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6 対人戦(PVP)

「よう、準備は良いかい? 最強さん」

 作戦会議を終え、大通りの中央へとやって来た僕らに、ジョウは言った。


「良いわよ。さっさと始めましょう」

 あくまでも強気な姿勢を崩さないメイとは裏腹に、僕は内心ヒヤヒヤものであった。


 そりゃそうだ。チュートリアルの次に行うのが、対人戦《PVP》。負ければ、おそらくは散々恥をかかされる羽目になるだろうから、負けたくはない。これで平然としていられるような心臓を、僕は持ち合わせていない。


 まあ、今更ジタバタしても仕方ない。ここまで来たら後はやるだけ、と言う先人のありがたい言葉にすがっておこう。


 そう思っていると、目の前にウィンドウが表示される。PVPの確認及び受諾画面だ。


 二対二のチーム戦、制限時間はなし。互いに装備や素材、資金を賭ける事も出来るらしいけど、今回は設定せず。"YES"を選択。


 MRを呼び出しのために、お互いに距離を取り合う。デバイスを操作して、メニューを表示。呼び出し画面に移って――


「来なさい、〈フリューゲル〉」

 ――いる横で、メイが言う。彼女の言葉に呼応するように、前方の地面から青白い光のカーテンがせり上がった。ちょうどプレイヤーの転送と同じエフェクトだけど、サイズは段違いに大きい。


 光のカーテンが引っ込むと、そこにはメイの機体――〈フリューゲル〉と呼ばれた全長八メートル程の、純白のMRが立っていた。額から前方に突き出た一本角に鋭い二つ眼の、いかにも主役ロボットです! ……と言いたげな外見だった。


「……メイ、MRって声でも呼べるの?」

「ええ。呼び出し文句も、好きに設定出来るわよ」


 そうなのか。説明書、重要そうでない箇所は斜め読みだったから、気付かなかった。そっちの方が楽そうだし、是非とも後で設定しておこう。そっちの方が楽そうだし。


 胸の中で堅く誓いながら、僕のMRも呼び出し完了。装甲が青い以外に特に言うべき事のない、没個性デザインの初期機体が登場する。


「ちなみに、機体は何て名前?」

「〈ブルー〉だよ」

「……その『機体色から適当に名付けました』感バリバリの名前はどうにかならなかったの……」

「良いだろ、後で付け直すんだから」


 呆れたような声色を隠さないメイに、弁明しておく。流石に〈ブルー〉じゃ味気ないとは思うし、考えておかないとなぁ。面倒だけど。


 そう思いつつ、機体に搭乗する。デバイスの操作で胸部のコクピットハッチを開き、〈ブルー〉の足下に現れたバーチャルな足場に乗る。手すりに表示されている上矢印を押すと、リフトよろしくコクピット前まで上昇して停止する。


 内部に乗り込み、シートに座って、ハッチを閉鎖。シートを円形に包む真っ白な壁面スクリーンに、外部の光景が映し出される。


 一応、装備の確認をしておこう。シートの正面下部に設置されている、多目的ディスプレイをタッチ操作、ステータス画面を表示。


 アサルトライフル、ショートソード、ナイフ、シールドの初期武装四点セット。実際には、初期に与えられる装備は複数あり、始めたばかりでもある程度は機体のカスタムは可能なんだけど……今回はそんな暇はない。そもそも、どの装備がどう優れているのか、なんて分からないから、これで良しとしておく。


『じゃあ、さっさと始めようぜ』

『お手柔らかに頼むぜぇ?』


 ジョウとエウロパの二人から通信チャットが入る。ジョウはグレーの機体で両手にそれぞれ一丁ずつの銃――多分、サブマシンガンだ――と、腰部右横にナイフを装備、エウロパはサンドブラウンの機体で右手のバズーカ砲と腰部後ろにハンドアックスを装備していた。


 ウィンドウを開いて『準備完了』を選択……すると、僕の機体が例の転送エフェクトに包まれる。


 何だ何だ、と思っている間に、転送完了。街を流れる河に掛かるアーチきょうのすぐ近くだった。メイの〈フリューゲル〉もすぐ近くにいたが、チンピラ二人の機体は見当たらない。


 ああ、なるほど。対戦相手とは、開始場所を離されるのか。確かにあのまま真正面から始めたら、機体特性によって有利不利が出てしまうだろうし。


 全員が『準備完了』を選択し終えた時点で、カウントダウンが開始される。


『打ち合わせ通りにお願いね』

 メイからチームメンバー用のチャットが入る。


「まあ、やるだけやってみるよ」

 僕は答える。


『3――2――1――』

 電子音声の読み上げるカウント数が減って行き、


『スタート』

 僕の、MRO初の実戦が始まった。






 開始から数分経過。現在、僕らはゆっくりと街中へ踏み入って、敵機を探していた。あちこち崩れているとは言え、MRより高いビルに囲まれては、そう簡単に敵の姿を見付ける事は出来ない。


「レーダーに反応……は、ないな」


 ミニマップも兼ねたレーダー画面を表示させている多目的ディスプレイをじいっと見ながら、僕は呟く。

 もっとも、初期機体である〈ブルー〉の索敵性能――つまり、敵を発見する能力なんて、別段優れている訳

ではない。何をすれば良いか分からないから、とりあえず眺めていただけだ。


『こっちも反応なしよ』

 独り言のつもりだったけど、メイが返して来た。まあ、チームチャット越しだから、メイに話し掛けたと思うのも当然か。


『反応があったら、教えてね』

「そうするけど。メイの機体の方が索敵性能高いんじゃないの? 一応は僕より進めてるんだし」


『うーん、あたしの〈フリューゲル〉はあんま索敵得意じゃないの。代わりに攻撃性能を重視してるから』

「ふーん」


『MROの機体カスタムは、基本的に何かを伸ばしたければ、別の何かを犠牲にする事になるの。何でも出来る万能型は、逆に何もかも中途半端って事になりかねない』


 そりゃあ確かに、これ一機で何でも出来る最強機体、なんてものがあれば、ゲームバランスが成り立たない。一人用ゲームの隠し機体とかならともかく、対戦ゲームとしては致命的である。


『ぶっちゃけ、コウが乗ってる〈ブルー〉の索敵性能と大差ないレベルよ。そもそも初期に選べる装備の性能は、"弱い"と言うよりも"特徴が薄い"の。もちろん、後から入手出来る装備の方が性能良いのは確かだけど、絶望的に差が出る訳じゃな

い。つまり――』

「あ、レーダーに反応」


『もうっ、せっかくありがたいお話を聞かせてたところなのに!』

「反応があったら教えろって言ったの、君だろ!」 


 思わず、音量大きめで返す。レーダーに、敵機を示す赤い光点が二つ。スクリーンに目を移す。道路の遠方、手前から数えて二つ目の交差点付近のビルの角から、二機のMRが姿を表す。間違えようもなく、チンピラチームの機体だ。


『じゃあ、援護よろしく!』

「あっ……ちょっ!?」


 止める間もなく、メイの〈フリューゲル〉がブーストダッシュ。背面のスラスターから青い燐光を吹き出し、敵機へと向かって突進する。


「ああもうっ!」

 吐き捨て、僕の機体もブースト。真正面から突っ込むのは得策ではないとは思いつつ、こうなっては仕方ない。ファンタジーゲームじゃないけれど、どうやら彼女は『勇者』としての素質があるらしい。悪い意味で。


〈フリューゲル〉がライフルを構え、撃つ。キュンッ! と甲高い音と共に銃口から一筋の青い光がほとばしり、空間を走る。いわゆるビーム兵器と言う奴で、正式には

『エーテルライフル』と呼ばれる。『エーテル粒子』なる架空の粒子を弾丸代わりに撃ち出す武器で、僕が持っているような実体弾を撃つライフルとは区別されている。


 ジョウ機に命中。体勢が崩れ、スクリーンに映る敵アーマーポイントゲージ――要するにHP。なくなれば破壊される――が削れる。


『やってくれたなぁっ!』

 わざわざ切り替えたのだろう。オープンチャットに乗って、ジョウの叫び声が聞こえた。同時にサブマシンガンの銃弾とバズーカの砲弾、二機分の反撃が〈フリューゲル〉へと飛んで来る。


『この……っ!』

 メイ機は回避運動を取りつつ、エーテルライフルで応戦。ここは援護しなけれ

ば。


 僕はライフルを発砲。標的はバズーカを撃つエウロパ機。簡単に回避されるが、お陰で〈フリューゲル〉への狙いが甘くなる。


 攻撃の手が緩んだところを、メイは攻め立てる。機体の肩部装甲を展開し、内蔵式のマイクロミサイルを一斉射。小型の弾頭が、ジョウ・エウロパ両機へと突き刺さる。爆ぜる炎。巻き上がる煙。着実に削れる敵機アーマーポイント(AP)


 おお、これなら行けるかも。やるじゃないか、メイ。


 ……と思っていたら、煙を突き破って、銃弾が僕の方へと飛んで来た。


 数発が命中。衝撃がコクピットを揺らす。流石にゲームだけあって、そう大した揺れでもないけど、臨場感は抜群だ。僕が慌てるには十分な位に。


『エウロパ! 雑魚の方は任せた!』

『おう! ……調子乗ってんじゃねぇぞっ!』


 エウロパが怒号と共に僕へと突進して来た。やばい、迎撃をっ!


 まずは動きを止めて、しっかりとライフルを構え、落ち着いて照準を合わせ――


『おらぁっ!』

 ――って、出来るかっ!!


 飛んで来たバズーカ砲弾を慌てて回避――しようにも間に合わず、命中、直撃判定。ぐーんとAPゲージが減る。


 僕は慌ててブーストを使い、後ろ向きに下がる。けどやはり、後方へ移動する僕よりも、前方へ移動するエウロパ機の方が速い。じりじりと距離を詰められる。これはやばい。


 破れかぶれでライフルを撃つ。が、横方向へと軸をずらして回避するジョウ機には、全く当たらない。逆に、反撃の一発が命中。コクピットをぐらぐら揺さぶら

れ、APを三分の一にまで減らされた。


「メイ、援護お願い! 早く!」

 すがりつくような心地で、メイに叫ぶ。


『ごめん無理! こっちも手一杯!』

 が、返って来たのはメイの切迫した声。かろうじて見えたスクリーンの向こう

に、ジョウ機の猛攻を受ける〈フリューゲル〉の姿があった。


 やばいやばいやばい。


 とにかく、ひたすらにライフルを撃ちまくって迎撃をしなきゃ。まぐれ当たりでも何でも良いから連射連射連射――


 唐突に、砲口から吐き出されていた弾丸が止まる。スクリーンにはリロードの表示。


 弾切れだ。何もこんな時に――って、撃ちまくったのは僕か。


 リロードの手段は、自動と手動の二種類。前者は時間が掛かり、後者は動きを止める必要がある。どちらも、今現在の状況に驚く程マッチしない。


 ついでに、ブーストゲージもほとんど残っていない。こちらは時間経過以外に回復手段がない。


『ここまでだなぁっ!』

 エウロパも、既にこちらが弾切れなのを悟っているのだろう。バズーカを構え一気に突っ込んで来る。


 敗北。


 絶望的な単語が胸に浮かぶ。同時に、『そりゃそうだろう』と言う達観も。


 やっぱり、始めたばかりの初心者には荷が重い勝負だった。これが当たり前の結果だ。


 負けたら、あの二人に何を言われるやら。相当不快な目に遭うだろう事は容易に予想出来る。やだなぁ。やっぱ、首突っ込むんじゃなかったかなぁ。


 スクリーンの片隅を見る。ジョウ機に攻め立てられ、回避に徹する〈フリューゲル〉の姿。このまま凌いで、敵機の弾切れを待って反撃開始――となるより、僕を片付けたエウロパ機が加勢に向かい、二人掛かりの猛攻の前にメイ機撃墜――となる方が、確率的に上だろう。


『どうだぁ!? ちったあその生意気な鼻っ柱、引っ込める気になった

かぁっ!?』

『そう言うセリフは、あたし達に勝ってから言いなさい!』


 だと言うのに、オープンチャットから聞こえるメイの声は、未だに戦意が萎えていない。


 あたし、ね。期待するなって言っておいたのに、僕もきっちり戦力に計上されているらしい。もちろん、大した意味など込めていない発言かも知れない。そもそも僕は、|二階堂さん(メイ)の事を深く理解している訳ではない。


 けど、


(歓迎するわ、相棒)

 ついさっき、僕に向けた笑顔。ようやく志を同じくする仲間を見付けた、と言わんばかりの喜びに満ち溢れた表情を思い出す。


 そんな彼女を裏切れない。……とまでは流石に行かないけど、まあ言葉にすればそんな感じだ。とにかく、そう言う気分がにわかに湧いて来た。


『これで終わりだなぁっ!』

「いいや」


 エウロパの声に、気が付いたら答えていた。


「僕らが勝つ」

 なんてらしくないセリフなんだろう、とは思いつつも、僕の頭はすんなりと『じゃあどうすれば良いか?』を考えていた。


 ライフルは弾切れ。リロードをする暇はない。残る攻撃手段は――


 思いの外、判断は速かった。ライフルを投げ捨て、代わりにショートソードを引き抜く。同時に、ブーストを停止。ゲージが回復に転じる。


 エウロパがバズーカを撃つ。


 素早くサイドステップ。すんでのところで回避。背後で爆発が起きる。


 道路を蹴って、前進。ブーストは使わずに温存。


『チッ、しぶといな!』

 仕留められると思ってたんだろう。エウロパは舌打ちし、後方へ距離を取りながら、なおも撃とうとバズーカを構える。


 右、左とジグザグステップを織り交ぜながら前進。それだけで、相手の照準を撹乱出来たのだろう。撃たれた二発とも回避に成功。


『この……っ!?』

 後退していたエウロパ機の動きが鈍る。多分、ブーストゲージ切れだろう。僕を追っていた時からずっと、ブーストを使いっぱなしだったのだから、当然だ。


 好機と見た僕は、温存し十分にゲージが回復したブーストを使用、突撃する。


 エウロパ機とのすれ違い様に右手のソードを一閃、敵機の胴体を薙ぐ。命中判

定。


「反撃開始だ」

 僕はすぐさま〈ブルー〉を反転させ、エウロパ機へと向かって行った。


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