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パラ20 やっぱり「御蔵島エクスペリメント」だった件

 「なるほど。大尉が言われていた『御蔵島に兵がほとんど居ない二つの理由』の内の、一つ目の理由が理解出来ました。」

 僕は、岸峰さんと僕も銃器を扱う訓練を受ける事になるのだろうな、と考えながら、大尉にもう一つの理由についても説明をしてもらう心算つもりで、目で話の先をうながした。


 大尉はうなづくと

「事が起きたのが、御蔵の基地司令や参謀の多くが、島から出ている最中さいちゅうだったのだ。航空隊の上の者も同様だ。だから現在の連隊の最上位の将校は高坂こうさか中佐殿だし、航空隊に至っては自分が最先任なのだよ。軍属には佐官待遇の高等官もおられるが、仮に不測の戦闘に成った場合に、指揮を執るのは無理だろう。適切な指揮が無ければ、銃や砲が有った処で、組織的な防衛は不可能だからな。中佐殿は主計しゅけい職だが切れ者だから、いざという時に防衛戦闘が出来る様に、再編成の準備をされているが、とにかく時間との勝負だ。……中佐殿が島に残っておられて、本当に良かったと言うべきだな。」


 江藤大尉の説明には、納得出来ない部分がある。

 「それは変ですよ。普通、最高指揮官が座を外す時には、不測の事態に備えて副官が責任を持たねばならないはずです。二人揃って、しかも高級参謀まで含めて他所よそへ行く、なんて事が許される訳がない。」


 「貴公が不審に思うのは、もっともだ。まさか、こんな事に成るとは、誰も考えていなかったからなぁ。」

 大尉は憮然ぶぜんとした表情で、頭をいた。

 「基地司令の宮本少将殿は、神州丸しんしゅうまるに座乗して、御蔵島の直ぐ横で、実験を視察しておられたのだ。参謀や航空隊司令の大石中佐殿も同席して。」


 「まさか、その神州丸が、いきなりバクハツとか?」

 岸峰さんが物騒ぶっそうな事を言う。

 ―――それは、無いだろう。もしそんな事件が起きていたら、不審人物の僕たちなんか、いきなり撃たれていても不思議は無い。


 僕は、神州丸に何かがあったのかと言う事よりも、むしろ行われた『実験』の内容が気になった。

 「大尉、まさかその実験というのは、『敵レーダーから島を隠蔽いんぺいする』といった実験なのでは無いでしょうね?」

 もしもビンゴ! だったとしたら、「フィラデルフィア・エクスペリメント」ならぬ「御蔵島・エクスペリメント」だ。


 「何故なぜ、それを知っている?!」

 大尉が目を丸くして叫んだ。

 岸峰さんも、大尉を指さして「フィラデルフィア・エクスペリメント!」と大きな声を上げた。

 一人だけ状況から取り残された石田さんは、キョトンとした表情をしている。


 「僕たちの居た世界でも、よく似た極秘実験が行われた事が有る……いや、行われたといううわさが有るのです。」

 僕は、まことしやかに語られている事件のあらましを、大尉に話した。

 大尉はくちびるを固く結んで、僕の話に集中していたが、聞き終えると「う~ん。」とうなり声を出した。

 「貴公らの世界で起きた事件と、御蔵島の状況が同じ経緯を辿たどるのであれば、島が瀬戸内に戻る可能性が無いわけでは無いと言う事か……。」


 「そこのところは……正直、よく分かりません。駆逐艦エルドリッジが、フィラデルフィア沖からノーフォーク沖に瞬間移動していたのは、ほんの一瞬の出来事で、直ぐにフィラデルフィア沖に再移動しています。……しかも、戻って来たエルドリッジの艦内は滅茶苦茶になっていて、乗組員のほとんどが死亡か行方不明です。数少ない生存者も、正気を失った者ばかりで、瞬間移動した最中さいちゅうに艦内で何が起こっていたのかは、不明と伝えられています。」


 「それは、ゾッとしない話だな。」大尉は気味悪そうに言った。

 豪傑ごうけつ者に見える彼だけれど、超常現象は苦手な様だ。

 お人形みたいに色白な石田さんは、顔色が象牙色ぞうげいろを通り越して、蒼白そうはくになってしまっている。

 ちょっとまずい。皆が冷静にならないといけない場面なのに、無駄に彼女を怖がらせてしまった。


 「噂ですよ。正式な記録が残っている訳じゃないのです。僕らの世界では『都市伝説』って呼ばれている怪談噺かいだんばなしみたいなモノです。」

 僕は慌てて、フィラデルフィア・エクスペリメントの信憑性しんぴょうせいに、疑問を付け加えた。

 「そうそう。都市伝説には、『アメリカ軍はエリア51という場所に、墜落した異星人の宇宙船を隠している』なんていうのも有ります。他にも西暦1999年に、全人類が滅亡するとか。」

 岸峰さんも援護射撃をしてくれる。


 けれど、彼女の支援は逆効果だったみたいで、「全人類が、滅亡?!」と、石田さんの顔色はますます悪くなって、ついにはあお黒くなってしまった。

 考えてみれば、石田さんは『諸世紀』所謂いわゆる「ノストラダムスの予言」が外れた顛末てんまつやら、『2000年問題』で大騒ぎした割には特に実害に結び付かなかった結果などは知らないわけで、『あと六十数年後に世界の終わりが来る』と、未来人に言われたら、ビビってしまうのも不思議は無い。


 「大丈夫。私が生まれたとしは、西暦2000年を越えているから。1999年には、何も無かったの! 都市伝説には、ウソも多いの!」

 岸峰さんが、石田さんにかつを入れ、石田さんは落ち着きを取り戻した様だ。

 岸峰さん、グッ・ジョブ! ……と親指を立てたい処だけれど、彼女の石田さんに対する、ちょっと意地悪な気持ちも垣間見かいまみえる様な気がするんだけれど……。


 まあ、それは置いておいて

「大尉殿、敵レーダーからの遮蔽しゃへいには、どの様な方法が採られたのですか? 島の地下全体に、テスラコイルを埋め込んだとか?」


 仮に、この島に何らかの装置が設置してあるのならば、装置を止めれば元に戻れるかも知れない。

 僕や岸峰さんが、元の世界にまで帰れるのかどうかまでは全く予想も付かないが、御蔵島が宇品付近に復帰するだけでも、今の状態よりは、身の安全は大きく向上するだろう。

 けれど御蔵島は、そこそこ大きな島だ。淡路島あわじしま佐渡島さどがしま程の大きさは無いにせよ、小学生の時に家族旅行で行った事のある、小豆島しょうどしまくらいの面積を持っていそうな感触がする。

 これだけの島全体に、テスラコイルを埋め込む実験など出来るのだろうか?


 「いや、島に何かをしたという話は聞いていないな。」

 大尉は記憶を確かめようと、顔をしかめた。

 僕は大尉の目玉を確認していたのだけれど、黒目が右上に移動したりすることは無かったから、作り話で誤魔化したりする心算はないみたいだ。

 「米軍の駆逐艦六隻が、正六角形の隊形で御蔵島を取り囲み、同時に特殊な電波を放射することで、島がレーダーから見えなくなるとか、そんな話だった。神州丸は、本当にレーダーから島が消えるかどうかを確認するために、海軍の軽巡と一緒に六角形の外側に位置取りしておったのだ。……レーダーから見えなくなるだけで、島には何の影響も無いという事だったのだが……。」


 そうか。高級将校の人たちは、視認出来る位置で、当然、無線なんかも通じる場所に居たのか。

 それだったら、御蔵島『には』居なかった、という理由にも納得がいく。

 けれど……

 「司令も副指令も居ない理由は分かったのですが、何故なぜこの島を対象に実験しようという事になったのですか? 艦船をレーダーから隠すというのなら有用だと分かるのですが、地図上で場所が分かっている島を隠しても、あまり意味が無い気がするのですが?」


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参考機材


 陸軍特殊船 神州丸 (舟艇母船/強襲揚陸船)

  強襲揚陸艦の元祖 秘匿用の仮称は「龍驤りゅうじょう」やGL

  ニ個大隊の兵員・装備・資材を搭載する

  揚陸用 大発29隻 小発25隻 収容

  91式戦闘機×6 97式軽爆撃機×6 搭載

   航空機の発進にはカタパルトを使用する

   着陸は味方が占領した飛行場に着陸


  総トン数 8.108t

  速度 20.4ノット

  兵装 75㎜高射砲×4

     20㎜高射機関砲×4


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