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第一話 襲撃

 ある商人が数台の馬車と数十人の傭兵を引き連れて両端が高さ3メートルほど盛り土された街道を移動していた。アントウェルペンは領内の複数個所の両脇を盛り土している。道路は舗装され道幅は5mで両脇に3m程の歩道が設けられ、歩道と盛り土の間には用水路まで完備されている。街道には一定間隔ごとに休憩所やトイレが設けられているなど至れり尽せりだが…アントウェルペンから脱出しようとする者には逆に相手の目が常に光っている場所を通るという恐怖がある。


 その日は朝早いとはいえ人気が少なく怪しい雰囲気が漂っていて、傭兵たちは嫌な気配を感じて警戒をしていた。


「いったいなんだと言うのだ!!」


天下のアントウェルペンに向かう街道が閑散としているのは不気味である。わけがわからんと商人は警戒した。



 商人達が朝早く出たことは直ぐに分かった。商人も自分の行いが暗殺を引き起こすと理解していたからである。彼らがアントウェルペンを脱出する手段は多い、大きく分けて陸路、水路、空路である。このうち水路は最も暗殺しやすい道になる。何故なら水中から船を破壊するなど朝飯前だからだ。


「もちろん水路はあり得ないことは連中も知っている。」


 次に空路である。遅い飛竜でも時速500㎞以上で走るので脱出するには最適なように感じるが事故に見せかけて撃墜するのが簡単で話になどならない。そうすると陸路が一番適切である。それなら馬で疾走したいところだが疾走したり、見るからに速く移動すれば簡単に見つかると相手も考えるのは道理である。故に相手はカモフラージュと護衛の兵士を増やす口実として馬車を数台に増やして移動するという選択肢を取る。


 相手の商人も中々頭が良いらしく、馬車は間隔を空けて走っていて、馬も馬車も一見すればオーソドックスな普通の馬車だが車輪が普通の馬車に使うような品物では無く、軍用の頑丈で軽量な素材と製法で作られた非売品である。荷物にシートをかけた馬車もいたが多くは荷台に十人ほど乗った馬車だった。


「まさか敵も三人で襲ってくるとは思わないだろうな」


遠くにいる二人に魔導通信で話しかける。


「それが普通ですよ」


薄青い髪の目が青い少年が言った。彼は僕の部下のセルヴィウスである。


「派手に弓で攻撃しません?」


遠距離からサポートする淡い紫の髪で眼が紫色のシーマが言ってきた。相槌を打って同意しておいた。


「まず最初にセルヴィウスが馬車を止めてくれ、そしたらシーマはセルヴィウスの援護を優先、僕は後方から敵を奇襲するよ」


「「わかりました」」


 いい返事である。作戦はシンプル過ぎるが失敗要素は無い、街道は両端が実際は防衛対策だが野盗対策という口実で盛り土されている。街道には人影がいない、アントウェルペン商会の勢力圏であれば意図的に人通りや物量をコントロールすることは容易い。


「では配置に着こう」






 商人は危険な雰囲気を感じて馬車のスピードを速めようとした。そんな時である。突然正面に人が出て来た。


「かまわん、突破しろ!!」


 嫌な雰囲気がして商人は突撃を命じる、馬車をスピードアップさせた瞬間に突然襲ってきた。それはシーマが弓を引くと同時に強力な術式を弓矢の前に展開して魔力と飛燕弓術を融合させた強力な攻撃だった。


 飛燕弓術は飛燕剣の応用で素早さ重視の弓術である。攻撃速度が速いのは当然として、最大の特徴は敵との接近戦まで考慮した戦術がセットになっていることである。これに魔力を組み合わせるのである。天力と魔力を組み合わせるとお互いの相性が悪いので反発し合うが僕らが使う光力は特に問題なく組み合わせることが出来る。光力でスピードを上げて魔力で威力と爆発力を高めると考えてもらえれば分かりやすいと思う。


ドーン!!


 という音と共に馬車を引いていた馬二頭が同時に腹部分に大きな穴を空けて吹き飛んだ。馬車は横転して転がる。後ろから続いて来た馬車も前の馬車に激突して酷い有様である。この世界では馬に魔法をかければ時速60㎞以上で走れるので…まぁ…お察しの通りの惨状になる。馬車に乗っていた人間もグシャグシャである。


商人は咄嗟に馬車から飛び降りていた、無傷なのは奇跡である、ここまでは運がついていた。


三台目の馬車以降は前の馬車に突っ込まなくて済んだので良かった。傭兵たちが馬車から降りて来た。


そして正面にいた薄青い髪をして武者風の甲冑を着た少年に話しかける。


「お前は、どこの者だ!!」


 そう一人の男が薄青い髪の少年に言った瞬間にシーマの弓矢が飛んできて彼は体を真っ二つにされて吹き飛んだ。辺りに臓物が飛び散った。頭が空中高く飛んで地面に落ちる間に少年の前へと出ていた数人の男が同じようになって消えていった。


 ちなみに傭兵共の装備は悪いの一言である。みな着ている鎧がバラバラで中には革鎧までいた。傭兵のイメージそのまんまの荒くれ集団である。仕方が無い面はある、優秀な傭兵はアントウェルペンに行くのが当たり前になっているし、ここはアントウェルペンのお膝元なので優秀な傭兵を雇えるはずが無いのである。


「ヒエエエエエエ」


 それを見た傭兵たちが恐怖で後ろに逃げ始めた。だが彼らが後ろに振り向いて少し走ったところで異変に気付いた。


 この間、シーマとセルヴィウスとの間に「シーマのせいで立っているだけになりそうだ…」「別にいいじゃない」という二人の会話が行われていた。


後ろにいたはずの傭兵たちが皆…死んでいた。


「なにがあった!!」


 そう一人の傭兵が叫んだ瞬間、彼は鎧ごと真っ二つに正面に突然現れた男に切られていた。まるで金属をすり抜けるように鮮やかに切られたのだ。


 理解出来ないに違いない、魔力でも出来なくは無いが、光力だと魔力より遥かに少ない力で金属をすり抜けることが出来る、これは強者でも意外と知らない奴は簡単に倒せる可能性も生まれるほど地味に強力である。鎧を無傷で手に入れる時に使えたりする、今回は金属を切っているのであくまで鎧は切断される。


「?!」


 皆、叫び声を上げる前に黒髪の少年に切られて死んでいった。飛燕剣は素早さにおいて右に出る剣術無しである。


「ひぃいい」


商人は慌てて逃げ出そうとするが…


ブスッと足に手加減用の木の弓矢が刺さって倒れる。


 もちろんシーマが力を抜いたおかげである。木でも刺さらずに貫通するくらいはできたりする。それ以上は木の弓矢だと折れるか消滅したりするので意味が無い。


「なんだと言うのだ…」


商人は倒れながらも逃げようと必死に前に進もうとする。


「逃げなければ…」

「逃がしはしませんよ」


 地べたを這いずるように移動する商人は後ろから声を掛けられる。商人は振り向くと黒髪の少年に必死に懇願して言う。


「お願いだ!命だけは助けてくれ!!お金ならいくらでも出す!!」

「いえいえ、私の目的はお金ではありません。」


その瞬間商人は悟ったのかいきなり冷静になり、懇願を辞める。


「貴様!!アントウェルペンの手先か!!私を誰だと思って?!」


商人が叫び終わる前にグサッと商人の腹に黒髪の少年は剣を刺していた。


「だから?なんだと言うのだ、我々アントウェルペンが本気で貴様らごときを恐れているとでも思ったのか?商人の癖に見抜けないとは甘いな…」


商人は絶望しながら果てていった。



 セルディウスは盗賊辺りに襲われた風に見せる為に馬を殺し、中身を外にばら撒ける、ばら撒いたら次は馬車を壊す。途中高価そうな物は実際に奪い取る。他の二人も合流して手分けして作業を行った。


 商人の奴は本当に商人然とした恰好をしていた。丸い帽子を被り、毛皮の服を着ていて宝石のついたネックレスに指輪をしていた。もちろんネックレスも指輪も奪い取る。


 他の二人が周囲の確認に行っている間に馬車から拝借したお酒をフタ部分を剣で壊してセルディウスは飲んだ。


「いいブドウ酒だ…」


お酒はアントウェルペンでは16なのでギリギリである。だが…いや止めておこう。


「どれ持っているだろう」


 商人の懐を探すと目当ての封筒があった。セルディウスは見つけると奪い取る。そして封を切ると中に入っていた書類を確認する。それが終わると商人の死体を魔法を唱えて燃やしてしまった。


 さて帰ろうとした時である。グシャグシャという音がする、様子を見に行くと銀髪の幼女が死んだ傭兵の死体を貪るように食べていた。眼が赤いのと醸し出し雰囲気が吸血鬼であると暗示していた。


「なんだ、吸血鬼か…」


セルディウスが近づいたのが分かったのか吸血鬼の幼女は振り返ると震えながら後ずさる。


「あれだ、ハグれという奴だな…おおかた人間から迫害でもされたのか?」


セルディウスは平気で近づいていくと震える吸血鬼の幼女の頭に手を乗せて言う。ハグれと直ぐに分かるのは着ているボロボロの服で分かった。


「大丈夫だ、安心しろ、俺がこれからはお前の飯の面倒を見てやる。」


 吸血鬼の幼女は驚いたよううにセルディウスを見つめる。若者は黒髪で武者風の鎧を着ていた。手には剣が握られている。そして、吸血鬼など恐れる必要の無い、絶対的な力を彼女は感じた。そんな彼が自分を保護してくれるというのは驚きだが彼女にとって他に選択肢など無いのである。


「よし、いい子だ、どうせだからここにある死体は全部食べた方がいいぞ!!」


そう言われて吸血鬼の幼女はパッと笑顔になると食事を再開した。


吸血鬼の少女に食事をさせているところに他の二人が来た。


「その娘、保護するつもり?」

「吸血鬼だよ?珍しいし、可哀そうだから連れて帰るよ」

「犯罪だよ?」


そう聞いてきたのはシーマである。話をそらすことにする。


「シーマ、さっきの弓矢攻撃は見事だったね」

「なに今さら褒めているの?褒めても何もでないよ?」


何で少し期待してね、みたいな雰囲気で聞いてくるのか不思議だね。


「で、どうするんですか?」

「アントウェルペンに戻るよ」


 当然の事を言われて少し残念そうな二人である。どこかに遊びにでも行きたいのだろうと思うが任務なので戻るしか無い。


吸血鬼が日光を浴びても大丈夫な理由は二話で話しています。


見返していると気づくのですが…である調が抜けません、単語と単語の繋ぎを自然にしていきたいです。


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