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アントウェルペン陣営の戦略

今回は長いです。マイページの活動報告でキャラ紹介などを始めました。


 テレジアの一族会議での当主就任は容易に実現された。理由としては有力一門のアントホーフェン家が支持に回ったことが大きい、何故?味方になったのか?その理由として大きいのはテレジアの決意である。たとえ一門が認めないと主張したところでテレジアは武力を使ってでも徹底的に服従させる方針だったことをアントホーフェンの当主は見抜いており、無駄な駆け引きをしてテレジアを不快の買うのは愚策と考え、ガルジアの死に対しての報復という主目的のみに焦点を絞り、一族の繁栄を優先したのである。


 会議でアントウェルペン家の当主就任を血の血判書で誓わせるという手段まで用いて確実にするとテレジアは次なる一手に出る。アントウェルペン商会のトップに就任すると同時にガルジアの死を公表して大々的に葬儀を執り行うことにしたのである。


「ガルジアの奴が嫌う行為だな!」

「死者の考えを無視するのか!!」


ハイゼンとビルゼン・アントホーフェンから抗議の声が挙がる。


「だから何だと言うのか!葬儀は死者のために行うのではない、生者のためにあるのだ!!」


 そう言われてハイゼンとビルゼンは黙ってしまう。葬儀は完全にテレジアの趣味が完全解禁されたものとなる。つまり、荘厳で絢爛豪華な一大イベントになったのである。市民を始めとした民衆が今だ現実を受け入れられずに茫然と立ち尽くす中で壮大な葬儀イベントが行われる様はシュールな光景であった。


 葬儀ではガルジアを描いた巨大な肖像画と金銀宝石を使い、彫刻で飾られた豪華な霊柩馬車と共に行進させるという『どこかの赤い国』の軍事パレードの豪華版だった。最後には香木で作った木像を燃やしたりした。


「死者への冒涜だ!!」


 などと主張する市議会議員共をテレジアは容赦なく『敗北主義者』という理由で粛清した。傍若無人なテレジアの態度に民衆は憤る。



真の市民達の凱旋


 アントウェルペンでテレジアに対する不満が爆発しだした頃、アントウェルペンから離れた農村付近に突然大きな空間が生じた。


まるで異世界から何かがワープしてきたような感じの巨大な穴が出来たのである。


まず最初に巨大な空間から姿を現したのは巨大な木造の軍艦である。


そして次に戦装束を纏った戦乙女達を先頭とした軍勢が現れる。


レッドアラートの『地獄の行進曲』が流れてくる状況である。


 彼らと同時並行して商人の一団も姿を現す。商人も護衛する兵士も皆、全てが戦場から帰ってきた『剝き出しの闘争心』を鋭い目に焼き付けていた。


 それだけでは無い、国境近くを防衛していた軍隊及び遠征中だった傭兵、そして本国へ引き上げてきた商人及び家族たちが大軍団を形成してアントウェルペンに向けて陸上を猛烈な勢いで向かう姿もあった。


外世界から約60万人、外部から約60万人、商人及び家族が30万人以上という大軍である。これは外部にいるアントウェルペンの兵力の一部である。全てを引き上げることは顧客及び安全保障上の観点から出来ない。だが引き抜けるだけは引き抜いた実戦経験のある強力な軍勢である。



「新たな領主は酷い奴だ!」

「反民主主義だ!!」

「自由を蔑ろにしている!」


などと喚いていたアントウェルペンの民衆の前を『真の市民の軍勢』が歩き出すと彼らは黙ってしまう。


 凱旋した商人達は荷台シートを外して乗せられていた金銀財宝、珍しい品物、遺物などの芸術品、または収奪した戦利品を民衆に見せる。


 異質なようだが…実は市民の多数派は彼らであった。テレジアは最初から多数派の支持を受けるための政策をしていたのである。事実、粛清は戻ってきた人々からは好評だった。


「我らの新たな指導者は腑抜けにあらず」

「偉大なる指導者を殺されて黙っているなどあり得ない!」

「報復をするべきだ!!」


 このような声が高まっていく、工業を生業とする者達は今まで控えめだったが状況の変化に敏感で直ぐに流れに乗って一気に好戦的な雰囲気がアントウェルペン中に充満した。


 ここでテレジアは一気にアントウェルペン同盟の結束を固めて本国での地盤を強固なものにしようと画策する。そのためには凱旋した兵士達による大規模な軍事パレードを実施するという手段に出た。


「ザイード、ハイゼン、どうすれば軍事パレードを盛大に出来る。」


「サヴィアスの傭兵を前面に出し、航空兵力を派手に飛ばせばよかろう!」


ハイゼンが言った。それに対してザイードは同意したうえで重要な一手を口にする。


「恐れながら進言してよろしいでしょうか?」

「なんだ、何かあるのか?」

「マレージア様をパレードに参加させない、手はありません」

「…」

「そうすれば戦乙女共は積極的に陛下のために働くようになります」


 この提案はテレジアもハイゼンも理解するところだったが…あえてやらない方向に持っていきたい案件だった。しかし、ザイードの進言は当然のことであり、避けられない行いであった。



マレージアは中央部にある城の一室に病気のため療養中であった。


「マレージア様に面会したい!」


 そう言ったのは戦乙女隊の隊長『リディア・シュトゥビア』である。彼女はサヴィアス家追放問題の時に積極的に暴徒に攻撃を加えた主犯でもある。マレージアの子飼いの部下であり、その忠誠心は揺るぎないものであった。容姿は金髪碧眼である。背は意外と小さい、年齢は26歳である。


「許可はありますか?」

「チッうるさいぞ!どけ!!」


 守衛を突き飛ばすとリディアは強引に扉を空けて中に入った。中は広く壁は大理石で出来ていた。中央にベットがあり、壁際には棚と『かつての栄光の時代』の魔法写真や絵が飾られていた。


「あら、誰かと思ったらリディアではないですか」

「マレージア様、お元気でしたか!お変わりがないようで何よりです。」


 先ほどまでの武人然とした態度から急変して猫なで声でマレージアに話しかけながらベットにかけてマレージアに抱きつくのである。


「あなたも、お変わりなくて何よりです。最近の戦場はどうですか?」

「ええ、簡単な敵ばかりで歯ごたえがありませんでした。」


 簡単な敵とは…良く言うもので、実際は下級とは言え始源世界で悪魔と戦う日々という壮絶なものだが…彼女にとっては日常レベルの些細なことであった。


「それより、マレージア様、マレージア様も軍事パレードに出るべきです!」

「私がですか…」

「亡き大セルディウス様のためにも、そして初陣なされるセルディウス様のためにです」


 セルディウスはガルジアの元で任務をこなしてはいたが本格的な戦争は今回が初めて出会った。そのことを強くリディアに言われてマレージアは決心した。


「分かりました。でましょう」

「それは最高です!なぁ皆!!」


後ろに控えていた戦乙女達が同意の相槌をした。それを見てマレージアも自信を取り戻した。



こうして国威発揚のための大規模軍事パレードが開かれることとなった。


 パレードは盛大に行われた。行進したのは精鋭130万人であった。赤の広場のように広く、荘厳な建物と宮殿がある広場である。


「ばんざーい!」


 そんな言葉と共に大軍勢が行進した。先陣を切ったのはサヴィアスの傭兵隊である。リーダーのサフィアスを筆頭にサヴィアスの精鋭二百余りが行進した。その後に整然と行進する兵士達、馬車の荷台に乗る整然と座った兵士、大型の槍を持った重魔導砲兵隊、各騎士団、ペガサス、グリフォン、各種竜に跨って空を整然と行進する一大航空兵力、大型のドラゴン、空飛ぶ軍艦などがテレジアに敬礼しながら続いた。


「戦乙女だー」


 誰かが叫ぶと皆視線を向ける、そこにはマレージア将軍を筆頭に戦乙女達が整然とテレジアに敬礼しながら通り過ぎていった。まさに在りし日の英雄が復活したかのような高揚感を皆に与えた。


「素晴らしいですね」


 テレジアが言うと新たな側近達が頷く、そこにはハイゼンを筆頭に参加していないサヴィアスの兵士達がいた。もちろんセルディウスもテレジアの傍にいた。


「あなたのお母様の雄姿が見れて良かったわ」

「ええ、私も母上が毅然と軍服を着ている姿は初めて見ました。」


 ベットの横に勲章付きの軍服や栄光時代の絵などは見たが…どれも現実味の無いものでしか無かった、それはテレジアも同じはずである、当初こそ体のことを考えて母上のパレード参加には反対だったが…改めて母親の強さというものを感じて決意を新たにするセルディウスであった。


 軍事パレードで行進し終わった軍勢が宮殿のバルコニーにいたテレジアを見つめて整然と整列していた。


「兵士諸君、我々アントウェルペンは自由と平等の象徴である、よく馬鹿どもは勘違いするが!自由はタダでは無い!!自由は己の欲望に忠実な民衆や自由を無駄と感じて自らを売り渡す売国奴によって失われるのである、これを阻止するために我々は奢れず!自らを律して全ての市民、自由民、外から入ってくる者達に平等な権利を与えて来たのだ!!にもかかわらず…我々アントウェルペン同盟及び自由と平等を愛する諸国は!「アントウェルペンのせいだ!!」と言う愚かな恩知らず共に今蹂躙されようとしている。こいつらは個人の力によって独善的に支配され、奴隷のように地を這いづくばっている連中だ!!」


強く言った後に一呼吸をおいて息を整えると次の言葉を語りだした。


「このような連中は勘違いをしている。何故ならば、いつ神が「奴隷制を認める」と言っただろうか?神は君主制は否定せずに「良心的で効率的な領主であれば!」という条件で認めると言っただけである…神は「君主に逆らうな!」とは一言も申されてはいない。つまり、彼らには抵抗する権利が与えられているのである。その権利を!手放したのは彼らである!!権利を自分から手放しておきながら、我々のように『自らの足で!自らの力で!富を手に入れ、自由と平等を!築き上げた!!我らアントウェルペン』が…なぜ?奴らに譲歩しなければならない?…ガルジアは死んだ、偉大な指導者は死んだのだ!このような理不尽な行為に屈することは我々アントウェルペンにとって独立を失ったのと同じことになる。そのようなことは、何としても阻止しなければならない。敵が如何なる手段を用いてこようとも!我々は戦わなくてはならない、そして必ずや、我々が勝利するのだ!!アントウェルペン万歳!自由万歳!!」


「「「アントウェルペン万歳!自由万歳!!自由万歳!!自由万歳!!」」」


 この演説と強大な軍事力の影響は大きくアントウェルペン同盟の結束を強固なものとした。結果、アントウェルペン本国の結束は固まったと断言できる状態となる。




 パレードが終了して余韻が消えないうちにテレジアはレイア教の教会へと乗り込んだ。ここには有事の際に備えた備蓄が保管されていた。それを引き出しに来たのである。別に財政は苦しくなかったが戦後のことを考えて力のあるうちに回収するべきと考えたのである。


「受け取るべきモノを受け取りにきた!」


テレジアが教会に軍装を身に着けて入ると同時に叫ぶと教会内にい聖職者が慌てて出てきた。


「テレジア様、お待ちください、すぐに大司教様が来ますので!」

「私を待たせるつもりか!!」


 強気でテレジアが言うと奥から側近達と共に大司教が現れた。大司教とはアストレイア教の教皇の下に複数いて各管轄を管理している。今現れたのは中原地域をまとめる大司教である。彼の本来いるべき場所は別の場所だがガルジアが半端拉致して連れてきた人物である。


「騒々しいですな、テレジア様、宝物を持っていくのは構いませんが、爵位継承を済ませてからにしてはどうですか?」

「何を大司教殿は言っておられるのか分かりません」

「!?」

「私は人間皇帝の直系として、貴方に申し上げているのです!これは聖戦であり、人間族の栄光のために大司教は今すぐ協力しなさい!!」


 雷に打たれたように大司教は固まる、それも、そのはずで初代人間皇帝レイテシア一世の着ていた装束を身にまとい神から授かった聖剣を腰に付けているテレジアは教会に描かれている絵画と瓜二つであり、まるで光がテレジアに味方するように降り注いでいた。それはとても神秘的で神の啓示を意味しているかの如くであった。


「陛下!!私は!陛下のような存在に巡り合えて光栄でございます。」


 大司教はテレジアの前にひれ伏して誓いを立てたのである。この光景はテレジアの御用画家がすぐそばで見て絵画として残すことになる。


教会からテレジアは出ると教会の前にいたレイア教徒の群衆に告げる。


「民衆の諸君!神は私にアントウェルペンを救えと命じになられた!!今こそ、諸君の力を結集し、悪の権化たるガウヴィンと恐れ多くも勇者などと豪語している北辺の勇者を倒すのだ!!」


「うおおおおおおお」

「テレジアさまああああああ」

「偉大なる血筋に!!」

「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」


 軍事パレードと変わってレイア教徒の前では皇帝然とした振る舞いをテレジアは行った。こうすることでアントウェルペン家の最大の懸案事項だったレイア教徒の結束を固めることに成功したのである。


 これらは圧倒的スピードで行われており、相手が並程度であれば、この時点で勝敗が決まっていたことであろう。しかし、ガウヴィンは優れていた。そして、彼らも想像以上のスピードでアントウェルペン本国の外堀である、同盟を結んでいた諸国及び諸侯の切り崩しに動いていた。

 

故に翌日、テレジアは絶望を味わうこととなるのである。





テレジアの真骨頂を発揮する回です。ガルジアと違って彼女は政治家という感じです。


マイページの活動報告でキャラ紹介などを始めました。


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