部下なのだから構わないだろう?」
だがガルジアは取り合わない。テレジアに関わらせないつもりなのだ。それに対して何を言ってるんだ!!とばかりにテレジアが怒る。
「私への当てつけですか!!汚い仕事ばかり、セルディウスにやらせて!娼婦の館にまで行かせていると聞いておりますよ!!」
娼婦は重要な情報源である、それに館には地下がある。あそこは睡魔魔族が支配していて裏のアントウェルペンの拠点である。
「それの何がいけない!あそこは我がアントウェルペン家の経営する場所だ!!」
アントウェルペン家の闇の部分が凝縮されたところだが…同時に市民たちからは好評である。何故ならば適切に風俗が運営されているため病気、治安、衛生環境まで全てが整っているのはアントウェルペン家のお陰であるからだ。さらに睡魔魔族、睡魔、娼婦達にとっても安住の地となっていて非常に良い関係が築かれている。
「ならば私も行く権利がありますね」
確かにテレジアの言うことは正しい、アントウェルペン家は風俗や賭け事を適切に運用すれば社会秩序に役立つとして積極的に管理してきた。風俗に対しても差別をしていない。
「ふざけるな、おまえを行かせる訳が無いだろう、次期アントウェルペン家の当主になるのだぞ、」
ガルジアの言い分は完全に破綻していた。裏の部分もアントウェルペンの民衆は悪いとは思っていない。何せ都市国家が大国から生き残るためには残酷な行為も行わなければならない。それを公然と行わずに隠しているだけマシである。
「だから行くのでしょう?」
テレジアに言われてガルジアは息を詰まらせる。痛いところを突っ込まれた気分である。しかし、可愛い娘を娼婦どもに合わせるのが嫌である。本来のアントウェルペン家の当主ならそうかもしれない。しかし、テレジアは特別なのだ!!
とにかくガルジアは矛先を変えながらテレジアに言う。
「セルディウスと大事な話があるから、おまえは席を外していなさい」
そう言われてテレジアは席を離れることにしたが当てつけるようにセルディウスにキスをして別れを言って離れていった。
「セルディウスよ、例の商人は殺して書類は奪ってきたな?」
テレジアが離れた後にセルディウスという少年に話しかける。
「はい、言われた通りに…」
「それは重要な物だ、あの忌々しい市長などというクズ野郎がアントウェルペンを男爵のクソ野郎に売り渡そうとした証拠だ!!」
あの市長は民衆に選ばれたが無能な奴で借金を陰でしていた。借金の理由はアントウェルペンの外にいって豪遊するためである。そうすれば権力者が生きにくいアントウェルペンでは無く、権力を持つものが偉いと振舞えるので良い気分になれるのだ。それに男爵の奴が目をつけた。あの商人は男爵の手先で市長にお金を貸して弱みまで握って市長に取引を持ち掛けて契約書に判子を押させたのである。
「そうですね」
「誰に断りなく、このアントウェルペンを売り渡すのだ?ふざけているのかという話だ、市民に選ばれたからか?市民に選ばれたら全ての市民を売る権利が付いてくるとは知らんかった、私でさえ!!市民を売り渡すなど恐れ多いというのに…」
判子文化は元は東方地域の習わしだが今やアントウェルペンのお陰もあって全世界に浸透している。アントウェルペン家は東方出身の一族であり、アルカディア地域は丁度東西の中間である。
「そうですね…」
「最近は金を借りておきながら返さないクソ野郎が多い、金貸しは高利だと言うが…最大でも25%の利子で制限されているのに返せないのが悪いのだ!!あのような奴らにアントウェルペンで商売をする権利などない!!そう思わないかね」
しかも、年利である。アントウェルペンの外では十日で一割という法外な利子も存在している。それに比べれば遥かに安い、それ以前に25%が適用されるような奴は少ない。
「そうは思いますが、ガルジア様、最近の取り立ては厳しく命じ過ぎです。取り立てる方の気持ちも分かってもらいたい。周りで見ている連中もいます。配慮をしないと益々人心が離れていきますよ」
アントウェルペン家は直接は個人にお金を貸さない。貸すのは下の銀行及び商会や組合である。だから本来は取り立てにいかないで良いのである。しかし、彼らは取り立てる能力や力が無い場合が多い、彼らはガルジアに陳情をしてくる。ガルジアは彼らを救うために取り立てを行うのである。
「奴らは市民などでは無い、配慮など無用だ。」
景気が良いせいか健全な市民や自由民は借金をしない。するのはヤマシイ理由のある連中と外から来た夢見て商売をするが計画性が無いために破産する奴である。計画性が無いこと自体は罪では無い、しかし、外から来た奴らは自分たちが搾取されているのに慣れているため責任感が欠如している。可哀そうだからと放置すると秩序が保てなくなる。
「そういう問題では…というか彼らを受け入れるように命じたのはガルジア様でしょう?!悪い部分ばかり見て責め立てても状況は良くはなりませんよ」
セルディウスの言うとおりである。分かっているのだが市民と自由民たちの権利を守るのも私の仕事なのだ。
「ムムム」
唸るようにガルジアは黙り込む。
「それよりガルジア様、男爵は本当に攻めてきませんか?」
大丈夫だろう、現状男爵の支配領域は我がアントウェルペンの本国及び傘下の諸侯に遠く及ばない、同盟国及び友好国に加えて協定を結ぶ諸侯や国も合わせれば敵ではない。
「その心配は無い、奴は私を恐れている。外交文書を送ってきて抗議するくらいが限界のはずだ、これでもまだ私は皆が知る有名な悪徳商人だからな(笑)」
奴を小さい時から私が知っているように奴も魔界遠征時からずっと私の実力を知っているので容易には攻めてこないだろう。アントウェルペンのガルジアと言えば世界中が知る有名な悪名高き死の商人でもある。武器、兵器、傭兵、兵糧など戦争に必要な物の物流を管理しているのも私なのだから向こうが本気で攻めてくる時は直ちに連絡が入るようにしてある。
「もうじき来るであろう使者は外交上の抗議文章で終わりだろう」
「だと良いのですが…」
平和が終わる可能性はあるが我がアントウェルペンが負けることは無い、備えは万全だ!!
吸血鬼の娘は二階の部屋で安心したのか寝ています。
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