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パラ5 挨拶に敬礼が必要かどうか確認する件

 二台のジープに分乗した計10名の将兵の内、一台の車両の運転手一人を残した9名が下車する。

 兵の中には、水島さんの顔も見える。

 水島さんと親しくなったというわけではないけれど、心細い状況にあると、単に知った顔が居るだけでもホッとしたものを感じる。

 この世界で知り合いと呼べるのは、水島さんの他には尾形伍長と岸峰さんだけだ。


 下車した将兵には、将校らしい日本兵が一人、下士官らしい日本兵が一人、日本兵とは異なる軍装をした将校らしき人物が二人いる。

 下士官が、キビキビと4名の兵を指揮して、周囲の警戒のために散開する。

 下士官自身は、準備室に繋がる扉の前に立哨りっしょうした。

 彼も尾形伍長と同じく、ト式機関短銃を装備している。


 ジープの前には、尾形伍長と水島さん、日本軍将校と外国人将校二人、岸峰さんと僕の7人が残った。

 外国人将校の内の一人はアングロサクソン系の顔をしているけれども、もう一人の顔はどう見ても日本人にしか見えない。

 尾形伍長が、「報告します!」と宣言してから、三人の将校に状況の説明を始めた。


 伍長の語る内容は、日本人顔の外国人将校が、アングロサクソン顔の将校に逐一通訳している。

 日本人将校は、丸縁の眼鏡(ロイド眼鏡と言うのかな?)のつる頻繁ひんぱんに指で押し上げながらも、口をはさまず熱心に報告に聞き入っている。


 「……以上の事から、彼ら二名は、異なる歴史を持つ未来からの遭難者であると推察されます。」

 そして尾形伍長は、電卓を報告の傍証ぼうしょうとして差し出した。

 日本人将校は、興味深げに電卓を操作して

「これは素晴らしく便利な物だね。算盤そろばんや計算尺どころか、機械式計算機すら過去の遺物に成ってしまったよ。」

と感嘆した。


 そして彼は、電卓をのぞき込んでいるアングロサクソン顔の将校に「フューチャー・テクノロジー!」と言って、電卓を渡すと

「自分は、早良さわらと言います。技術畑を歩いて来たせいで、本科の者に比べて軍人としては未熟ですが、中尉を奉職ほうしょくしています。」

と自己紹介をしてくれた。


 尾形伍長が説明の中で、僕たちの事は既に紹介してくれていて、その時に黙礼もしていたけれど、僕は中尉にお辞儀をしてから、

「大戸平高校2年の、片山修一と申します。彼女は同じく高校2年の岸峰純子です。」

と挨拶をした。

 そして、挨拶が非礼でなかったかどうかが気にかかり

「この様な時には、お辞儀ではなく敬礼をするのが正しいのでしょうか? 儀礼にうといもので、申し訳ありません。」

と付け足した。


 中尉は明らかに狼狽ろうばいした様子で

「君たちは民間人だから、普通にお辞儀で構わないと思うんだが、……どうしたものだろうね、尾形君?」

と、僕の質問を尾形伍長に丸投げしてしまった。

 伍長は即座に

「民間人どころか、違う時空の人間なのですから、意図的に無礼を働く場合以外には『問題無し』とせざるを得ないもの、と考えます。」

と返答し、僕たちにウインクして見せた。


 中尉は「そうだよねぇ。」とうなずいて、「僕なんかが、彼らの世界に行ってしまったら、知らず知らずの内に、どんな失態を仕出かすのか、分かったモノじゃないもの。」と納得した様子だ。

 二人のやり取りを、可笑しそうに眺めていた日本人顔の将校が、

「本、混成連隊の重要な課題の一つに『異文化に対する理解と許容』が有ったわけですから、伍長の意見具申いけんぐしんは的を射た指摘であると考えます。」

と言ってから、岸峰さんと僕に握手を求めてきた。


 彼は、「私はアメリカ陸軍から出向中の、オキモトと言う少尉で、日系二世です。」と自己紹介して「君たちにとっても、私にとっても、笑いごとではない事態なのですけれど、あまりに奇想天外過ぎて、自分がどんな反応をするのが正しいのか分からなくなっている処です。おいおい君たちの時代の事を教えて下さい。」と笑顔を見せた。

 それからオキモト少尉は、アングロサクソン顔の将校を示して

「オーストラリア陸軍のウィンゲート少尉です。彼もエンジニアだから、電卓には興味深々みたいですね。」

と、紹介してくれた。


 今にも電卓を分解して、内部構造を調べたそうにしていたウィンゲート少尉は、自分の名前が呼ばれた事にビクッと体を反応させ、慌てて手を差し出して握手を求めた。

 「うぃんげーとデス。日本語、分カルノ a little デス。」

 少尉の手を握った岸峰さんが

「ハウ・ドゥ・ユウ・ドゥ!」

と挨拶すると、彼は嬉しそうに

「Nice to meet you!」

と笑った。


 この時代のオーストラリア人は、白豪主義で有色人種に対する偏見が強いというイメージが有ったのだけれど、彼は内心はともかく、白人優位主義を振りかざす人ではないようだ。

 混成連隊に来ている人だし、偏屈な人間は部隊の和を乱すと、あらかじめオミットされているのかも知れない。


 「それでは、司令部に向かうとしましょう。伍長は彼らの乗る高機動車の運転をお願いします。」

 早良中尉は、尾形伍長に僕らの世話を任せると、水島さんに

「君は、軍曹に状況を説明してあげて。入り口の外より準備室の中に入って、もう一つの扉を内から守るのが良さそうです。でも、観た事も無い器具がいっぱい有りそうだから、触ったりしないようにね。」

と命令(?)を下した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物


 片山修一 大戸平高校2年 生物部 詰襟学生服の少年


 岸峰純子 大戸平高校2年 生物部 セーラー服にポニーテールの正統派美少女


 早良中尉 独立混成船舶工兵連隊 技術畑の将校


 オキモト少尉 アメリカ陸軍所属 日系二世 混成連隊に出向中


 ウィンゲート少尉 オーストラリア陸軍所属 エンジニア


 尾形伍長 独立混成船舶工兵連隊


 水島二等兵 独立混成船舶工兵連隊


 和田軍曹 独立混成船舶工兵連隊 理科実験準備室の警備を命じられた下士官


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