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水上交通遮断作戦 1

 「爺さん、この銃は、この槓桿こうかんを引いて、挿弾子そうだんしの弾を詰めるを繰り返えせば、5発までは連続して撃てるからな。火縄も要らないし、ちょっとくらい水がかかっても大丈夫だ。」

 「凄い銃だが、あんた私に武器を持たせても、私があんた目がけて撃つとは心配せんのか?」

 「爺さんが信用出来なかったら、この世界の誰も信用出来ないよ。」


 禿頭の老海賊の名前はほうと言うらしい。鮑信埼ほうしんき、なにやら三国志にでも出て来そうな響きだ。

 甲板員が鮑に38式小銃の操作法を教えているのを見ながら、小林艇長はそんな事を考えていた。


 鮑老人は御蔵軍に協力するにあたって、条件を一つ出した。

 協力するのにやぶさかでは無いが、自分の乗り組む舟は、自分を海上から拾い上げてくれた、あの舟長ふなおさの舟が良い、と。

 高速艇甲(HB-K)は非装甲だから、鋼板に守られた装甲艇の方が良いのではないか、という説得にも

「海賊稼業で過ごしてきた身だ。弾に当たる時は運が悪いと諦める。けれども命を預ける相手は、選べるものなら選びたい。」と錆びた声で応える。


 くして、高速艇甲104号艇は鮑老人をクルーに加え、ア島の残存兵力への投降勧告を行う事となった。

 104号艇には新たに投降勧告用のスピーカーが持ち込まれ、自衛火器として軽機関銃と銃手、装填手(弾薬手)も乗り込む。


 104号艇以外にア島攻略に向かうのは、昨日ア島を砲撃した装甲艇3号と、大発2隻小発2隻という兵力だ。

 大発には、それぞれ95式軽戦車「ハ号」を搭載し、小発には1隻ごとに兵20名(2個分隊)計1個小隊が搭乗する。

 叩くだけ叩いた島にこれだけの兵力を差し向けるのは、「確実に占領するためには中途半端な戦力であるが、もう一押しするためだけなら『牛刀をもって鶏を割くが如し』。ア島の敵戦力は既に『死に体』なのだから、御蔵島の脅威には成り得ず、ただ捨て置けばよい。」という意見も有ったが、一方では「海上進行と着上陸の演習には、もってこいの島である。」との意見も出て、演習的に占領を試みる事になった。


 但し、「占領」は行動のための名目であって、敵が抵抗の意思を強く示すのであれば、直ちに撤退し放置するという行動規範は、徹底された。

 味方の戦死傷者を極力出さないためで、戦国時代に鳥取城や三木城の籠城軍に対して行われた、『かつえ殺し』の戦法の応用だ。

 だから厳密に言えば、これは「占領作戦」ではなく「威力偵察」と言う方が実情に合っているのだが、仮に占領に成功してしまった場合、投降者の処遇をどうするかという問題が有る為、占領作戦としての実行が決定されたのだった。


 同時に、イ島にも攻略部隊が送り込まれる。

 ア島に比べて平地の少ないイ島は、推測される敵兵力は少数とは言え、戦車の行動が制限されるであろう事が予想されるため、装甲艇2隻(1号、4号)、武装大発2隻(15榴搭載)、小発2隻(各2個分隊 計40名)という陣容だ。

 装甲艇4号から投降勧告を行うのは、鮑老人から推挙されたえんという初老の海賊で、袁は清の役人に従い弁髪にしていたが、昨夜の内に髪を全て剃り落として鮑と同じく禿頭にしてしまっている。

 イ島攻略隊は、投降勧告を行った後、敵がそれに応じなければ、武装大発の150㎜砲で敵拠点を破砕する。

 目的は「武装大発運用の習熟」で、占領や捕虜の獲得は二の次とされた。

 なお、小発に搭乗する兵には、擲弾筒と軽機関銃による支援射撃の習熟が課せられている。


 他の装甲艇や高速艇乙(HB-O)には、御蔵周辺の有人島で停泊中の舟に対する破壊命令が出された。

 航行中の船舶でも、抵抗あるいは逃亡の意思を示した物には同様の措置が取られる。

 船さえ破壊してしまえば、敵の行動を制約する事が出来るからだ。

 仮に残存戦力がいかだを作ったとしても、筏では移動速度も遅ければ、潮流・波浪への対応も距離が長くなればなるほど難しい。

 船を作成するのには、充分な量の板材と熟練の船大工の技術が不可欠であり、一度破壊してしまえば復旧には時間が掛かる。


 こうした作戦を実施する事になったのは、降伏した海賊への聞き取り調査で、現在、舟山群島付近の船舶は清国の影響下にある水軍(海賊)である事が判明したからだ。


 清国は揚子江ようすこう以北の渤海ぼっかい及び黄海こうかい沿いをほぼ掌握しつつあり、華南方面にまで進出の機会を窺っている。

 厄介な明の残党を掃討するためには、この周辺の海賊を帰属させて、精力的に海上戦力として活用し、海陸双方から圧力をかけようとしているのだ。


 このため、御蔵島が蓬莱だという誤解・誤認が無くとも、遅かれ早かれ清国に服属した海賊との間には戦端が開かれていた訳で、戦闘を避けようと思えば、御蔵島が清国に帰順するより他に無い。

 但し、帰順したからと言って、公正な待遇を受ける事が出来るという保証はどこにも無かった。


 明国が如何いかにも呆気あっけ無く清国に食い散らされる理由になったのは、飢饉や失政を放置して民心が離れてしまっていた為で、揚子江以北が清国領に成ったと言っても、その場に住まう人数に、清国の基本構成民族である女真人(満州人)が多数を占めている訳ではない。

 要は、軍人・官吏が住民を率いて、明から清に寝返ったのだ。

 服従のあかしが弁髪である。


 だから、御蔵島が大人しく舟山群島の地方役人か海賊の頭目に投降して服従しても、事の仔細が清国中央政府にまで伝達されるとは考えられず、功に焦る地方役人によって、全ての装備や資材が価値も分からないままに強奪・没収され、人員は良くて奴隷化、運が悪ければ死罪になる事は明白であるから、安全確保のために支配地域の拡大を目指す事となったのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場機材


 武装大発

  車両や人員を揚陸するための大発(大発動艇)に砲を搭載したもの

  上陸支援や敵拠点攻撃のための簡易的な砲艇として使用された

  車両や人員・貨物を積む部分に砲を据える訳だから射界は限られる

  陸上兵器だったら砲戦車や自走砲に相当する(のではないかな?)

  (あるいはそれこそ貨車山砲)


  「射界が限られる」「外洋渡渉能力が低い」などの欠点も考えられるが

  簡易的に大口径の砲を作戦に投入出来るという利点は大きい

  15榴は口径だけを見れば軽巡洋艦の主砲・戦艦の副砲に匹敵する

  但し諸元は大発と同様だから、移動速度は7.8ノット(14㎞/h)

  高速魚雷艇などが跋扈する水域では使い辛そう


  砲艇としての武装大発の搭載砲は15榴の他に

   41式山砲(口径75㎜)

   94式山砲(口径75㎜)

  が用いられた

  この他、迫撃砲を搭載し対潜哨戒艇として使用された例もある

  75㎜の中口径砲や迫撃砲はそのまま大発に設置出来たが

  15榴(150㎜砲)の場合には大発の床の補強が必要だった


 38式15糎榴弾砲

  口径 149.1㎜

  砲身長 1.89m

  重量 2.1t

  最大射程 5.9㎞

  高低射界 0~43度

  左右射界 1.45度


  武装大発に搭載した15榴(はこれに決めた)

  日本陸軍の代表的15榴は、この38式の他に

   4年式15糎榴弾砲(大正4年 1915年に制式化)

   96式15糎榴弾砲(昭和10年 1936年に制式化)

  がある


  この38式は制式化が明治38年(1905年)の老兵だが

   4式15糎自走砲「ホロ」

  にも搭載された榴弾砲という事で許して頂きたい


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