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狼煙台空襲 1

 「狼煙のろしが上がっている二つの島のうち、東側の島をア島、西側の島をイ島と仮称かしょうするそうよ。」

 スミス准尉が司令部からの連絡を伝達する。

 「で、どっちの島を先に偵察しろ、と?」

 江藤大尉の問いかけを、准尉は「ちょっと待って!」と制する。


 「えーとね、ア島から海賊船3隻とはしけが数隻、イ島から海賊船2隻と艀数隻が、装甲艇3号に向かっているようね。先ずは、装甲艇の支援が優先かな?」

 「奴ら、7隻で10号艇を攻撃しようとして、返り討ちに遭ってるじゃないか。学習能力が無いのか?」

 「ア島とイ島の海賊には、船団が壊滅した情報は伝わっていないのよ。連絡に狼煙を使う技術レベルよ。して知るべしってところね。」


 98式直接共同偵察機が北東方向へ飛行すること数分、3号艇の姿が遠くに視認できた。

 海賊船は帆を高く上げているので、よく目立つ。

 はしけは、かいで動かしているようで、帆が無い分、位置を確認する事が出来ないが、このまま接近を続ければ、おいおい見えて来るだろう。


 3号艇は、より近い位置にいるア島からの船団を先に叩くべく、そちらに向けて舵を切っている。

 速度が遅いだけに、高速艇のように航跡は長くないが、重い船体を動かすための幅広の力強い航跡を残している。

 2つの船団を両睨りょうにらみで牽制けんせいするよりも、各個撃破を目指す腹だ。

 57㎜榴弾砲は弾速が遅く、遠距離砲戦では無駄玉を多く出す可能性が高いから、妥当だとうな戦術と言える。


 江藤は、イ島からの船団を攻撃する事に決めた。

 戦力は集中運用するのが兵法の常道ではあるのだが、装甲艇10号の戦いぶりを見る限り、装甲艇と海賊船との戦闘能力を比較すると、圧倒的に装甲艇の方が高い。

 また、ア島から出撃した船団を攻撃するのに、戦闘海域の水面近くを飛ぶ味方機は、味方撃ちが起こるのを躊躇ためらわせて、むしろ銃砲撃の邪魔になるかもしれない。


 「装甲艇と僚機に連絡を入れてくれ。『航空隊はイ島の船団を攻撃する。』と。」

 「了解。」

 「重ねて、僚機には『我が機が先導して船団を銃撃する。後続して船団を爆撃せよ。』」


 江藤機は緩降下しながら、敵船団に迫った。

 江藤機の姿を見付けた海賊は、不思議な物を見る様に固まっている。

 中には、たて得物えものを手にする者もいるが、多くは空を指差して何も出来ないでいるようだ。


 200mの距離で、江藤は機首機銃の引き金を引いた。

 98式偵察機の機首機銃は、7.7㎜機関銃1丁のみだが、船団を海面にい付けるように弾着の水しぶきを上げる。


 江藤機の掃射が終わると、追従した二番機が10発の12.5㎏爆弾を振り撒いた。

 船体と海面に、次々に爆発炎と水柱みずばしらが上がり、イ島船団は呆気無あっけなく壊滅した。


 江藤が海面を見下ろすと、銃撃と爆撃でジャンク船は全て轟沈ごうちんしており、艀もほとんどが転覆てんぷくしている状況だった。

 わずか1そうの艀が、まだ水面に浮いている仲間を見捨てて、岸まで逃げ戻ろうとしている。


 3号艇の方に目をやると、3号艇は既に2隻の海賊船を撃破して、散開して逃げる艀に砲火を浴びせながらア島に接近しつつあった。

 海賊は、2隻のジャンク船を失った時点で残った1隻を放棄し、少しは船足が速い艀で逃走する事を選んだようだ。

 大型のジャンクは優先攻撃目標になるのを察して、乗っていた海賊は海に飛び込むなりしたのだろうが、艀が仲間を拾い上げる余裕が有ったとは思えない。


 「再度の攻撃は?」

 江藤機の横に並んだ二番機が、江藤に合図を送ってくる。

 海賊の殲滅という事を考えれば、生き残りの艀や、浮いている生存者に銃撃を加えるという選択も有った。

 しかし、一方的な殺戮を行った後では、生き延びる事に精一杯な敗残兵に対して、それを選びたくはなかった。


 「不要。イ島に向かう。」

 江藤大尉はハンドシグナルでそう告げると、島の上空を目指して機首を上げた。

 対空警戒は僚機に任せて、江藤は島の偵察に徹する。


 イ島のおよその面積は、2㎞×2㎞の4平方キロほどだ。

 言い換えれば、御蔵島の1/40ほどの大きさに当たる。

 最高地点は島の中央部で、海抜かいばつは、150から200mくらい。

 全体的には擂鉢すりばちを逆さに伏せた様な印象の島だ。

 冬の季節風を避けるためか、島の南側に船着き場が開け、40軒ほどの人家が集中している。


 粗末な畑は、島の南半部を主として全体に点在しているが、水田は見えない。

 道路は人家と畑を結んでいるが、踏み分け道に毛の生えたような代物しろもので、荷車が通れるのかどうかも怪しい小道だ。

 産業的には(海賊業を除けば)半農半漁の島なのだろう。


 海岸の集落から小道が伸びて、中央高地の見張り台に達している。

 見張り台周辺は、樹木が切り払われてひらけており、木造の小屋と石組みの狼煙台、そして木組みの塔がある。周りは木の柵で囲われているから、緊急時には砦の役割も果たすのだろう。

 狼煙には水か土をかぶせたようで、わずかに白い煙が上っている。


 「接近するぞ。」

 江藤はスミス准尉にそう告げると、反時計回りで見張り台に機体を寄せていった。

 スミス准尉は風防を開けると、後席の旋回機銃を塔に向けた。


 見張り台からは船団の惨状がよく見えただろうから、江藤大尉もスミス准尉も、海賊が抵抗しないのであれば、攻撃はしないつもりだった。

 人家の数から考えれば、この島の人口は200から300人ほどだろうから、先ほどの船団爆撃で総人口の2割から3割を失っていることになる。


 3階建ての建物ほどの高さのある塔の上には、2人の男が居て、その内の1人は肩から箱を下げている。

 2人とも銃は持っていないし、狼煙台や小屋にも砲は設置されていない。


 准尉が「どうやら抵抗するつもりは……」と口にした時、箱の中から次々に花火の様な物が飛び出してきた。

 多連装の「花火」は正確な照準は付けられないようだが、予測不能な弾道を取るのが、かえって嫌らしい火器となっている。

 「Shit !」と叫んで、彼女が引き金を引くが、江藤が大きく機体を傾けて回避行動を取ったために、旋回機銃の弾丸は虚空に向かって吐き出される事になった。


 20発ほどの花火を撃ち終えると、塔は沈黙した。

 江藤機は全ての「花火」をかわし、被害は無かった。

 最初の奇襲効果さえ無ければ、偵察機の機動を捕捉出来ない兵器で、大きな脅威には成り得ないと考えられた。


 しかし、敵は新たな行動を起こしていた。

 小屋から数人の男が出てきて、ひどく長い銃身の銃を構えようとしている。

 1人の肩に銃身を乗せ、もう一人が照準と発射を行うという、2人がかりで扱う銃のようだ。


 「もう、遠慮は無用だろ?」

 江藤の言葉に、准尉は「仕方がないけど、議論の余地は無さそうね。」と答える。


 98式偵察機が、機首から銃弾を放ちつつ狼煙台に迫ると、海賊達は長銃身の銃を発射する間もなく次々にった。

 江藤は機首を起こすと同時に、爆弾の投下レバーを引いた。

 12.5㎏爆弾10発が、狼煙台に吸い込まれるように降り注ぐと、次の瞬間、砦全体が爆発の土煙つちけむりに包まれた。

 木造の塔も、ねじれる様に倒壊し、イ島高地の敵拠点は消滅した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場機材


 火龍箭かりゅうせん

  ロケット花火を縛り着けた矢を連続発射する兵器

  みん時代の発明

  弓は用いず、花火の燃焼ガスを推進力とする

  矢数 20本

  最大射程 500m


  この様な多発火箭たはつかせんには他にも

   長蛇破敵箭ちょうだはてきせん 矢数30本

   群豹横奔箭ぐんひょうおうほんせん 矢数40本

  などがある


 鳥銃ちょうじゅう

  明軍が採用した火縄銃

  後期倭寇が装備していた火縄銃(倭銃)のコピー

  重量 2~4㎏

  最大射程 300m


 鳥槍ちょうそう

  明軍が装備した大型鳥銃

  大きさや火薬量は鳥銃の2倍

  2人で操作する


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