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富春江第二次渡河作戦10

 渡し場で渡河準備を整えていた林は、戻り舟を捕まえると先ずは配下の騎兵に先んじて自分が艀に乗り込んだ。

 対岸に渡ってからの方が、少しでも早く杭州の状況が掴めようと考えたからだ。

 杭州城の様子はボツボツと伝わって来てはいたが、容易ならぬ状況のようだった。

 敵将 李成棟は退却したと見せかけて、実は白襷隊に偽装して待ち構えていた、というのだ。


 林の上将にあたる軍師将軍は、関仁のスコップ隊と明石の騎馬銃兵隊を順番を繰り上げて渡河させようと対応中で、その”足”には御蔵勢の鉄船に動いてもらう心算のようである。

 林は騎馬銃兵隊とスコップ兵隊の前進に先立ち、杭州城内の戦いの現状調査と、両兵団の教導きょうどう任務が命じられたのだった。





 百道中尉は2輌ある貨車山砲から、搭載した75㎜山砲を降ろさせていた。

 トラックを兵員の緊急輸送に使うためだ。

 砲を降ろした自動貨車なら、1輌につき兵1個小隊(40人)を乗車させることが出来る。

 またジープからも牽引する煙幕放出機を切り離し、偵察機の後席から降ろしたルイス機銃を載せて、トラックの警戒・援護に付けることとした。


 当初は75㎜砲と煙幕放出機の操作班、それに装甲艇の水兵から成る特設ライフル小隊を編成して杭州城に向かう心算であったのだが、福松はその申し出に感謝しながらも御蔵勢が戦闘に直接関与するのは丁重に断ってきた。

 百道にも福松の『立場』は分かっているから、トラックには鳥銃装備のスコップ兵を乗せることに同意した。

 これで5隻の大発が渡河するごとに、対岸には騎馬銃兵30騎と自動車化鳥銃兵2個小隊(80名)を輸送できる体制が整った。






 杭州城では馬得功が槍隊梯団を到着するそばから次々と前線に投入し、各大路を前進させて占領確定地域を押し広げていた。

 敵偽装白襷兵が、屋内に逃げ込んだ南明軍消火班を掃討中で分散していたため、抵抗が纏まりを欠き比較的軽微だったからである。

 また屋内で抵抗を続けていた南明軍消火班の生き残りも、味方の到着で包囲から逃れ槍兵梯団に参加することが叶うようになってきたから、市街戦の天秤は南明軍優勢に傾きつつあった。


 ただし中には、清国軍が集中運用する弓隊からの遠距離攻撃を受けて苦戦を強いられる梯団もあった。

 弓兵は屋内掃討には不向きな兵種だから、清国側もそれを掃討戦に投入する愚は犯さず、大路で隊列を組ませていたのだ。

 遠距離攻撃手段を持たない南明軍槍隊梯団は、敵弓兵隊が放つ大量の矢の前に射すくめられて物陰に隠れざるを得ず前進が頓挫した。


 城壁の回廊を舞台にした戦いでは、一旦は南明軍鳥銃隊が肉薄してきた清国長剣隊を殲滅するも、李成棟が繰り出してきた鳥銃兵を含む第二次攻撃隊が接近するに伴い、南明軍鳥銃隊の生存者は退却を余儀なくされた。

 その時までに鳥銃隊は近接火器の突火槍を全て使い切ってしまっていたし、白兵戦で棍棒代わりに使用した鳥銃は銃としての機能を喪失してしまっていたからだ。

 そのため城壁の回廊には清国兵が射撃位置を占め、それまで南明軍鳥銃隊が行っていたように、眼下へと狙撃を開始した。

 ただし清国狙撃兵が照準を付けるころには、城内の南明兵・清国兵ともに射撃目標となる松明たいまつを消して戦闘を行なっていたから、狙撃兵はアバウトに”敵が居るであろう方向”へと弾を放つことしか叶わず、有効な狙撃が出来たとは言い難い。

 しかしながら高所から狙撃を受けるのは――受ける側からしてみれば――心理的な圧迫感を強く受けるため、『闇夜の鉄砲』でも南明軍槍兵梯団の前進の足を止める効果はあり、圧迫される一方だった偽装白襷槍兵が息を吹き返した。

 命が一つしかない以上、「当たらなければ、どうという事はない」と割り切るのは、なかなか難しいことなのである。


 馬得功は回廊の味方鳥銃隊が駆逐されたと知るや、次の槍隊梯団を回廊の清国鳥銃兵討伐へと送り出した。

 同時に擲弾兵を地上から城壁沿いに清国兵銃座へと向かわせた。






 林は「配下が揃うまで待ってはおれぬ。」と自分を含む4騎で杭州城へと出発した。

 後続には、五月雨さみだれ的に杭州城の南門に集まれ、と伝えてある。

 馬得功が抜け目なく街道の要所要所に篝火かがりびを焚かせていたから、道に迷う心配は無い。

 林の任務は戦闘ではなく、偵察と情報伝達だから、まとまって動く必要は無かったのだ。


 城門に到達すると、戦闘の詳しい現状が判ってきた。

 夜間の市街戦であるから両軍ともに一進一退、僅かに味方優勢ではあるようで、李成棟の思い通りには事が運ばなかったようだ。

 林は手元の1騎に「行け。」と指示を下した。軍師将軍は首を長くして報せを待っておられるであろう。






 回廊を進む南明軍槍兵は、清国軍長剣隊と遭遇した。

 長槍をしごく槍兵に対して、長剣兵は楯をかざして槍の穂先をあしらいつつ、ジリジリと後退する。

 かさにかかって槍兵が押してゆくと、肩を接するように密集していた長剣兵横隊がサッと割れた。

 後ろに控えていたのは清国軍鳥銃兵。

 銃声が響き、槍隊の先頭がバタバタと倒れる。

 長剣兵は鳥銃兵を覆い隠すように、再び横隊を組み直した。


 清国長剣兵横隊と鳥銃兵の混成部隊が、南明軍槍隊を圧倒するかに見えた回廊上の戦いだが、それに決着を付けたのは”城壁下”からの攻撃だった。

 壁に張り付くようにして回廊の下を進んでいた南明軍擲弾兵が、一斉に手榴弾を投擲したのだ。

 狭い回廊上で逃げ場の無かった清国混成部隊は、連続する爆発で死傷者が続出し、混乱の中で槍隊の突入を受けた。

 剣も銃も投げ捨てて逃げようとしたが後ろを見せたが最後、次々に突かれていったのである。


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