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ライフ27 北門島気象観測所でコーヒーを飲む件

 「どうだろうね。上手く芽が出てくれたら良いんだけど。」

 茂子姐さんは北門島の村長さんたちと一緒に、島のあちこちにコーヒーとカカオの種を植えて戻って来たところだった。


 姐さんは北門島城の中にある集会場のような建物の中で、淹れ立てのコーヒーを口にしながら、そんな感想を述べる。

 集会所の中には、移動通信隊兼気象観測班の半個分隊が間借りしていて、隊員の皆さんも通信機のレシーバーを耳に当てたまま、目を細めてコーヒーを満喫している。


 村長さん自身は初めてコーヒーを飲んでみてヘンな顔をしている。


 「村長さん、何って言ってらっしゃるんですか?」

 僕の問い掛けに、花さんが「かように苦い飲み物が、高値で取引されるとは信じられぬ、と申されておりまする。」と翻訳してくれた上で「薬効があるのでございましょう? それならば高値で取引されるも、道理ゆえ。」と逆に質問されてしまった。


 「カフェインという成分が気分を高揚させて、飲むと元気が出るみたいな効果はあるみたいですよ。値段の高い緑茶なんかと似た薬効と言えるかもしれません。玉露なんかは、カフェインの結晶が浮いて見えると聞いた事がありますから。……高いんで、玉露を飲んだ事はないんですけどね。」

 『村長さん』という言い方が正しいのかどうかには、ちょっとギモンが無い事もないけど、『網元』とか『世話役』『おとな』『庄屋』などという呼びかけ方も妙なので、便宜的に『島長しまおさ』や『村長むらおさ』を示す代名詞として『ソンチョウ』さんと呼んでいる。意図は伝わっているみたい。


 花さんがカフェインの効果を説明して、村長さんは納得がいったようだ。


 じゃじゃ馬系の花さんが何時に無くしおらしいのは、雛竜先生が島に戻って来たら、いよいよ御蔵病院へ出発する事になるからだ。

 花さんも一人の見習い看護師候補生として、未知の仕事を学ぶ事になるから緊張しているのだ。


 「苗まで育ててから植え付けた方が、成功率は高いのではないですか?」

 立花少尉殿がコメントを入れる。「ブドウでも桃でも、果樹園などではそうするように思いますが。」

 「新町で手分けして苗を育ててはいるんですよ。手先の器用な人がガラス温室なんかこさえてみてね。」

 姐さんは少尉殿の発言に頷きながら「でも、コーヒー豆の栽培なんて今までやった人が居ないものだから、とりあえずは何でも試してみるよか無いんじゃないかってね。」

 「ああ、そういった訳ですか。なるほど、それならばやってみるしかないですね。アメリカ人船員にも経験者はいないのでしょうか?」

 少尉殿はちょっとだけ頷くと、もう一口コーヒーを啜った。


 「さぁてねェ。マドロスさんに、そんな趣味の人が居るやら、どうやら。」

 姐さんは口の中で何やらゴニョゴニョ呟いていたが、良い事を思い付いたというように目を輝かせると

「修さん! アンタ、ラジオで呼びかけてみなさい。今日の昼から、放送が始まったんだろう? あいにく初回は聞き逃したけど、あれなら周知させるのは簡単だろ?」とふっかっけて来た。

 御蔵新聞では司令部発表の他に、生活の知恵QアンドAや、素人大相撲大会・囲碁大会のお知らせなんかも載せてたから、そのノリの延長のようだ。


 ただし現在は、電算室に出入りしていた婦人部隊員の諸姉が、雛竜先生配下の文官と一緒に、北門島城から大津丸上に拠点を移して台州方面の紙爆弾式プロパガンタ戦に従事しているし、生徒会長役の石田さんは舟山島に出掛けたまま戻ってこない。

 電脳座敷童の古賀さんは獅子奮迅の活躍中だけれど、放送局との掛け持ち(構成担当)でイッパイイッパイの状況だ。

 全然手が足りていないし、毎回10分程度の放送だとしても、仕事に慣れてくるまでは御蔵新聞のノリでの生活情報発信まで手が回らないというのが正直なところだ。


 「はあ。その件に付きましては、ラジオ局の構成作家と相談して、善処させていただきます。」

 僕の発言は、茂子姐さんの怒りを買ったようだ。

 「煮え切らないねェ! まるで役人の答弁だよ!」


 困ったなとは思ったけれども、実際に記事を書いて古賀さんに「このニュース、入れる余地ある?」って確認しないと発信出来るかどうか分からない。だらだら内容を追加出来た壁新聞とは、ちょっと様子が代わっているのだから。放送というのは、ヒマに合わせて読む事が出来る『書き物』とは違い、受け手側の時間をも拘束するわけだし。

 調子よく安請け合いして「ヤッパ、ダメでした!」というのは、性に合わないんだ。


 僕が余程困った顔をしてるように見えたせいか、立花少尉殿がフォローしてくれる。

 「姐さん。片山をいじめんで下さい。コーヒーやチョコレートの自給は重要ですが、焦眉しょうびの急というものでもないのですから。放送時間は限られているんだし、自ずと優先順位は発生するものなのです。」


 茂子姐さんはシマッタという表情になって

「そりゃあ、そうだ。ごめんなさいよ修さん。……どうも修さん相手だとポンポン言いやすいモンだから。」

 「いえいえ、お気になさらず。チョコやココアやコーヒーが、もっと簡単に手に入るようになったら、僕も嬉しいですから。」

 僕は精一杯ノホホンとした笑顔を作って頷く。「でも今は、最優先に重要な放送内容は天気予報のはずなのです。」


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