↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

君は僕の「」を否定しなかった

作者: 雨上鴉
掲載日:2017/04/17


――この世界には、あるものが欠けていた。

誰もかれもが、それに気づかないまま。

欠けたものの存在すら知らないままに。


大人になって、死んでいったのだ。


僕は、この街で「異常」だった。

この小さな、それでいて人の多い街で、異常だといわれるもの。

それはただひとつ、僕の持つ――目だった。

この世界には「色」と呼ばれるものがない。

遥か彼方昔。太陽と呼ばれていた、空に輝く大きな光が、まだ地上に届いていた頃。確かに「色」というものは存在していたらしい。今は、それがどんなものなのか。書物に記されたことがら以外は、一切わからないものになっている。

ただ、この「色」は。

今の世界にとっては「異常」だということしか。人々にはわからなかった。

だから、人々は。「異常」と思われるものを指すときに、「色」があるという。

僕の目は、その「色」があるという状態らしい。

だから、ここでは僕は嫌われ者……というより、どう扱っていいかわからない、といった感じだ。一応声をかければ応じてくれるし、石を投げられるとか、店の出入りを断られるとか、そういったことはない。

けれど、それだけだ。

僕は、この街の唯一の「色」のある目を持っていて。

この街で独り、生きていた。


ある日のこと。

珍しく寝坊した僕は、寝ぼけた状態で家の外を見た。

……街の様子がいつもと違う。

いつもはこう、もっと静かだ。いや、今も静かなのは静かなのだが。こう、行き交う誰もがそわそわしているというか。

僕は不思議に思いながらも、外に出た。


今日は、なんだか視線が痛い。

視線が僕に集中することはよくあるが、今日はなんだかいつもよりひどい。本当に、物理的に刺さっているみたいだ。それは、街の中心に行くにしたがってひどくなる。……さすがにこれは、慣れた僕でも気分が悪い。一体何があったというんだ。

人のよりざわついている場所。そこに、それはいた。

――嗚呼。そうか、だから。

それは、確かに「異常」だった。

けれど。

それは何者にも代えがたい絶対で。

確かにこれは「色がある」ものだった。

人の視線をくぐった先。

そこにいたのは、僕とそう年の変わらない女の子だった。

二人の髪の隙間から覗く目は――僕とは違うけれど、確かに「色」があった。

「色」というものは、たくさんあるという。

僕が持っている「色」と。彼女が持っている「色」は別物で。けれど、確かに「色」で。

とても、とても――ただひたすらに、美しかった。

少女が、僕に気づいた。少し驚いたような様子を見せた後、こちらに近づいてくる。僕も、ちょっとだけ近づくために歩く。

「こんにちは、「色」を持つ人」

「……こんにちは」

僕は、やっとのことでそれだけ呟く。めったに使わない声帯から、擦れた音がなんとか言葉を成す。彼女にこの声は、聞こえただろうか。

少女が、ゆっくりと近づく。ずっと独りで生きてきた僕が、誰にも立たれたことのない距離。そんな距離に、彼女はいた。そして――僕の目を覗き込んだ。

「……あなたの「色」は、ほかの誰にも真似できない、素敵な「色」ね。……その「色」は、私たちの身体に流れている血の持つ「色」だったんだわ、きっと」

そんなことを言われたのは。生まれてこの方、一度もなかった。人は、ただただ僕のことを「異常」だと言い。誰も、誰も。僕の「色」を肯定なんてしなかった。僕の目をまっすぐ見つめる、その目は。僕の色を唯一肯定してくれるものだと、そう思った。

「……君の、「色」は」

ああ、もう。自分の声帯が忌々しい。こんな時に、擦れた声は不便だ。

「……君の「色」は。きっと、かつて存在していたという海の「色」そのものだ」

僕がそう言うと、彼女はさっきよりも驚いた様子で。

嗚呼、きっと彼女も。僕と一緒で、かつていたところで、ずっと独りだったのだ。

「……ありがとう」

少女は、笑った。


僕は、ようやく出会えた。僕を肯定してくれる、唯一1の絶対に。

きっと、この出会いには。

この世界の何よりも、素晴らしい「色」が与えられている。




END


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。