表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/417

パラ7 検問所で衛兵に未来人である事を認めてもらう件

 検問所には、衛兵一人がバーの後ろに立っていて、軽戦車一両と装軌式そうきしきの装甲車一両が脇を固めている。

 軽戦車も装甲車も、ハッチを閉じたままで、車長すら顔を見せていない。

 バーの手前で停車したジープに、衛兵が近づいて来る。


 衛兵が中尉に敬礼すると、早良中尉はあまり颯爽さっそうとしていない答礼をし、

「後ろの車両の学生服二人は、未来人だから、失礼の無いように。」

と、僕が聞いても「はぁ?」っと返したくなるような、トンデモない説明をした。


 しかし衛兵は、中尉の変てこな弁に異も唱えず

「今日は驚くような事ばかり起こっていますから、未来の人から詳しい説明を受けたいものです。噂では、御蔵島がシナまで移動したようだ、と馬鹿な話が流れているようですが。何せ今日ばかりは、不審な人物と遭遇しても、みだりに発砲したりせず、距離を取って観察するか、出来得る限り話し合って状況を探るよう、指令が出ています。司令部も戸惑っているみたいですね。」

と、頭を振った。


 衛兵は僕たちの所へやって来ると

「身分を示す物は、お持ちですか?」

と丁寧な口調で訊ねてきた。

 助手席の岸峰さんの所へ行かず、後席の僕の隣に立ったのは、女性に対しては遠慮があるからに違いない。


 軍事基地で身分証として通用するのかどうなのか、はなはだ心もとないのだけれど、胸ポケットから学生証を出して彼に渡す。

 「はい。80年くらい先の世界から、迷い込んで来ました。」

 だって僕は、運転免許証も健康保険証も持っていない。証明書らしき物は、これしか無いのだ。

 また仮に、免許書やパスポートを持っていたからと言って、この世界では通用しないだろうし。


 衛兵は学生証の写真と僕の顔を見比べ

「未来人と言うのは本当ですか?」

と困った顔をして訊いてくる。

 彼の疑問ももっともで、僕も岸峰さんも、見た限りではただのガキに過ぎない。

 彼の持っている未来人のイメージが、「リトル・グレイ」タイプの宇宙人みたいなものだったのであれば、意表を突いた平凡さなのだろう。


 この島の時代が昭和初期だとすると、80年ほど前と言えば幕末か明治の初め頃だったわけだから、服装や武装には、形状において大きなへだたりがある。

 それに比べれば、昭和初期の学生服と僕らの時代の学生服とでは、見た目の差が小さい。

 材質は化学繊維を多用して、随分ずいぶん変化しているのだけれど、この時代に存在した化繊はレーヨンいわゆる人造絹糸だけのはずだ。

 ナイロンやポリエステルという存在を知らなければ、ただの「布の服」であり、差を見出す事は難しいのだろう。


 僕や岸峰さんが、チャラいメイクや服装をしていたら、未来人はともかく異世界人と受け取ってもらえたかも知れないけれど、生憎あいにく二人とも「都市ゲリラは目立たず市民に溶け込んでこそナンボ」という主義・趣向しゅこうを持っているから、服装は標準・平凡をむねとしている。

 見てくれで分かってもらえないのであれば、何か道具を使うしかない。

 電卓かパソコンかガラケーか、あるいはシャープペンシルかレーザーポインターでも見せてみるか?

 中尉か伍長が助け舟を出してくれることを期待して、そちらの方に目をっても、二人とも事態の成り行きに興味深々の様子で、介入してくれそうにない。


 こちらの時代の人はともかく、岸峰さんまでがニヤニヤ笑いで僕を眺めているのに腹が立つ。

 なので、彼女を巻き込む事に決めた。

 「彼女の脚を触ってみて下さい。」


 僕の提案に、衛兵は怪訝けげんな顔をすると、岸峰さんの横に向かった。

 「ちょっと、ちょっと!」と彼女が抗議するけれど、僕は構わず「今までに無い肌触りのはずです。」と彼をけしかける。

 衛兵は女性の脚に手を伸ばすのを躊躇ちゅうちょしたけれど、前のジープから飛び降りたオキモト少尉は、遠慮なく岸峰さんのストッキングをつまみ上げた。

 そしてオキモト少尉は

「何だろう? この繊維は絹でもレーヨンでもないね。しかもストッキングに縫い目が無い。これ、仕入れが出来るものならアメリカで売ったら、一財産間違いないよ!」

と歓声を上げた。


 「ナイロン繊維です。この時代には、まだ存在しないはずの繊維です。」

 僕の説明に、衛兵は「な、なるほど……。」と、納得したのかしていないのか分からないけれど、一定の理解を示してくれた。

 ただ、岸峰さんは僕に向かって「この借りは必ず返す!」と息巻いている。

 伍長が僕らのやり取りに吹き出して、「自分もナイロン繊維を触ってみたかったナァ。」と感想を漏らすと、岸峰さんは

「伍長殿、チャンスは前髪を掴めです。後ろ頭はツルッツルです!」

と、くぎを刺した。


 これだけの騒ぎが起きていれば、戦車や装甲車から見物の兵が顔を出しそうなものだが、二両とも完全に沈黙している。

 僕が衛兵に「戦車、静かですね?」と言うと、彼は「二台とも無人だよ。人手が足らないんで、威嚇いかく用に置いてあるだけですよ。それと、あそこに有るのは、二台とも装甲車です。一台は砲が付いているから、戦車っぽく見えるけど。」と教えてくれた。


 それから彼はバーを上げて、僕たちを通してくれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場機材


 97式軽装甲車「テケ」

  乗員2名

  37㎜砲×1

  4.8t

  装甲12㎜

  速度40㎞/h

  航続距離250㎞


 94式軽装甲車「TK」

  乗員2名

  6.5㎜機関銃×1

  3.5t

  装甲12㎜~8㎜

  速度40㎞

  航続距離200㎞

  TKはタンケッテ(豆戦車)の略ではなく、「特殊牽引車とくしゅけんいんしゃ」の略称


 被牽引車ひけんいんしゃ

  テケ又はTKにて牽引される貨車

  足回りは履帯りたい

  貨物搭載量750㎏


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ