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パラ11 盧溝橋事件と東京で起きた某国駐在武官スパイ事件の顛末の件

 「国日合作こくにちがっさくの重大な原因になった事件ね。」

 なんじゃ、それは? 国共合作ならば聞いた事はあるけれど。


 しんが崩壊した後の中国大陸は、極論すればかんが崩壊した後の三国志の時代に似ている。

 代表政府は中華民国だけれども、中華民国政府の統治の及ばない地方が多く存在していた。

 三国志時代の代表政府はだけれど、魏に服属しながらも独立色の強い公孫淵こうそんえんえん、魏を認めないしょく漢が存在したようなものだ。


 蒋介石しょうかいせきの国民党と毛沢東もうたくとうの共産党、そして両者より支配地域は小さいものの群雄割拠ぐんゆうかっきょ状態の地方軍閥ちほうぐんばつは、合従連衡がっしょうれんこうしたり武力衝突したりと内戦を繰り返していたが、協力して外国に当たろうと、何回か共同戦線を組む試みを行っている。

 その試みの代表的なものが、国民党と共産党が共同して対日戦線を張ろうとした「国共合作」だ。

 まあ、それが繰り返されても上手うまく行かなかったために、蒋介石総統は拉致監禁らちかんきんされたりするのだが(西安事件)。


 「国日合作」というのは、国民党と日本が共同作戦を行おうとしたと言う事なのだろうか?


 確かに盧溝橋ろこうきょう事件には、追いつめられた共産軍が矛先ほこさきらすために、国民党軍と日本軍を戦わせようと謀略ぼうりゃくを仕掛けたという説が、当時から有った。

 共産党軍の将校が、自らの手柄てがらほこっていたという証言も有る。


 「盧溝橋事件に、コミンテルンが絡んでいたという事実でも上がったんですか?」

という僕の質問に、准尉は微妙な表情でうなづいた。

 「共産主義インターナショナルいわゆるコミンテルンの指示の有無は不明だけど、八路軍ぱーろぐんの関与は確定的ね。国民党軍と日本軍が衝突したのを、作戦成功と延安えんあん打電だでんしたスパイが、国民党の特務機関とくむきかんに逮捕されたの。北京も東京も、事態の拡大を望んでいなかったから、停戦はすぐに成立したわ。実行犯が捕まっていないから、共産党側は日本の謀略を主張したけれど、蒋介石総統は共産党が嫌いだからね。」


 それでも関東軍の一部には、功をはやって戦線の拡大を望んだ者が居ても、おかしくない。

 この世界での関東軍は、「対中融和・対ソ警戒」の傾向が強いだろうという事は想像が付くけれど、対米・対中融和政策にはかりが傾く、何かもう一押しが有ったはずだ。


 「もしかしたら、東京で共産主義者の大物スパイがげられた事件でも、有ったりしますか?」

 僕らの世界でも、ドイツの駐在武官がソ連のスパイだった有名な事件が存在した。この平行世界でも、その事件と同一か、近似した事件が起きていても不思議ではない。

 僕らの世界の方では、スパイ事件が露見ろけんしたのは、日中戦争が拡大し、軍部が対米戦争にかじを切った後だったわけだが、こちらの世界ではスパイ事件の発覚のタイミングが早かった事が考えられる。

 何しろ『独ソ同盟が成立していて、日本が満州で既にソ連と紛争中』の世界だ。


 「ご名答めいとう。日中開戦を声高こわだかに叫んでいた新聞社が有ってね。そこを監視していた特高警察とっこうけいさつが、某国の外交官がその新聞社の記者と密接な関係にある事を見抜いていたの。外交官のかたには、『日本は対中・対米戦争を画策かくさく中』というにせ情報をお土産みやげに、円満に帰国して頂いたみたいね。今では日米連合が成った事実が知れたから、『本国』で粛清しゅくせいされているかも知れないけれど。新聞記者のほうは、信託統治領しんたくとうちりょうの南の島に配置転換になって、のんびりとした農業記事を書いてるみたいよ? 自ら農作業を実践じっせんしながら。日本政府の要人も絡んでいたから、あまり表沙汰おもてざたにはしたくない事件だったみたいだけれど、公然の秘密というわけよ。」


 うわぁ……。ル・カレのスパイ小説か、マクリーンの冒険小説みたい……。

 相手方の諜報部員を使って情報を操作する、カウンター・インテリジェンスと言うヤツだ。

 准尉は特高警察って言っているけれど、監視していたのは特高でも、カウンター・インテリジェンスの絵を描いたのは、陸軍中野学校とかの関係者じゃないんだろうか?

 石田さんが准尉の言葉に異議をはさまないところを見ても、准尉はこの世界で常識とされている状況を話しているのは疑う余地が無い。


 「さて、これだけ今の国際状況教えてあげたのだから、日本とアメリカが開戦したという御伽話の世界の話も聞かせてもらえるかしら?」

 准尉はあくまでIF世界の話としておきたいらしい。

 考えてみれば「当たり前」の事で、こちらの世界の住民にしてみれば、僕らの世界の方が「有り得た可能性の一つ」に過ぎないのだ。

 それに、可能性の問題のみにしろ、無用な憶測おくそくを生む様な話題は、御伽話扱いしておくのが事を大きくしないだろうと言う判断も入っているのに違いない。


 「そうですね。それでは、どこか遠い世界で起きた戦争に関する、御伽話をいたしましょう。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

登場人物


 片山修一 大戸平高校2年 生物部 詰襟学生服の少年

 岸峰純子 大戸平高校2年 生物部 ポニーテールの正統派美少女


 石田フミ 帝国陸軍婦人部隊 キリリとした少女 

 エミリー・スミス アメリカ陸軍婦人部隊 金髪の准尉


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