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紹興占領4

 上虞入城を果たした監国(魯王)は、城内で獄に繋がれていた尚可喜しょうかき引見いんけんしていた。


 清国寧波方面軍総指揮官であった呉三桂が戦死した後、兎にも角にも動揺する清国兵をまとめ、略奪・暴行などの騒乱を起こさせる事無く、福州水軍・御蔵連合軍との停戦を成立させた実力のある将軍である。

 尚可喜は寧波から撤兵する際に

――応天府(南京)に指示を仰がず、賊徒や新倭寇との停戦に応じて寧波市街を明け渡したことは、罪を問われて死を命じられるのに間違いは無かろうが、勝算無くいたずらに戦い続けて民や兵を無駄死にさせるよりは、多少なりともマシであろう。

と考え、残る者たちに「生き延びよ。」とだけ命じて上虞に向かったのであった。

 果たして、尚可喜は上虞に着くなり「裏切り者め!」と獄に繋がれ、応天府移送の時を待っていたのだが、護送任務に充てる兵も惜しいというドサクサの中で放っておかれていたのだ。

 いよいよ上虞守備隊が崩壊するという場面では、紹興から来ていた清国軍将校が”残務整理”の一つとして獄舎に刺客を送り込んできたが、清国国境地域での戦闘以来ずっと付き従っていた子飼いの部下がそれを阻止、刺客を返り討ちにした。

 部下たちは「かくなる上は、清国に忠義立てする義理も、最早ございますまい。」と尚可喜を説得。

 尚可喜も「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、か。」と監国に降伏する道を選んだ。

 (注:「身を捨ててこそ~」は作者の意訳。この時期にはまだ、この慣用句は出来ていない。正確には「虎穴に入らずんば虎子を得ず」を引用したのだとされている。ただ尚可喜の魯王への降伏以前の行動を考えると、窮地に活路を見出すにあたって「虎穴に~」よりも「身を捨ててこそ~」の方がしっくり来るように思える。)


 魯王はくどくは語らず、ただ「明朝復興には、貴殿のように民を思うことの出来る将が必要なのだ。手をたずさえてみかどを御支えしてはもらえぬか。」とだけ尚可喜に告げた。

 尚可喜は床に額を打ち付けて、力の限りを尽くすことを誓ったという。





 また上虞では、今関羽こと関仁と顧炎武こえんぶとが再会を果たしていた。

 福州軍陸戦兵力を率いて寧波から到着したのが、関仁だったからだ。


 両者は臨海戦以後、反りが合わずに喧嘩別れするような形で、関仁は海岸線を鄭芝龍や黄宗義とともに攻め上り、顧炎武は監国や張孟衡ちょうもうこうとともに天台方面から上虞へと攻め入ったから、久々の対面であった。


 この時までには、関仁は(短い期間ではあったが)黄宗義を師と仰ぐことで学問の何たるかを知り、また御蔵勢の現代兵器と輸送機械・医療手段をつぶさに観ることで技術振興の重要さを腹の底から思い知らされていたから、臨海戦時の粗暴な豪傑ぶりからは一皮も二皮も剥けていた。


 また顧炎武にも『なかなか自分の思い通りには進まない』上虞攻めの苦戦を経験したことで、尖った部分が削られて、人をれる丸みが生まれていた。


 だから関仁がうやうやしく

「黄(宗義)先生から、更に多くを学びたければ顧(炎武)先生を師と仰ぎなさい、とうけたまわっております。どうぞ、お導き下さいませ。」

と申し出ると、顧炎武も礼を返して

「黄宗義殿には及ぶべくもありませんが、私で良ければ共に学びましょう。」

と、それを受け「いや、大きくなられた。まさに『男子三日会わざれば、刮目かつもくしてこれを見るべし』ですな。」と微笑んだ。


 関仁が「三国時代の呂蒙りょもう将軍の言葉でございますな。魯粛ろしゅく将軍と再会した折の。」と受けると、顧炎武は「いやはや本当に良く学ばれました。まさに”元の阿仁にあらず”。」と呵々大笑した。





 軍勢の再編が着々と進んでいる上虞に驚くべき報告がもたらされたのは、尚可喜が南明朝に忠誠を誓った次の朝である。


 夜を徹して早馬を飛ばしてきたのは、騎馬偵察隊 趙士超ちょうしちょう(趙大人)の部下で、紹興に斥候に出ていた者である。


 報告によれば

『紹興が南明朝に降り、無血開城した』

との事であった。


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