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パラ6 僕たちが飛ばされて来たのが御蔵島という場所だった件

 「伍長殿、ここは宇品うじな港ですか?」

 助手席には岸峰さんが座って僕は後席に着いたから、オープントップの車両だと、運転席にいる尾形伍長と話をするのには、僕が前に体を乗り出しても、大きな声を出さないと届かない。


 瀬戸内海の港で、陸軍が海外に移動する時に使用した港は、海軍の軍港である呉にも近い宇品だったはずだから、当たりを付けて宇品の名前を出してみたのだ。

 ただ、宇品は河口の三角州を埋め立てて造った街だし、目の前には四国というより江田島なんかが見えるはずなので、何だか違う気もするのだが、他に思いつかなかった。


 「宇品には近いと言えば近いけれど、ここは御蔵島みくらじまだよ。」

 伍長も僕に負けない大声で、返事をしてくれる。

 「同盟を結んでいるとは言え、流石さすがに外国軍の大部隊を、呉の真横まよこの陸地に駐屯ちゅうとんさせたくない勢力が居たみたいでなぁ。多分、大艦巨砲主義の奴らの差し金だと思うんだが、わざわざ御蔵新港という港湾施設と駐屯地をこしらえたんだよ。その代り、荷揚げに使う設備が国内の鉄道規格に合わせなくとも良いから、作業のはかは行くがね。」


 御蔵島と言ったら、僕はオオミズナギドリと巨木で有名な伊豆諸島の島しか思い出せないけれど、瀬戸内海には有人無人合わせて700以上の島が有るから、広島県のどこかなのだろう。

 ただし、広島だけでも120以上の島が有ったはずだ。

 「どんな島です?」と訊く岸峰さんへの伍長の答えは、

「南北朝時代に、南朝側の海賊の拠点だった島の一つだよ。水が豊富なのが最大の利点かなぁ。」

というものだった。


 二台のジープが山道を巻いて下って行くにつれ、山の陰になっていた部分の視界も広がり、石油タンクや何かの工場らしい建屋、整然と並んでいるカマボコ型の兵舎が見えてくる。

 僕たちの居た場所は、山の中腹から一定の方角だけを見張る、隠蔽された対空監視所の一つだったみたいだ。

 石油タンクの先にある高い構造物は、精油塔だろうか。


 伍長はここを島だと言っていたけれど、この光景を見ると工業地帯の一角にしか思えない。

 精油塔より遠くにも、煙突がずっと並んでいる。

 工場群は、今現在は操業を停止しているのか、煙突から煙は上がっていない。

 とても急ごしらえの施設には見えないから、国内の他の場所から、様々な余剰設備を移転させて作り上げた「虎の子」の島なのかも。

 確かに、他の国の軍隊と共用する港であるならば、恥ずかしいモノは作れないだろうし、アメリカ軍関係の工場も操業している可能性だってある。


 見晴らしの良い場所には、高射砲や機関砲の陣地があり、警備任務に就いている兵が立ち上がって、先を進む中尉の車両に敬礼をしている。


 所によってはアメリカ製のM3軽戦車が、37㎜砲を海に向けて警戒している場所もあった。

 アメリカ兵かオーストラリア兵らしい車長が、ハッチから上半身を出して双眼鏡をのぞいている。 車長が接近して来るジープに気が付き、中尉の車両に敬礼した後、僕たちにも大きく手を振ってくる。

 岸峰さんが手を振り返すと、車長は指笛を吹いて歓迎の意を示した。


 海岸近くまで下って来た所には、巨大な倉庫群と、それに隣接する整地された広場が有った。

 しかし、整地されているとは言え、舗装はされておらず、地面がき出しのままだ。

 大きさは、陸上競技場2つ分くらいかな?

 広場の周囲には、土嚢どのうを積んだ対空陣地が点在している。


 「ここ、何ですか? 練習場か運動場ですか?」と岸峰さんが問う。

 運動場の周りに陣地はいらないだろう、と思っていると、伍長が「御蔵空港だよ。」と答える。

 僕は思わず「空港にしては、狭くないですか?」と訊いてしまった。

 山がちの島にしては、広い空き地だと言えるけれど、地方空港ほどの広さも無い。岸峰さんが運動場と間違えた程度の広さだ。


 「重爆、ええっと重爆と言うのは重爆撃機の事だ。その大きな飛行機を飛ばす訳ではないから、これで充分なんだ。『時津丸ときつまる』や他の舟艇母船には、着艦設備が無いからね。おっと、時津丸というのは、先ほど見えていた輸送艦だよ。上面は飛行甲板だし偵察機や連絡機も積んでいるから空母みたいに見えるけれど、船への着艦に関しては、我が陸軍もアメリカさんにしても、やはり陸軍より海軍の方が一日の長が有る。陸上に着陸場所を確保しないと、安心して飛び出せないんだ。」


 僕は伍長の丁寧ていねいな説明に、「分かりました。」と大声で答えた。

 そして重ねて

「でも、おあつらえ向きの土地が有って良かったですね。空港になる前は、畑か何かだったんですか?」

と訊ねてみた。

 「畑というか、ミカン山だったんだよ。アメリカさんが排土板はいどばん付きの重機を使って、アッと言う間に整地してみせたんだ。我が陸海軍の偉いさんも視察に来ていたが、あまりの早さに舌を巻いていたよ。モッコとツルハシじゃ、話にならない。我が国の土木技術は、機械化という分野において、大きくアメリカに水を開けられているんだ。機械化の重要性が、少しでも解ってくれたら、良いけれどね。」


 話をしている間にも、御蔵空港は後方に遠ざかって行き、前方に検問所が見えてきた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場機材


 M3軽戦車(スチュアート軽戦車)

  乗員4名

  37㎜砲×1 機関銃×5

  12.3t

  装甲25~38㎜

  速度56㎞/h(路上) 32㎞/h(不整地)


 特殊船 時津丸(舟艇母船)

  9,500t

  20ノット

  75㎜高射砲×2 75㎜野砲×10 20㎜高射機関砲×6

  特大発動艇26隻

  航空機8機

  上陸部隊1個大隊


 特大発動艇(特大発/上陸用舟艇)

  軽荷速力10ノット 満載速力9ノット

  搭載量:戦車1両

      もしくはトラック2両

      もしくは武装兵120名

      もしくは貨物16.5t


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