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杭州砲撃3

 杭州沿岸の港湾設備からは黒煙が立ち昇っていた。

 第一任務部隊が搭載砲で攻撃を加えたからである。


 まず第一任務部隊は、一列縦隊のまま杭州沖でL字に転進すると、戦隊の左脇腹を敵に見せつけるように停止した。

 測深のために先行した高速艇を収容後、満を持して海津丸が霧笛を鳴らす。

 霧笛は怪獣の咆哮のような大音響を蒼穹そうきゅうに轟かせ、杭州を威嚇、住民と将兵とを震撼させる。


 自らの存在を充分にアピールしてからの攻撃である。

 最初に火を噴いたのは、杭州側守備隊が海岸線に到達したのを確認してからの75㎜野砲だった。

 片舷4門の75㎜野砲が、各2発 計8発の砲弾を発射した。


 沖に姿を見せた巨船に対して、清国側は海岸に大量の守兵を並べて上陸阻止の構えを見せたが、手の届かない距離から飛来する炸裂弾に抗するすべは無く、頭上を越えて着弾する75㎜砲弾は背後の建造物を次々に叩き潰していった。


 動揺する守備兵には、潮と汐とが補助兵器の97式曲射歩兵砲(迫撃砲)で81㎜迫撃砲弾を撃ち込んだ。

 迫撃砲だから20発/分、すなわち3秒に一発の割合で発射できる潜在能力を有しているのだが、習熟のために一発一発着弾を確認しながらの砲撃だ。


 潮は37㎜砲、汐は20㎜機関砲でも砲撃を加えたが、こちらは完全に演習目的で、給弾・装填・発射・排莢などの基本動作を確認したに止まった。

 汐が機関砲を使えたのは、両頭フェリーという特徴を活かして、攻撃配置に着く時に進行時とは船の向きを逆にしたからに他ならない。潮と汐は船体のどちらを前に向けても航行に影響は無いのだ。


 98式高射機関砲(20㎜機関砲)の試射に関して言えば、20発入りの一弾倉分を発射したのみである。

 ただし密集隊形の軟目標に対する20㎜機関砲の効果は凄まじく、試射分の一連射だけで1個中隊弱の敵部隊の戦闘能力を削いでしまっていた。


 敵海岸砲台が数門の仏朗機で微弱な抵抗を試みるも、沖合1.5㎞に位置するTF-M1にまで砲弾が届かない。紅夷砲は寧波に送ってしまったのか、在庫が払底ふっていしているようだ。

 発射された実質弾は、海岸から500m以下の距離で無駄に水しぶきを上げるだけであった。


 けれど砲台は直ぐに「お返し」を貰う事になった。

 海津丸が補助兵器の96式中迫撃砲で射撃演習を行ったからだ。


 大隊砲相当の97式曲射歩兵砲が

○重量 67㎏

○口径 81.4㎜

○最大射程 2,850m

なのに対し、96式中迫撃砲は

○放列砲車重量 722㎏

○口径 150.5㎜

○最大射程 3,900m

と馬鹿に大きく、歩兵部隊が手軽に持ち運ぶには重すぎる。

 分解して駄載や人力搬送も可能とされてはいたが、標準的な運搬方法としては 砲車1 付属車2 弾薬車1を輓馬牽引するのが推奨されていたくらいである。


 けれどもTF-M1では、この中迫撃砲を戦場で移動させる必要が無いように、海津丸の飛行甲板に4門並べていたのだった。

 操作するのは舟山島守備隊から抽出した、本職の砲兵(といっても元は段列の整備兵上がりではあるのだが)。

 偵察機を運用する可能性が無かったからこその、やっつけ仕事である。


 この96式中迫撃砲は、迫撃砲という本来簡便な兵器であるはずの砲なのだが、駐退復座機を完備しているという贅沢な造りとなっている。

 それがこの砲が『迫撃砲のくせに重い』ことの原因ではあるのだが、駐退機が有る分、飛行甲板へのダメージは小さいし、連射しても照準のズレは少なくなる。悪い事ばかりではナイのだ。


 ポンっという発射音こそ軽いものの、弾着地点での150㎜砲弾の破壊力は凄まじかった。

 15榴のそれと比べれば劣るのかも知れないが、75㎜野砲や81㎜迫撃砲の威力は凌駕すること甚だしい。

 べトン(コンクリート)で固めて弾薬庫を隔離した要塞なら違っていたのかも分からないが、曝露目標に過ぎない敵砲台は何発かの砲弾を喰らうと、集積した火薬にでも引火誘爆したのか火山の様に火を噴いた。


 海津丸が再び霧笛を鳴らすと、潮と汐は回頭して船首を杭州に向けた。

 「ランプウエイ開け。」の命令で、ゆっくり歩板が下されると、車両甲板の91式10榴が姿を見せる。

 10榴の砲弾の威力は、舟艇母船の75㎜野砲弾の2.5倍に達し、射程は10㎞である。


 特に何か目標を定めてというのではなしに、城のある方角に向けて両艇は最大射程で各3発の砲弾を発射した。

 船橋に居た汐の船長の感想は、足元で轟音と共に砲煙が噴き出し「耳がキーンとする。発射の時には掌で耳を押さえておくか、両耳を覆う型のヘッドホンを付けとかなきゃならんな。」というものだった。

 身近で大型砲の発射を体験するのは初めてだったため、迫力に圧倒されたのだった。


 小型フェリーに搭載した105㎜砲の試射が終わると、第一任務部隊は潮を先頭とした単縦陣に戻り、炎上する杭州を後に、杭州湾の沖へと姿を消した。

 

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