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ハシマ12 ジャジャ馬が戦車(タンク)でやって来る! な件

 「片山君、尾形さん、用意は?」

 クレーンで海面に吊り降ろされた水偵の機長席から、顔を後ろに向けて笠原少尉殿が確認する。

 94式水上偵察機は、カタパルト射出対応の機体なのだけど、夕潮にカタパルトは無いので海面からの発進である。


 94式水上偵察機は3座機だ。

 羽布張りの複葉機だけど、フロートはジュラルミン製。

 本来なら7.7㎜機首機銃の他に、中席・後席それぞれに旋回機銃(7.7㎜)が装備出来るし、爆装するなら 60㎏爆弾×2発か30㎏爆弾×4発を積むことも可能だ。

 けれども今回の出撃は高島の番屋襲撃が目的ではないから、旋回機銃も爆弾も降ろしている。


 中席の僕は「出来てマース!」、後席の軍曹殿は「完了!」と返事する。


 初めは中尉殿が「僕も一緒に行こうかな。」と後席に乗るつもりだったのだけど、船長さんとウィンゲート少尉殿が

「中尉には、高島上陸部隊の統合指揮を執ってもらわないといけないから、乙型艇での上陸をお願いします。」

「中尉殿が先に上陸してしまえば、スミス准尉を抑えられる者が居なくなってしまうじゃありませんか!」

と口々に反対したため「奥村少佐殿でも手を焼かれているんですよ? 僕ごときがスミス准尉をどうこう出来るとは思えないんですがね……。まあ、仕方ありませんか。」と、渋々ながらも納得したのだ。

 そこで「それならば」と名乗りを上げてくれたのが尾形軍曹殿だった。「片山君とは北門島上陸の時も一緒だった間柄あいだがらです。彼の人を逸らさない手腕は見知っていますし、自分が護衛に付きましょう。」

 軍曹殿は最高に信頼出来る人柄だし、何といっても軍務経験が豊富。ご一緒していただけるなら、本当に心強い。

 中尉殿も「そうですね。最適任なのは尾形さんかも知れません。では、彼を宜しくお願いしますよ。」と同意し、どこからも異存は出なかった。





 「じゃあ出るよ。」と笠原少尉殿は風防眼鏡を装着する。

 酒保にお饅頭でも食べに行くみたいな、気楽な口調だ。緊張するな、と気を使ってくれているんだ。

 陸軍航空隊用の飛行服を身に着けているのは笠原さんだけで、僕は学生服、尾形軍曹殿は下士官の野戦服。低高度で「ちょっとそこまで」の飛行だから、寒い季節ではないし、ゴーグルさえ着用すればこれで特に問題は無い。

 僕と軍曹殿が略帽の顎紐あごひもを掛け、風防眼鏡を目にセットしたところで、プロペラが勢い良く回転しはじめた。

 94式水偵はスルスルと水面を進みだす。

 海はぎだが、まるっきり波っ気が無いわけではない。

 空港から飛び立つのに比べたら、だいぶ揺れが激しいのだろうな、と覚悟していたのだけど、波によるヌラリとした上下動を感じていたのは機が滑走をし始めるまでで、身体にGが掛かりこそすれ機体がふわりと浮き上がる時には平地を走る原付か――あるいは速度をアップした水中翼船か――くらいの振動しか感じられなかった。きっと少尉殿の操縦技術が優れているのに違いない。

 (後から聞いたところによると、94式が燃料を満タンにした場合の飛行可能時間は12時間で、距離にすると2,200㎞。数キロ離れただけの高島まで飛ぶのには、燃料をほとんど積まなくて良いから「機体も軽いし簡単に浮くんだよ。」との事だ。浮上し易いのはそうかも知れないけれど、少尉殿の謙遜も入っているのは間違い無い。)


 少尉殿は浮かせた機体の調子を確かめるかのように、一度、端島と海津丸の上空を周回する。

 眼下に海津丸の飛行甲板で手を振っている人影と、端島で地面を掘り返しているバックホウの姿とが確認出来る。

 それに――!

 「片山君! 今の見たか?」

 軍曹殿が後席から大声を上げた。

 「見ました! 特大発にチハ!」

 そうなのだ。排土板付97式中戦車を搭載した特大発が、夕潮の搭載艇群に合流しようとしている。


 特大発は貨物満載時でも9kt(16.7㎞/h)の速度が出せる。

 ここから高島までは2.5㎞程度しか離れていない。飛ばせば所要時間は9分ほどだ。

 早良中尉殿が時間稼ぎをしてくれても、30分以内にはチハが高島の海岸に上陸してしまう!


 「くるぞ!」少尉殿も叫ぶ。「ジャジャ馬に先行して、君らを降ろす。」

 94式水偵の最高速度は239㎞/h。

 風当たりがグッとキツくなった。


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