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富春江第二次渡河作戦1

 馬得功は河岸に集結した本隊の威勢を見て、杭州攻略の成功を疑わなかった。


 第一次渡河作戦では、敵将 李成棟将軍の計略の前に苦汁くじゅうめた南明軍であったが、関仁の退却指揮が確かで兵の損害が抑えられたことと、渡河作戦失敗後に到着した御蔵勢が75mm貨車山砲と煙幕放出機(ネ―ベルヴェルファー)とで対岸の清国軍陣地を痛烈に叩いたこととで、士気は下がるどころか逆に上がっていたからだ。


 対して李成棟は、夜闇に紛れて御蔵勢の砲を潰そうと挺身隊を小刻みに繰り出してきてはいたが、張孟衡や明石掃部の哨戒網に捕らわれて、ことごとく目論見を粉砕されていた。

 仮に清国軍挺身隊が、貨車山砲や煙幕放出機の”過去の”発射地点にまで到達し得たとしても、固定砲台とは違い機動力のある兵器で毎回発射地点を変えるのだから、到着時には既に”そこには居ない”わけで、大口径砲は容易に動かすことが出来ないという当時の常識は通用せず、捕捉は不可能だったのだ。


 更に敵は、杭州城の杭州湾側外郭防衛の要衝にあたる海塩を失ったことで、目に見えて運動が委縮してきていた。

 これは偵察機による空中偵察からも確認されている。

 河岸陣地で南明軍を待ち受けている清国守備兵数は激減し、破壊された箇所も放置され修復する素振そぶりさえ観察されなくなっていた。


 顧炎武はこの動きを「李成棟は富春江を挿む戦いにおいて、杭州籠城に拠る勝機に一縷の望みを託すのではなく、むしろ杭州防衛を諦めたのではないか?」と捉え、監国(魯王)や鄭福松、御蔵勢の百道などを交えて対岸への威力偵察を行なうべく意見交換を行っていたのだが、威力偵察の裁可を奏上した福松に対して軍権を預かる大将軍(唐王)は積極意的な攻勢移転の好機と

「時は来たれり。」

と断を下し、馬得功に総攻撃の命令を発したのであった。




 「寧波から装甲車を持って来ましょう。それに今なら、海塩攻撃に参加した車両も動かせますから、先陣は自分が務めます。数日頂いたら準備できますよ。」

 百道は唐王との面会から戻って来た福松に、そう伝えた。

「敵さんは大人しくなっていますが、欺瞞ぎまんという事も有り得る。戦車を揚げて敵が弱体化しているのが判れば、直ぐに信号弾を上げます。そしたら一気に大軍を渡らせれば良い。」


 軍師将軍(福松)は「お心遣い、痛み入ります。」と百道中尉に礼を伝えたが

「されど大将軍は、明軍将兵のみの力で杭州に攻め入る腹づもりの御様子。『御蔵殿には、火砲と鉄船のみの御助力で充分と御伝えせよ』とのことでございました。」

と申し出をやんわりと断った。


 百道は”唐王は自軍の兵士が御蔵勢の力を頼みにし過ぎていると思っている”という事を、顧炎武らから耳打ちされて承知していたので

「それでは、その二点に力を注ぎ、最善を尽くしましょう。」

と、戦車・装甲車で城への突撃路を切り開くという自案を撤回した。「出過ぎたことを言いました。」





 渡河部隊第一陣は、装甲艇3隻に護衛された大発5隻が先陣を切る。

 各大発には槍兵30人と鳥銃兵20名、擲弾兵(倭刀と手榴弾装備)20人の計70人が乗り込む。それが5隻だから兵員は350で、馬匹は含まれない。

 同時に艀100艘に乗り込んだ1,500の刀槍兵も、富春江に漕ぎ出す。

 紹興で集めた艀は、第一次作戦で2割ほどを失っていたのだが、その作戦失敗後に集めたものを補充して元の数を回復していた。

 大発と艀船団とでは、対岸に同着とはいかないだろうが、両者を併せれば1,850の兵を揚陸出来る計算である。


 兵を降ろした大発と艀とは紹興側へと戻り、揚陸第二波を乗船させるのだが、第二波からは大発に乗せるのは騎兵が優先される。

 定員は各艇10騎だ。だから馬得功が杭州側へと渡るのは第二波以降という計算である。

 艀には第二波以降も刀槍兵が乗り込む。


 なお、第一次渡河作戦で使われないまま放置されていた偽装筏は、その後補強されて普通の筏と化しており、第二次渡河作戦が順調に進んで装甲艇の火力支援が用済みになったと判断された時点で、杭州側への物資輸送用に装甲艇から曳航されてその任務を果たす予定である。





 第二次渡河作戦開始は払暁ふつぎょうではなく、完全にが昇ってからの実施となった。

 これは『そうなってしまった』という消極的理由からではなく、第一波が対岸に渡ってからの上陸兵の行動のし易さと、第二波以降の乗船のスムーズさを考慮して採用された。


 それに準備砲撃には『煙幕放出機』2基が参加するのだ。

 富春江上は濃い”煙幕”に覆われることになるだろうから、強風でも吹き荒れていない限り清国兵の視界は制限されるであろう。


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