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特設砲艇「汐」

 「レイノルズ。君を見込んで頼みがある。君の戦車の兵を率いて特設砲艇『うしお』に乗って欲しい。汐の搭載砲と機関銃を任せたいんだ。主兵装は37㎜速射砲と20㎜機関砲、それにウォータージャケット付M2マシンガンだし、操作に困る事は無いと思うんだけど。」


 ウィンゲート少尉から要請を受けて、レイノルズ伍長はひどく驚いた。

 オーストラリア軍段列の整備兵として御蔵島に送られてから、奇妙な時空転移に巻き込まれた後は、ずっとウィンゲートM3軽戦車隊の車長として従軍していたからだ。

 155㎜カノン砲の寧波砲撃で清国軍が大打撃を受けたから、次に作戦参加する時には大陸上陸作戦に参加するものだとばかり考えていたのだ。


 「イエッサー。」と返答したレイノルズだが「しかし少尉殿。自分はM3には相当慣れましたが、ガン・ボートに乗った経験はありません。……ガン・ボートどころか本当の事を言うと、国でも小さな船には乗った事が無いのです。」

 「愛車のM3ごと、日本軍の特大発には何回も乗っているじゃないか。それに汐はボートじゃないぞ、177tもある。れっきとしたシップだよ。多少は揺れるかもしれないけど、特大発ほどではないと思うんだ。日本軍の装甲艇で57㎜を操作するよりも、負担は少ないんじゃないかな?」


 レイノルズは、俺の言いたいのはそういう意味ではないのだがな、と思ったが、笑顔の少尉から「お願い」されると嫌とは言い難い。

 「承知しました。クルーにも伝えます。USHIOに乗るとなると、自分のM3はどうなるんでしょうか?」

 「オーバーホールに回されるんだと思う。」少尉の返事はちょっとばかり歯切れが悪い。つまり、少尉殿もよくは知らないということなのだろう。

 「実を言うと、僕も『しお』に乗る事になったんでね。M3軽戦車隊はミラー中尉殿の指揮下に入るんだ。元々、一介の少尉が指揮を執るには過大な戦力だったから。」

 陣の浜での迎撃戦以降、成り行きで特設戦車中隊を指揮していたウィンゲート少尉は、重責から解放されてホッとしているようにも見える。


 ――ウィンゲート少尉殿は、段列の士官だとは思えないくらい、水際立った戦闘指揮官ぶりだったけどなあ。

 レイノルズの感慨をよそに、ウィンゲート少尉は鞄から何かを取り出すとレイノルズに手渡してきた。

 「じゃあ、引き受けてもらったから、階級章を付け替えて頂こう。おめでとう、君は今から軍曹サージャントだよ。伍長コーポラルの階級章は外したまえ。」

 突然の成り行きに吃驚びっくりしたレイノルズ『軍曹』だが、手渡された階級章が日本軍の物だった事に再び驚いた。


 「今、舟山島には英連邦アンザック兵団のモノが無くてね。連合部隊の間柄だから特に問題は無いと思うんだけど。それと君の指揮下には、迫撃砲2個分隊が新たに加わる事になるから、彼らの面倒も見てやってくれ。アメリカ人だから、言葉の問題は無いだろう。」

 「自分は迫撃砲を扱った事はありませんが?」

 「彼らが97式曲射歩兵砲――81㎜迫撃砲のことだよ――それの操作訓練は受けているから、君は指揮だけ執ればいいさ。貨物船の船乗り出身だけど、軽機関銃の操作も習得済みだし増加戦力としては心強いよ。」

 ――37㎜速射砲に20㎜機関砲、50口径2丁に加えて、81㎜迫撃砲2門か。戦闘が始まったら、俺は甲板中を駆け回ることになりそうだ……。


 「それと、汐の車両甲板には105㎜榴弾砲が載ることになる。日本軍の91式十センチ榴弾砲だ。そっちの操作は専門の砲兵がやるから、君はノータッチで構わないよ。」


 ウィンゲート少尉の説明によれば――

○特設砲艇「汐」および同型艇「潮」は、177tの内航フェリーの改装船。

○転移前は、御蔵新港~呉間を運航していた。

○船体前部と後部の両方にランプウエイ(車両乗降口)がある。

○車両甲板は一層で、自動車を5~7台程度収容できる。この車両甲板に10榴を搭載。

○車両甲板を跨ぐように船橋ブリッジ客室キャビンしつらえられている。

○操船用ブリッジ・プロペラスクリュー・舵が、船の前後両側に存在する両頭カーフェリー。

○左舷前方に37㎜砲、右舷前方に20㎜機関砲を装備。後方は両舷とも50口径M2(ウォータージャケット付)。

○洗面台とトイレは有るが、風呂は無い。


 「船長や機関長といったスタッフは日本人だが、このフェリーの扱いを習得するために、アメリカの貨物船乗りと日本語が分かる日系アメリカ兵が乗船するから、言葉の問題は無いだろうね。ブリッジは混雑するかも知れないけど。念のために言っておくと、105㎜を操作するのは日本人が受け持つよ。舟山島守備隊から大砲ごと抽出される予定だ。」





 階級章を付け替えて、今後の任務の説明をするために部下の元に戻ったレイノルズは、部下から驚きと昇進の祝福とをもって迎えられた。

 そして彼は、今後『サージャント・レイノルズ』ではなく、『レイノルズGUNSO』と部下から呼ばれるようになる。


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