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富春江第二次渡河作戦14

 「城から騎兵が来ます。およそ30。」

 砲撃陣地で城から星弾”青”が上がるのを、今か今かと見張っていた兵が舌打ちした。

「ご丁寧に松明を揚げてやがる。こっちの居場所がバレちまう。」


 「落ち着け。何であれ増援は有難い。」と、双眼鏡で”敵”に眼をやったまま、輸送隊長がたしなめた。

「明石隊が気を利かせて、援護の抜刀隊を出してくれたのかも知れん。何しろコッチは人手不足だからな。BARと擲弾筒で削れるだけ削っても、敵に”死に物狂い”で殺到して来られたら、どうなるかは分からんのだし。」


 御蔵勢にとっては嬉しかったことに、到着したのは自動車化鳥銃歩兵第一班と行動を共にした騎馬銃兵だったから、既に輸送隊の面々とは面識があった。

 長は内藤監物ないとうけんもつと名乗る日系人で、軍師将軍の鄭福松同様、年若としわかなのに落ち着きがある。

 その上、敵遊撃隊と交戦した時には――敵が銃撃を受けて混乱状態であったとはいえ――数倍の敵に抜刀突撃をかけて敵指揮官の首を挙げるという、胆力たんりょくと日本刀の腕を兼ね備えた傑物なのである。

 内藤は当初から呂宋るそんに根を生やしていた一族ではなく、シャムの日本人街がすたれたことでフイリッピンに流れてきた、ということだった。


 「敵でございますか?」

 下馬した内藤は、部下に松明を消すよう命じると、輸送班長の横に膝をついた。

 「たぶん。」と輸送隊長が応じる。通訳を介さず日本語で通じるのが有難い。

「自動貨車の始動音を聞いて、あのように反応しております。渡し場から来た味方であれば、驚きはしないでしょう。」


 内藤監物はフムと頷いて「それでは前と同じく、引き付けてから銃を放つという段取りでございますな。我らは左に迂回し、横合いから切り込みます。」と輸送隊長の意をんで、騎馬銃兵の役割を飲み込んだ。


 輸送隊長は「助かります。」と謝意を述べたが、ふと気付いたように

「明石掃部さまの御指示ですか? 我々への御助力は。」と質問した。


 哀悼監物はカラカラと笑うと「おっしゃる通りでございますよ。」と肯定した。

「我ら先発組は、城内で”ひと働き”を終えたもので、殿に『総攻めには加わらず、”静かな場所で”しばし休んでおれ』と命じられまして。……総軍監殿の采配さいはいから外れ、ここに一休みしに参りました。」


 その時だった。

 ”敵”が光をこちらに向けて、クルクルと回した。

 明らかに懐中電灯の合図である。


 「おい?! 清の兵隊じゃないみたいだぞ?」

 BARを構えて松明に照準を付けていた兵が、大声を上げた。


 「拙者が物見ものみつかまつりましょう。」

 言うが早いか、馬に飛び乗った内藤監物が脱兎のごとく駆け出した。





 関仁隊は回廊の上で、合図の青色弾が上がるのを待っていたが、赤色弾が上がってからも馬得功の動きが無い。

 「何を手間取っておるのでしょうな?」

 銃を放ち終えた兵が、カルカで火薬を再装填しつつ疑念を漏らす。「ここにきて、総軍監の踏ん切りが付かないとか?」

 「伝令が充分には戻っていないのであろうよ。」と関仁が言って聞かせる。「夜だし、先手は敵味方が入り組んでおろうからな。」


 そして関仁は、『胸壁』を盾にして回廊伝いからの敵襲に備えている兵に「一発、撃ってみろ。」と指示を出した。

 回廊の先は暗がりで、敵が松明でも灯して接近して来ない限り、至近に寄るまで姿は目に見えないから、時々”探り撃ち”を行なわせているのだ。

 敵味方とも既に明かりは消していて、星明りを除けば城内の火の気はあちこちでくすぶっっている火事の残りの熾火おきびぐらいしか無いのであれば、眼下に向けて狙撃するのも、回廊の闇に向けて撃つのも『敵に射撃音を聴かせる』という意味では同じだから、要はどちらでも良いのである。


 今まで数回行った探り撃ちには反応が無く、弾が虚空に消えていっただけだったが、今回は手ごたえが有った。闇の中で弾が”モノ”に命中した音と悲鳴とが上がったのだ。

 回廊伝いに攻めて来る以上、敵には弾の避けようがないから遮蔽物として竹束でも抱えてくるかと思っていたが、敵はその手間を惜しんだのか――あるいはその時間すら与えられなかったのか――これまでと同じく兵の厚みのみで押して来るようだ。


 関仁は弾込めを終えていた兵全てに、わるわる回廊を射撃させると、足音が近づいてきたところで手榴弾を投げた。続いて、もう一発。

 腹に響く爆発音が二回続くと、複数のうめき声だけを残して、足音は遠ざかって行った。


 「奴ら、たまらず逃げて行きましたね。もっとも無理筋むりすじの力押しってのは、攻める前から分かっていたんでしょうが。」

 関仁にささやいたのは、自動車化鳥銃兵第一班の長で、匪賊時代からの仲間だった男だ。度胸が並外れているから、関仁は彼に難しい仕事が待っているであろう第一班を預けたのだった。

 遠慮の要らない間柄なので、関仁も彼に「休んでおって大丈夫、と言っていただろう?」と返してから

「妙な得物を持っているな。」

と第一班長が手にしている鉄砲に言及した。「新工夫か?」


 第一班長が構えていたのは、鳥銃銃身の右脇に、つばを外した柳葉刀りゅうようとうを、火縄の麻紐で固く縛り付けた物で、大刀(日本で言うところの”長巻ながまき”)に似ている。

 「言われた通りに、敵の落とし物を拾ったんでさぁ。」と第一班長が答える。ちょっと得意気だ。

「腰に吊ると、しゃがむのに邪魔なもんでね。……でも両刃の”剣”とは違って片刃の柳葉刀ならば、こうして鉄砲の右脇に括っておけば、何とか筒先から弾込めも出来ます。重いから、狙いが付け難くはありますがね。ただ、こうしておけば弾を撃った後でも、相手と渡り合えまさぁ!」


 ――子母銃で失敗したように剣を銃口に差し込むのではなく、片刃刀を銃身に括り付けるのか!

 関仁は第一班長の工夫に意表を突かれ

「昼の訓練の時に、思いついたのか?」

と訊ねた。


 第一班長は「後ですね。」とニンマリする。

「白襷の奴らと、ああでもない・こうでもないって話し合いましてね。で、奴らの持ってた倭刀の中で短めのヤツ――脇差って言うんですか――アレのつばを外して鳥銃に縛り付けたら良さそうだ、なんて言い合ってたんですよ。」

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