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パラ4 飛ばされた先がパラレルワールドである事に気付いた件

 「……なるほど。80年後か。本来ならば、自分は鬼籍きせきに入っている時の技術なのか……。」

 伍長殿は周囲を見渡して、まぶしそうに眼を細めた。

 鬼籍に入る、とは「死んでしまう」と言う意味だ。

 LED照明の光が眩しいのではないだろう。


 「それで、こちらの扉は?」

 次に伍長殿が指さしたのが、理科室へ続くはずだった扉だ。

 「その扉が問題なのです。」

 僕は慎重に言葉を選びながら、話を続けた。今のところ、伍長殿は僕の話を信じてくれている。しかし、理科室への扉を開けると、数百年前の中国があるなどという話を、信じてもらえるのかどうかは分からない。

 「先ほど一度、いや違う二度、その扉を開けました。本来ならば、この準備室から実験室に続いているはずの扉です。……ですが、扉の外は別の時代へと続いていました。ちょうどあちらの扉が、伍長殿の所へ繋がっていたように。……扉の外は、何百年か前の中国のようです。槍を持った武装兵がいます。扉を開けるのであれば、準備をしてからでないと、一層の混乱が起きると考えられます。」


 伍長殿は、僕の慎重な提案を、疑ったり馬鹿にしたりはしなかった。

 「そんな事になっているのか……。司令部に報告して指示を仰ぐまでは、これ以上の探索は危険だな。よし、一旦引き上げるとしよう。私物や必要な物があったら、持って出なさい。」


 僕は自分の肩掛けカバンと岸峰さんの手提てさげカバンを持った。

 岸峰さんは、手提げとは別に馬鹿デカいリュックサックも準備室に持ち込んでいたから、考えた末にノートパソコン一台と過電流遮断機能付き電源コードをリュックに入れさせてもらう事にした。

 リュックを開けると、学園祭に使うつもりなのかレオタードやブルマらしい物が見えたが、見なかった事にしてパソコンを突っ込む。

 まだリュックの容量には余裕が有るので、洗瓶せんびん三個と、ティッシュ一箱も押し込む。


 扉から出て来た僕の姿を見るなり、岸峰さんが不満顔で「時間、掛かったじゃない。何してたの?」と難癖なんくせを付けてくる。

 僕が彼女に手提げカバンとリュックを手渡して、

「理科室側の扉の外も、こちら側に負けず劣らずヤヤコシイ事になっているのを、説明してたんだよ。」

と弁解すると、彼女は「了解。」と納得した。


 伍長殿が、水島さんに何か指示を出し、水島さんが敬礼してから駆け出して行く。

 その後、伍長殿は僕たちのところへやって来て、

「今、応援を呼んだので、もうしばらく待機してもらいたい。自己紹介が遅れたが、自分は独立混成船舶工兵連隊の尾形と言います。」

と自己紹介をしてくれた。


 僕と岸峰さんも、それぞれ自己紹介をしてから、僕は先ほどから気になっていることを尾形伍長にたずねてみた。

 「伍長殿の銃は、外国製のように見受けられますが、鹵獲品ろかくひんですか?」

 尾形伍長は、これか? と笑ってトンプソン短機関銃を突き出して見せ

「米軍からの正式な供与品だよ。ト式機関短銃という銃でね。豪州軍ごうしゅうぐん蘭印らんいんに輸送するのには、弾薬が統一されていた方が、いざという時に混乱が起きないだろう? 射程は短いし、命中率も今一つだが、少数の兵で制圧行動をらなければならない時には、役に立つ銃だと言えるね。」

と意味不明な事を言った。


 何かがオカシイ。

 「米軍と豪州軍、そして日本は、協力関係にあるのですか?」

 僕は伍長にいてみずにはいられなかった。

 そして、その質問に対する伍長の答えは、驚くべきものだった。

 「君たちは理系みたいだから、80年も前の歴史にはうといのかも知れないけれど、日・米・英連邦・中華民国は連合して、独ソ同盟と対峙しているんだ。フイリッピンのマッカーサー元帥からの要請で、豪州軍が蘭印に進駐しんちゅうするんだよ。豪州軍には軍用船が不足しているし、米軍は英国と欧州支援で手一杯だから、我が軍に豪州軍輸送のおはちが回って来たのさ。もっとも、着上陸作戦に関する船舶は、我が軍の物が優れているという理由も有るがね。オランダはヒットラーに降伏しているから、進駐に際しては形ばかりの抵抗を受ける可能性があるのだ。君たちも、もう少し歴史の勉強をした方が良い。」


 僕の知っている歴史とは、まるっきり違っている。

 伍長は、単純に僕らの過去とリンクした人物ではなかった。パラレルワールドの人なんだ。

 いや、伍長にしてみれば、僕たちの方がパラレルワールドの住民だ。


 岸峰さんが、手提げカバンから日本史の教科書を取り出し、震える手で昭和史の部分を開くと、伍長に手渡した。

 「これは……」

 手渡された教科書を読み始めた伍長の顔が、見る間に青白くなって行く。

 しばしの間の後に、彼は

「君たちは、単純に未来人だと言うだけでなく、異なる歴史の時空間からやって来たんだな。」

と絞り出すように声を出した。


 本当にそうなのだろうか?

 水島さんは、ここが彼の知っている場所ではない、と言っていた。

 僕たちと独立混成船舶工兵連隊の両方共に、それぞれが所属していた二つの歴史とは、異なる時空に送られてしまったのではないだろうか?


 しかし、その事を尾形伍長に告げる前に、武装兵を乗せた二台のジープが到着したのだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物


 片山修一 大戸平高校2年 生物部 詰襟学生服の少年


 岸峰純子 大戸平高校2年 生物部 セーラー服にポニーテールの正統派美少女


 尾形伍長 独立混成船舶工兵連隊 伍長

 

 水島二等兵 独立混成船舶工兵連隊 二等兵


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