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パラ8 帝国陸軍婦人部隊の少女にトイレの場所を教えてもらう件

 さて、現在の僕たちの境遇きょうぐうはと言うと、司令部建屋の来客室をあてがってもらい、ビスケットをつまみながら、コーヒーを飲んでいるところだ。

 別に軟禁されているわけではない。

 基地幹部への報告を済ませたら、取りあえずやる事が無くなったので、待機中と言う事なのだ。


 僕たちの面接をしたのは、現在の御蔵島で最高位の将校である高坂こうさか中佐なのだが、高坂中佐は主計しゅけい中佐という肩書の、武張ぶばったところの無い人だった。

 早良さわら中尉が、会議室のドアをノックし、「早良です。」と声をかけると、「どうぞー。」という威厳いげんの無い返事とともに、中佐自らがドアを開けてくれた。

 部屋の中では、10名ほどの人々が忙しく動き回っており、中佐のデスクは書類に埋もれかかっていた。


 彼は僕たちに会うなり

「片山君、岸峰さん、お疲れ様です。私は高坂という経理屋です。決して、君たちの事を軽く見ているわけでは無いのですが、想定外の事態が多発していまして、ご覧の通り対応に追われています。この建物の中の来客室の一つを、君たちの当座の居室に確保しましたから、今日の所はそこで休んでいて下さい。」

と申し訳無さそうに告げた。


 そして中尉たちには

「中尉と少尉は、私に口頭で説明する前に、事態を報告書としてまとめて下さい。形式にとらわれず、推測や疑問点も含めて好きな様に書いて下さい。伍長にも同様の作業をお願いします。書き上がった報告は、直接私に提出して下さい。誤字・脱字等気にする事は無用ですので、記憶と印象が新しい内に、早速作業に取り掛かって下さい。報告書の作成中には、お互いで記憶の確認などを、し合わないこと。作業には……そうですねぇ、小会議室を使ってもらいましょうか。」

と、淡々と指示を下した。


 何だろうか、このやり取りは?

 いや、「たるんでおる!」とか「キサマ、スパイか!」とか怒鳴りつけられるより、滅茶苦茶良いのではあるけれど。

 でも、帝国陸軍将校が司令部に入室する時と言えば、映画なんかだったら、ここは

『早良中尉、入ります!』

『入れ!』

『報告します!』

こう!』

というようなふうに話が進むのが標準的な気がする。


 もっとも、僕は平成時代の人間で、第二次大戦当時の事は映画やドラマでしか見た事が無いから、本当の処がどんな感じであったのかは知らない。

 しかもパラレルワールドでの出来事だから、僕の持っているイメージと異なるのは仕方が無いと言うか、当たり前なのかもしれない。


 多少、釈然しゃくぜんとしない物を感じながらも、僕と岸峰さんは中佐にお辞儀をしてから退室した。

 そして、帝国陸軍婦人部隊所属の石田フミという、キリリとした少女に案内されて、司令部建屋の二階にある来客室へやって来たのだった。


 「帝国陸軍婦人部隊」なんていう組織は、元の世界では聞いた事が無かったから、こっち独自のものに違いない。

 多分、アメリカと同盟するにあたって、アメリカ陸軍婦人部隊とか、イギリスの婦人補助空軍、ドイツの国防軍補助婦人隊なんかを真似まねて、大慌てで作ったものなのではないだろうか。

 いわゆる「国際標準」に合わせるというヤツだ。

 だから彼女の服装も、僕らの方の世界の過去に存在した、勤労動員きんろうどういんされた女子挺身隊じょしていしんたいの女学生みたいなセーラー服にモンペ穿きの様なものではなく、膝丈ひざたけスカートのスーツ姿だ。


 石田さんの事を「少女」と評したけれど、彼女は見た限り、僕や岸峰さんと同年配くらいの年齢のように思える。

 階級なんかは、どうなっているのだろうか?

 第二次大戦当時の日本軍は、基本的には徴兵年齢は20歳で、志願者なら、17歳から徴兵検査を受ける事が出来たはずだ。

 僕よりも、一つ年上の新兵さんなのかな?

 たずねてみたい気もするけれど、怒ったら怖い人のようにも思えるので、黙っていることにした。


 案内された来客室には、応接セットの他に、簡易寝台かんいしんだいが一つ運び込まれてあった。

 岸峰さんか僕のどちらかが簡易寝台を使い、もう一人はソファーで寝る事になるようだ。


 僕には何の相談も無く、簡易寝台にカバンとリュックを放り出した岸峰さんが、モジモジしながら石田さんに

「あの……、ご不浄ふじょうは?」

たずねる。


 ご不浄とは、古風な言い回しを選んだものだ。

 この基地にはアメリカ軍やオーストラリア軍もいるんだし、英語が敵性国語に成っている事はないはず。

 はたして石田さんは

「トイレットですね。ご案内します。」

と、歩き出した。


 トイレの場所を知っておく事は必要だから、僕も二人を追従ついじゅうする。

 すると、来客室近くの階段から、一階に降りた所に『Toilet』はあり、『Gentlemen』『Ladies』と区分けしてあった。

 はい、ちゃんと英字表記ですよ。

 岸峰さんが『Ladies』に飛び込んだので、石田さんに給湯室と洗濯場せんたくばの位置も教えてもらった。


 給湯室と洗濯場は、トイレの位置からは建屋の奥に進んだ場所で、給湯室には水道の蛇口とガスコンロがある。湯沸かし器は無い。

 給湯室の蛇口から出るのは、山の貯水池から引いている真水だ。

 それに対して、洗濯場で使う水は井戸水だ。水は豊富と言っても、島という立地上、全てを貯水池の真水でまかなうのは難しいのだろう。

 石田さんの話では、井戸水も飲んで飲めない事はないのだそうだけど、少々塩っ気があるらしい。

 また当然の事ながら、洗濯場に洗濯機は無い。アメリカ軍との共同基地だから、もしかしたらと期待したのだけれど、無い物は仕方が無い。

 使った事は無かったけれど、洗濯板と固形石鹸と金盥かなだらいの三点セットに挑戦してみるとしよう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物


 片山修一 大戸平高校2年 生物部 詰襟学生服の少年

 岸峰純子 大戸平高校2年 生物部 セーラー服にポニーテールの正統派美少女


 高坂中佐 独立混成船舶工兵連隊 主計中佐

 早良中尉 独立混成船舶工兵連隊 技術中尉

 オキモト少尉 アメリカ陸軍所属 日系二世 混成連隊に出向中

 ウィンゲート少尉 オーストラリア陸軍所属 エンジニア

 尾形伍長 独立混成船舶工兵連隊


 石田フミ 日本陸軍婦人部隊


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