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薬袋古道具屋怪談  作者: メイ
エピソード01酒蒔 冬彦の場合
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01_01怪目_甕覗の整形眼藥

 

 エピソード1.

 酒蒔(さかまき) 冬彦(ふゆひこ)の場合









【――甕覗かめのぞき)整形眼藥せいけいめぐすり――】







  酒蒔は職場へ向かう途中であったが、邪魔にならないように端へ避け、立ち止まった。


 ――目が痛いのだ。――


  2weekコンタクトを2週間を超えて使っているのが原因か、それともバレずに盛れると評判の度入りカラコンが合って無いのか、昨日ゲームに熱中して睡眠が足りてないせいか。

 ゴミ?虫?はたまた、ただのドライアイ?それの全部?



 とにかく目が痛い!

 すごく いたい!


  ぼろぼろと悲しくもないのに溢れ出す心の汗を受け止めむ!と、掌で両目を覆う。眼から、鼻からも水が出てくる。妻がポケットに入れてくれたBURBERRY(バーバリー)手拭(ハンカチ)が色を変えていく。柔軟剤の香りが少しだけ心を癒したが、すぐ痛覚が勝つ。

 もう光さえ痛い。


 やばくないか、病か?

 なんなんだ!これは……痛い!痛い!痛い!!!



  思考が停止し、このまま死ぬんじゃないか(死ぬわけないけどそれぐらい本当に痛い)とさえ思う酒蒔は、日陰を求めて指の隙間から影へ影へと裏の路地へ入っていく。


 摺り足で前に進み、仄暗い世界へ酒蒔は踏み込んだ。






 ようこそ、薬袋古道具店へ。





『にゃあ』





 ねこ?






 ……ねこ、か。

 猫の声がする。幻聴か……猫の、声が……。



 がしっ。

 不躾な誰かに力強く右腕を掴まれる。

 振りほどくだけの余力は酒蒔には残っていない。




『大丈夫かい、お()ェ様。まだ(トマレ)だぞ』


『え?』




 杳として酒蒔は朦朧と進む先が車道だったと理解した。

 ゾッとする。俺はどうしたんだ?何故か急に変な路地裏の店に入っていく気がした。

  声がする恩人の方向に眼を(かば)いながら首を向ける。薄ぼんやりと助けてくれた人の、黒っぽい髪の着物が見える。声は男のものだ。





()ェが痛むんやね』


『え』


『良く効く眼藥、あげよか』


『…… …… は?』


『まぁ、()ずはお試し(サンプル)ってね』




 ぐいっ。



 男に顎を捕まれ上を向けさせられる。両目に冷たい雫が落ちた。



 染みる!


 いたい!!(さわ)るな!得体の知れないものを勝手に俺に使うな、と顎にかかる男の手を払いのけて手を見えないながら振り回し怒る俺。

 失明したらどうしてくれんだ!!!


 男はかわしているのか、当たった感触が手にない。

 周囲にいるであろう無害な人に当たらなくて良かった、と今思う。



『痛みはどうだ?それに良く見えるだろ』


『!』


『残りはやるよ、好きにしやんせ』


『やめ……』


『お代は、これで』


 ひょい。

 混乱する俺のポケットによく見えない男は何か入れた。顔がまだよく見えない。代わりに酒蒔の手拭が持っていかれるのが見えた。返せ、と声を発するより早く、男はあれよあれよと雑踏へ紛れた。

 何様なんだ、あいつ。恩人ってことを差し引いても、まともじゃない。怖い。何だよ。着物をチャラチャラと気崩した素足の変なやつ。何なんだ、あいつ。絶対まともじゃない。


 酒蒔は自分に言い訳をする。


 ――いけない。遅刻しそうだ、だからしょうがない。だって道にゴミを捨てるわけにはいかない。そんな非人道的な行動はしない。




 だからしょうがない。

 酒蒔はポケットに目藥を滑り込ませたまま会社へ向かった。







『乙姫や、これは良いものだの』


『にゃあ』


『夫への愛などなく、作業で洗濯をし、片手間でアイロンをかけた手拭(ハンカチ)……。

 その癖、なかなかどうして手抜きにならぬ。捨てきれぬは情か愛か。どちらにせよ、美しいのう』


『…… にゃあ』

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